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新しい暮らしの風景 ~シリーズ:これまでとこれから ①安心・安全に関する意識~

1. はじめに ~Withコロナ から Withリスク

2020年1月に国内最初の新型コロナ感染者が発生してから3年が経ちました。その間、「波」は8回を数え、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の適用により、さまざまな自粛や自制を強いられました。当初はワクチンはおろか、有効な治療法もなく、相次ぐ有名芸能人の落命に大きく動揺し、得体の知れないウイルスの恐怖に身をすくめながら日々を過ごしていました。まさに漆黒の闇夜の中で大海原の荒波に漂うかのごとく。

あれから3年。
私たちが日々眼にする風景は大きく変わってきました。

通勤電車に揺られる人の数も増え、時間帯によってはラッシュも戻ってきました。また、以前は使う人もいなかった車内では吊り革や手すりに掴まる人がずいぶん増えましたね。飲食店のテーブルに鎮座していたアクリルのパーティションもその数を減らしています。さらには、近所のサイクリングコースから覗き見る等々力陸上競技場(神奈川県川崎市中原区)では川崎フロンターレの地鳴りのような応援がスタジアムに響き渡り、スタンドにはチームユニフォームを纏ったサポーターが隙間なく身体を揺らしています。

あれから3年。
確かにさまざまな風景が変化しているようです。その一方で、在宅勤務やリモートワークのようにコロナインパクトによって変化や進化が加速されて、そのまま定着への向かう事象も存在しています。また、コロナ下で強まった「リスク管理意識」も大きな変化かもしれません。
このコラムを読み続けてくださっている人は聞き覚えもあると思いますが、はじめは「Withコロナ」を念頭に置いての感染リスク対策であったところ、仕事や健康が「一瞬にして」崩れ去るコロナインパクトを目の当たりにして、「Withリスク」として、暮らしを再設計する人も多かったように思います。この再設計は在宅勤務ができる仕事への転職や地方移住といった形で表れていました。

今回から数回にわたって、コロナ下を振り返りつつ新しい風景を確認していきたいと思います。
初回は「健康」をキーワードにスタートしていきましょう。

2. 薄れる感染不安と高まる行動意欲(外食・外出・国内旅行)

定点調査で追い続けてきた、新型コロナの感染不安や外出などの行動不安を見ていきましょう。 感染不安と行動不安は強い相関があり、感染不安が減少すると行動不安も同じ動きをみせてきました。第8波の感染ピークを過ぎた頃(23/1~)から、感染不安は大きく減少トレンドにシフトして、直近では39%と4割を切るスコアになっています。行動不安に目を転じると「飲食店での食事」や「国内旅行」はもちろんのこと、「テーマパークや繁華街、人の集まる場所」への外出など、すべての項目が調査開始後、最小レベルにまで減少しています(図表1)。

図表1

【長期推移】晴れない不安:感染拡大、外出や行動について

この間、年末年始の休暇シーズンやお花見など、国内の年中行事においては人出が回復傾向にあることが報道されています。GWを間近に控え、外出行動への不安も薄れ、行動意欲も高まっていると言えます。最近の自主調査では、「今年のGWには昨年の1.7倍の予算を準備しており、市場規模も2兆7114億に。※1」という結果になりました。
GWや夏休みを前に、旅行やレジャーなどへの消費意欲はようやく長い長いトンネルを抜けて本格的な回復に向かっていると言えそうです。

では次に、コロナ下に一層の活用が広がった在宅勤務やリモートワークの状況をみていきましょう。東京都の産業労働局が発表している「テレワーク実施率調査※2」によれば、第7波が沈静化した昨年の秋以降、5割付近を推移しつつ下げ止まりの様相を示しています。コロナ前が25%程度だったことを考えると2倍近い数字になっており、在宅勤務やリモートワークが一定程度定着したことが浮かび上がってきます。(図表2)

図表2

在宅勤務・リモートワーク実施率(東京都)

ここからは携帯電話の位置情報を用いて人の動きをみていきましょう。
勤務時間のオフィス街の人流をみるために平日14時台の東京の丸の内を、「仕事のあとの一杯」の人流をみるために平日19時台の新橋をピックアップしました。また、休日の繁華街の人流をみるために、新宿駅東口の休日14時台をピックアップしています。

人出を表す折れ線グラフと新規感染者数を表す棒グラフを眺めると、感染拡大の「波」と人出がシンクロしていることが見て取れます。そして、第1波がいかに大きなインパクトであったかということを再確認させられます。国内初の緊急事態宣言も発令されたことにより、学校は休校になり、飲食店だけでなくデパートも休業する事態となりました。その後、職場では急速にリモートワーク環境が整備され、部署別の出社制限などの出社人数のコントロールなどを行うことで、リアルとリモートを上手にバランスさせたハイブリッドな働き方を確立させていきました。「波」に襲われるたびに人出は少なくなりますが、感染対策の徹底やワクチンの普及もあり、徐々に減少の程度は少なくなっていることがわかります。夜の繁華街においても同様に「波」の到来に合わせて、一時的に人出は減少しますが後半になるにつれて回復も素早くなっていきます。(図表3)

図表3

東京オフィス街・繁華街の人流の変化(2020.1~2023.3)

今後また新規感染が増えることもあると思いますが、人々はそして社会は活動を止めることなく注意深く乗り越えていくものと想像されます。「コロナ慣れ」とも言われますが、生活者はしっかりと対処法を身に着け、社会は対処法を実装した、ということなのではないかと考えます。

3. 健康に関する意識と行動 ~ 変化と定着 ~

感染が拡大していたいわゆる「波」の時期、人々は外出行動を自粛して感染防止に努めていました。その間、生活者の心にはどのような影響を及ぼしていたのでしょうか。第4波(21年5月頃)のタイミングに、弊社が全国の15~79歳の方々を対象に行った「ストレス」に関するアンケート結果※3では、暮らしにおいて何らかのストレスを感じている人の割合はコロナ前と比較して15ポイントほど高くなっていました。その原因を尋ねると、「外出や旅行が自由にできない」が6割、「友人・知人との関りが薄れている」は4割と高くなっており、感染不安や感染予防に関するストレスとともに、「行動制限・外出自粛」といったものが大きなストレス要因になっていたことがわかりました。(図表4)

図表4

コロナ下におけるストレスの増加とその要因

感染という不安とともに行動抑制においても大きなストレスを感じる中、身体の健康とともに心の健康もまた重視されるようになってきました。コロナ下において健康への意識が高まる中、『より健康的な食生活を送るようになった』と日常の「食」の充実を心がけた方々も多かったようです(図表5)。コロナインパクトによって高まった意識は落ち着きをみせながらも、女性においては2割以上の方が依然として心がけを続けているようです。また、年代が上がるにつれその意識は強くなり、70代以上では3割付近を推移しています。

図表5

より健康的な食生活を送るようになった

コロナ下において、当初は感染対策としての衛生行動、健康への取り組みだったように映りますが、発熱しても容易に診察すらしてもらえない状況を目の当たりにして、人々の意識は「対コロナ」でなはく、より健康的な心身、さらには健康的な暮らしを求めるようになっていったのではないでしょうか。そして、その取り組みとしても、「お金や手間暇かけて苦労して」、ということではなく、「規則正しい生活を送り、日常の食生活、日常の食卓を大切に」といった日々の暮らしの中で実践できるアプローチが好まれ、定着していったように映ります。

コロナ下において定着した健康への取り組みを見てみると、「免疫力の強化」や「睡眠を十分にとる」、そして、「運動・スポーツ/家の中で体を動かす」といったものがあがっています。また、「健康のために摂り続けている食べものがある」といったスコアもコロナ下に増加していました。こちらは22年に入り、少し落ち着きをみせましたが、トレンドとしては増加傾向にあります。(図表6)

図表6

「健康」に対しての取り組み~変化したもの・定着したもの~

コロナインパクトによって、「自分自身の心と身体の健康に向き合う」ということ、さらには、「がんばりすぎずに、日々取り組みを続け、免疫力を高め、病気にかからないように」。そうした考えや生活が定着をみせていると考えます。

4. むすびとして

最後にひとつ。興味深いデータを。
最近、コンビニやスーパー、さらには飲食店の入り口に置いてあったアルコールスプレーが見つけにくくなったお店が多くなったなぁ、と感じています。定点で追い続けてきた「スーパーなどお店を選ぶとき衛生面の取り組みを確認するようになった」というスコアを眺めてみると、希薄化していることがわかります。コロナ上陸直後は女性においては3割程度の方がお店の衛生面への取り組みを気にしていたようですが、直近では2割程度に減少しており、高齢層も減少傾向にあります。(図表7)

図表7

スーパーなどお店を選ぶとき、衛生面の取組みを確認するようになった

ときおり、スーパーの入り口で立ち止まって、スプレーの様子を眺めてみたりすると、儀式だった「シュシュ」をせずに店内に向かっていく姿が多くなったことに気づきます。その一方で小さなお子さんを連れたママやパパが、見つけにくくなったスプレーに近づいて「シュシュ」をしている姿も目にします。マスクの着用についても見直しがあり、マスクを着けない卒業式や始業式が話題になっていました。

さて、みなさまの暮らしにも新しい風景が訪れていますか?
私はまた、ロードバイクに乗って多摩川の風に吹かれながら新しい風景を探してこようと思います。
ちなみに私は花粉症のため、ロードバイクに乗っているときもしっかりマスクをしています。

おわり

※1 インテージ 自主調査
   「予算は前年比1.7倍 制限大幅緩和で買い物、外食、旅行が復調」(2023.4.19)

※2 東京都 産業労働局 テレワーク実施率調査結果(2023.3.17)

※3 知るギャラリー
   「コロナ禍の生活者 今のストレスの主な要因は?」(2021.5.31)


生活者研究センター概要

インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。

著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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