新しい暮らしの風景 ~‘逢いたい気持ち’が止まらない~
目次
1. 感染不安と行動不安
今回の年末年始シーズンは、新型コロナの第8波が依然として一定の収束を迎えてはいない中、3年ぶりに緊急事態宣言やまん延防止法などの行動制限のない年末年始となりました。テレビやネットのニュースでも、久しぶりの実家への帰省や国内旅行が増加していること、大晦日の年越しカウントダウンのイベントや初詣などに去年よりも多くの人が繰り出していたことが報道されていました。みなさんは年末年始をどのように過ごされていましたか。
さて、定点調査で追い続けてきた新型コロナの感染拡大不安と合わせて「行動にまつわる不安」を見ていきましょう(図表1)。第8波の新規感染者の動きやこれまでの年末・年始を思い浮かべてか、感染不安は12月に入って増加傾向にありました。そうした感染不安を受けて、「テーマパークや繁華街、人の集まる場所」への外出、いわゆる不特定多数の人と出会う場所への外出も、不安は増加傾向にあり、半数程度の人が「不安がある」と回答していました。一方で、「飲食店での食事」や「国内旅行」については、どちらも4割程度が不安を表明しているものの、過去水準を振り返ってもかなり低位な状況で横ばいが続いていました。
「新規感染者はそれなりにでているけれど・・・久しぶりに行動制限のない年末・年始だし・・・」という足を踏み出すにはやや不安な状況でこの年末・年始を迎えたのでは、と考えられます。
図表1
次に「節約意識」や「暮らし向きの回復予想」はどのような動きをみせているか、を見ていきましょう(図表2)。22年7月から今後の暮らし向きの回復への期待を計測していく形に質問を変更した「暮らし向きの回復予想」については、今回も4割弱の人が「回復していかない(回復していくと思わない計)」と回答しています。また、「家計の節約を心がけている:節約意識」に関しては6割の人が節約を心がけているとしています。どちらも大きな変化はなく高い状態で推移しています。
生活者のマインドとしては、「今回の年末・年始こそは・・・」という行動意欲と「そうは言ってもさまざまな商品・サービスも値上がりしているし・・・」という消費意識の綱引きが行われながらの年末・年始だったのではないでしょうか。
図表2
2. 揺れ動いた行動欲求 ~3年ぶりの帰省はかなったのか~
帰省や国内旅行については、22年10月頃から定点調査でそれらの予定を尋ねていました。また、年が明けて1月に実際の行動についても質問をしてみました(※同一の対象者ではありません)。その結果、12月上旬時点における予定と実態の間には乖離があり、帰省、国内旅行ともに実態の方が多くなっていました(図表3)。特に「自分の実家への帰省」においては大きな増加が見受けられました。
背景には、新規感染者の状況を横目に見つつ、直前まで今回の年末・年始の過ごし方を検討していた様子も浮かびます。久しぶりの行動制限のない年末・年始、引き続きの注意をしつつも「自分の実家への帰省なら」と判断をされた方も多かったのではないでしょうか。
図表3
3. 回復の光射す国内旅行
ここからは匿名化された携帯電話の位置情報データを用いて、年末年始における人出をみていきましょう。
まずは前章で取り上げた遠距離の帰省や国内旅行の玄関口でもある東京都の「羽田空港(国内線)エリア」の人出を22年12月24日(土)から23年1月5日(木)までと少し長いスパンで眺めてみましょう(図表4)。
グラフには、対象とした日程の中で、最も人出が多くなっている割合が高かった「14時台」のデータを用いています。年内の動きをみると12月29日(木)が最も多くなっており、次いで28(水)となっていました。年明けの1月に目を移すと1月4日(水)が最も多く、次いで1月3日(火)となっており、前年の人出と比較をすると対象とした13日中、8日が前年よりも人出が多くなっていました。今回の年末・年始は不安もありながらも人出の回復がみられたことが報道されていましたが、それらを裏付けるような分析結果となっています。また、大晦日や元旦の人出は昨年を下回っていますが、昨年よりも日程に余裕を持たせて帰省や旅行の日数を長めにしたことで、両日の空港利用者の出入りが少なくなったことが想像されますね。
図表4
4. 位置情報でみる人の動き ~大晦日の夜 浅草寺の鐘の音を聴く
次に大晦日(2022/12/31)から元旦(2023/1/1)にかけての「浅草エリア」の人出をみてみましょう(図表4)。浅草エリアの人口は、大晦日の日中14時付近にいったんピークを迎えています。そこから20時にかけて徐々に減少しますが、再び増加に転じ、翌0時の初詣に向かって多くの人が訪れたことが浮き彫りになっています。この年末・年始は首都圏を走るJR東日本は終夜運転を行っていましたが、浅草周辺を走る地下鉄では大みそかの終夜運転は行われていませんでした。そうした状況下でも、深夜の時間帯にもかなりの人が浅草エリアに滞留していたことがわかります。
そして、6時付近に底打ちをした後は再び人が集まり始め、14時頃には年越しの0時時点の人出を越えてピークを迎え、17時頃までそのまま推移していました。(図表5)
これに比べ、前年の動きはピークが一時的となっており、新型コロナの感染を憂慮して、初詣を済ませるとそそくさと多くの人で混雑しているエリアを後にする、といった動きが顕著でした。今年は少しのんびりと「初詣+α」を楽しめたのではないでしょうか。関東では明治神宮(東京都)、鶴岡八幡宮(神奈川県)、さらには成田山(茨城県)などへ初詣に訪れた人の数が回復に向かっていたことがニュースになっていましたね。このコラムをお読みになられている方も初詣は久しぶりに大勢の人が賑わう名刹へ、という方も多かったのではないでしょうか。
初詣に限らず、スポーツイベントやクリスマスイルミネーションをはじめ多くのイベントが昨年から復活を遂げています。今後、ますますさまざまなイベントが、そして、それを心待ちにした人が戻ってくるのではないでしょうか。 これからも、こうした興味深いデータも活用しながら新しい日常を描いていきたいと思います。
図表5
5. 最後に(分析担当者との対話から)
最後に、今回分析を担当したメンバーに、位置情報データで生活者行動を捉えることの可能性について聞いてみました。
生活者研究センター 田中宏昌(以下 田中):これまではアンケートで人の動きを追っていましたが、今回のように「位置情報」という行動ログで生々しく人の動きを可視化できることにあらためて驚かされました。年末年始の人の動きが活発になってきたということはニュースなどで報道されていましたが、行動ログからもはっきりと浮かび上がってきましたね。
事業開発本部 デジタルビジネスディベロップメント部 小泉喜義(以下 小泉):携帯電話の位置情報を用いることにより、エリア別・時間帯別など、より詳細に人の動きを把握することが可能となります。今回は「浅草エリア」のような街レベルの分析でしたが、「浅草寺」といった形で周辺の名所や観光施設、商業施設などより狭い地点(スポット)にフォーカスした分析も可能です。
田中:コロナ下では三密回避のために「混雑マップ」などのサービスも提供されて、暮らしの中における位置情報の活用が生活者にも広く認知されるようになりましたね。エリアだけでなく、電車の乗車率やはたまたデパートやホテルの大浴場の混雑状況も、位置情報を活用して混雑状況を教えてくれるサービスが登場しました。
小泉:位置情報は街づくりや商業施設の開発、さらには観光業などで、さまざまな活用が行われています。今回ご紹介したのは「モバイル空間統計」という推計人口データですが、このほかに個人単位での移動履歴を表す「行動ログデータ」により、「A地点からB地点へ」の移動量を計測こともできますし、さらに距離と時間を加味すれば、移動の交通手段(歩きなのか、クルマなのか、電車なのか)もある程度推定できます。これらのデータを利用することで、観光地における旅行客の周遊の様子も明らかになります。
田中:よりリアリティのある旅行者の姿を描写することも可能ですね。これまで気づいていなかった新しく魅力的な旅行ルートの発見にもつながりそうですね。
小泉:こうした民間企業による商業的活用のほか、私たちの暮らしや健康を守るためのデータ活用の可能性についても、自治体などでの取り組みが進んでいます。先行して利用が進んでいたのは防災や交通関連ですが、最近では例えばお年寄りの一日の行動情報(移動時間や移動距離)を定期モニタリングすることによって、以前よりも極端に移動距離が少なくなった人にヒアリングをしたりする見守りサービスなども検討されています。
当社で取り扱っている位置情報は先にお話しした「モバイル空間統計」や「行動ログデータ」など基地局データが中心ですが、GPSやWi-Fiなどでよりきめ細かい位置情報を取得している事業者とも相互に補完し合いながら、世の中の多種多様なニーズに応えていければ、と思っています。
田中:私にも離れて暮らす父母がいるのでそうした情報活用はうれしいですね。今後もさまざまな位置情報の活用から新しい日常を描き出してくれることを期待しています。
今後も共にデータ分析を継続して、その変化、潮流をレポートしていきます。お楽しみに。
データについて:
【モバイル空間統計®・国内人口分布統計(リアルタイム版)】
※モバイル空間統計®は、株式会社NTTドコモの登録商標です。
ドコモの携帯電話ネットワークのしくみを使用して作成される人口の統計情報です。
集団の人数のみをあらわす人口統計情報であるため、お客様個人を特定することはできません。
インテージは「モバイル空間統計」の1次販売店です。
【分析者紹介】
事業開発本部 デジタルビジネスディベロップメント部 小泉喜義(こいずみきよし)
インテージの前身である社会調査研究所に入社し、GIS(地理情報システム)の営業・サービス企画・運用業務を経験。その後20年以上に渡って流通・サービス業や消費財メーカーのエリアマーケティング関連業務に従事。2018年以降は、主にドコモ位置情報のビジネス活用を担当。
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