新しい暮らしの風景 ~ ゆれる・・・‘不安’ ~
1.はじめに
総務省が10月21日に発表した9月の全国消費者物価指数は102.9%となり、前年同月比で3%の上昇となりました。物価上昇率が3%台となるのは、消費増税の影響を除くと1991年8月以来で、約31年ぶりであることが新聞各社からも報道されていました。※1
原材料の高騰や円安の影響により、電気やガスといったエネルギーをはじめ、食料品や日用品といった暮らしに欠かせないものの値上がりが続いています。値上がりの状況をもう一歩詳しく眺めてみると、電気代や食品など生活に欠かせないモノやサービスを示す「基礎的支出」の上昇率は4.5%なのに対して、ぜいたく品を示す「選択的支出」は1.5%となっており、日常の暮らしに関するモノコトの値上がりが大きいことが浮き彫りになっています。その一方で、賃金の伸びは緩やかなことから生活者の家計負担はますます増加していると言えそうです。
妻と一緒にスーパーに行ったとき、買い物途中でざざっと暗算をしている妻の姿を見ることが多くなりました。曰く、「前と同じペースで買い物しちゃうとレジで驚くことになる。だいたいイメージより1~2割合計金額が多いイメージ。途中で確認して買い過ぎを予防している」とのこと。おかげで、こっそりと買い物かごにすべりこませた酒の肴などは、妻の事前チェックに阻止されて、すごすごと棚に戻すことになることが多くなったことから、現在は棚から商品をとる前の事前申請制となりました。いやはや。
2. 見え隠れする不安の影
定点調査で追い続けてきた新型コロナの感染拡大不安をはじめとしたさまざまな「不安」を見ていきましょう。第7波の感染者数の減少に連動して感染不安は急激に減少して先月(9月上旬)には5割を切るまでに減少してきました。しかしながら、以前のようには減りきらない新規感染者数や海外からの旅行者受け入れの緩和など、さまざまな対策緩和の動きを受けてか、感染不安は増加に転じています。感染不安の増加に連動して、「飲食店での食事」や「国内旅行」といった、不特定多数の人との接触リスクが心配される場所への外出行動に関する不安も、わずかばかり増加しました。
これからのシーズンは旅行やイベント、さらには年末・年始の集まりなど、人の移動や交流が活発になる時期でもあり、旅行業や運輸、飲食業界など、さまざまな業界が景気の戻りを期待していると思います。全国旅行支援(全国旅行割り)の活用も盛り上がりを見せているようです。その一方で、新型コロナだけでなくインフルエンザなどの風邪の流行も気になります。引き続き、十分に安心・安全に配慮しつつ警戒しつつ、これからの心地良い季節を謳歌したいと思います。(図表1)
図表1
感染不安や行動不安は久しぶりに増加に転じていました。では「節約意識」や「暮らし向きの回復予想」はどのような動きをみせているか、を見ていきましょう。22年7月から今後の暮らし向きの回復への期待を計測していく形に質問のアプローチを変更した「暮らし向きの回復予想」については、前回よりも増えて4割の人が「回復していかない(回復していくと思わない計)」と回答しています。 また、「節約意識」に関しては6割弱が節約を心がけていると回答しています。これらのふたつの項目は弱い上下動を繰り返していますが、どちらも高い位置に留まっており、値上がりをはじめとした家計不安の根深さを物語っています。
冒頭に消費者物価指数の上昇に関する話を書きましたが、10月に入りアルコール飲料の値上がりも始まりました。今後も食料品だけなく、サービスなどさまざまなジャンルで値上げが予定(予想でなく予定!)されています。ますます我々のお財布への値上げのインパクトは厳しさを増すばかりです。(図表2)
図表2
21年1月頃、22年1月頃と過去2回の年末・年始シーズンにおける新規感染者数の動きを振り返ると、どちらも感染者が急増する時期と重なっており、関東圏では21年1月は緊急事態宣言、22年1月はまん延防止法が発令されていました。第7波が収束しきらない状況や屋外でのマスク着用ルールの見直し、海外からの個人旅行者の受け入れ開始など、さまざまな規制緩和の向こう側に「再びの感染拡大」の足音を聴きとっているのかもしれません。
3. 値上がりと家計防衛
食品を筆頭にさまざまな商品・サービスの値上がりが続き、生活者の暮らしにインパクトを与えています。ここで最新の自主調査から商品・サービスジャンルごとの値上がりへの対策-家計防衛-の様子に迫ってみましょう。値上がり意識や買い控えや節約などの値上がり対策が顕著な女性にフォーカスしてみてみると、10月調査でも5割弱の人が「食料品」の買い控えや節約を心がけている、と回答しています。また、6月の調査時点から6pt増加しており、節約傾向がより高まっていることがわかります。前回のコラム『消費財の値上がり実態と生活者の家計防衛術(3)』で食品ごとの値上がりの様子をご紹介したように、油関連はもちろん、今では食パンやカップ麺・袋めんなど小麦を原料とする食品の値上がりも顕著になってきました。今後も値上がりが予定されている食品もあることから、ますます生活者の暮らしはシビアなものとなりそうです。
他のジャンルに目を向けると、「電気・ガス・水道などの公共料金(38%)」、「日用品・消耗品(29%)」、「飲料(24%)」と続いています。また、今月になって「飲食店(24%)」も大きく増えています。ほとんどのジャンルで6月よりも節約の取り組みが強まっていることから、今後ますますの値上がりを受けての消費・買い物行動の変化に注目しておきたいと思います。
図表3
次に日々のやりくりの工夫において筆頭に上がっている「食」に関する生活者の家計費防衛術について、こちらも女性にフォーカスしてみていきましょう。「食」に関する支出抑制の具体的な工夫を尋ねたところ、「ポイントカード」や「クーポン」の活用が多くあがっており、わずかばかりですが6月から上昇傾向にありました(水色の星マーク)。また、「チラシの特売情報の活用」、「まとめ買い」、「タイムセール」など、直接的に少しでも安く購入したいという気持ちも大きいようです(黄色の星マーク)。そして、5人に1名が「プライベートブランドの活用」をあげています(赤色の星マーク)。さらに、「お菓子やデザートなどを控える」や「外食:利用回数を減らす」という「食を楽しむ」という項目のスコアが高いことは、暮らしの中の豊かさを犠牲にしている気配が漂ってきます。特に「お菓子やデザート」の増加は、値上がりへの対応がより切実に差し迫っており暮らしの中の楽しみを奪われているようで一層気がかりな動きです。(図表4)
図表4
さらに詳しく買い物ジャンル別に「以前よりも安いものを選んだり、買い控えをしているもの」を尋ねたところ、「野菜(28%)」、「お菓子・デザート(27%)」を筆頭に、「お肉・お魚(23%)」、「くだもの(19%)」など食品が上位に上がっており、多くのものが6月時点よりもスコアが高くなっています。また、「電気・ガス(19%)」、「水道(12%)」も引き続き高いスコアとなっており、公共料金などにも暮らしの中の固定費にも節約の矛先が向けられていることがわかります。
その一方で、感染不安や行動抑制などでこれまでは自粛傾向にあった「レジャー(旅行・ドライブ)(10%)」や「趣味活動(ライブ、映画鑑賞など)(5%)」などはわずかに減少の動きをみせており、今後の回復を期待させます。これからのシーズンは行楽気分も盛り上がるシーズンです。また、年末・年始に向けた旅行の話も出てくるタイミングですね。(図表5)
図表5
少し気は早いですが、「全国旅行支援」もあることですから、年末・年始における実家への帰省や旅行についても質問をしてみました。全体では「自分の実家への帰省(15%)」が最も多く、「夫または妻の実家への帰省」は6%となっていました。また、「宿泊ありの国内旅行」は12%、「日帰りの国内旅行」も7%となっており、帰省や国内旅行を楽しみにしている様子も伺えます。(図表6)
過去2度の年末・年始は感染拡大の最中にあり、警戒モードでの規制や旅行などが求められた状況だったと思います。今年も残り2か月となりましたが、感染状況を注視しつつ生活者のマインドの変化を見守りたいと思います。
図表6
5. むすびとして
週末の早朝はロードバイクに乗っています。川崎市中原区という多摩川に近いエリアに住んでいるので多摩川サイクリングロードがホームグラウンドです。先週は等々力陸上競技場のあたりからサイクリングロードに出て、多摩川を遡上し登戸方面に向かい、川崎市多摩区にある「生田緑地」という広大な緑地公園に行ってきました。緑地の中ほどにあるメタセコイアという空に突き抜けるほど高く太い木々に囲まれながら、周囲に人がいないことを確認してからマスクを外して大きくゆっくりと深呼吸をしました。そしてしばし、メタセコイアの脇にあった大きな石に腰かけてボーっとしていると柴犬をつれた人が歩いてきました。彼もマスクを外していましたが、私が視界に入るとそそくさと左手首に巻いていたマスクをつけました。私も同じように再びマスクをしつつ、軽く会釈をしてすれ違いました。
今ではすっかり様式美さえ伴うような立ち居振る舞いとなりました。いやはや。
おわり
※1 読売新聞 2022.10.22 朝刊1面
「物価31年ぶり3%上昇 9月 生活必需品顕著」
生活者研究センター概要
インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。
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