米離れの中で伸長する玄米/雑穀ご飯 その背景と「食べられ方」の特徴は?
食文化の多様化、食の簡便化・外部化など、昨今食にまつわるさまざまなトピックが出てきている中で、「米離れ」というワードは比較的古くから注目されてきた。ところが、米離れの実態が現在進行形なのか、それとも下げ止まっているのか、定量的な把握はあまりできていない。
今回は、インテージ・キッチンダイアリー(食場面ごとにメニュー・材料を捕捉する食卓データ)を使って、食卓に出現する「ご飯」の動きを追い、今後の課題とチャンスを探りたい。
1.減っているのは白ご飯、玄米/雑穀ご飯は伸長
2013年の「ごはん」の食卓出現率を100とした時の2022年の食卓出現率は94となり、米離れの進行が確認できる。図表1は「白ご飯」と「玄米/雑穀ご飯」について、2013年の食卓出現率を100とした時の直近10年の動きを示したものである。白ご飯はこの10年間ほぼ毎年出現を減らしており、家庭内での「米離れ」が着実に進みつつあることがわかる。一方で玄米/雑穀ご飯はほぼ右肩上がりで推移しており、白ご飯とは対照的な傾向となっている。一般的に玄米や雑穀には、食物繊維やビタミン・ミネラルが多く含まれているとされており、こうした素材の特性が昨今の健康志向にうまくマッチしたのではないだろうか。
図表1
「玄米/雑穀ご飯」の増加は特に朝食・昼食で顕著であり、10年前と比べると2倍近い数字となっている(図表2)。
図表2
2.玄米/雑穀ご飯比率が高いのはどの層?
白ご飯、玄米/雑穀ご飯の出現の状況を、世帯の属性ごとにもう少し詳しく見てみたい。図表3に、白ご飯と玄米/雑穀ご飯の出現比率を年代別に示した。これより、玄米/雑穀ご飯の比率が、40代までの若年層では10%以下となっているのに対し、50代以上の年齢層では、15%を超えていることがわかった。
図表3
インテージが消費者パネルSCI(※1)のモニターに行っている意識調査によると、「健康のために食物繊維を出来るだけとるようにしている」「飲食をするときは糖分・糖質に気をつかっている」といった『健康的食生活』に関する意識は40代までは横ばいで、50代以降で高くなっている。加齢とともに健康意識が高まった結果として、玄米/雑穀ご飯の出現が増えたと考えられるのではないだろうか。
さらに、子どもの有無別で出現比率の比較を行ったところ、子どもなし世帯において、玄米/雑穀ご飯の出現比率が高いことが分かった(図表4)。
図表4
健康意識の高まる50代以降は、子どもが大きくなり始める世帯が多いことから、食生活も必然的に子ども中心から「大人の食卓」へと切り替わっていくケースが多いと想像される。それまで子どもには支持されなかった玄米/雑穀ご飯も、食卓に登場させやすくなったと推察される。
このように、玄米/雑穀ご飯の出現の鍵になっているのは、年代が上がることに伴う「健康意識の高まり」と「子どもの成長・一緒の食卓からの卒業ならぬ卒食」であることがうかがえる。
「米離れ」は白ご飯の減少という意味では確かに進行しているが、「玄米/雑穀ご飯へのシフト」という別の動きがあることも見えてきた。今後米離れを食い止めるための一つの方法として、白ご飯だけにフォーカスするのは不十分であり、玄米/雑穀ご飯の拡販をすることが必要となってくるだろう。そのためには、今あまり玄米/雑穀ご飯が浸透していない子どもあり世帯においても市場を拡大していく必要があるだろう。どのような浸透のさせ方に効果がありそうか、以降の章で探ってみたい。
3.子どもあり家庭に見る食べられ方の違い
ここまで白ご飯や玄米/雑穀ご飯といった種類別に出現状況を見てきたが、次は「玄米・胚芽米」「雑穀」といった材料の視点から、どのようなメニューに利用されているのかを見てみたい。
「玄米・胚芽米」、「その他の雑穀」のそれぞれの材料が使われる回数が多いメニューのランキングを図表5に示した。子ども有無別にランキングに出てくる顔ぶれを比較すると、子供のいる世帯では、いわゆる茶碗に盛ったご飯(玄米・胚芽米ご飯、雑穀入りご飯)の割合が子どもなし世帯と比較して少なく、米を使った子どもに好かれるメニューであるカレーライスやオムライスなどにも利用されていることが分かる。
図表5
よって子供のいる世帯へのアプローチとしては、茶碗に盛ったご飯とおかず、という組み合わせではなく、子どもが好きなカレーライスやオムライスなどといったメニューの材料として白米以外も使うことができる、ということが一つの訴求ポイントになりえるのではないだろうか。
4.同時に食卓に並ぶメニューにも違いが
前章では子供のいる世帯に玄米や雑穀入りご飯がどのようなメニューで食べられているのかを見たが、当然「ご飯」単体として食べられる機会が多い。それでは、どのようなメニューと一緒に食卓に並んでいるのだろうか。
子供のいる世帯で「白ご飯」「玄米・胚芽米ご飯」「雑穀入りご飯」それぞれが夕食で出た際の大きなおかずのリフト値を図表6に示した。白ご飯はどのおかずに対してもほぼ変わらない確率で食卓に並ぶのに対し、玄米・胚芽米ご飯は、塩焼き・素焼き(魚)や、刺身・魚たたきなどの魚を使ったメニューや、焼き餃子などの中華系メニューと一緒に食卓に並ぶことが多いようだ。その一方で肉系メニューの時の出現確率が低かった。
玄米はビタミンB類、ミネラル、食物繊維など確かに栄養素は豊富だが、タンパク質やカルシウム、ビタミンAやD類などの栄養素は他の食物で積極的に補うと良いということも広く知られている。魚系のメニューの多さは、玄米を中心にしつつ、よりバランスよく栄養素を摂取しようという食生活の定着の表れのように映る。
その一方で肉系メニューの出現の低さは、焼き肉をはじめとした肉料理の多くが、「白米」と一緒に食べる印象を纏っていることに起因しているのではないか。お肉を素材とした中華系メニューや焼き肉のたれのTVCMを思い浮かべるとそうしたシーンが目立って多いこともその要因と言えるのではないか。
なお、雑穀入りご飯は玄米ほどメニューの違いは見られなかった。
これらのデータからは、子どものいる世帯でも、魚や中華系といった“合う”メニューであれば栄養価の高い玄米・胚芽米ご飯を取り入れている様子がうかがえる。
メニューとの相性と栄養価の高さを訴求することで、子どものいる世帯でもさらに玄米・胚芽米ご飯が浸透する、ということが可能かもしれない。
図表6
5.さいごに
一概に「米離れ」といわれているが、中身を紐解いていくと、「白ご飯」としては進行しているが、「玄米/雑穀ご飯」は食べる機会が増えており、お米の種類によって食べ方や好意層が異なることが明らかとなった。
食の多様化に伴って食べ方の選択肢が増える中で、米を拡販するためには、“お米を食べる”≒“白米を食べる”、の発想から脱することが必要である。そうすることで新たな「米」拡販の未来が見えてくるのではないだろうか。
データについて:
【キッチンダイアリー®】
1,260世帯の食卓・調理の状況を食場面(朝食・昼食・夕食)ごとに継続的に捉えたデータです。商品開発のヒントとして、また、流通向けの販促提案情報としてご活用いただけます。
※1【SCI®(全国消費者パネル調査)】
全国15歳~79歳の男女53,600人の消費者から、食品(生鮮・惣菜・弁当などを
除く)・飲料・日用雑貨品・医薬品の日々の買い物を継続的に収集している全国個人消費者パネル調査。
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