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実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム~第2回 生活者セグメンテーションから、ポジショニングを見つけ出す

本連載は、一般的なマーケティングフレームを、生活者の意識や行動と結びつけて捉えなおそうという試みです。STPや4Pなど、マーケティングフレームは比較的シンプルで、理解が難しいものは多くないと思いますが、実務での活用を難しく感じられる方は少なくないかもしれません。生活者の意識や行動を理解することは、マーケティング・リサーチの役割です。生活者を中心に、マーケティングフレームとマーケティング・リサーチを紐づけて考えることで、読者のみなさまのマーケティング活動が、より効果的に、より高い価値を生活者にお届けできるようになれば、という想いでお届けしています。

第1回では、「真実の瞬間(Moment of Truth)」のフレームを基にしたブランディングと、ブランディングによるパーセプションの形成を『顧客ベースのブランドエクイティ』の考え方に従って捉える調査について紹介しました。この第2回では、STPについて解説します。

1.ニーズを最大公約数的にまとめるのがセグメンテーション

STPは以下の頭文字で、ブランドが、誰に、何を提供するのかを定義する助けになります。

S:セグメンテーション(Segmentation)
T:ターゲティング(Targeting)
P:ポジショニング(Positioning)

当たり前のことですが、一言で生活者といっても、生活環境が全く同じ人はいませんし、性格が全く同じ人もいません。生活者一人ひとりはすべて異なると考えると、図1のように、そのニーズも一人ひとり異なると考えることが出来ます。

図1

人の数だけ理想がある、人の数だけニーズがある

広い意味での工業製品を提供する事業会社のほとんどは、生活者のニーズをより良く満たしたいと思う一方で、一人ひとりのニーズを満たそうとするとコストが掛かりすぎるというジレンマを抱えていると思います。生活者セグメンテーションを、似通ったニーズを持つ人をグルーピングすること(図2)と捉えると、それを活用することで、事業会社としてビジネスを成り立たせつつ、生活者のニーズをより良く満たすことが出来ると考えられます。

図2

カスタマイズ出来ないなら、セグメントしてみる

生活者セグメンテーションの考え方は様々ですので、唯一の正解がある訳ではありません。ビジネスに活用できる生活者セグメンテーションであれば、どれも正解であると言うことも出来ると思います。少し心配になるのは、「マーケティング計画は、STPを定義し、4Pに落とし込むと出来上がる」といったワークフローのステップとして捉えてしまい、生活者セグメンテーションの良さや正確さの議論になってしまう場合です。適切なセグメント数を教えて下さい、といったご要望をいただくこともあります。ただし、生活者セグメンテーションをビジネスで活用する観点では、フォーマットやセグメント数といった形式的なこと以上に、グルーピングした生活者像を明確にすることが大事であると考えます。

2.ブランド作りとは生活者との関係性を築くこと

先述の通り、本連載の第1回では、ブランディングについて書かせて頂きました。そこでは、ブランディングの目的を、『自社ブランドに対してポジティブな「パーセプション」を形成すること』と定義しています。よりポジティブな「パーセプション」が形成されるほど、「顧客ベースのブランドエクイティ※」でより上位の概念が想起でき、生活者とブランドとの関係性が築けていると考えることが出来ます。
※顧客ベースのブランドエクイティについては、第1回記事をご参照ください

図3

ブランド作りとは、生活者との関係性を作ること

生活者は日常生活で、様々な情報を受け取り、様々な製品体験を得ますが、それらをどの程度ポジティブに捉えるか(あるいは、ネガティブに捉えるか)は、生活者一人ひとり異なります。ポジティブ/ネガティブは、シンプルに「生活者が持つニーズとブランド体験との乖離」と考えることができます。台所用洗剤で例えると、簡単に油汚れを落とすことは、「時短ニーズが強い人」には、「食器洗いが早く終わる」ことに繋がるので乖離が少なくポジティブに受け取られるかもしれませんが、「手荒れしたくないニーズ」が強い人にとっては「強力な洗浄成分が肌の刺激になる」ことに繋がってニーズとの乖離が大きくなり、ネガティブに受け取られるかもしれません。

このように考えると、ポジティブなパーセプションを形成するためには、生活者のニーズに寄り添うことが重要になります。「時短ニーズが強い人」にとっては、簡単に油汚れを落とすことで食器洗いが早く終わることに繋がり、その製品の泡切れが良くなると、さらに時短になります。製品属性としては異なるものではありますが、食器洗いを早く終わらせるという点では同じ領域の価値であるとも言えます。このようにブランドがアップデートされていくと「時短ニーズが強い人」は、そのブランドに対して益々ポジティブなパーセプションを持つようになると考えられます。このように生活者ニーズに寄り添ってブランディングすることを私は「生活者との関係性作り」と表現しています。

生活者のニーズを基にセグメンテーションを行うと、図2のようなイメージになります。各色のプロットは、似通ったニーズを持つ生活者のグループを表します。薄緑のニーズを持った人に対しては、そのニーズを満たすことが最もポジティブなパーセプションを形成するでしょうし、薄緑とは異なる水色のニーズを持った人に対しては、薄緑とは異なるニーズを満たすことで、ポジティブなパーセプションが形成できると考えられます。

このように考えると、セグメントごとにポジティブなパーセプションを形成するためには、セグメントごとに個別ブランドを配置することになります(図4)。その結果として、ブランドポートフォリオが構築されます。このようにポートフォリオを考えると、生活者ニーズの違いが原点になっているので、ブランド間のカニバリも少なると考えられます。

図4

ブランドのラインナップ構成例

3.鮮明なペルソナがポジショニングをクリアにする

生活者に寄り添うためには、生活者を出来る限り具体的に理解する必要があります。「具体的」とは、生活者が購入を判断したり、製品を評価したりする思考プロセスが分かる程度に、と言い換えることも出来ると思います。この思考プロセスを見える化したものがペルソナになります。
思考プロセスを見える化しようとすると、基本的には、定量データの羅列ではなく、定性情報や定量データから読み取れる記述的な情報がメインになります。図5は、外食産業を想定したペルソナのイメージになります。構成としては、日常生活の価値観→食に対する考え→外食に対する意識→食事に対する行動となっていて、価値観という大きなテーマから食事の行動という具体まで、一連で紐づけて理解できるようにしています。

図5

ペルソナ例(外食産業)

仮に食事の行動が同じでも、そこに至る考えや意識が異なれば、ブランドに対するパーセプションを変えるアプローチも変わります。例えば、スーパーで会社帰りに惣菜を買うという行動をする人がいるとします。会社帰りの夕食ではおいしいものを食べたいからスーパーの惣菜を買うという人に対して、「注文が入ってから、作りたてをその場でパックに入れてお渡しする」サービスは、ポジティブかもしれません。ただ、図5のペルソナのように、待たずに手に取って帰れることが理由でスーパーの惣菜を利用しているという人にとっては、同じサービスがネガティブに映る可能性があります。

このようなペルソナを作ることで、ブランドが目指すべき方向性を絞ることが出来、検討している施策の受け入れられ方も、ある程度想定出来るようになります。その結果、社内での意思統一も効率的になることが期待されます。

4.まとめ

セグメンテーションは、工業製品では一人ひとりのニーズを個別に満たすことが出来ないなかでも、ビジネスを成り立たせながらより良くニーズを満たすためのフレームと捉えることが出来ます。セグメントごとに、ブランドを配置することでポジショニングの違いが分かりやすくなり、カニバリを出来るだけ減らすブランドポートフォリオを構築できることが考えられます。生活者の思考プロセスを、ペルソナを作成して見える化すると、ブランドが目指すべき方向性も絞ることが出来、社内での意思統一も効率的になることが期待出来ます。

※調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介したセグメンテーション調査やペルソナ作成にご興味のある方がいらっしゃいましたら、弊社HPを通じてご連絡頂くか、営業担当までご連絡ください

著者プロフィール

平井 公一 株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 プリンシパル・コンサルタントプロフィール画像
平井 公一 株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 プリンシパル・コンサルタント
大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

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