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ウェルビーイングと食の関係を考える ~生活者スナップショット Vol.6

1.はじめに ~日々の暮らしから健康を手に入れる

コロナインパクトによって「健康」に関する意識が以前にも増して高まったと言われています。
売上が伸長しているヘルスケア市場やブランドを見渡してみると、その背後に「健康」への期待が理由として考えられるものも多く、健康意識の高まりだけでなく、健康に向けた取り組み、実践の変化があるようです。

2023年5月に新型コロナの感染法上の分類が第5類へ移行となって、世の中はもちろん生活者サイドのコロナへの意識や対策も大きく変化しました。以前の風景に戻っていったものもありますし、新しい日常として定着したものもあるでしょう。「健康」への取り組みについては、暮らしの中で「新しい風景の定着」と感じられるモノ・コトがあるように感じています。頑張って運動したり厳しい食事制限をするといった形ではなく、食事や睡眠、適度な運動などに配慮しつつ「規則正しい生活」を送ることで健康を手に入れる、といった形、つまりは日々の暮らしの中で無理なく続けられる、そうした健康へのアプローチです。そうした潮流において、プロテインやサプリメント、栄養補助食品の積極的な活用は生活者のマインドに非常にフィットしたものなのではないでしょうか。

タンパク質の補給食品の国内市場は2023年には2,580億円、前年比2.4%増が見込まれると報告されています(※1)。こちらの記事でもお伝えした通り、プロテインを例にとれば、以前は粉末を牛乳などに溶かして飲む形が一般的でしたが、現在は少量の紙パックタイプやプロテインバーなどいつでもどこでも摂りやすいタイプの形状も登場して、身近なものとなってきたことから、2024年以降も益々の成長が予想されています。

コロナ下においては身体の健康だけでなく、「心」の健康もまた重視されるようになってきました。象徴的なものに「ウェルビーイング(※2)」という言葉の流行や定着があるでしょう。Google トレンドで検索数の推移を確認してみると、2020年4月以降に上昇トレンドになっていることも確認できます。コロナインパクトに伴うさまざまな自制や抑制の中、ストレスも増えたことから「心」の健康への意識も高まり、「ウェルビーイング」という言葉に光があたるようになりました。テレビや雑誌などでも特集が組まれるようになったことから目にした方も多かったのではないでしょうか?

今回はウェルビーイングと「食」に注目した調査結果を紹介しつつ、幸せの在り方について考えていきたいと思います。

2.コロナ過ぎ、しあわせが近づく

「いま、あなたはしあわせですか?10点満点でお答えください。」と尋ねられた時、あなたはどう答えますか。2023年12月末に実施した調査結果とともに見ていきましょう。

図表1

2023年の幸福度(10点満点)

Q. 現在、あなたはどの程度幸せですか?「とても幸せ」を 10 点、「とても不幸」を0点とすると、何点くらいになると思いますか?

「という質問を投げかけ、その結果(回答してもらった点数)を「幸福度-H(8~10点)」「幸福度-M(6~7点)」「幸福度-L(4~5点)」「幸福度-LL(0~3点)」 の4層に区分してみました。

その結果、「幸福度-H(8~10点)」に該当する人は31.9%となっていました。前年の2022年12月の調査では29.8%だったので、2.1ポイントほど増えていました。男女別にみてみると「幸福度-H(8~10点)」に該当する男性は28.7%(前回26.7ポイント)であったのに対し、女性は35.2%(前回32.8ポイント)となっており、6ポイントほど女性の方が多くなっていました。次の「幸福度-M(6~7点)」については男女ともに大きな差はみとめらないものの、「幸福度-L(4~5点)」さらには「幸福度-LL(0~3点)」においては男性が女性を上回り、男性の方が女性よりも幸福度は低いという結果になりました。経年による動きはあるものの、男女別にみたときのバランスは大きな変化はなく、男性の方が幸福度は低くなっていました。

次に年代別にも見てみましょう。

図表2

2023年の幸福度(10点満点) 性×年代別(10歳刻み)

女性と比較して幸福度が低かった男性から見てみます。男性では20代(37.8%)をピークにして年齢が上がるにつれ幸福度が減少し、40代においては「幸福度-H(8~10点)」層は24.4%にまで落ち込み最低となります。また、「幸福度-LL(0~3点)」も40代は21.6%と他の年代層と比較しても多くなっています。40代といえば会社員であれば仕事においては中間管理職や事業長など役職を担いメンバーを率いる年代でもあります。結婚をしていれば高校生や大学生くらいの子どもを抱えて教育費などで頭を抱えたり、住宅の購入によって住宅ローンの支払いにあくせくしている年代と言えるかもしれません。厚生労働省の統計資料によると(※3)、うつ病の発症する年代も男性は40代が最も高くなっており、男性にとって40代は悩み多き年代なのかもしれませんね。
しかしながら、50代になると「幸福度-H(8~10点)」層は26.2%、60代では31.3%と大きく回復へ向かい幸福度は高まっています。「男性40代」、多くの人にとって大変な時期であるかもしれませんが、そのあとに明るい時代が待っていることが希望になりそうです。

女性では男性と異なる動きをみせ、40代における「幸福度-H(8~10点)」層は39.0%と最も高い値となっています。50代になると幸福度はいったん減少(32.7%)しますが、60代では再び38.6%まで上昇します。50代における一時的な落ち込みは「更年期障害」の影響もあるかもしれません。日本医師会が運営するサイトによるとおおむね45~55歳くらいが更年期の対象年齢といわれているようです(※4)。そうした更年期障害も含めた心身の健康上の不安や苦悩を乗り越えて、60代になって再び幸福度は回復に向かっているのかもしれませんね。

昨年私は、『「ウェルビーイング」はどこにある? ~コロナ禍を経て想う。仕事やお金以上に大切な自分の居場所』という記事で以下の様に記しました。

こうして性別、さらには年代別に眺めてみると、60代は男女ともに「還暦」というだけあって、「幸福」というココロのメカニズムに対してなにかの大きな作用をもたらすタイミングなのかもしれません。私自身は今年7月に55歳を迎え、60歳(還暦)がグッと身近に迫り、当初はやや重たい気分になりましたが、こうしたデータに触れると少し足どりが軽くなってくるようにも感じました。

あらためて読んでみると、まさに、かなとも思います。
週末には川崎市の生田緑地にある梅園のほころぶ花を眺めたり、散歩道に佇む早咲きの玉縄桜の花を啄むメジロを眺めながら、「ごくありふれた日常を愉しむ」ことは、私にとってなによりもこころの落ち着く時間でもあります。すぐそこまでやってきた春を想いながら、ロードバイクのメンテナンスに勤しむのもこの時期の楽しみでもあります。「先」の季節を想うことは歳を重ねることでもありますがそれもまた良し、と思います。

みなさんの現在の幸福度は何点でしょうか?現在、そして、これまでと振り返りながら幸福度に想いを馳せてみてはいかがでしょうか?

3.「食」と幸せの関係を考える

では次に、幸福度と現在の「ココロの状態」について少しだけ深掘りをしていきましょう。
今回は前年に調査した項目に加えて、「食」にまつわる下記の項目を3つ追加してみました。

 ・私は、日々の食生活に満足している
 ・私にとって家族との「食卓」は大切な時間である
 ・お料理は私の暮らしに欠かせない楽しみのひとつだ

さまざまな角度から「心の安定」や「心の充足」につながるような「ココロの状態」に関する質問を投げかけて、幸福度の高低4層別に分析を行いました。また、性別により、幸福度の高低がみられたため、ここでも男女別の分析を試みてみました。

女性から見ていきましょう。
最も幸福度の高い「幸福度-H(8~10点)」層は多くの項目で「あてはまる(計)」と回答していることがわかります(青い折れ線)。数字の大きなものに注目すると「平凡だが安定した日々を過ごしている(92.2%)」、「自分には居心地のいい居場所がある(91.4%)」、「自分の居場所がある(90.2%)」と続いています。これらの項目は他の層と比較しても著しく高くなっており、幸福を実感している背景に「平凡ではあるが心から安心できる居場所を持ち、不安のない日々を過ごす」ことの重要性が浮かんできます。

また、新しく追加した「食」にまつわる項目も上位に位置しており、「私にとって家族との「食卓」は大切な時間である(84.3%)」、「私は、日々の食生活に満足している(84.3%)」が同率で並んでいました。そして、準備はやや後ろになるものの「お料理は私の暮らしに欠かせない楽しみのひとつだ(52.1%)」も幸福度H層は本項目のスコアが他層よりも高いことがわかりました。「家族との食卓」「日々の食生活の充足」さらには「お料理がもたらす楽しみ」は幸福感になんらかの作用をもたらしてくれているようです。
家族との食卓にはきっと家族との会話があることでしょう。また、お料理はつくる楽しさはもちろんのこと、食材を通じて季節を感じることもあるでしょう。そして、「いただきます」や「ごちそうさま」といった声はなによりの喜びに違いありません。そうした食にまつわる日々の充足が幸福感をもたらしてくれているのではないでしょうか。

図表3

ウェルビーイングな状態であるために必要なこと(女性)

続いて男性についても見ていきましょう。

男性もまた、最も幸福度の高い「幸福度-H(8~10点)」層は多くの項目で「あてはまる(計)」と回答していることがわかります(青い折れ線)。数字の大きなものに注目すると「自分の居場所がある(80.9%)」「自分には居心地のいい居場所がある(80.1%)」、「平凡だが安定した日々を過ごしている(78.2%)」と続いています。これらの項目は女性同様に他の層と比較しても著しく高くなっており、男性もまた幸福を実感している背景に「平凡ではあるが心から安心できる居場所を持ち、不安のない日々を過ごす」ことが横たわっていることがわかります。そしてさらに女性と比較するとこれらの項目が10ポイントほど低くなっていることにも触れておきたいと思います。

さらに新しく追加した「食」にまつわる項目も女性同様に上位に位置しており、「私にとって家族との「食卓」は大切な時間である(75.3%)」、「私は、日々の食生活に満足している(73.7%)」とほぼ同水準となっていました。男性にとっても「食」にまつわる体験は幸福をカタチ作る重要な要素となっているようですね。しかしながら、「お料理は私の暮らしに欠かせない楽しみのひとつだ」はランキングには顔を出しておらず、男性にとって「お料理」は幸福の構成要素としては女性よりは弱いものであるようです。
そして、男性においては、「気持ちよく仕事をしている(57.0%)」や「仕事にやりがいを持っている(53.0%)」といった仕事系のものが挙っており、仕事や職場環境が満たされていることも重要であることが浮かんできました。

それでは「幸福度-L」層や「幸福度-LL」層に目を向けてみるとどのようなことが浮かんでくるでしょうか?幸福度の高さに連動(逆相関)して、各項目の回答「あてはまる(計)」が少なくなっていることがわかります。仮に「ウェルビーイング」を「心身ともに幸福な状態である」と定義した時にここに挙げた項目をより良い環境や状態に整えていくことが大切である、と考えられます。

「安心できる居場所」というキーワードともに、今回「食」に関する事柄の重要性が確認できたことは、今後、生活者自身が「ウェルビーイング」な状態を整えていく上でも大きなヒントになるのではないでしょうか?コロナインパクトによって、外出の機会が減りイエナカ時間の重要性が高まりました。5類化以降、出社や外出の機会は増えていますが、まだまだコロナ前の状態には戻っておらず、現在の暮らしが「新しい日常」としての一定の定着と考えでもいいのかも知れません。
イエナカ時間における「食」というシーンが幸福感の構成要素として重視されるとすれば、身体の健康とともに心の健康のためにも「良き食生活」を目指してみることも効果的なのではないでしょうか。

図表4

ウェルビーイングな状態であるために必要なこと(男性)

4.最後に

先日、とあるセミナーが大阪で開催された際に、「私(田中宏昌)の幸福度は9点」とお話をしました。本当は「10点」と言ってもいいのですが伸びしろを残しておいた方がいいかな、と思いいつも「9点」と言うようにしています。

私が「9点」である理由も本編に記したように「居心地のよい居場所」の実感が根底にあるように思います。私にとっての居心地のよい居場所は自宅であり、実家でもあります。そして、少し想いをひろげると幸いなことに会社もまたそうかもしれません。そして、訪れるたびに異なる表情を見せてくれる生田緑地もそうしれません。

季節は春。
冬にはすっかり葉を落とした生田緑地のメタセコイアも新しい季節が芽吹きはじめました。

川崎市生田緑地 メタセコイア近景

※1 富士経済 PRESS RELEASE 第23088号 (2023.8.9)
「タンパク補給食品の国内市場 2,580億円(2.4%増)
新規ユーザーの獲得が減少するため伸び率は鈍化するが、安定的に成長」

※2 ウェルビーイング
身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」と訳されることも
多い言葉です。

※3 大塚製薬株式会社 すまいるナビゲーター うつ病
出典:厚生労働省 統計データ

※4 日本医師会 更年期障害 更年期はいつから?

著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 電通リサーチ(株式会社電通の100%グループ会社 当時)に入社。
1994年より電通の大規模生活者データベースの立ち上げメンバーとして参画。
以後、2012年まで消費者研究センターや電通総研などの横断機能組織に駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。
その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。

2012年 楽天グループ(株)を経て、2013年 インテージへ。
2020年より現職。

思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。
記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。
趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 電通リサーチ(株式会社電通の100%グループ会社 当時)に入社。
1994年より電通の大規模生活者データベースの立ち上げメンバーとして参画。
以後、2012年まで消費者研究センターや電通総研などの横断機能組織に駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。
その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。

2012年 楽天グループ(株)を経て、2013年 インテージへ。
2020年より現職。

思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。
記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。
趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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