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実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム ~第5回 生活者がビジネスポテンシャルを決める

本連載は、一般的なマーケティングフレームを、生活者の意識や行動と結びつけて捉えなおそうという試みです。STPや4Pなど、マーケティングフレームは比較的シンプルで、理解が難しいものは多くないと思いますが、実務での活用を難しく感じられる方は少なくないかもしれません。 生活者の意識や行動を理解することは、マーケティング・リサーチの役割です。生活者を中心に、マーケティングフレームとマーケティング・リサーチを紐づけて考えることで、読者のみなさまのマーケティング活動が、より効果的に、より高い価値を生活者にお届けできるようになれば、という想いでお届けしています。

第4回では、「アイスバーグモデル」を基に、事業者、開発者が、生活者に興味関心を持ち、気づきを得ることが新しいアイデアの起点になることをご紹介しました。
第5回で解説するフレームは、第1回と同様「真実の瞬間」ですが、ブランディングではなく、ビジネス構築の視点で再度取り上げたいと思います。

1.生活者が「お金を支払いたい」と思えるアイデアに、ポテンシャルがある

本連載の第1回では、生活者の「お金を支払う」という行動が金額ベースの市場を形成し、「製品を使う」という行動が数量ベースの市場を形成することを書かせて頂きました。

この考え方に従うと、新しい事業や商品のビジネスポテンシャルも、想定される生活者の行動が大きく影響すると考えられます。既に数量化されている市場規模が、「お金を支払った」や「製品を使った」という、生活者の過去の行動を反映したものだとすると、新しい事業や商品のビジネスポテンシャルは、「お金を支払いたい」「製品を使いたい」という生活者の意思や意向を反映したものだと考えることが出来ます。生活者の意思や意向がすべて行動に移されるとは限りませんが、意思や意向がなければ行動には移らないと考えます。

新しい事業や商品ビジネスポテンシャルを考えるとき、生活者が「お金を支払いたい」「製品を使ってみたい」と思う対象は、「まだ実在していないが、これから具現化しようとしているアイデア」になります。

図1

生活者が「お金を支払う」「製品を使用する」行動が市場を形成する

2.ポテンシャルのあるアイデアに投資する

第4回では、行動観察からアイデアを創出する方法の一つをご紹介しました。実務でアイデア創出に取り組むと、たくさんのアイデアが生まれるのが一般的だと思います。すべてのアイデアを商品化することは出来ないと思いますので、何らかの手段でアイデアを絞り込む作業をすることになります。 

アイデアを絞り込む際、ビジネスポテンシャルを決める生活者の意見を聞くことが非常に大事であると考えます。まずはアイデアを基に試作品を制作して、その後に生活者の意見を聞こうと考える方もいらっしゃるようです。量産化の準備が整ってから、最後に生活者の意見を聞こうとする方もいらっしゃるかもしれません。生活者の意見を全く聞かずに商品を発売してしまうこともあるかもしれません。それらは、開発投資のリスクを必要以上に負っていると捉えることも出来ると思います。

生活者が購入判断をする際、特に日用消費財では、製品を使用してから購入判断をすることは多くありません。新しいチョコレートが発売された時に、試食してから購入する人は稀で、購入者のほとんどは新しいチョコレートの情報のみを基に、購入を判断しているのです。

このことから、現実の製品がなくても、そのアイデアに関する情報を生活者に提供できれば、生活者は「お金を支払いたい」「製品を使いたい」といった意志や意向を持つことが出来ると考えます。そうすると、「お金を払いたい」「製品を使いたい」と思って頂けるであろうアイデアを商品化し、そうでないアイデアは商品化を止めることで、開発投資のリスクを減らすことも可能になります。

3.商品コンセプトからビジネスポテンシャルを導く

生活者の購買行動から考える購入金額の要因分解は、以下のように表されます。

    購入金額=購入者数x購入者一人当たり購入回数x購入1回当たり購入金額

なお、購入1回当たり購入金額は、以下のように分解することも出来ます。

    購入1回当たり購入金額=購入1回当たり購入個数x1個当たり購入価格

図2

購入金額の要因分解

つまりビジネスポテンシャルは、購入者数、購入者一人当たり購入回数、購入1回当たり購入金額を論理的に設定することが出来れば、導くことが出来るということになります。

購入者数は、コンセプト調査を実施することで設定することが出来ます。 
ある商品の非認知者が購入者となるためには、図3のようなプロセスを経ると考えられます。 
・商品を購入するためには、その商品の存在を知らなければなりません。(認知) 
・商品の存在を知っていても、それが何かが分からなければ、購入することはないと考えられます。(理解) 
・商品の存在を知り、商品の特徴を理解すれば、生活者は、買いたい、または、買いたくない、という判断をすることが出来ます。(購入意向) 
ただ、買いたいという判断をしても、必ずその商品を買うという行動に移るとは限りません。お店に買い物に行っても、その商品がおいてなければ買うことはできませんし、お店には競合商品も一緒に並んでいますので、競合の方をより買いたいと思えば、競合を選ぶことも十分にあり得ます。

図3

生活者の態度変容から購買行動に移るプロセス

この考え方を踏まえると、コンセプト調査の結果は図4のように捉えることが出来ます。コンセプト調査では、対象者すべてがコンセプトを読み、コンセプトには対象者に伝えたいことがすべて書かれていますので、図4でいうA%(認知率)とB%(認知者数当たりの理解者数の割合)は、いずれも100%の状態と考えることが出来ます。実際の購買行動プロセスでは、購入しても良いと思う商品群から幾つかの商品を選択することになりますが、コンセプト調査ではそれがありませんので、コンセプト調査の購入意向者数は、D%=100%としたときの購入者数と解釈することが出来ます。

図4

コンセプト調査での購入意向の意味

ただ、現実の世界では、A%、B%、D%のすべてが100%になる可能性は、ほとんどありませんので、コンセプト調査から得られる購入意向者数が、上市した際に購入するであろう生活者の数になるということは、ほとんどありません。

この考え方の見方を変えると、図5の様にA%、B%、D%、E回、F円を論理的に設定することが出来れば、ビジネスポテンシャルを算出出来るということでもあります。 

図5

コンセプト調査結果を用いたビジネスポテンシャルの算出

ビジネスポテンシャル算出の詳細は、商材によって個別に検討する必要があり、過去データの数値を当てはめるだけの単純な作業ではありませんが、A%やB%は過去のベンチマーク調査や実態把握調査などから、D%は加重販売率(店舗への配荷状況)やブランド選好度などから当たりをつけることが出来ると考えられます。購入者一人当たり購入回数(E回)や購入1回当たり購入金額(F円)は、消費者パネルのデータを活用して、想定値を設定することも可能です。
実際のビジネスでは、様々な要因で、A%、B%、D%、E回、F円は変動しますので、コンセプト調査だけで精度高く販売金額などを算出することは難しいですが、ビジネスポテンシャルという指標を使ってアイデアの良し悪しを判別することは可能であると考えられます。

4.まとめ

商品を買う、買わない、の判断をするのは生活者ですので、新しい事業や商品のビジネスポテンシャルも、生活者の行動が大きく影響すると考えられます。コンセプト調査を通じて得られる購入意向率等のデータは、ビジネスポテンシャルを評価する上で有用です。製品を開発する前に、生活者の意見を取り入れることで、開発投資のリスクを減らせる可能性があります。 

※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介したビジネスポテンシャル算出にご興味のある方がいらっしゃいましたら、弊社HPを通じてご連絡頂くか、営業担当までご連絡ください

著者プロフィール

平井 公一 株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 プリンシパル・コンサルタントプロフィール画像
平井 公一 株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 プリンシパル・コンサルタント
大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

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