新しい暮らしの風景 ~ 日々刻々と ~
1.はじめに
依然としてさまざまな商品・ジャンルにおいて値上げが続いています。帝国データバンクが調べたところによると、上場している主要な食品メーカーが2022年内に値上げを実施したり、値上げを予定している商品は累計で約2万点にも及びそうです。そのうちの5割を超える1万1千品目の値上げが22年8~10月に集中しているとのこと。※1
さまざまな値上がりが続くことから、政府はガソリン補助金同様に電気料金の抑制支援策を打ち出しました。物価高騰や長びく円安などを受けて、各家庭の電力の使用量に応じて電気料金を来年1月から1キロワットアワー当たり7円の補助を行うことにより、2割程度、料金を抑制するという案です。現在審議している子育て支援策などとともに、総合経済対策の目玉となりそうです。※2
また、所得そのものを増やそうという動きも目立ち始めました。経団連(日本経済団体連合会)の十倉雅和会長は11月7日の記者会見において、相次ぐ物価の上昇を前提として来年(2023年)の春闘をにらんでベースアップを中心とする賃上げを会員企業に働きかけていくと話しています。※3
22年は前年21年と異なり、緊急事態宣言やまん延防止等の人流の抑止政策期間の少ない年であり、ヒトやモノの動きも戻ってきたことから業績回復に転じた企業・業種も目立ちました。そのため、冬のボーナスの回復を期待している人も多いのではないでしょうか。しかしながら、先の経団連の働きかけが少しでも反映され、ボーナス(一時金)の回復に留まらず給与のベースアップが実現することにより、月例給与の底上げにもつながることを心から期待したいと思います。
2. 揺れ動く感染不安と回復への期待
定点調査で追い続けてきた新型コロナの感染拡大不安をはじめとしたさまざまな「不安」を見ていきましょう。ここ最近の新規感染者数の発表によれば、エリアによっては増加に転じているところも散見され、「第8波」の足音を聴きとっている人も多いのではないでしょうか。不吉なことに・・・過去2回(21年、22年)の年末・年始を振り返るとどちらも新規感染者が増加するシーズンとなっています。
現在の第8波への予感やこれまでの年末・年始を思い浮かべてか、感染不安はここ最近増加に転じています。「テーマパークや繁華街、人の集まる場所」への外出、いわゆる不特定多数の人と出会う場所への外出も不安は増加しています。その一方で、「飲食店での食事」や「国内旅行」については不安が減少に転じています。マスク着用のルールなども見直され、生活者もコロナ下における暮らし方、過ごし方の術をマスターしてきたように思います。その中で、安心・安全を見据えた飲食店の店舗選びや店内での振る舞いも身につきました。国内旅行についてもホテルなどの宿泊施設のみなさまが取り組む感染防止対策を実感したりもしています。そうした体験や実感もこうした不安減少の裏側にあるのかもしれません。
ハロウィンも終わって、街中はそろそろクリスマスに衣替えのシーズンです。みなさまはどのような年末・年始を過ごす予定ですか?(図表1)
図表1
今回も年末・年始における実家への帰省や旅行に関する生活者のマインドの動きを計測すべく、前月同様の質問をしてみました。全体では「自分の実家への帰省(15%)」が最も多く、「夫または妻の実家への帰省」は6%となっていました。また、「宿泊ありの国内旅行」は13%、「日帰りの国内旅行」も6%となっていました。前月と比較すると、「自分の実家への帰省」と「宿泊ありの国内旅行」は前月よりわずかではありますが増加しており、特に男性において増加していることがわかります。(図表2)
過去の年末・年始は感染拡大の最中にあり、警戒モードでの規制や旅行などが求められた状況でした。「第8波」という言葉もちらつきはじめました。今後も引き続き生活者のマインドを観測していきたいと思います。
図表2
ではいつものように、「節約意識」や「暮らし向きの回復予想」はどのような動きをみせているか、を見ていきましょう。22年7月から今後の暮らし向きの回復への期待を計測していく形に質問を変更した「暮らし向きの回復予想」については、4割弱の人が「回復していかない(回復していくと思わない計)」と回答しています。また、「家計の節約を心がけている:節約意識」に関しては6割の人が節約を心がけているとしています。
この2つの項目、とりわけ節約意識については、コロナ下においてわずかながらに上下動しつつも、高い水準に位置しています。当初はコロナインパクトによる給与減や雇用不安などに起因していましたが、現在は相次ぐ値上がりもまた大きな要因となっていると思われます。
先に引用した帝国データバンクの記事では、22年は約2万品目の値上がりを予想しており、11月以降、9千品目程度の値上がりも予定されているとしています。先月と同じフレーズで恐縮ですが・・・ますます我々のお財布への値上げのインパクトは厳しさを増すばかりです。(図表3)
図表3
3. 値上がりと家計防衛 ~食卓の灯りは消えない
最新の自主調査結果から商品・サービスジャンルごとの値上がりへの対策-家計防衛-の様子に迫ってみましょう。買い物ジャンル別に「以前よりも安いものを選んだり、買い控えをしているもの」を尋ねたところ、「お菓子・デザート(28%)」、「野菜(27%)」、「お肉・お魚(24%)」、「お米・パン(19%)」など食品が上位に上がっていますまた6月時点よりもスコアが高くなっており、再三の値上がりを受けて、家計防衛も一層厳しくなっているようです。また、「電気・ガス(21%)」、「水道(13%)」も引き続き高くなっています。今回の政府が検討している電気料金の支援策はありがたい話として受け止められそうですね。
その一方で、これまで自粛傾向にあった「レジャー(旅行・ドライブ)(10%)」や「趣味活動(ライブ、映画鑑賞など)(6%)」などは6月から比較して減少傾向にあり、先に紹介した行動意欲の回復や年末・年始の旅行予定を反映し今後の回復が期待できそうです。(図表4)
図表4
次に日々のやりくりの工夫において筆頭に上がっている「食」に関する生活者の家計費防衛術について、女性を年代別にフォーカスしてみていきましょう。「食」に関する支出抑制の具体的な工夫を尋ねたところ、「ポイントカード」や「クーポン」の活用が多くなっています(水色の星マーク)。また、「チラシの特売情報の活用」、「まとめ買い」、「タイムセール」など、買い方の工夫も目立っています(オレンジ色の星マーク)。これらのデータを年代別にながめてみると、50代以降の高齢層では、「ポイントカード」や「チラシ」の活用が多くなっており、お買い物前に新聞のチラシを確認して、特売品やお得なものを念入りに確認しつつ、ポイント特典などもしっかりチェックしてお買い物をしている様子が浮かんできます。そして、30~40代になると、「チラシ」や「ポイント」はもちろんのこと、「クーポン」を駆使したり、「プライベートブランド」や「まとめ買い」、さらには「業務用スーパー」を活用したりと買い方の工夫も加えて、家計防衛に挑んでいるようです。育ち盛りの子どもがいたり、学費も高くなるお年頃の子どもがいたりと、お財布にとっては口を閉じようと思っても勝手に開いていく頃だと思います。あの手この手。まさにそんな姿が浮かんできます。(図表5)
図表5
5. むすびとして
先日、クルマにロードバイクを積んでひとりで紅葉を眺めに行ってきました。クルマ、ロードバイク、そして、ひとり。三密回避としてはこれ以上のものはありません。早朝、とある峠のふもとにある公営駐車場にクルマを停めて、バイクを組み立てる。キリリと冷たい空気の中、かじかんだ指に息を吹きながら前後のタイヤを装着し、ギアやブレーキなどのチェックを済ませて漕ぎだす。500m、600mと高度があがるたびに気温は下がっているはずなのに体温は上昇し、一枚、また一枚とレイヤリングした上着を脱いでいく。峠の頂上に着いた時にはすっかり陽も高くなり半袖となっていました。
峠の展望台から登ってきた山々を見渡すと、色づいた木々が雄弁に秋を語っていました。
その峠は登山道の始点になっていて、駐車場には多くの登山客を乗せたバスが停まり、これから山へ向かう登山客で賑わっていました。一人黙々とストレッチをしている人。数人でスマホをみつめながらコースを確認している人。大人数で登山道の入り口の看板の前で記念写真を撮っている人。マスクをつけた人、つけていない人。実にさまざまです。そうした登山客を眺めつつ、下りの寒さに備えて背中のポケットに突っ込んだ上着を着こみ峠を後にしました。
紅葉と同じく、人の景色も日常も日々刻々と変わっていますね。
おわり
※1 日経MJ 1面(2022.10.31)
「食品の値上げは8~10月がピークに」帝国データバンク調べ
※2 NHK WEB NEWS (2022.10.26)
「“家庭の電気料金 約2割抑制へ” 政府の総合経済対策案」
※3 NHK WEB NEWS (2022.11.7)
「“来年の春闘 会員企業に賃上げ働きかける” 経団連 十倉会長」
生活者研究センター概要
インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。
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