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消費行動の変化を知る「リキッド消費」とは~Z世代の消費の特徴とマーケティング活用事例

株式会社インテージでは、青山学院大学経営学部の久保田進彦教授と、リキッド消費の実態について共同研究をしています。この共同研究では、今後社会に浸透していくと考えられるリキッド消費について現時点の実態を把握するとともに、企業のマーケティング活動への活用を目指しています。

本記事では、共同研究を通じて明らかになってきたリキッド消費の傾向が強い消費者(リキッドクラスター)について、その特徴をご説明するとともにマーケティングのあり方を考えていきます。

なお、本記事のリキッド消費の理論やマーケティングの基本戦略については、久保田教授が論文や資料で述べられている内容を引用させていただいています。

<本記事で主に引用した久保田教授の論文・資料>
https://doi.org/10.7222/marketing.2020.008
https://kubotalab.jp/misc/lc-strategy/

1.現代の消費行動の変化~リキッド消費とは

現代社会の大きな特徴として、社会の流動化が指摘されています。
それまでの社会を成立させていた伝統的な制度や文化・考え方の影響が弱まり、合理性を追求する個人主義な社会が訪れました。

たとえば離婚や再婚の増加、未婚化が顕著になるなど家族のあり方が変化しています。

また、ビジネスのあり方も変化しています。日本では終身雇用が減る一方で、転職が目立つようになりました。非正規雇用者やギグワーカー(インターネットを通じて単発で仕事を請け負う労働者)も増えました。

個人はしがらみから解放されて自らのライフスタイルを自由に選択できるようになった反面、社会が不安定になることで周囲に頼ることが難しくなり、誰もが孤立しやすくなったと言えるのではないでしょうか。

このように社会の流動化には、良い面と悪い面もあります。
しかし確実に生じている現実であり、もはや後戻りすることはできません。この社会の流動化は、私たちの生活の変化を加速させるとともに、消費生活にも影響を及ぼしています。

みなさんは、こんな経験はないでしょうか。

・ついこの間までお気に入りのブランドだったのに、いつの間にか興味がなくなった。
・新しい商品を買ったばかりなのに、もう他の商品が気になり始めた。
・友達にすすめたい商品が、ころころ変わってしまう。

世の中の動きが早まるにつれ、商品に感じる価値も変わりやすくなり、移り気で気まぐれな消費が目立ってきました。今日の消費者は、欲しいときに欲しいものをすぐに手に入れたいと思っています。彼らはその瞬間を楽しむ消費を好み、即時的な満足を求めています。そして満足が得られなくなったり、より良いものを見つけたりすると、いとも簡単に新しいものに移るのです。

「リキッド消費」とは、このような現代の消費傾向をあらわす、最新のコンセプトです。

2.リキッド消費の特徴

リキッド消費の主な特徴を4つご紹介します(Bardhi and Eckhardt 2017; 久保田2020)。

①   購買の流動性

購買の流動性とは、その時々に応じて、欲しいものや利用するものが頻繁に変わることです。
また、新しいものを試してみたり、身の回りのものをアップデートすることを楽しみます。
さらに、色々なものを少しづつ味わえる、バラエティに富んだ生活を好みます。
この結果、同じものをずっと利用することが少なくなります。

➁   所有しない消費

所有しない消費とは、自ら所有するのではなく、レンタルやシェアリングを利用して消費することです。最近は、カーシェアリングや映画や音楽のサブスクリプションなどをよく見かけるようになりました。
また、かつては所有することが豊かさの象徴でしたが、いつの間にか質の高いサービスを利用することが生活の豊かさを映し出すようになりました。
所有しない消費によって、つぎつぎと新しい製品やサービスを利用できるようになります。

③   脱物質/経験志向

脱物質とは、同じ水準の機能を得るために、物質をより少なくしか使用しない、あるいは全く使用しないことです。
スマートフォンが普及することで、写真をプリント(紙)ではなくディスプレイで楽しむようになったのは、脱物質のわかりやすい例です。
デジタル化が進むことによって、物質に頼らない消費生活が多くなってきました。

④   省力化

省力化とは、時間や手間をかけずに最大のパフォーマンスを得ようとすることです。
欲しいものを手に入れるために苦労することを好みませんし、買ったあとも手間をかけず簡単に使えることを求めます。欲しいものを欲しいときに手に入れて、さっと楽しむわけです。
広い意味でのコスパ志向といえますが、ポイントは、より少ないお金ではなく、より少ない時間や労力で最大のパフォーマンスを得ようとすることです。したがって、時間や手間が省けるなら、お金を支払ってもよいと考えることがあります。

3.セグメンテーションへの活用

具体的に、リキッド消費の傾向が強い人とは、どのような人でしょうか。
消費者を分類し、リキッド消費の傾向が強い人を抽出・分析できれば、セグメンテーションやターゲティングに役立つはずです。

消費者を分類するために、①社会全体の流動化を感じているか(社会認識)、②自分自身の生活認識はどうか(生活認識)、③消費スタイルが流動化しているか(リキッド消費傾向)、という“流動化”に関する3つの側面に着目して、消費者調査を行いました。
そして、このデータをクラスター分析という手法で処理したところ、3つの消費者クラスターが抽出されました。
それぞれのクラスターの特徴から、リキッド・クラスター、プレカリティ・クラスター、コンベンショナル・クラスターというネーミングをしました。

※リキッドクラスターを特定する調査分析手法は、久保田進彦教授との共同研究によって開発しました。

コンベンショナル・クラスターとは、社会全体の変化を感じておらず、これまでと変わらない伝統的な生活を続けている人々です。

プレカリティ・クラスターとは、社会全体の変化を感じているが、将来に対する不安も抱いていており、消費活動が流動化していない人々です。

リキッド・クラスターとは、社会全体の変化を感じており、また日頃の生活において合理主義的な価値観を抱いていて、消費活動も流動化が顕著な人々です。

このように、分析の結果、伝統的なコンベンショナル・クラスターと、リキッド消費傾向が強いリキッド・クラスターだけでなく、世の中の変化に不安を感じているプレカリティ・クラスターが存在することがわかりました。いずれのクラスターも興味深いのですが、この記事ではリキッドクラスターに焦点をあわせて説明をしてきます。

※プレカリティとは将来的な予測不能性や不安定さを意味する社会学用語です。

4.若者に多いリキッドクラスター~Z世代の消費の特徴

リキッドクラスターは、世の中にどのくらいいるのでしょう?
図表1は、各性別・年代における3つのクラスターの構成比です。日本の消費者のおよそ3割がリキッドクラスターに分類されました。

図表1

男女別に見てもどちらも3割弱で、男女で差は見られません。
ただし、年齢別に見ると、若い年代ほどリキッドクラスターの割合は大きくなり、15~24歳は4割を占めています。

15~24歳は、いわゆる「Z世代」の年齢にあたります。
Z世代とは、日本では1990年中盤から2010年代序盤までに生まれた世代を指します。
幼少期にスマホやSNSが普及している環境で育った世代で、「スマホネイティブ」、「SNSネイティブ」とも呼ばれています。
デジタル世代である彼らは、生まれながらのリキッド消費者(ネイティブ・リキッド)といえそうです。

また、25~39歳は「ミレニアル世代」の年齢にあたります。
この世代もリキッドクラスターの割合はやや大きく、3割を超えています。
彼らも思春期のころからデジタルツールが身近にあった世代です。

あと5年ほどで、2010年代生まれの子供たちが若者消費者に仲間入りします。
現在小学生である彼らの日常生活を見ていると、時代が逆戻りすることはなさそうです。
社会全体に占めるリキッドクラスターの割合は、よりいっそう大きくなっていくことが予想されます。

5.リキッドクラスターの消費意識

続いて、リキッドクラスターは消費において具体的に何を重視し、選択しているのかを、「調理にまつわる消費」を例にみてみました。図表2は配偶者と同居して家事を主に担当している20~69歳の女性の意識を、3つのセグメント間で比較した結果です。リキッドクラスターに特徴的だった項目を抜粋しています。

それぞれ前述したリキッド消費の特徴との関係性が表れており、調理一つとっても、選択基準として定着していることがわかります。 

特徴的な調理意識

関連するリキッド消費の特徴

時間がかからないことを重視して献立を考える
市販品を利用して手早く調理することが多い

省力化

不足しがちな栄養素を強化した食品を使いたい

省力化(コスパ重視)

体によいと聞いたものを食事に取り入れている
テレビや雑誌に出る新しいメニューを作ってみたい
新しいメニュー用商品や専用調味料をとりいれたい

購買の流動性
(効果が期待できそうな新しい調理を試してみたい)

使いきりタイプの食材を選ぶ

購買の流動性
(少量パックを選ぶことでバリエーションを得たい)

リキッドクラスターは、調理で手間や時間をかけたくありません。時短調理といっても、つくりおきをしておいて短時間で調理をするわけではなく、温めればそのまま食べられるような食品を好みます。そして、コスパ重視のため、せっかく食べるなら栄養価の高い食品を好みます。

新しいメニューや体によい食事にも関心が高く、すぐに試してみたくなります。そのため、毎回の食事は使い切れる少量パックにして、毎回新しいものを試せるようにしています。

「掃除」、「自動車」、「金融商品」に関する消費についても同様の傾向がみられており、リキッドクラスターが分野に限らずリキッド消費を行っている様子がうかがえます。

6.リキッド消費に対応したマーケティングとは

リキッドクラスターに対しては、どのようなマーケティングを行うとよいのでしょうか。

久保田進彦教授は、リキッド消費時代のマーケティングとして、「視野を広げる」戦略が有効だと述べられています。これは、手軽で買いやすい状態と、多様性を楽しめる状態を消費者に提供し、できるだけ多くの消費者を自社ブランドのユーザーとして獲得しようとする戦略です。

●手軽で買いやすい状態

前述の通り、リキッドクラスターは、商品を選択し、購入・利用する際に、できるだけ時間や手間を省きたいと思っています。そこで、こうしたニーズに応えるために、手軽で買いやすい状態を提供します。

<提供例>
・店頭でその商品が何なのか、どのように良いのか、簡単にわかって選びやすくする
・簡単に手に入り、簡単に使用できるようにするために、購入や使用に伴う手続きは自動化、省力化する
・消費者が、自分自身の選択に間違いがないことを確認できるように、ランキングを示したり、お墨付きを与えたり、あるいは他者に褒めてもらえるような仕組みをつくる

リキッドクラスターの人へのインタビューで、「YouTuberが紹介している商品は購入候補になる」という言葉が聞かれました。YouTuberはいろいろ試していて、商品をよく知っているので、そのおすすめは失敗しないと思うからだそうです。

●多様性を楽しめる状態

リキッドクラスターは、いろいろな商品を試したい特徴があるので、多様性を楽しめる状態を提供します。

<提供例>
・消費者が飽きることのないように、頻繁に新商品(ライン拡張)を発売したり、リニューアルを続ける
・消費者を特定のブランドにとどめておくことをあきらめて、積極的にバラエティー・シーキング行動を支援し、できる限り自社ブランド内を回遊してもらえるようにする

7.リキッド消費に対応したマーケティング事例

最後に、実購買データを用いて「リキッドクラスターに刺さっているブランド」と、「特にそうではないブランド」を比較することで、リキッド消費に対応したマーケティングとはどのようなものなのかを考察してみます。
図表3は、同じ食品カテゴリーで競合している2つのブランドについて、各セグメントが購入額に占める割合を比較したものです。

図表3

ブランドBは、半分近くがリキッドクラスターによる購入となっています。

ブランドBのマーケターがどこまでリキッドクラスターを意識しているかは分かりませんが、以下の商品特徴があり、リキッドクラスターにフィットしたマーケティングが展開されています。

・味の種類が多い
・2つの味のアソートパックがある
・ブランドAと異なるパッケージの形状で、少しずつ食べるのに適していて、食べやすい
・持ち運びやすく、外でスマートに食べられる
・ごみがかさばらない

他にも、テレビCMでは10代のタレントを起用していて、リキッドクラスターの多い若者をターゲットにしています。

このように、現在リキッドクラスターに購入されている商品の施策に注目すると、リキッド消費傾向に応じたマーケティングについて、さまざまな示唆を手に入れられそうです。

今後、若年層を中心に増えるであろうリキッド消費。インテージでは、リキッドクラスターを通したさらなる理解や、リキッド消費に対応する製品開発・マーケティングを支援しています。質問項目の具体的な内容など、ご興味があればぜひお問い合わせください。

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