センター員もりもとの生活者研究記録 【番外編】「ずっとときめく購買プロセス」からバズるヒントを探ってみる
ごあいさつ
こんにちは!生活者研究センター卒業生の森本です! 秋が過ぎるのは早いもので、金木犀の香りを感じたと思ったら、あっという間に震える寒さで暖房始動のタイミングを伺う今日この頃ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。縁あって生活者研究センターから日用雑貨メーカーの担当部署に異動となり早1年半が経とうとしておりますが、現業の中で気になるテーマがあり、筆を執りたくなったため再度この場をお借りしました。ぜひおやつ片手にごゆるりとお付き合いいただけますと嬉しいです。
今回のテーマは・・・・
突然ですが、みなさまは「EIEEB」モデルという言葉を聴いたことはありますか? この「EIEEB」モデルというのは、産業能率大学 小々馬敦研究室が導出した、Z世代を想定した新しい消費者行動モデルで、“ずっとときめく購買プロセス”をモデル化したものです。この、“ずっとときめく購買プロセス”がここ数年でバズった商品に通ずるところがあるのではないかと考え、実際にある商品を「EIEEB」モデルに当てはめて、その適合性について考えてまいります。
「EIEEB」モデルとは
改めて、「EIEEB」モデルとはどのようなものか、簡単にご紹介させていただきます。
※詳細は「Z世代・アルファ世代のリアル-テックネイティブな未来の消費者を紐解く②~テックネイティブの消費者行動モデル」をご覧ください
先述の通り、産業能率大学 小々馬敦研究室がZ世代の情報発信目的が「自身の体験を共有して“共感し合う・高め合う”こと」である点に着目し、かれらがそうした目的から、インフルエンサーや周囲の人の情報発信に“共感・反応”し、そして自らも購入したモノ・得られた体験を発信して役に立ったという自己有用感を得ることで“幸福を高め合う”というゴールへ向かっているのではないか、という仮説の下で提唱されました。
この、“共感・反応”し、購入・経験・情報発信することを通して“幸福を高め合う”プロセスの頭文字をとったものが「EIEEB」モデルであり、それぞれ以下の頭文字をとっています。
E:Encounter 商品・サービスの情報に偶然出会う I:Inspire やりたいこと・知りたいことに気づき、情報探索を行う E:Encourage 調べたという実感を得て、意思決定を後押しされる E:Event 実際に購入する(購入体験にときめく) B:Boost Up 購入した商品や得られた経験をSNSで周囲に共有しあい、高め合う |
ある特定の商品を「EIEEB」モデルに当てはめて考えてみる
「EIEEB」モデルが実際に“バズり”と関係があるのかどうか、“バズり”のヒントが得られるのかどうかを探るにあたり、実際に2021年に発売された金木犀の香りのボディウォッシュ(以降、ブランドAとする)を当てはめて考えていこうと思います。
※なぜブランドAを題材とするのか※
2021年9月の発売以降、SNS上での発話数の増加(図1)や実際の販売規模の伸長から、バズったアイテムだと言えるのではないかと考えました。
図1
ここからは、それぞれのプロセスについて、実際に何が起きていたのか、どんなポイントが当てはまったと考えられるのかを考えていこうと思います。
Encounter:商品・サービスの情報に偶然出会う
ちょうど街では金木犀が香りはじめたタイミングで、SNS上でもその香りに関する話題があがり始めたころでした(図2)。9月11日にはウェザーニュースのアカウントから金木犀の開花に関する投稿が出ており、それに伴ってか、Twitterでは「金木犀の香り」がトレンドワード入り。複数の芸能人も金木犀に関する話題を取り上げていました。
そんな盛り上がりの中、ブランドAのTwitter公式アカウントからの新商品発売の投稿は、瞬く間に広がり、“偶然の出会い”を誘発したと考えられます。
図2
【ポイント】広告ではない公式アカウントからの投稿が、自分に押し付けられたものではない、“偶然に出会えた”感を醸成できたのではないか
Inspire:やりたいこと・知りたいことに気づき、情報探索を行う
これまで金木犀の香りのアイテムと言えば、SHIROやジルスチュアート、ロクシタンのような、少し高価格帯ブランド(専門店でしか手に入らない)であり、かつ、フレグランスやハンドクリームなど周囲に香りを放つものであるイメージが強かったのではないでしょうか。 そんな中、庶民的・慣れ親しんだブランドである、ブランドAから金木犀の香りが発売されるという情報によって、「自分でも手軽に購入可能である」という気づきに繋がり、『どんな香りなの?』『ブランドAの金木犀の香りはどこに売っているの?』という実際の投稿からも見られるように疑問が沸き上がり、自発的な情報探索行動(これは失敗回避のための情報探索も含む)を促したと考えられます。
また、TVCMをはじめとした大規模な広告コミュニケーションを行っていなかったことも、「知る人ぞ知る」情報感を醸成し、探索マインドを一層刺激したと思われます。
【ポイント】新発売であることや企画品であるがゆえに大規模な広告コミュニケーションや販促を行っていなかったことによる”既出の情報の少なさ”が一層探索欲求を搔き立てたのではないか
Encourage:調べたという実感を得て、意思決定を後押しされる
「どんなもの(香り)なのか」「どこに売っているのか」を調べるうちに、自らの”金木犀への愛(ファン度)”を再認識するとともに、これまでのアイテム(フレグランス・ハンドクリーム等)では満たせていなかった、”周囲に香りを振りまきたいわけではなく、お風呂の中やお風呂上がりに自分だけが香りを楽しめればよい”という欲求を自覚したのかもしれません。これは、実際にSNS上でも『匂いはキツすぎなくて本当に自然に香る感じです。』や『香水の匂いじゃちょっときついなあ、って方におすすめ』のような発話があったことからも伺えます。
加えて、無理なく手が届く価格帯であることや、調べれば調べるほどに、「どこも売り切れていて出会えない」という情報に触れることで、”自分も試してみたい”という興味の度合いを強めたのではないでしょうか。
【ポイント】ドラッグストアで購入できる手頃な価格帯で、ボディウォッシュという自分のプライベートな空間をリッチにできるという点が、生活者の潜在的なニーズを自覚させたのではないか
Event:実際に購入する(購入体験にときめく)
度重なるSNS上での「入手困難」情報に加え、金木犀のボディウォッシュが自らの興味関心の対象であることを自覚したことで、「自分に合うもの」「まだ触れたことがない新しいもの」だから購入したい、という購買動機が駆り立てられ、意思決定につながったと考えられます。 また、『店頭で出会えて満足』や『もう買えないと思ったから買えて嬉しい』といった投稿も見られ、購入体験自体にときめいている様子が伺えます。
【ポイント】図らずしも、入手困難なシチュエーションができたことで、「出会えた時に買っておかなきゃ」「出会えたこと自体が嬉しい」という気持ちの醸成に繋がったのではないか
Boost Up:購入した商品や得られた経験をSNSで周囲に共有しあい、高め合う
公式からの発信は最小限で、自らも苦労しながらも情報収集を熱心に行った経験から、”自らの発信が誰かの役に立つ”という気持ちが醸成されたと考えられます。また、実際に使用してみた感想として、『泡なのによくここまで再現できたな』という投稿も散見されました。「金木犀の香りの再現度」や「ブランドA使用後の満足度」によって自分が感じたときめきを他のひとにも共感して欲しいという気持ちを促したのではないでしょうか。
【ポイント】ブランドAの「金木犀の香りの再現度」や「ボディウォッシュとしての機能」が期待を上回ったことで、購入者にときめきを与え、“そのときめきを分かち合いたい”という気持ちを醸成、情報発信を促したのではないか
まとめ
2021年に発売したブランドAを取り上げ、「EIEEB」モデルと照らし合わせることで“バズり(HIT)”のヒントを探ってまいりました。ブランドAの「金木犀」への着眼点(生活者の潮流やニーズを捉えている点)や金木犀の香りの再現度、カテゴリとしての機能の高さが前提ではあるものの、以下要素によって2021年の“バズリ(HIT)”に繋がったのではないかと考えられそうです。
①企画品だからこその広告の少なさ
→情報との偶然の出会いをつくりだせた
②これまでに、ありそうでなかった新しさ
→興味を自覚させ、購買動機を醸成させた
③使用実感に対する満足感や幸福感
→”幸せのおすそ分け”意識を自発的に引き出した
おわりに
「EIEEB」モデルに実際の商品を当てはめることで“バズり”のヒントを探ってみましたが、いかがでしたでしょうか。これまでもSNSなどによる「share(シェア)」に着目した消費モデル「AISAS」などがありましたが、これまでの消費モデルと「EIEEB」モデルとの違いは、シェアに込められた気持ちが、「自分のハレのシーン(映えるシーン)をアピールするもの」ではなく、「出会いによる「ときめき」やそのモノ・コト・トキを通じた「幸せな体験」をおすそ分けすることで「高め合いたい」という気持ち」が核にある部分だと考えます。
今回はSNS上での定性的な発話を中心に(所々でわたくしの所感を多分に含み)推察をしてまいりましたが、弊社として、今後は定量的にも検証できるように手法やデータを整理・検討していきたいと考えております。
最後までご覧いただきありがとうございました!この記事がみなさまのマーケティング活動、特にコミュニケーションプラン立案のご参考となれば幸いです。
(この場を与えてくれたセンター長と、執筆を快諾してくれた現上司にこの場を借りて感謝申し上げます!)
生活者研究センター センター長 田中宏昌 コメント
最近、注目している「EIEEB」モデルですが、こうしてある商品の購買行動を物語的に聴くことによって、より活き活きとしたZ世代の購買プロセスを想像することができたように思います。みなさまの周りにも「EIEEB」モデルにあてはまる商品・サービスがあるのではないでしょうか?そして、ここには今後、Z世代とのコミュニケーションを考える上でのヒントがあったように思います。特に文字通り「バズる」ことを主として考えるコミュニケーション戦略がZ世代にとって本当に有効なのか、という問いかけにもつながってきますね。そうした問いのきっかけになれば、と思い、執筆を依頼しました。ぜひ続編をご期待ください。
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