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高まる2023年夏の消費マインド ~生活者スナップショット Vol.1

1. はじめに ~ スナップショットをはじめます

日々刻々と通勤途中に目にする風景が変化しています。神奈川県川崎市の元住吉駅から会社のある秋葉原(都内)まで約1時間、コロナインパクトにより変化し続ける風景を興味深く眺めてきました。

2023年5月8日、新型コロナの感染法上の分類が「2類相当」から「5類」に引き下げられて、インフルエンザと同じ分類レベルになりました。そうした世の中の動きを受けて、外出時やスポーツ観戦時のマスク着用ルールにも変化がみられ、マスク姿も日に日に少なくなっていきました。

駅構内や電車内の変化を振り返ると、海外からの訪日客(インバウンド)も含めて乗客数が増え、しだいに昼間だけでなく早朝や夜遅くの時間帯も乗客が増えてきました。そのため、「この時間なら座って行ける、座って帰れる」といったアテが外れることが多くなりました。また、乗客数の変化にやや遅れるようにして、駅構内や電車内でマスクを着けている人も少なくなっており、そうした日常の風景の変化に「これまでの暮らし」への回帰を感じています。

インテージでは国内における新型コロナの感染拡大当初(2020年3月頃)から、感染不安をはじめとして、旅行などの外出行動への不安、さらには、収入減少などによる家計への不安や節約意識、さらには感染予防を念頭においた健康への取り組み意識など、幅広い視点で定点的にアンケートを実施して、生活者の意識や行動の変化を見守ってきました。また、日々収集している小売店パネル(SRI+)、生活者パネル(SCI・i-SSPなど)をはじめとして、生活者の消費マインドや時間の使い方などを定点観測する「生活者インデックスデータ※1」を通じて、生活者の今の暮らしを写し取ってきました。

5類移行を契機に変化する世相を受けて、今回から「生活者スナップショット」と題したコラムを、生活者の今の暮らしをさまざまな視点から写し取った「スナップショット」としてお届けしていきたいと思います。そして、それらのスナップショットを通じて、みなさまと一緒に生活者のこれからの暮らしやその先の社会にも想いを馳せることができたら、と思います。

※スナップショットとは:なにげない風景やできごと、人物などを素早く写し撮る撮影方法、あるいはそうして撮られた写真のこと。

2. 戻りゆく風景 ~ 夏休みをとりもどす

7月22日(土)、関東でも梅雨明けが発表されました。去年より一日早い梅雨明けだったようです。さて、以前の風景に戻りつつあるモノ・コトのひとつとして、最近(2023.7.11)リリースした「夏休みの過ごし方」の調査結果を取り上げてみましょう。※2

今年の夏休み期間(7月16日~9月30日)にかける予算についてたずねたところ、平均金額は60,146円と昨年から約1万円の増加(前年比120%)となりました。あわせて予算が増える理由を自由に回答してもらったところ「コロナが5類になり心理的制限がなくなった」、「3年間旅行を我慢していたので今回は予算を増やした」といった記述が目立ちました。一方で、「ガソリン代やホテル代など色々な物価上昇のため」といった「やむを得ず・・・増える」といった回答もありました。また、予算を減らす理由としては「物価高で旅費を圧縮」、「節約のため」といった声もあがっており、予算を増やす人・減らす人それぞれに昨今の物価上昇の影響が及んでいることも浮き彫りになっています。(図表1)

図表1

夏休みにかける予算

予算は1.2倍とのことですが、次に夏休みをどう過ごすかを見てみましょう。最も多いのは「自宅で過ごす(38%)」、次いで「(ショッピングや食事など)近場に出かける(24%)」となりましたが、どちらもわずかに減少しています。今回増えた過ごし方に注目すると、数字は小さいものの「海外旅行(2%)」が昨年より2.5倍と大きく増えています。渡航先としてはアジア圏が人気のようです。またその他アメリカ合衆国やヨーロッパなど遠方への渡航意向もみられました。そして、増え幅は小さいものの、「国内旅行(宿泊あり)(19%)」、「国内旅行(日帰り)(11%)」もわずかながら増加しており、去年よりお財布を少しだけ緩めながら「今年の夏はアクティブに過ごしたい」と考えている人が多いのでは、と推察されます。(図表2)

みなさまは今年の夏をどのように過ごす予定でしょうか?

図表2

夏休みの過ごし方

3. 戻りゆく行動意欲と揺れ動く消費マインド

夏休みの旅行をはじめとした各種イベントへの意向回復について紹介してきましたが、ここで定点調査の中の行動不安についても確認しておきましょう。

新型コロナの感染不安と行動不安は強い相関があり、感染不安が減少すると行動不安も同じ動きをみせてきました。感染不安に関しては「第9波」といった言葉も少ないながらも目にする機会も増えていることから4割強の方が不安を感じており下げ止まりの状態です。
一方で、外出や行動不安に目を移すと「飲食店での食事(26%)」、「国内旅行(25%)」、などの項目が調査開始後、最小レベルにまで減少しており、直近ではさらに減少傾向にあります。なお、「テーマパークや繁華街、人の集まる場所への外出」については4割が不安ありと回答していることから、不特定多数の人が行き交う場所についてはまだまだ不安を感じている人も多いようです。
今年の夏は夏祭りや花火大会にも人が戻ってきているようですが、そうした不安も抱きつつ、状況に応じてマスクを着け外しするなどの対策はまだまだ残るように思えます。(図表3)

図表3

【長期推移】晴れない不安:感染拡大、外出や行動について

次に家計の不安、さらには節約意識の動きを見ていきましょう。暮らし向きの回復に対する期待については、約3人に1人の人が「そう思わない」と回答しています。質問形式を変更した22年夏以降、35%~40%付近を上下していますが、ここ数か月の動きをみるとわずかながら増加モードにあるようです。節約意識に関しては、1回目の緊急事態宣言が解除されて再度新型コロナの感染拡大がはじまった20年6月頃に6割程度に上昇してから、大きな動きもなく推移してきました。こちらも65%と依然として高い数字となっています。食品をはじめとしてさまざまな商品・サービスが値上がりして、「一巡」の感もありますが、行動意欲の回復の一方で、経済や家計に対する不安や節約意識については強いままと言えそうです。(図表4)

図表4

【長期推移】晴れない不安:感染拡大、暮らしについて

先の「夏休みの予定」でも記しましたが、夏休みの予算増とともに国内旅行など意向が微増していますが、移動手段としてはLCCや長距離バスの利用意向が増え、物価高による節約志向も透けてみえます。「移動手段などは節約しつつホテルや旅先での食事やイベントは満喫したい」そうしたメリハリの利いた夏休みを過ごすといった形で行動意欲と節約のバランスを取ろうとしているのではないでしょうか。

「コロナ不安にも一息ついて、久しぶりに今年の夏は夏らしく過ごしたい」と考えつつも、賢く堅実にメリハリをつけて計画を立てて楽しむ。まさに「賢堅消費=賢堅バカンス」と言えそうです。

ここで最新の生活者データを用いて生活者の消費マインドを見ていくことにしましょう。
インテージは昨年から弊社の保有する小売店パネルデータ(SRI+)やメディア接触に関するシングルソースパネル(i-SSP)、さらには自主調査のデータを用いて、生活者のココロと暮らしを映すデータをダッシュボード(Tableau)で公開しています。※2

今回は毎月1回の自主調査「生活者インデックスデータ」の中から、以下の形式で聴取した「消費意欲」と「節約意識」を取り出して生活者のココロの動きを眺めてみることにします。

【設問文】
① 現在の消費意欲:現在のあなたの「消費意欲」は
  1年前の同時期と比べてどうなっていますか。
② 今後の消費意欲:あなたの来月(今後1ヵ月)の「消費意欲」は
  1年前の同時期と比べてどうなりそうですか。
③ 節約意識:現在のあなたの「節約意識」は
  1年前の同時期と比べてどうなっていますか。

回答方法は「プラス5点からマイナス5点」までで気持ちに近いものを選択

「①現在の消費意欲」については「0」をわずかに下回ってはいますが今年に入ってからゆっくりと回復(プラス方向)に向かっています。一方で「③節約意識スコア」についても、徐々にではありますが減少モードとなっています。相次ぐ値上がりにより、節約意向は根強いものの、値上げ慣れ、あるいは節約疲れからか、わずかに消費マインドも回復に向かっているのかもしれませんね。
「②今後の消費意欲」についても3つの指標の中では最も低いスコアではありますが、こちらも他の指標同様にゆっくりと回復の兆しをみせています。(図表5)

図表5

生活者インデックスデータ:お金の使い方(消費・節約意欲スコア)

次にお金をかけたいモノ・コトでは、「外食」や「旅行・ドライブ」、さらには「化粧品(おしゃれ)」といった外出や外出にまつわる支出について消費マインドが高まっているようです。一方で「食品」に関しては相次ぐ値上がりに呼応してか「お金をかけたい」という気持ちは弱まっているようです。また、お金の不安からか「投資」についても意欲も高まり続けています。さまざまな値上がりが続く中で、日常の買い物にかけるお金はほぼ昨年並みのままで維持しつつ、外食や旅行・イベントなど、そのためのおしゃれなど特別な消費(ハレ消費)について消費マインドが活気をみせているようです。(図表6)

図表6

生活者インデックスデータ:お金の使い方(お金をかけたいモノ・コト)

先にご紹介した「夏休みの過ごし方」の回答傾向のように、異なる調査やデータを眺めてもここ最近では「行動意欲」や「消費意欲」は緩やかに回復に向かっているようです。しかしながら、「5点満点」という消費意欲に関する問いかけに対して「0点」を下回っている、という点も大切にしておきたいと思います。

ようやく。本当にようやく少しだけ上向いてきた、ということなのかもしれません。

4. むすびとして ~ スナップショットは結ぶ

企業のみなさまとお話をしていると、会話の中に「生活者理解」や「生活者起点」という言葉が登場する機会が以前にも増して増えていることを強く感じています。コロナを越えて(Beyond Covid-19)、「生活者が、その暮らしがどこに向かっているのだろう?」という問いに対して、そのヒントをより丁寧に生活者の中に探し求めているのではないか、と思います。

インテージはさまざまなデータとそれらの読み解きを通じて、お客様企業が生活者起点でマーケティングを遂行する際にパートナーとして力強く伴走できる存在でありたいと考えています。そうした文脈の中で、生活者のココロやシーンをスナップショットのようにさまざまなデータや読み解きを通じてお届けする、という動きを創りたいと想いました。
ふと目にしたスナップショットを通じて、お客様のチーム内で会話が生まれ、生活者やかれらが暮らすシーンに想いを馳せることで、新しい気づきやささやかなビジネスのヒントが生まれたら。そう願います。

そして、ぜひ、このスナップショットを机の上に広げながら、みなさまと一緒にお話ができればと考えています。
ではまた次回。

おわり


※1 インテージ 自主調査 「生活者インデックスデータ」
※2 インテージ 広報リリース「今年の夏休み 平均予算は前年比1.2倍」(2023.7.11)

著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 電通リサーチ(株式会社電通の100%グループ会社 当時)に入社。
1994年より電通の大規模生活者データベースの立ち上げメンバーとして参画。
以後、2012年まで消費者研究センターや電通総研などの横断機能組織に駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。
その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。

2012年 楽天グループ(株)を経て、2013年 インテージへ。
2020年より現職。

思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。
記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。
趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 電通リサーチ(株式会社電通の100%グループ会社 当時)に入社。
1994年より電通の大規模生活者データベースの立ち上げメンバーとして参画。
以後、2012年まで消費者研究センターや電通総研などの横断機能組織に駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。
その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。

2012年 楽天グループ(株)を経て、2013年 インテージへ。
2020年より現職。

思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。
記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。
趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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