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新しい暮らしの風景 ~懐かしい夏の風景は花火とともに~

1.はじめに

新型コロナ第7波は8月26日に1日の新規感染者数が265,625人という桁違いの感染者を記録した後、ゆるやかに減少傾向にシフトして1か月になろうかとしています。この間、国内における新型コロナの感染者の全数把握のルールや1日における海外からの入国者の人数制限の緩和など、新型コロナの感染拡大防止のためのさまざまな規制の視なおしが検討されて、「Withコロナ」を前提としつつも、経済活動の回復を推進していくための判断に大きく舵を切りだしたように思います。

経済活動の回復を見据え、企業もさまざまな視なおしを進めており、その取り組みは各企業のこれからの在り方やその想いを色濃く映すものになっているように思います。商品やサービスという顧客向けの変化・変質もありますが、もう一方では社員の働き方を視なおし、再定義した企業も目立ちました。
コロナ下に進んだ在宅勤務やリモートワークといった出社に依らない働き方をさらに推し進め、在宅を基本として、出社を「出張」とみなすなど、大胆な変革を行った大手企業も出現しました。その一方で、原則的に従来通りの出社を前提とする企業も表れました。業界・業種、さらには企業の風土や文化によって、その最適解はさまざまだと思います。それらの視なおし、再定義の効果や成果が表れるはもう少し時間がかかりそうです。新しい働き方がどのような企業風土や文化を生み出すのか、興味深く見守りたいと思います。

そして、家庭においてもコロナインパクトはさまざまな視なおしや再定義を行うきっかけとなったように思います。イエナカで過ごす機会・時間の増加に伴い、家族や夫婦の在り方を視なおすことにより会話量が増えたり、一緒に楽しめる新しい趣味をはじめたりと、夫婦、親子といった家族観の関係性を深めた方もいらしたのではないでしょうか。夫婦の家事分担の在り方を視なおしたご家庭も多かったというニュースも多く目にしました。そうそう、日々の家事を楽しく詳しく「見える化」して、家庭や夫婦にフィットした家事分担を実現するアプリ「Yieto(イエト)」も話題になっていました。

コロナ下、皆様はどのような視なおしをしましたか?
そして、どのような新しい風景が生まれ、どのような風景が戻ってきましたか?

2.第7波インパクトの後ろ姿と回復への期待 ~ 内閣府 景気ウォッチャーから

内閣府が景況感の把握のために実施している調査に「景気ウォッチャー調査※1」があります。この景気ウォッチャー調査はさまざまな仕事に従事する約2000人に現在と将来における景気の実感を質問し、指数化して発表をしています。 最新の調査結果(2022年8月データ:2022年9月8日リリース)では、現在の景況感をあらわす「景気の現状DI」は前月までの下降トレンドから一転、すべての指標が回復トレンドに転じています。中でも、「企業動向(同3.2pt)」は回復の動きが目立ちます。
そして、将来的な景況感をあらわす「景気の先行きDI」についても力強く上向きの予想となっており、すべての指標が大きく回復に転じました。特に「家計動向(同8pt)」となっており、景気の先行きDIをけん引しています(図表1)。
新型コロナやウクライナ情勢の影響による原材料費や物流コストの上昇などによる物価高、円安など景気への逆風も長期化が予想されていますが、国内における第7波の新規感染者数の減少や全数把握の廃止、海外旅行者の入国制限の緩和によるインバウンドの回復などを明るいニュースの芽生えとして、景況感もほんの少し緩み希望を取り戻しているようです。

図表1

3.警戒モードもひと休み

定点調査で追い続けてきた新型コロナの感染拡大不安をはじめとしたさまざまな「不安」を見ていきましょう。

第7波の感染者数の減少に連動して感染不安は急激に減少して6割弱になりました。「飲食店での食事」や「テーマパークや繁華街・人が集まる場所への外出」、さらには「国内旅行」といった不特定多数の人との接触リスクが心配される場所への外出行動に関する不安も感染不安に呼応して減少に転じています。 こうしてあらためてグラフを眺めてみると、この夏、そして昨年と、夏休みは新型コロナの猛威に晒されていたことが確認できます。秋の行楽シーズンを前に警戒モードもやや緩んでいるように感じます。一足飛びに海外へ、とはいかないまでも、安心・安全と思われる国内の観光地や近場の行楽地などへの人の出も期待できるのではないでしょうか(図表2)。

図表2

感染不安や行動不安は減少に向かっていました。では次に「節約意識」や「暮らし向きの回復予想」はどのような動きをみせているか、を見ていきましょう。

「節約意識」に関しては、前月は減少の動きをみせていましたが、今月は6割弱が節約を心がけていると回答して増加に転じました。現在も食品に関して食料油やパンなど、さまざまな商品においてジリジリと値上げが続いており、今後もアルコール類をはじめさまざまなジャンルで値上げが予想されていることから、生活者の節約意識は継続して買い物の際の「吟味」はより一層厳しくなるように思われます。
そして、6月までのコロナの収束状況や「屋外ではマスクを外して」といった議論が出始めた風を受けて、今後は暮らし向きの回復への期待を計測していった方がいいのでは、という想いから22年7月から質問のアプローチを変更した「暮らし向きの回復の予想」については、4割弱の人が「回復していかない(回復していくと思わない)」と回答しています。 
政府などのコロナ対応は経済立て直しを念頭に緩和に向かっていますが、生活者の暮らし向きの回復への期待は拡がらず、むしろ減少しているように映ります(図表3)。

図表3

4.拡がる値上がりと家計防衛

弊社の小売店パネルデータ(SRI+)を用いて、調味料や食品関連の店頭価格の値上がりの動きを見ていきましょう。

夏に入ると、また一段と値上がりが加速して店頭価格の高騰が本格化しています。値上げ前の2020年平均に比べ10%以上高くなった食品が多数、確認されるようになってきました。
キャノーラ油(161%)を筆頭に大幅な値上がりが続く食用油の他、マヨネーズ(121%)、醤油(113%)、砂糖(111%)など調味料も値上がりが目立つようになってきました。また、7月は食パン(110%)や小麦粉(113%)、スパゲティや袋ラーメン、カップラーメンなども2ケタ増となり、主食の値上がりが顕著になりました(図表4)。
そして、価格が上がった商品の中には、プライベートブランドのシェアが高くなったものが見られます。

図表4

そうした食品関連商品の値上がりに対して生活者はどのような家計の工夫をしているのでしょうか。ナショナルブランドと比較して、価格帯が安い商品が多いプライベートブランド(PB)の金額シェアを見てみたところ、大幅な値上げが続くキャノーラ油は2021年1月時点で36%でしたが、2022年7月には50%にまで上昇しています(図表5)。食パンも14%から17%と増加傾向にあります。さらに、カップラーメンは2022年5月までは10%程度でしたが、同6、7月には15%ほどになっています。ちょうどカップラーメンの平均価格が値上がりした時期頃から数字が上がっていることがわかります。

図表5

5.値上がりと生活防衛

本格的な値上がり期が到来している「食」に関する生活者の家計費防衛の工夫を2022年9月に行った自主アンケートの結果から見ていきましょう。
日々の食卓を預かることの多い女性にフォーカスして、「食」に関する支出抑制の具体的な工夫を尋ねたところ、「ポイントカードやクーポンの活用」が多くあがっており、わずかばかりですが上昇傾向にあることもわかりました。私も時折、近所のスーパーに買い物に行きますが、大手のスーパーではポイントカードやクーポンの活用は当たり前のようになっており、レジのスタッフさんが、会計時に「〇〇ポイントはよろしいですか?」と尋ねることもいつもの風景になっています。
また、「チラシの特売情報の活用」、「まとめ買い」、「タイムセール」など、少しでもお得に安く購入しているという様子も浮かんできました。さらには5人に1名が「プライベートブランドの活用」をあげています。
「食」は欠かすことのできない日常の風景であり、身体的な健康につながっていることは当然ですが、「食」や「食卓」を通じて心の健康も育まれ保たれています。値上がりが続くからと言って、おろそかにはしたくないものです。そうした視点でグラフを眺めてみると、「お菓子やデザートなどを控える(26%)」や「外食:利用回数を減らす(26%)」という「食を楽しむ」という部分にも影が差していることが気がかりです(図表6)。

図表6

さらに詳しく買い物ジャンル別に「以前よりも安いものを選んだり、買い控えをしているもの」を尋ねたところ、「野菜(27%)」、「お菓子・デザート(27%)」を筆頭に、「お肉・お魚(22%)」、「くだもの(18%)」など食品が上位に並んでいます。また、「野菜」以外は3月時点より、節約モードが強くなっていることが浮き彫りになりました。また、「電気・ガス(19%)」、「水道(12%)」も依然として高いスコアとなっており、食費以外にも公共料金などにも節約の目が向けられていることがわかります(図表7)。
その一方で、感染不安や行動抑制などで引き締め意識が目立った「レジャー(旅行・ドライブ)(10%)」は減少傾向にあり、「趣味活動(ライブ、映画鑑賞など)(5%)」もわずかに減少の動きをみせています。秋と言えばイベントも増えてきます。また、秋の味覚や紅葉狩りなど旅行気分も盛り上がるシーズンです。緩む行動不安とともに行動意欲の動きを見守りたいです。

図表7

6.むすびとして ~ 熊本県人吉の花火に想う 懐かしい風景の復活 ~

この夏、取り戻された日常の風景として、花火大会がありました。各地で2年ぶりとなる花火大会が開催されて、テレビやYouTubeのライブ配信で楽しんだ方も多かったのではないでしょうか。私もこの夏はいくつかの花火大会を会場やYouTubeのライブ配信で楽しみましたが、終戦記念日の8月15日にYouTubeでライブ配信された熊本県人吉市の花火大会のライブ配信が深く静かに心に残っています。
全3部で構成された花火大会の幕間に、地元のクリエーターさんの想いとともに切り取られた人吉の風景やそこに暮らす人々を映し出したムービーが流されて、花火とともにとても鮮やかにゆたかな光が心に残りました。最近は花火とともに大音量で音楽が流れ、その音楽にあわせて花火が打ち上げられるものも多いですが、音楽もなく夜空に響く花火そのものの音と光を素朴に楽しむ人吉の花火は胸に深く染み入るものがありました。(※2)
人吉は2020年7月に大雨による影響で地元を流れる球磨川が氾濫し、甚大な被害にあった町でもあり、その爪痕が動画を通じても伝わってきましたが、久しぶりに戻ってきた花火大会をめぐる風景はまさに懐かしい風景、日常の風景の復活でもありました。

この夏の花火大会のようにだれもが心待ちする「日常の風景」がたくさん戻ってくることを楽しみに待ちたいと思います。

おわり
※1 内閣府 景気ウォッチャー(DI ※ディフュージョン・インデックス)   

※2 熊本県人吉市 第67回 人吉花火大会2022
【LIVE配信】第67回 人吉花火大会2022 もっとそばに。もっとちかくに。【2022年8月15日(月) 】


生活者研究センター概要

インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。


著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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