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値上げ慣れはもはや「値上げ麻痺」 節約疲れもさらに深まる~生活者スナップショット Vol.9

1. はじめに ~日々、眺める~

11月も半ばを過ぎ、秋も深まりをみせています。
わたしも週末ごとに川崎市の生田緑地に足を運び(自転車で、ですが・・・)、木々の秋衣へのうつろいを感じています。今年は例年よりも紅葉が始まるのが遅いらしく、メタセコイアの葉がようやく深い緑色に変化してきた状態で、落葉し、茶色の葉がカーペットのように敷き積もるまでにはもうひと月ほどかかりそうです。

同じ風景を毎週、毎月、毎年と眺める楽しさは自然だけではありません。
昨年の同じような時期(11月頃)に、こちらの記事でさまざまな商品・サービスの値上げが繰り返されることで価格上昇への抵抗感が薄れてしまった心理を「値上げ慣れ」という言葉を用いて紹介をしました。また価格上昇に対抗して、少しでもリーズナブルなものを探し求め、ポイントやクーポンなどを駆使して支出を抑えた暮らしをするといった節約行動に疲れてしまった心理を「節約疲れ」という言葉で紹介をしました。
今回はあれから1年、生活者の消費マインドは変化したのか、という視点で定点調査のデータを眺めていきたいと思います。

川崎市 生田緑地公園 メタセコイアの林
(秋のイベント「藍と霧のメタセコイア」)

2. 行動意欲は回復しつつ警戒心を内に秘め

いつもの定点調査から新型コロナの感染不安と行動不安を見ていきましょう(図表1)。
新型コロナの感染拡大には周期があり、夏は感染拡大の時期でもあります。感染者数の拡大に合わせて高まった感染不安も感染者数の低下とともに大きく減少しています。しかしながら、完全に安心できる状況ではなく、例年、年末年始に向けて感染者数が増える傾向があることから、現在の不安はつかの間の休息という状況にも映ります。今後の推移を見守りたいと思います。

図表1

感染不安と行動不安の推移(2020.3~2024.11)

行動不安についても感染不安の低減とともに各指標共に厳守傾向にあり、行動不安は過去最弱レベルにあります。「飲食店での食事」や「国内旅行」については、これまでの経験も踏まえてか2割付近に留まり、自分自身が感染対策を行うことや外出先やお店側が感染対策をしてくれていることを理由に、大きな不安は抱いていないようです。一方で「テーマパークや繁華街など、人が集まる場所への外出」については、不特定多数の人との接触や感染対策にも限界があることから、不安はやや大きくなっています。また、新型コロナだけでなく、マイコプラズマ肺炎などの流行もあり、外出時のマスク着用や小まめな手洗い・うがいなどの基本的な感染対策は緩めることなく継続している人が多いことから、「備え」の意識は継続しているものと考えます。
秋の行楽シーズン、さらにはクリスマス、年末・年始とイベントも目白押しですが、シーンに応じた感染対策を講じながら楽しみたいですね。

続いて、消費に関わるマインドです。
節約意識については7割弱と相変わらず引き続き高いところを推移しています。6月以降、わずかに減少傾向をみせていましたが、直近では上昇に転じています。また、暮らし向きの回復に対する期待も、「そう思わない」が4割弱とこちらも上昇傾向にあり、アンケート結果からは明るい兆しは感じられません(図表2)。

図表2

感染不安と節約意識の推移(2020.3~2024.11)

3. 収入は増えても余裕=お小遣いとはならず

ここ数年、給与増や手取り増といった掛け声のもと、政府主導で所得を増やすような働きかけが企業に向けて行われてきましたが、生活者の実感はどのような状態でしょうか?

「何らかの方法で収入を得ている人」の中で22%の方が「今年、収入が増えた」と回答していました(図表3)。一方で、「減った」は10%となっており、増えた人が減った人を上回る結果となりました。また「変わらない」も約6割を占めていたことから、収入が増加したという実感は世間的にみると「5人に1人」という状態のようです。この傾向は昨年同時期に行った調査とも大きな変化はありません。

図表3

今年の収入の変化

性・年代別に見てみると、男性では20代(34%)を筆頭に10~40代において3割程度の方が増えたと感じているようです。一方の女性では10代(38%)が最も多く、20代、40代、50代で3割程度の方が増えたという実感を持っているようです。男女ともに若年層・中年層は所得が増え、高齢層ではその実感は乏しいようです。

次に増えた理由を尋ねてみたところ、全体では6割の方が「基本給(56%)」が増えたとしていました(図表4)。次いで「賞与(23%)」となっており、政府主導の取り組みや企業の努力が収入増につながっているようでした。「時給(30%)」については、最低賃金の引上げも続いており、パートさんやアルバイトさんの待遇改善も一定程度進んでいるようです。

図表4

今年収入が増えた理由

年代別にみると若年層では「フリマなどの収入」が目立ちます。昨今、若年層を中心に買い物をするときは「使わなくなったらフリマなどで売れるかどうかを考える」人が増えているようですが、そうした動きがここにも見え隠れしているようです。また、「株式投資・資産運用」に注目してみると、高齢層が多いのは以前からの傾向と変わりませんが、男性10代・20代でも大きな数字になっています。若者層の老後不安とそのための貯蓄・投資意識の高まりや、フリマアプリやクレジットカード会社などが相次いでポイントで投資ができるサービスを提供していることなどから、投資が一段と身近なものとなったこともその背景にありそうです。

5人に1人が収入増と回答していましたが、自由に使えるお金(お小遣い)についても見ていきましょう。自由に使えるお金(お小遣い)が「増えた」と回答した人は全体で9%に留まりました、一方で「減った」は15%となっており「増えた」人を上回りました(図表5)。

図表5

今年の自由に使えるお金(お小遣い)の変化

性・年代別に見てみると、「増えた」が「減った」を上回っているのは、男性では10代・20代・30代のみ、女性では10代のみとなりました。給与が増えた人がいても、そのまま自由になるお金が増えるわけではなく、食費など家計に回ってしまうことから、なかなか自由に使えるお金が増えることにはつながっていないようです。また、10代は学生の方がアルバイトでお小遣いを稼いでいる人も多く、最低賃金の引上げによる時給アップが収入を増やしたことや、実家暮らしということで収入増がお小遣いの増加にも直結しているためと考えられます。さらに男性20代・30代はまだまだ未婚・実家暮らしの方も多いことから、所得増が自分自身のお財布の豊かさにつながりやすいのではないかと推察できます。

4. 値上げ慣れはもはや「麻痺」へ。節約疲れも一層進む。

最近では身の回りの商品・サービスの値上げが一巡して、「また、値上がりした」というよりは、「なんでも高くなったなぁ」という感覚の方が近いように感じています。あらためて「値上げに慣れてしまった感覚はありますか?」と質問したところ、47%の人が「あてはまる(慣れてしまった)」と回答しており、「あてはまらない(31%)」を16ポイントも上回っていました(図表6)。

図表6

値上げ慣れの感覚の有無

昨年と比較すると、「値上げ慣れ」は6ポイントの増加です。いやはやこうなると「値上げ慣れ」を通り越して、「値上げ麻痺」といった感覚なのかもしれません。性・年代別に見ても、その傾向は同様ですが、特に日々の買い物をしたり家計を預かる人の多い女性の方が「値上げ慣れ」の感覚を抱いているようです。

相次ぐ値上げに対抗するための家計費防衛、節約の努力もまた長期化しています。
節約意識については、59%の人が「強まった」と回答しており、「変わらない」は35%、「弱まった」はわずかに2%となっており、多くの人が節約意識の高まりを感じています。「節約意識が強まった」という傾向は値上げ慣れの実感とともに女性において特に高くなっていました(図表7)。

図表7

節約意識の変化

「賃金上昇が値上がりの水準に追いついていない」という言葉を耳にしますが、先ほどの所得増の実感とともにこの数字を眺めてみると、その言葉がより一層胸に響きます。

今回もあらためて「節約に疲れてしまった感覚はありますか?」と尋ねたところ、44%の人が「あてはまる(疲れてしまった)」と回答しており、「あてはまらない(24%)」を20ポイントも上回っていました。その傾向は女性において特に強くなっており女性30代では57%に達しています(図表8)。

図表8

節約疲れの感覚の有無

先の衆議院選挙でも「経済施策・景気回復」は投票する候補者や政党を検討する際、重要な論点となっていました。より実感の伴う所得増・手取り増を期待したいですね。

さらに具体的に買い物まわりの行動で「節約疲れ」によって変化してきたことを聞いてみました(図表9)。

図表9

節約疲れと買い物行動の変化(前年同期との差)

男女ともに「安いものを探すのが面倒に」が他を大きく引き離しトップとなりました。次いで「安い店を探すのが面倒に」が続いており、少しでも安い商品を求めての商品探しや店探しが面倒になってしまっているようです。また、「タイムセールを狙って」や「ポイント」、「クーポン」の活用なども以前よりも取り組み意識が弱まっていることが浮き彫りになりました。この傾向は特に若い人に多いようです。これまで物価上昇時におけるメーカーおよび店舗施策において、クーポンやポイントなどは魅力的なセールス施策となっていましたがお得感と手間を天秤にかけたとき、以前のような魅力が薄れてきているようですね。

また、節約疲れを強く感じていた女性において、「高いお菓子やデザート」、「高いお惣菜やおかず」を買うようになったというスコアが高くなっている点も前回同様です。あまりにも長く引き締めが続くと「いつもは頑張って節約しているから」、「たまには」という気持ちも出てくるものです。前回と比較すると女性20代・30代においてスコアの伸びが目立ちます。
男性では「高い外食を楽しむようになった」が増えているようです。こちらは10代、20代、60代で大きく伸びていましたが、「外食」ということで友人との食事の機会はもちろんですが、20代、60代はお酒を飲む機会も増えているのではないでしょうか。

5. むすびとして

今回は長びく物価高下における生活者の「消費マインド」に焦点を置いて、値上がりや節約に対する意識について眺めてきました。昨年の同じような時期に調査を行い、「値上げ慣れ」や「節約疲れ」といったキーワードを導出して、その世相を語りました。あれから1年が過ぎ、脱コロナとしてヒトの動きやモノの動きに回復がみられ、コロナ前にはかなわないもののインバウンドも回復に向かっています。そうした動きは企業の業績を押し上げ、大手企業を中心に定期昇給や賞与の増加につながっているようです。また、子育て支援を目的として、給食費や医療費、さらには教育費の無料化・補助拡大などの家計費支援も議論が活発化するとともに制度としても広がりつつあります。
そうした動きはありつつも、まだまだ「値上がりに応じた所得増」には届いておらず、節約意識は人々の意識に貼り付いたままのようです。冒頭で示した「暮らし回復への期待」や「節約意識」には大きな変化がなく、掛け声や一時的な手当てではない中長期的な「実感」を伴う施策や景気回復が望まれます。

ひとときの休息としての支出はどこまで行っても「ひととき」であり、その背景には家計費防衛の工夫に疲れて、という気分が横たわっていることを大切に受け止める必要があるのではないでしょうか。また、本レポートでは触れませんでしたが、年収別といった視点で同じデータを分析してみると、「ひととき」を楽しむ余裕もない、よりシビアな実態も見えてくるようにも感じます。

引き続き、日々の観察から自然の移ろいを感じるように、定点調査を重ねながら世の中と人々の心を読んでいきたいと思います。

ではまた次回。

おわり

著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 電通リサーチ(株式会社電通の100%グループ会社 当時)に入社。
1994年より電通の大規模生活者データベースの立ち上げメンバーとして参画。
以後、2012年まで消費者研究センターや電通総研などの横断機能組織に駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。
その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。

2012年 楽天グループ(株)を経て、2013年 インテージへ。
2020年より現職。

思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。
記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。
趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 電通リサーチ(株式会社電通の100%グループ会社 当時)に入社。
1994年より電通の大規模生活者データベースの立ち上げメンバーとして参画。
以後、2012年まで消費者研究センターや電通総研などの横断機能組織に駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。
その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。

2012年 楽天グループ(株)を経て、2013年 インテージへ。
2020年より現職。

思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。
記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。
趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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「出典:インテージ「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」

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