日用消費財のロングセラーブランドにみる「生活者とブランドの新たな関係性」とは
※この記事は2月21日に実施したセミナー「ブランドの持続的成長を支えるこれからの生活者との関係性~日用消費財でもLTVやファン育成は実現できるのか~」の内容を再構成したものです。
ここ数年、日用消費財メーカーのお客様からファン育成やLTV向上に関する課題を伺うことが増えています。国内市場の縮小で新規顧客候補が少なくなり、かつマーケティング予算の効率的な活用が求められるようになったことで、一度獲得した顧客をなるべく維持してファンと言えるような深い関係性を育て、結果的により長く、より多くのお金を支払っていただけることを目指す必要が増しているためと思います。
一方で、耐久消費財やサービス財ならまだしも、日用消費財にファンは本当に存在するのか? 売上にどれほど寄与する存在なのか?という実効性への疑問、あるいは、日用消費財でファンになってもらうためにメーカーからできることって何があるの?という実現性への疑問から、ファン育成やLTV向上に関する取組みが進まない、という企業様も多いように感じます。
そこでインテージでは、生活者の購買行動を時系列で把握できるSCI(全国消費者パネル調査)を用いて、日用消費財においてもファンといえるような人々の存在が実際にブランドの持続的成長につながっているのかを明らかにし、そういった深い関係性がどのような体験から生まれているのかを分析しました。
持続的な成長を続けるロングセラーブランドを支える顧客構造
今回の分析は図表1の7カテゴリから抽出された61のロングセラー成長ブランドを対象に行いました。
図表1
まず、ロングセラーブランドの売上の構造を見てみましょう。売上は、間口である購入者数と奥行である購入者当たり金額に分解できます。それぞれの伸びが売上成長率とどの程度相関があるかを算出したのが図表2です。
図表2
日用消費財メーカー様はまずは間口を重視されていると思いますが、実際、どのカテゴリでも間口の伸びと売上の相関が高く、奥行きの伸びだけで成長しているロングセラーブランドはまれでした。持続的成長にはやはり間口の拡張は不可欠なことがわかります。
ただし、ロングセラー成長ブランドに特徴的だったのは、間口を新規購入者だけで稼ぐのではなく、2年3年と続けて買ってくれる継続・定着顧客を増やすことで間口を拡大していることでした(図表3)。
図表3
ひたすらユーザーが入れ替わっているのではなく、ベースとなる顧客をしっかり掴んだうえで、新規顧客を獲得し、その新規顧客をまた定着顧客に育てているのです。
こうなると、顧客の定着をマネジメントすることは可能なのか、という問いが次に浮かぶかもしれません。マスブランドではOne to Oneコミュニケーションが難しいという問題もあるでしょうし、日用消費財は習慣購買化しやすいという側面をもつため、ウォレットシェアからロイヤルティがある様に見えても、価格や競合ブランドの影響によって離反しうる脆い絆の可能性があるからです。
※ウォレットシェア:一人の生活者が当該カテゴリに支払う総金額のうち、対象ブランドが占める割合
そこで今回の分析では、ウォレットシェアのような行動ロイヤルティに加えて意識ロイヤリティをみることで、ファン化と成長の関係を捉えることにしました。意識ロイヤルティには、他のブランドを買って失敗するリスクや商品選びに費やすコストを避けたい「リスク回避」、ブランドに親しみや信頼を寄せる「親近」、このブランドのファンだ・このブランドでなくてはという「推し」、という3つの要素があると考えられます。
具体的には、SCIから抽出した各ブランド購入者に対してインターネット調査を行い、図表4の設問で3つの要素のロイヤルティを測り、ロングセラー成長ブランドとの関係を分析しました。
図表4
分析の結果、厳しい環境下でも売上を伸ばすロングセラー成長ブランドは、特に「親近」「推し」のスコアが高い定着顧客を作れているということがわかりました。
これらの人々は、値引きしなくても買ってくれるし、当該ブランドから新商品が出たら買ってくれるので、購入者あたり金額も高くなります。
また、周囲への推奨意向も高いので、新規購入者を呼び込むことにもつながります。特に若年層では商品主語の売り込み・PR感への忌避感が強いといいます。今後、こういった価値観を持つ世代が増えていくとしたら、生活者自身によるオーガニック投稿などの発信やそれをさりげなく活かしていくことが新規顧客の獲得により重要になっていきそうです。
以上のことから、「親近」「推し」層は間口・奥行ともに貢献し、持続的な売上成長につないでくれていると言えるのです。
どのようなブランド体験が生活者と深い関係を育むのか
では、「親近」「推し」層になってもらうために何ができるのでしょうか。3つの要素と共に聴取した、ブランド体験に関する回答結果から読み解きたいと思います。図表5は3つの層と強い関連が見られたブランド体験をまとめたものです。
図表5
「リスク回避」層は、実際に商品を使用して機能の良さを強く実感した体験から、「この商品なら間違いない」と感じてくれている人たちであることがわかりました。
一方で「親近」層は、機能的価値だけでなく、情緒的な気持ちを想起された体験や、ブランドや企業の姿勢に共感した体験から、ブランドとの距離感を近く感じています。
さらに、「推し」層では、ブランドが自分にとってどんな意味を持つものなのか、意味的価値を自ら見出し、その体験によって「自分のためのブランドだ」という深い関係を感じるようになっています。
意味的価値を見出し、体験するとは具体的にはどのようなことなのか、図表5の「推し」欄に記載したブランド体験例をご覧ください。1つ目の例は、ちょい足しをいろいろと試して「美味しかった」のではなく、友達とあれこれ試す時間を共有できたことが「楽しかった」ということだと思います。2つ目の例は、単なる映えというより、富士山を登り切ったという自分の充実感・晴れがましさを表現するのに最適だと感じる体験をしたのだと思います。その写真を周囲の方に見せたでしょうし、SNSに載せたかもしれません。自分が感じた価値の発信・共有を伴うのも「推し」の特徴です。
機能的価値はブランドが何をもたらしてくれるかというブランド主語の価値、情緒的価値と意味的価値は自分が何を感じるかという生活者主語の価値という違いがあり、さらに意味的価値はブランドの価値作りに顧客自ら参加しているという特徴があります。
「生活者とともにブランドを育てる」マーケティングへ
機能的価値・情緒的価値を定義し、それを実現する商品開発・マーケティング施策を立案し、実行し、生活者にアプローチする。これまでのマーケティングで実践されてきたことだと思います。
今後、これまで以上に深い関係を生活者と築くには、生活者が見出す意味的価値を教えてもらい、それをまた生活者に投げかけて、生活者とやりとりしながらブランドを育てていくことが重要になるのだと思います。先ほどの「推し」層の方たちが体験した、「友達とちょい足しをいろいろ試した楽しさ」や「富士山を登り切った充実感を表現する晴れがましさ」と似た体験を他の生活者にも提供できるよう、ブランドができることを考えて試し、生活者のフィードバックを得て、また練り直していくのです。
生活者に問うても新たな気づきが得られない、n1の生活者を理解しても多くの生活者に向けたアクションに落とし込むことができない、というお悩みもあるかもしれません。
ここで、もう少し身近な例をご紹介します。次の写真はCODEというお買い物履歴を収集するアプリを用いて、ノンアルコール商品購入者に食卓をアップしてもらったものです。
ご飯は玄米のように見え、バランスを意識した食卓ですが、揚げ物が目をひきます。 この方は、「禁酒日だからノンアルコール飲料にするけど、お酒を飲んでいる気分を味わう為に揚げ物を用意した」のです。
「栄養バランスのよい食卓」と「揚げ物」という違和感を覚える2つのファクトから、「よりお酒を飲んでいる気分に浸りたい」というニーズへの気づきを得られたら、同じような気持ちを抱えながらノンアルコール商品を飲んでいる生活者がどのぐらいいるかを捉えることや、「禁酒日にも飲酒時と同じように楽しく過ごすこともできるんだ」、と実感する体験をしてもらうために何ができるかを考えることに繋がります。
このように、インテージでは、より多くのファクトを生活者から集め、そこから仮説を超えた気づきを得る、というアプローチをとっています。ファクトとは、購買だけでなく、どのようなシチュエーションで、どのように保管・使用・廃棄し、そのとき何を思ったか、までを含みます。
「購買」をゴールにするのではなく、その先、生活者がどのような体験をしてどのような価値を感じてくれるかまでを大事にし、モノ以上の体験を提供することで生活者との関係を深め、生活者と共にブランドを育てられるようになること。それを実現できるブランドが、生活者にも支持され、結果的に売上にもつながり、人口減少時代にも持続的な成長を遂げていけるのではないでしょうか。
今回の分析は、インテージの消費者パネルデータSCIと、SCIモニターに対するネットリサーチ(vois)の自主企画調査データを用いて行いました。
【調査概要】
対象者:SCIでのロングセラー成長ブランド 直近1年購入者
(7カテゴリ67ブランド 計9,146s)
調査期間:2023/1 – 2月
参考文献: 立正大学 井上淳子.“ブランド・コミットメントと購買行動との関係”. 日本商業学会『流通研究』第12巻第2号. 2009
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