復調するインバウンド。国内旅行の顧客体験設計に「旅ナカ」データの活用を
2022年10月、新型コロナウイルス感染症対策として実施されていた入国制限が緩和され、訪日外国人旅行者数は急速に回復しています。
本記事では、入国制限緩和後のインバウンドの動向を紹介するとともに、インバウンドに対して魅力的な顧客体験(CX)を設計するうえで不可欠なデータ活用方法を解説していきます。
目次
規制緩和によってインバウンド需要が一気に回復
まず、近年の訪日外国人旅行者数がどのように推移してきたのかを見ていきましょう(図表1)。2012年時点では年間約836万人という数字でしたが、観光立国実現に向けたさまざまな取り組みによって、2019年には約3,188万人もの外国人が日本での旅行を楽しむようになっていました。
しかし新型コロナウイルスの世界的な流行により、2020年以降はその数が激減。2021年の訪日外国人旅行者数は、わずか25万人となりました。
図表1
次に、入国制限が緩和された後の動きを見ていきましょう。図表2は、2019年と2022年の訪日外国人旅行者数の月別の比較になります。12月を見ると、2019年は2,526,387人が訪日しているのに対して、2022年は1,370,000人。コロナ前と比較して、約54%まで回復していることがわかります。この54%という数値は、まだ規制が続いている中国の旅行者数を含めており、中国を除いた国で再計算した場合は約74%に跳ね上がります。このことから、インバウンド需要は順調に回復していると言えるでしょう。
図表2
各地域の旅行者数はどの程度回復している?
訪日外国人旅行者数が右肩上がりに回復している今、インバウンドに向けたプロモーションに力を入れている企業や自治体は多いのではないでしょうか。効果的なアプローチを検討する上で、現在の潮流を的確に掴むことは非常に重要です。そこで役立つのが、外国人旅行者の動態全数を詳細に推計する人流情報です。
コロナ禍で、携帯電話の位置情報を使った人流データの活用が定着しましたが、外国人旅行者についても同様の情報を活用することが可能になっています。そこで、インテージのグループ会社である株式会社ドコモ・インサイトマーケティングが所有している「モバイル空間統計🄬」を活用して日本の主要駅13箇所の訪日外国人旅行者数を調査しました。
※「モバイル空間統計」は、ドコモの携帯電話ネットワークの仕組みを使用して作成される、人流(人口動態)の統計情報です。基地局のエリアに存在する携帯電話の台数を1時間ごとに集計することで、エリア人口を推計しています。
「モバイル空間統計」は株式会社NTTドコモの登録商標です。
主要駅について2019年12月と2022年12月の滞在者数を比較すると、博多駅周辺は2019年よりも増加しており、東京駅や渋谷駅もコロナ前に近い数字まで回復しています(図表3)。その一方で、地方都市は2019年比で30%程度にとどまっている場所が多く、地域によって格差があることがわかります。
図表3
次に、上記の旅行者を国籍別に調べてみました(図表4)。すると、韓国からの旅行者が大幅に増えていることがわかります。韓国以外を見ても、アジア圏やアメリカ、欧米諸国の数値も順調に回復してきています。
図表4
これらのデータから、港や空港があり、アジアの玄関口になっている博多は、韓国をはじめとするアジア圏からの旅行者で賑わっていることがわかります。
旅行者の周遊情報を可視化し、効果的な動線設計を
続いて、日本国内の観光スポット50箇所をランダムで選定し、それぞれの場所の滞在者数を比較しました(図表5)。九州・沖縄エリアは、湯布院や中洲、太宰府天満宮など、北九州エリアに多くの旅行者が訪れていることがわかります。博多駅を訪れた旅行者の多くは、これらのスポットを巡っていると推察できます。
関東エリアや関西エリアを見てみると、東京ディズニーリゾートが2019年とほぼ同水準まで回復。また、温泉やテーマパーク、スピリチュアルスポットが特に人気を集めていることがわかります。こうしたデータから、訪日外国人旅行者は「周遊しながらゆっくり過ごせる場所を求めている」という仮説が立ちます。
図表5
インバウンドの潮流を掴むためには、旅行者がどこに滞在したかだけではなく、国内をどう周遊したかまでを捉える必要があります。たとえば、コロナ禍前の2018年と2019年、東北三大祭りとして知られる「青森ねぶた祭り」を訪れた旅行者が、その前後にどの地域にいたかを調べてみたのが図表6です。東京以外にも東北の近隣県や北海道を訪れていることがわかります。したがって県単位の観光訴求だけでは大きな機会損失になり、この場合は東北全体・広域での観光提案・周遊提案が大変重要になってきます。
図表6
また、図表7は、2019年の1-3月期に東北を訪れた旅行者の周遊情報を可視化したマップになります。伝統的で集客数の多い観光地をディフェンドしつつ、観光客数自体は少ないながら前年同期比が数倍となっているような周遊パターンを把握し、成長が終息しないよう観光インフラの造成や旅行検討者へ訴求を強化することが、持続的な成長につながっていきます。
図表7
さらに、日本国内の移動手段を国籍別に調べた結果が図表8です(この図表は2019年の首都圏から岩手県への移動手段データ)。新幹線移動が順調に成長している中、高速道路(バスが主と推定)を利用して移動している人も急増していることがわかります。このような急成長期こそ、サービスのレベルアップと今後の検討者への訴求(人気であることの訴求)が重要となってきます。
図表8
このように、インバウンドの国内旅行における動向を掴むことができれば、「どのような動線を設計すれば喜ばれるのか」「どの場所で施策を実施するのが効果的なのか」などを検討しやすくなります。
「旅ナカ」だけではなく「旅マエ」から「旅アト」までの顧客体験設計を
インテージでは、こうした「旅ナカ」の行動を分析・可視化する以外にも、「旅マエ」「旅アト」を含めた旅に関する体験全体を設計することも重要だと考えております。
たとえば「旅マエ」については、旅行者の関心度や予約率を高める「5軸KPI法」という手法(「他者が推奨したくなる」「リピートしたくなる」「家族が行きたくなる」など)で500以上の誘客アイデアを創出しています。図表9は世界の競合観光地と日本観光地を頻繁に旅行している100人以上のオピニオンの要望から得たアイデアの一例です。
図表9
この例は「ベテラン旅行者」への調査から得た結果ですが、「日本への旅行」ロイヤル顧客や休眠・非顧客などに調査を行い、顧客セグメントに合わせて提供サービスの強みや価値、機会損失の原因などを見える化し、最適な施策を検討する、といったCXマネジメントの手法も有効です。
2023年、インバウンド需要はますます回復すると予想されています。観光に携わるビジネスにおいては、旅ナカから旅アトまで最適な顧客体験や提供価値を設計し、訪日外国人旅行者の動向をしっかり捉えていくことが求められると考えています。
インバウンド支援の世界ネットワーク:
・9か国・地域に自社拠点を設立、(その他世界40ヵ国以上で信頼できるリサーチパートナーと組み、)日本旅行の発地・予約国の質の高いリサーチが可能です
・海外拠点の上級リサーチャーと現地予約国での日本行き旅行の機会損失や活性化要素を明らかにするインバウンドWEBセミナーや地方観光地での研修なども実施しています
転載・引用について
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら