実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム ~第11回 生活者の意識と行動変容で、ビジネスを管理する
本連載は、一般的なマーケティングフレームを、生活者の意識や行動と結びつけて捉えなおそうという試みです。STPや4Pなど、マーケティングフレームは比較的シンプルで、理解が難しいものは多くないと思いますが、実務での活用を難しく感じられる方は少なくないかもしれません。生活者の意識や行動を理解することは、マーケティング・リサーチの役割です。生活者を中心に、マーケティングフレームとマーケティング・リサーチを紐づけて考えることで、読者のみなさまのマーケティング活動が、より効果的に、より高い価値を生活者にお届けできるようになれば、という想いでお届けしています。
第10回では、FMOTとSMOTを統合したブランド体験の設計について、考察しました。第11回でも引き続き、これまでの内容を振り返りながら、ブランド体験の設計を、ビジネスの進捗管理と結び付けて考えたいと思います。
1. 生活者の態度変容とブランド体験の関係
図1は、生活者が商品を購入するまでに必要な態度変容を表しています(詳細は第5回参照)。
図1
このモデルの「商品の存在を知る(認知)」は、ブランド体験におけるコミュニケーション(図2)の、「受動的な情報接触」に依存します。存在を知らない商品について、能動的に探し出すことはできないので、受動的な情報接触になります。カテゴリー名称などの一般的な情報を用い、能動的に検索して、ある商品の存在を知ることもありますが、その商品を見つけ出すことを意図して検索している訳ではないので、受動的な情報接触と考えることができます。
図2
「商品の特徴を理解する(理解)」は、その商品に対する生活者のパーセプションに当たり、当該商品の使用経験がない場合、理解はコミュニケーションに依存しますが、使用経験がある場合は、コミュニケーションに加えてイノベーションも影響すると考えられます。図3のモデルを考えると、イノベーションは、コミュニケーションによって設定された期待と同等以上の製品体験を提供することで、ポジティブなパーセプションが形成できる可能性があると考えられます(詳細は、第10回参照) 。
図3
生活者が持つパーセプションによって、購入意向が変わります。パーセプションの変化は、顧客ベースのブランドエクイティ(図4)で説明できることは、第1回で取り上げました。理解の程度が「セイリエンス」に留まるようであれば、高い購入意向は期待できないかもしれませんが、ポジティブな「レゾナンス」に至るようであれば、高い購入意向が期待できると考えられます。
図4
購入意向者が、すべて購入者になる訳ではありません。購入意向者が購入者に至る過程は、図5の「お買い物行動モデル」で考えることができます(詳細は、第6回参照)。このモデルは、店頭で商品を見つけることができるという物理的な要素と、競合ブランドの比較が、自社ブランド購入するという行動に至るために影響することを示しています。自社ブランドに対するポジティブなパーセプションの形成は必要だが、それだけでは十分ではないことを示しているとも言えます。
図5
2. 生活者の期待に応えるイノベーション
生活者の購買行動とビジネスの関係を示したのが、図6になります。
購入金額=購入者数x購入者一人当たり購入回数x購入1回当たり購入金額
ですので、至極当たり前のことではありますが、「生活者がお金を支払って商品を購入する」という行動の繰り返しが市場を作り、みなさんのブランドの選ばれた回数分だけが、みなさんのビジネスとなります。
図6
商品が購入される回数にも、その商品に対するパーセプションが影響しており、特にイノベーションの寄与が大きいと考えられます。シンプルに、製品体験が期待を超えるようなものであれば、もう一度使ってみたいと思うでしょうし、そうでなければ、もう一度使ってみようと思うモチベーションは上がらないかもしれません。もちろん、商品が購入されるためには、その都度「お買い物行動モデル」で示したステップを踏みますので、期待を超える製品体験が提供できれば、常にその商品が購入される訳ではありません。また、競合ブランドもイノベーションを続けていますので、生活者の期待も変わり続けていると考える必要もあると思います。
3. 生活者中心のビジネス分析モデル
ここまでの議論は、図7のようにまとめることができます。
図7
このうち、A、B、D、Eの変数は、ここまでにご紹介した生活者の行動に関するモデルと紐づけて考えることができます。これによって、ビジネス進捗の説明変数を、生活者の行動の変化として捉えることが可能になります。生活者が普段の生活で目にしたり、体験したりするのは、概念的な戦略や戦術ではなく、具体的なマーケティング施策であり、それによって購買行動を変化させますので、ビジネスを生活者の行動として捉えることは非常に重要です。
一方で、C%は商品に対する生活者のパーセプションと紐づきます。パーセプションは、購入の判断と、製品の評価の繰り返しによって形成されていきます(第1回参照)ので、ブランドとしてC%を変化させるためには、中長期的なブランド戦略が必要になると考えられます。生活者の購買や使用行動が、パーセプションの変化に繋がることを鑑みると、先述の具体的なマーケティング施策は、中長期的なブランド戦略に則って、計画、実行されることが重要になります。ブランド戦略に則った施策への支出は、中長期的なリターンも期待できるので、マーケティング投資と言えるかもしれませんが、短期的な売上増加を目指すだけの施策に対する支出は、単なるマーケティング費用になってしまうと考えられます。
4. まとめ
今回は、ブランド体験とビジネスの関連について考察しました。
この記事を読んでいただいているみなさんの中には、いわゆるブランド浸透を定期的にトラッキングされている方もいらっしゃると思います。多くのトラッキング調査では、ブランド認知者数、購入意向者数、購入経験者数、2回以上購入者数、といった指標が用いられているようです。報告書では、各指標の人数の増減や、各指標間の歩留まり率の増減を、マーケティング施策の効果として、直接紐づけて議論することも多いようです。
これらの指標の変化は、生活者の行動の変化に起因しています。マーケティング施策が、生活者の行動の変化を促し、その結果が指標の変化として表れています。本来的には、マーケティング施策が生活者の行動の変化を促すメカニズムを理解することが、より汎用性の高い学びに繋がると考えられます。
また、ブランド浸透(認知率、購入意向率、など)のトラッキングと、ブランドに対するパーセプション(聴取項目名としては、「ブランドイメージ」)のトラッキングを別々の調査で行っている方もいらっしゃるようです。生活者のパーセプションは、購入意向とも紐づいていますので、可能であれば、一つの調査で実施するのが良いかもしれません。その際には、「ブランドイメージ」を、顧客ベースのブランドエクイティと整合するように聴取すると、より深い分析が可能になると考えられます。
※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介したブランド設計とビジネス進捗の紐づけにご興味のある方がいらっしゃいましたら 、弊社HPを通じてご連絡いただくか、営業担当までご連絡ください
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