新しい暮らしの風景 ~人生の3分の1は夢の中~
目次
1. はじめに
新型コロナの感染不安によって、マスクの着用や手洗い、うがいの励行、さらには手指の消毒など、新型コロナウィルスの感染を防ぐためのさまざまな行動が日常生活に組み込まれました。そして、コロナが日本に上陸して数か月もすると、単なる風邪と思われる発熱であっても容易に診察すら受けることができない状況を目の当たりにすることになり、新型コロナに罹患しないことはもちろんのこと、「病院のお世話にならない=病気をしない」という考えに進化して、「病そのものからもできるかぎり遠ざかろう」という空気が強まったように感じています。
そのマインドは、運動不足の解消や免疫力の強化を目的とした室内でも可能な軽度の運動の盛り上がりや、プロティンやサプリメントなどの市場の成長にも表れていました。そうした潮流は、日常的に手軽に行える運動をサプリやプロティンなどの力も上手に使いながら、という、日々の取り組みの中で獲得できる「身近な健康」を求めているように映りました。
また、コロナ下においては、お買い物をはじめとした外出の自粛や、在宅勤務、自宅学習など、新しい生活スタイルに対応することで生じるストレスも問題になっていました。在宅勤務や自宅学習の機会が増えたことにより、家の中での食事(内食)機会は増加しました。これまで、朝食や夕食だけだった食卓の準備に「昼食」が加わったのです。スーツや学生服から私服での勤務や学習になり、洗濯物が増え、洗濯の回数が増えたという声も耳にしました。共働き世帯が一般化して「暮らしの時短・簡便化」を追い求める中、コロナインパクトは感染不安のストレスに加えて、家事仕事を増幅し、ストレスも上積みしたのです。ストレスの増加は、人々の関心を「身体の健康」から「心身の健康」に向かわせることにもなりました。
2. 健康食品の市場構造 ~ 人口減の中、ポテンシャルの大きい社会課題 ~
さて、そうした「健康」への取り組み意識の増加を受けて、「健康食品」にまつわる市場はどのような変化をみせているのでしょうか。弊社が行っているヘルスケアに関する定点調査(※1)からその動きを見ていきましょう。
2022年の健康食品・サプリメント市場は13,729億円となっており、女性による市場が男性の1.4倍(8,142億円)となっています。また、年代別の構成比をみてみると、男女ともに50~70代の中高齢層が7割近くを占めていることがわかります。(図表1)
図表1
中高齢層が多くを占めているという背景には、「加齢」という抗えない健康不安に対して、食事や運動だけでなく、健康食品やサプリメントなどで積極的に対策を講じていこうという想いがあります。「加齢」はだれもが痛感することであり、歳を追うごとにその認識や症状は強まっていくことから、これから先の市場成長の可能性を示しているとも考えられるでしょう。
ここで一人当たりの購入金額とその推移を同じ調査結果から見てみてみましょう。
性年代別の年間の支出金額と購入者数をプロットしてみると、男女ともに40代以上の人たちが右上に布置され、年齢が上がるにつれて、購入者が増えるとともに支出も高まっていることがわかります。40代で年間2~2.5万円程度、60代で年間4万円程度、支出していることがわかります。(図表2)
図表2
3. 「健康」を実感する ~ 暮らしの中の2つのシーン(気分) ~
次に支出金額から市場の成長性を算出したランキングとともに、成長性の大きな市場についてみていきましょう。(図表3)
図表3
1位には「関節の健康」があがっており、膝関節や肩などの痛みの緩和を目的とした健食・サプリ市場の大きさを再認識します。「膝関節痛」の痛みは加齢とともに多くの人が悩まされる症状であることから、悩みを抱えている人も多いのでしょう。そのため、BS放送のテレビCMでこの手のサプリメントのCMを目にすることも多く、みなさんもテーマソングとともに記憶している人も多いのではないでしょうか。階段の昇り降りの際に生じる関節の痛みは、日々、加齢による衰えを直視させられる機会でもあります。また、「歩ける」ということは、「好きな時に自分が行きたいところに行ける」という喜びをもたらします。そうした思いから、膝や肩に限らず、加齢に負けない「健康的な関節」を手に入れることは多くの人の願いでもあり、その意識が市場を形成しているように映ります。
また、ランキングを少し下って、成長の著しい「不眠・睡眠障害対策」についても注目してみたいと思います。 「睡眠」もまた日々の健康を実感するものなのではないでしょうか。質の高い睡眠は健康の証でもあり、健康を形作る大切なものです。高齢になると寝つきが悪くなったり、朝早くに目が覚めるようになったりといったお悩みも多くなるようですが、ミドルエイジでは仕事や育児の悩み、ストレスによって、睡眠への悪影響が出ていたりすることも多いようです。また、若年層においては、日々の学習や受験といったストレスやスマホの使い過ぎによる睡眠障害なども多くなっているようです。(※1、※2)
昨年は「コロナ太り」といった言葉に象徴されるように、「体脂肪の抑制」といったヘルスベネフィットが注目され、大きな成長を刻んでいましたが、今年は「関節の健康」など、より積極的に活動するためのヘルスベネフィットに注目がシフトしているようです。「(関節痛を和らげ)自分で歩けること」や「質の高い睡眠がとれる」ことは、なにより日々の健康を実感できる象徴的な事柄なのではないでしょうか。医者にかかる前に健康食品やサプリメントなどで少しでも症状の緩和を目指す、あるいは進行を弱めるという動きは今後ますます強まり、市場も成長していくのではないか、と考えられます。(図表4)
図表4
4. ‘質の高い眠り’を求めて ~ 注目される成分 ~
「質の高い眠り」はだれが求めているのか、また、どのような成分が期待されているのか、についてみていきましょう。図表5は不眠・睡眠障害に対する健康食品・サプリメントについて、調査結果をまとめたものです。
図表5
購入実態から顕在市場(現在健康食品サプリを購入している市場)は209億円(前年比132%)と推計されます。また、今後1年間の購入意向から推計した潜在市場 は506億円と、242%の伸びしろがあると考えられます。睡眠に不安はあるが健食やサプリで対策を講じることがまだまだ一般的でなく、購入意向者を購入に至らせることで、まだまだ成長が見込めることを表しています。
注目されている成分としては「乳酸菌・ビフィズス菌」、「GABA」、「グリシン」などが挙げられています。最近、とある乳酸菌飲料が質の高い睡眠をサポートしてくれるという評判・口コミにより、大きく売上を伸ばしたことがさまざまなニュースでも取り上げられていました。今もって手に入りにくい商品となっていることからご存じの方も多いのではないでしょうか。
また、ユーザーとしてボリュームの多い層は男性40代、女性の50代となっており、日々のストレスや加齢によって以前よりも質の高い眠りが取りにくくなってしまった人々が想像されます。その一方で、シニア層はもちろん若年層も多く、どの年代においても、「質の高い眠り」が求められていることもわかります。
5. むすびとして
今回は「健康への意識の高まり」が健康食品・サプリメント市場においてどのように数字として表れているのか、に注目して数字を追ってきました。その結果、大げさな健康を求めるのではなく、「自由に歩けて、しっかりと眠れる」というごく基本的な「日々、実感できる健康」を求めている様子が浮かんできました。
新型コロナとの共生も、いよいよ新しい局面にシフトしていくと思われます。しかしながら、高まった健康への取り組み意識がどこに向かうのか、に想いを巡らせたとき、「外出自粛で動けなかった分、いろいろなところに出歩こう、美味しいものを食べよう、そして、ゆっくりと安心して眠ろう」といったベーシックな健康を求めることに揺らぎはなく、むしろ、その大切さを実感したがゆえにより強固に求めていくのではないか、と考えます。そうした風を受けて、間接の痛みや不眠などの悩みを実感しながらも、まだまだ対策への理解が十分ではなく、現時点で対処していない人に向けて 、健康食品やサプリメントなどがサポートできることを伝えていくことは、機会を捉えることにつながると考えます。
おわり
※1 厚生労働省
e-ヘルスネット > 休養・こころの健康 > 睡眠と健康
※2 スマート・ライフ・プロジェクト 事務局(厚生労働省 健康局 健康課)
「専門家に聞きました今日から使える睡眠トリビア」
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