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Z世代に限らないタイパ意識 ~2つの行動タイプとその背景~

1.タイパとは

タイパとは、タイム・パフォーマンスの略語です。費やした時間に対して得られる満足の割合を示し、コストパフォーマンスを時間に置き換えた造語で、「今年の新語2022」の大賞に選ばれました。1995~2010年頃に生まれた「Z世代」の特徴のひとつとしても挙げられます。

筆者はミレニアル世代にあたりますが、Z世代に限らず 、私たちの年代でも日常生活でタイパを意識するシーンは増えたと思います。背景として、時間対効果を高める環境が整備されつつあることが1つの要因としてあげられます。
例えば、行列のできるカフェやレストランでは、整理券がオンライン化されたことで、お店の前で待っていた時間を別の用事に使えるようになりました。自宅のネット環境の整備に加え、デジタルデバイスが普及したことで、スマートフォン以外のデバイスでもインターネットに繋ぐことができ、音楽を聴きながら、ネットサーフィンを楽しみ、テレビでサブスクリプションの動画を視聴するなど、いわゆる “ながら”使いに拍車がかかっています。

この記事では、タイパは本当に「Z世代の特徴」と言えるのか、Z世代のタイパの特徴とは何か、有識者のご意見も踏まえて解説していきます。

2.タイパはZ世代だけの特徴ではない

2023年2月に16歳~65歳の男女5504人に対してタイム・パフォーマンスに関する アンケート調査を行いました。全体の約80%が「時間を大切にしたい」と回答し、世代間に有意差がありませんでした。世代に関係なく、「時間を大切にしたい」といったタイパの根本的な意識を多くの人が持っていることがわかります。

58歳以上を除いたX世代、ミレニアル世代(Y世代)、Z世代の3つの世代では約50%が「毎日忙しく、時間に追われている感じがする」と回答し、この質問にも世代間の有意差がありませんでした。世代に関係なく、毎日忙しく、時間を大切にしたい価値観は、多くの方が持っている価値観であることがわかりました。つまり、タイパ意識は、Z世代だけに特徴的な価値観とは言い切れないと思われます。

図1

タイム・パフォーマンスに関する世代別意識調査結果

10個の質問を細かく見ていきます。Z世代は「一定の時間の中で、できるだけ多くのことを楽しみたい、経験したい」「何かをするとき、「使う時間・かかる時間」と「得られる価値」のバランスを考えるようにしている」人の割合が他世代と比べて有意に高いことから、物事を始める前から、時間と価値を考えた上で実施の可否を選定していると推察されます。

さらにZ世代の40%が「毎日の時間の使い方に満足している」と回答していて、この質問も他世代に比べて有意に高い結果でした。日々の時間の使い方とそれによって得られる価値に、一定の満足感があることがわかります。タイパの具体的な行動として、「動画の同時視聴」、「倍速視聴」、「要約などのネタバレ閲覧」の割合や、「あらすじや口コミの事前確認」といった行動も他世代よりも有意に高く、まさに一定の時間の中でできるだけ多くのことを楽しむために、工夫していることが明らかになりました。

今回聴取した10個の質問のうち、なんと7個の質問で、Z世代が他世代に比べて有意に高い傾向を示しました。この結果から、時間を大切にしたい根本的なタイパ意識は、世代問わず持っているものの、タイパを実現するための行動とその選択はZ世代が他世代よりも積極的に行っており、さらに時間の使い方に満足していると自信を持っていることがわかりました。

対比として、ミレニアル世代は、「家事などは、できるだけ並行して行うようにしている」割合が他世代よりも有意に高く、Z世代とは異なる意識を持っていることが伺えます。有意差はないものの、「毎日忙しく、時間に追われている感じがする」割合も他世代に比べて最も高く、「毎日の時間の使い方に満足している」割合は、Z世代よりも10%も低い結果だったことから、ミレニアル世代は、物理的に毎日忙しいゆえにタイパを求めざるを得ない状態であることから時間の使い方への満足感が低いのではないかと推察できます。

3.タイパ行動の2つのタイプ

ここまで見てきた定量的なデータを踏まえて、マーケティングをご専門とされ、最近の消費者行動の特徴の一つであるリキッド消費をご研究されている青山学院大学 経営学部 学部長 久保田進彦先生 にタイパ傾向について詳しくお話を伺いました。

Q. Z世代でもミレニアル世代でもタイパ傾向であるもののニーズの違いが見受けられますがこれはどのような違いなのでしょうか。

『私は、いわゆるタイパ(タイム・パフォーマンス)行動には「時短型」と「バラエティ型」の2タイプがあると考えています。時短型のタイパ行動とは、可処分時間が少ない(時間がない)ため、必要に迫られ時間効率を高めるものです。たとえば、家事、炊事、育児などをマルチ・タスクで効率的にこなすのは、時短型のタイパ行動といえます。バラエティ型のタイパ行動とは、一定の時間内で、より多くのものを消費したり、楽しんだりしたいというものです。映画を倍速で見る、音楽はサビだけ聴くといった行動は、バラエティ型のタイパ行動といます。
どうしてこの2つの分類が大切かというと、バラエティ型の存在を理解することで「可処分時間が少ないわけではないのにタイパ志向になる」という、一見矛盾した現象が理解できるようになるからです。

バラエティ型のタイパ行動は、今後、学生や若い人以外にも広がっていくでしょう。インテージの調査によると「一定の時間の中で、できるだけ多くのことを楽しみたい、経験したい」という項目に対して、Z世代以外の方々の50%以上が肯定的な回答をしているようです。また現在の学生や若い世代が、10年後あるいは20年後にバラエティ型のタイパ行動を取らなくなるとは考えにくいと思います。そう考えると、バラエティ型のタイパ行動が若い人に特有の行動というのは、過渡的な現象のように思えます。

それでは、時短型のタイパ行動が仕事・家事・育児に忙しい女性に多いことはどうでしょう。この問題については、正面から議論するは、より詳細な調査が必要でしょう。しかし、もしこうした時短型のタイパ行動が、本当に仕事・家事・育児に忙しい女性に顕著であるとすれば、それは社会的に大きな問題です。すべての人たちが幸せに暮らせる社会を実現するためには、時短型のタイパ行動が特定のセグメントに特有の現象とならないよう、私たち全員が取り組む必要があると思います。』

図表2

タイム・パフォーマンスに関する世代別意識調査の結果

4.タイパ行動の背景

Q. このようなタイパ行動の背景には何があるのでしょうか。

『3つの要素が関係していると推察します。

タイパ行動の背景その1:「時間的効率嗜好」

いわゆる「タイパ」行動の背後には、時間的効率志向の高まりがあると思います。そして時間的効率志向の行動が顕著になってきたのは、若者だけではないと思います。長い記事よりも短いコラムを好んだり、人と会うときに2〜3時間かかる夜の宴会ではなく、1時間程度で終わるランチを選ぶことが多くなったりしました。社会全体として時間的効率志向が強まっているように思います。しかしその一方で、若年層に(特にバラエティ型の)時間的効率志向がより一層顕著に見られるのも事実でしょう。若年世代で時間的効率志向が高まった理由を考えてみます。

ひとつは、より多様な話題の必要性が生まれてきたことです。これは『映画を早送りで観る人たち』(光文社)を書かれた稲田豊史さんが指摘していることなのですが、SNSに代表されるデジタル・コミュニケーション・ツールが普及することで、特に若年世代は、以前よりも多くの集団やコミュニティに属するようになりました。
たとえば以前ならば、大学のクラスの友達、部活の友達、アルバイト先の友達、家族程度の集団にのみ所属していた学生も、それ以外に中学時代の友達、高校時代の友達、実際には会ったことのないネット上の知り合いなど、より多くの集団に同時に所属することになったのです。すると、それぞれの集団で異なる話題に対応する必要が生じてきました。この結果、限られた時間で、より多様な話題を仕入れるために、バラエティに富んだ情報接触をせざるを得なくなり、これが若年世代の時間的効率志向へのニーズを高めたと考えられます。

もう一つの理由として、「時間のモジュール消費能力」の高さがあります。もちろんSNSをつかい、複数の集団に所属するのは若年層だけではありません。中高年であっても、XやFacebookに複数のアカウントを持っている方は珍しくありません。しかし現実には、時間的効率志向は若年層で顕著のように思われます。この疑問を理解する鍵となると思われるのが「時間のモジュール消費能力」の高さです。若年層の間でタイパ志向が高まったのは、おそらく彼らが「デジタル・ツールの卓越したユーザー」であるからでしょう。デジタル・ネイティブといわれる彼らは、デジタル・ツールのユーザーとして非常に高い能力を持っています。
もう少し細かく述べれば、情報デジタル・ツールを巧みに使いこなすことで、さまざまな製品、サービス、情報の間を「スイッチング」する能力と、そうすることで接触可能となる膨大な数の製品、サービス、情報などを、同時並行的に楽しんだり消費したりする柔軟な消費能力を獲得しています。

タイパ行動の背景その2:「すきま時間」と「時間のモジュール消費」

ここでいったん、視点を若年層から社会全体へと戻しましょう。「すきま時間」という言葉が浸透したように、勉強、料理、動画閲覧など、さまざまな活動において、時間を細切れにして使うことが一般的になりました。知人とのコミュニケーションも、電話の時代は2〜3分かけていたのに、LINEのようなメッセンジャーなら数秒で終わりです。つまり、個々の活動に費やされる時間の単位が小さくなったわけです。その結果、何か1つのことに長時間のめり込むのではなく、異なることに、少しずつ時間を振り分けて使用するようになりました。こうした時間の使い方は、「時間のモジュール消費」といえると思います。

ただし、ここでいう時間のモジュール消費とは「時間を断片化し、それらを自由に組み合わせて使うこと」です。重要なのは、時間のモジュール消費は誰もが同じようにできるわけではないということです。たとえば、LINEで瞬時に相手を切り替えつつ、まったく異なる会話を展開する大学生を見ていると、私にはとても無理だと思います。これは私が、時間のモジュール消費をする能力が低いことを意味しています。

タイパ行動の背景その3:「時間のモジュール消費能力」の高さ

若年世代で時間的効率志向が高まった背景に、話を戻しましょう。すでにお分かりになったかもしれませんが、若年層は、この「時間のモジュール消費能力」が高いように思います。時間を断片化し、それらを自由に組み合わせて消費する能力に長けているのではないか、という考えです。デジタル・ネイティブといわれる彼・彼女らは、幼い時から「時間のモジュール消費」を経験してきたことで、自然とこうした能力が高まったのではないでしょうか。また対照的に、一定の年齢以上の方は、幼い頃にそうした経験の機会をもてなかったので、時間のモジュール消費能力が相対的に低いのではないでしょうか。

若年層は時間のモジュール消費能力が高いので、いくつもの製品、サービス、情報を同時並行的に楽しんだり消費したりすることができ、バラエティに富んだ消費を楽しむことが可能となります。異質的な製品やサービスを、短い時間に、いくつも消費できるわけであり、それゆえ労なくしてタイパ(特にバラエティ型のタイパ)行動を実践できます。

若年世代で時間的効率志向が高まった理由をまとめると、以上のように、SNSなどの普及によって複数のコミュニティに所属することとなり、より多くの話題が必要となったという「ニーズ」と、若年層の方が相対的に時間のモジュール消費能力に長けているという「能力」の組み合わせによって、若年世代で時間的効率志向(あるいはタイパ志向)が高まったのではないでしょうか。』

5.タイパ行動の昔とこれから

昔から「時は金なり」と言われているように時間はお金と同様に貴重であり、無駄遣いしないように多くの人が時間を大切にしてきました。そのため、根本的な「時間を大切にしたい」価値観は、現代でも世代問わず持っている価値観です。

動画視聴サービスが台頭してきた頃、とある企業は、「ライバルは“睡眠”である」と発言したように、生活者の限りある時間をいかに獲得するか、すべての企業のマーケティング課題の一つになっていくのではないでしょうか。例えば、食品メーカーであれば、今まで当たり前だった三食の食事は、生活者によってブランチという概念から二食になることやプロテインなどが流行している中で食事時間(準備時間も含め)が極端に減少してこともあるでしょう。他にもテレワークが一般化しつつある中で、移動時間が減ったことで、移動時間に行っていた、あるいは、移動時間をターゲットにしたサービスや外食(自動販売機の利用なども含む)の習慣がなくなる生活者もいるでしょう。どんなにすばらしいサービス、製品を生み出しても利用時間が獲得できないことは、致命傷になると思われます。

時間のモジュール消費の観点から、ながら(同時にできる)シーンの想定、近い将来「あなたのxx時間、実はこんなこともできます」「xx時間のお供にxxxも」のような訴求を見るようになるかもしれませんし、「時間のモジュール消費能力を高める」ことをサポートするようなサービスなども生まれるかもしれません。

以前、上司に「小林さんって実は2人いるんじゃない?もしくは寝てない?」と言われるくらい時間のモジュール消費を得意としている 私としても、近い将来様々な“ながら”が生まれることが楽しみでなりません。


【インテージ産学連携生活者研究プロジェクト 定量調査データ】
調査地域:日本全国
対象者条件:15~40 歳の男女
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
標本サイズ:n=5504 ※性別・年代を均等に回収
調査実施時期: 2023年2月2日(水)~2月7日(月)
世代区分:回答時の年齢で区分 
Z世代:16~25歳 ミレニアル世代:26~40歳 X世代:41~57歳 58歳以上:58~65歳

著者プロフィール

青山学院大学 経営学部教授 久保田 進彦プロフィール画像
青山学院大学 経営学部教授 久保田 進彦
日本商業学会 学会賞受賞(2007年論文部門 優秀論文賞、2013年著作部門 奨励賞)、公益財団法人吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞受賞(2010年度、2016年度)。
最新作は『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)他著書多数。

日本商業学会 学会賞受賞(2007年論文部門 優秀論文賞、2013年著作部門 奨励賞)、公益財団法人吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞受賞(2010年度、2016年度)。
最新作は『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)他著書多数。

著者プロフィール

小林春佳(コバヤシ ハルカ)プロフィール画像
小林春佳(コバヤシ ハルカ)
株式会社インテージ リサーチイノベーション部 生活者研究センター
生体計測をメインとするマーケティングリサーチャー、コンサルタントを経て、2019年にインテージ入社。
研究開発部門で行動科学の知見を活用した研究案件を担当し、2023年生活者研究センターへ異動。
現在は、主任研究員として、生活者理解の下、様々な研究調査をリードし、アカデミアとの共同研究の立案や様々なステークホルダーが集まる共創の場の企画運営を行っている。
研究調査の派生として、リサーチカードゲームを開発し、現在は小学校から大学まで幅広い教育機関で講義し、マーケティング・リサーチの面白さを訴求している。
受賞歴 第20回 日本統計学会統計教育賞

株式会社インテージ リサーチイノベーション部 生活者研究センター
生体計測をメインとするマーケティングリサーチャー、コンサルタントを経て、2019年にインテージ入社。
研究開発部門で行動科学の知見を活用した研究案件を担当し、2023年生活者研究センターへ異動。
現在は、主任研究員として、生活者理解の下、様々な研究調査をリードし、アカデミアとの共同研究の立案や様々なステークホルダーが集まる共創の場の企画運営を行っている。
研究調査の派生として、リサーチカードゲームを開発し、現在は小学校から大学まで幅広い教育機関で講義し、マーケティング・リサーチの面白さを訴求している。
受賞歴 第20回 日本統計学会統計教育賞

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