【インドネシア】バーチャルホームツアー イスラム女性のインサイトを掴む
この記事では2022年2月24日にインテージが開催したセミナー内容の一部をお届けします。
イスラム教徒が人口の約9割を占めるインドネシア。 日本人にはあまり馴染みのない宗教であるがゆえに、その実態がなかなか捉えづらいという声をよく聞きます。インドネシアでビジネスをするとなると、宗教にまつわる様々な疑問が頭の中に浮かぶのではないでしょうか。
本セミナーは2部構成で行いました。第1部では、イスラム教にまつわる様々な疑問に対してお答えすべく、弊社現地法人のローカルリサーチャーと日本人駐在員が、インテージの生活者データベース「Consumer Life Panorama」を用いて、豊富な写真で住環境を見たり、行動観察動画で家の中での過ごし方を解説しました。
また、第2部では、現地の人たちの暮らしぶりや生活習慣のレポートを定期的に発刊している株式会社TNCの木下氏をお招きし、2021年のインドネシアの振り返りと最新のトレンド情報を紹介しました。
第1部:イスラム教徒の基礎情報
PT. INTAGE Indonesia シニアマネージャー芝崎 すみれ
PT. INTAGE Indonesia コンシューマーインサイトリサーチャー Azhura Hapsari
まず、バーチャルホームツアーに入る前に、イスラム教徒の基礎情報をご紹介します。
①1日5回のお祈りとお清め(ウドゥ)が欠かせない
自宅、オフィス、ガソリンスタンドにまでお祈りのスペースが設置されています。
②成人女性はヒジャブを着用する
③ラマダン(断食)、レバラン(断食明け休暇)
ラマダンは知っていても、レバランをご存じの方は少ないのではないでしょうか。断食を終えた後は、日本でいうお正月のような休暇があります。
④ハラル=許されている
イスラム法の協議に沿った形で処理された食物を食べる習慣があります。ハラルの定義や考え方は人によって個人差があります。
これらを踏まえて、バーチャルホームツアーでその暮らしぶりを見ていきましょう。
生活者①:ジャカルタ在住の30代ムスリム女性Aさん(既婚:夫と子ども2人の4人家族)
まずは、「Consumer Life Panorama」でAさんの平日のスケジュールを見ていきましょう。(Consumer Life Panoramaには、「MY DAY」という機能があり、一日のスケジュールを把握することができます。)朝は早く、5時に起床し、市場で食材を買い、買ったばかりの新鮮な食材で朝ごはんを作ります。
こちらが朝、市場で買った食材です。家族になるべく新鮮な食材を食べてほしいという思いから、毎朝市場に買い物に出かけます。それから子どもを学校へ送り、迎えにいき、昼飯を作って子どもたちと一緒に食べ、子どもたちを習い事(コーラン読誦)に通わせ、朝作った食事の残りを夕食として食べ、10時には就寝します。日本の家庭との大きなギャップはAさんが料理するのは午前中のみ、という点です。日本では夕食をメインに作る家庭が多いかと思いますので対照的です。
続いて、ホームツアーです。
玄関のドアを開け、まず広がるのはゲスト用のリビングルームです。
特徴的な絵が飾られていますが、この絵を飾ることによりイスラム教では家に悪魔が入り込むことを防いでくれると信じられており、多くの家庭に見られるそうです。
隣は、家族が過ごすリビングです。
特徴的なのは、ダイニングテーブルがなく、食事をする場所が決まっていないということ。ローテーブルで食べることもあるし、ソファや床で食べることもあるそう。これは日本人にとっては驚きですが、インドネシアでは一般的だそうです。
続いては、ベッドルームを紹介します。
写真を見てお分かりの通り、子ども用の寝室ですが、こちらはまだ使われていません。インドネシアでは中学生までは親と同じベッドで寝るのが一般的だそうです。Aさんの子どもは3歳と6歳なので、この部屋が使われるのはまだまだ先になります。しかし、子どもが大きくなる前に、先にベッドなどの部屋の準備をしておく、というケースも少なくありません。
次は生活に欠かせないバスルームを見ていきましょう。シャワールームとトイレが同じ空間にあるバスルームは海外によくある光景ですが、その中でもインドネシアならではの特徴が伺えます。
まずは、日本とは対照的にトイレやバスルームの床が濡れていることが清潔とされている点。定期的に水をまいているそうです。また、トイレットペーパーは使わず、都度水で洗います。トイレットペーパーのみで済ませることが不潔だと考えられているそうです。これも日本とは対照的です。
バスルームはお祈り前に身を清める行為“ウドゥ”をする場所でもあります。
「Consumer Life Panorama」では実際にウドゥをする様子を動画で確認できます。
続いては、キッチンを見てみましょう。インドネシア料理は揚げ物が多く、キッチンはさまざまな食材の匂いがするため、ゲストにはあまり見られたくない場所でもあり、部屋の奥に設置されていることが多いようです。
またインドネシアでは水道水を飲むことができないため、多くの家庭にはウォーターディスペンサーが設置されています。
ちなみに、イスラム教徒はアルコールを口にすることは禁じられていますが、手指消毒など、アルコールを含んだ製品を体につけることは禁じられていません。
生活者②:ジャカルタ在住の40代ムスリム女性Bさん(既婚:夫と子ども1人の4人家族)
Bさんの起床時間はなんと午前3時30分。Aさんも5時起きと早起きでしたが、さらに早起きです。その理由は、娘を学校に送り届けるためです。インドネシアでは朝にお祈りをしてから学校へ行くため、学校の開始時間が6時になっており、日本と比べると非常に早いことが特徴です。さらに、早起きすることでインドネシアの日常茶飯事である渋滞を避けて通学することもできます。
Aさんとは違い、Bさんの自宅はダイニングテーブルがあり、ここで食事をとることが習慣となっています。
インドネシアならではの造りになっている点は、キッチンが2つあるということです。 写真の左側にあるキッチンは“ドライキッチン”といい、水場がないキッチンです。主に食材を切ったり、飲み物を用意する際に使われます。
さらに奥に進むともう1つ現れるキッチンを“ウェットキッチン”と呼びます。
揚げ物が多いインドネシア料理は油の匂いが部屋中に充満してしまうため、キッチンを使い分けるケースが多いようです。 Bさんはインドネシア料理だけではなく、日本食を作ることもあります。その際に使われる調味料は日本メーカーのハラル食品です。Bさんの娘の好物はうどんや牛肉の照り焼きだそうです。調理の際、料理酒も使用します。アルコールが禁止されているイスラム教ですが、火を通せばハラルになるとBさんは考えています。これはハラルの考え方や規制のレベルは個人差があるため、一般的ではありません。
続いては洗面所です。
ご覧のように、多くのコスメやスキンケア用品があり、Bさんが化粧品を好きなことがよくわかります。「Consumer Life Panorama」では、洗顔、スキンケア、メイクアップシーンを動画で見ることもできます。
使用シーンで特徴的なのは、洗顔料を水で洗い流すのではなく、水を含んだタオルでふき取るという点です。動画を通して見ることで、使用しているプロダクトだけでなく、国や地域によって異なる「使い方」まで追うことができるのが、「Consumer Life Panorama」の非常に魅力的な点でもあります。
ここまで、Aさん、Bさんのライフスタイルや居住環境を、「Consumer Life Panorama」を使って解説してきました。インドネシアの生活者を理解するには、イスラム教を深く理解することが必要不可欠であり、家の造りや起床時間、調味料など細部に至るまでイスラム教が関連していることが見て取れました。インドネシアの消費者に向けての商品開発や、マーケティング施策を考える上でも、イスラム教への理解は不可欠であることは間違いありません。異国ならではの異なる常識や日常の一部を、まるで自分がインドネシアに訪れたように、身近に感じることができたのではないでしょうか。
第2部:インドネシアのトレンドを読み解く
株式会社TNC(アジアトレンドラボ) 副社長 木下 明
第2部は世界中にライフスタイル・リサーチャーを持つ、株式会社TNCの副社長である木下氏にインドネシアのトレンドを解説いただきました。本記事では5つのトピックでご紹介します。
①苦境を逃れるために発展するスモールビジネス
会社への帰属意識が日本とは異なり、転職に抵抗がないインドネシア人。コロナ前から副業も一般的に行われていましたが、コロナ禍に突入したことでInstagramなどのSNSを活用し、本格的にC toCビジネスの副業が増加。GojekやGrabのドライバーは、スモールビジネスサービスと共に拡大しています。
②需要が急増するe-grocery(ネットスーパー)市場
e-grocery市場 も急激に拡大し、利用者の6割が継続して使い続けたいと回答しています。
また、買い物代行サービスもとても盛んです。コロナに関する考えが二分化され、中所得者層、富裕層は先進国以上に敏感になっている人も多く、極力外出を避けたいと思っているニーズに一致したのでしょう。
③伝統的生薬「ジャムウ」の変化に再注目
ジャムウとは、インドネシアに伝わる漢方のような伝統生薬であり、民間療法の一種です。 このジャムウのモダン化が進んでいます。 一部でジャムウを飲むことでコロナにかからないといったデマが流れており、政府が注意を促しています。医学・科学に対するリテラシーの個人差があるようです。
④地元産カカオ使用のチョコレート続々登場
実はインドネシアは世界第3位のカカオ生産国でもあります。しかしカカオ農家の生産技術が未熟であったため、上質なカカオが採れていませんでしたが、近年は人的リソースや技術が改良され、地元産カカオを使用した持続可能型チョコレートが一つのビジネスとなっています。
⑤日系食品会社がハラル商品の開発、販売へ
2.7億人のマーケットに日本企業が参入を進めています。インドネシアの生活者に向けてイスラム教徒へ対応した「ハラル食」の商品開発を行っています。緑の丸いマークが「インドネシア・ハラル」が認証です。食品やレストランにもこのマークが使われます。キッコーマン、キューピーマヨネーズ、吉野家、大戸屋、ココ壱番屋、丸亀製麵、銀だこなどが例にあげられます。
以上の様に、第2部では、コロナによって変化したインドネシアの生活スタイルや、デジタル化によって社会課題に取り組む事例、日本企業の進出などのトレンドについてお伝えしました。
本セミナーでは、「Consumer Life Panorama」を使った、インドネシアのローカルインサイトを読み解き事例を紹介しました。2.7億人のマーケットであるインドネシアの消費者行動から日本のビジネスチャンスを見出し、消費者理解を深めていただければ幸いです。
今回の調査の詳しいレポートは、Global Market Surfer(https://www.global-market-surfer.com/report/detail/136/)「アジア8ヵ国トレンドランキング2021-2022」無料でダウンロードいただくことが可能です。
Consumer Life Panoramaとは・・・
インテージが提供する、海外消費者の居住空間、デジタルライフ、モビリティライフを始めとする消費者のリアルな生活実態の理解を深めるためのウェブサイト型データベースです。
住環境、一日の生活の流れ、デジタルライフなどが閲覧でき、海外消費者の実際のリアルな行動を読み取ることで、様々なターゲットに合ったマーケティングや商品開発にいかしていただけます。
詳細・デモサイト >> http://consumer-life-panorama.com/demo/
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