実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム ~第7回 生活者の購入判断が売上を左右する(2)
本連載は、一般的なマーケティングフレームを、生活者の意識や行動と結びつけて捉えなおそうという試みです。STPや4Pなど、マーケティングフレームは比較的シンプルで、理解が難しいものは多くないと思いますが、実務での活用を難しく感じられる方は少なくないかもしれません。 生活者の意識や行動を理解することは、マーケティング・リサーチの役割です。生活者を中心に、マーケティングフレームとマーケティング・リサーチを紐づけて考えることで、読者のみなさまのマーケティング活動が、より効果的に、より高い価値を生活者にお届けできるようになれば、という想いでお届けしています。
第6回では、第1の「真実の瞬間」であるFMOTのお買い物行動モデルの中の、「見つける」について書かせて頂きました。 第7回では、お買い物行動モデルで「見つける」に続く、「比べる/選ぶ」について書かせて頂きたいと思います。
1.「見つけた」後の生活者の行動
生活者がお店でお買い物をする際、個別商品から目に入ることはほとんどなく、図1-1のように棚全体が視野に入り、図1-2のように棚に近づくにつれて、個別商品が認識できるようになります。(詳細は、第6回をご覧ください)
図1-1 図1-2
図1-2の状態で生活者の視野に入っているのは、自社ブランドの商品だけでなく、競合ブランドの商品も同じです。また、必ずしも商品が視野に入っていれば「気づかれている」ということではありません(詳細は、第6回をご覧ください)。ここから、生活者は商品を比べ、購入する商品を選ぶというプロセスに入ります。
2.「気づく、手に取る、カゴに入れる」で考える商品パッケージ開発
図2
図2は、生活者がお店の棚の前に来てから、購入する商品を「選ぶ」までのステップを示したものです。生活者は、棚の上にあることに「気づいた」商品をすべて手に取る訳ではありません。その中から、いくつかの商品を「選んで」手に取ります。ここは、手に取る前の段階なので、パッケージに書かれた小さな文字を読んで選ぶことは難しいでしょう。距離があっても認識できそうなパッケージの色や形、大きく書かれたブランド名や、パッケージに貼られたステッカーなどが基準となって、選ばれているのではないかと推測されます。パッケージに書かれた詳細な商品説明や、パッケージデザイン上の繊細なこだわりに関係なく、商品が選ばれてしまうのがこの段階になります。
パッケージの開発を始めるときには、2Dデザイン、3Dデザインに関わらず、デザイナーに対してブリーフィングが行われます。そこでは、パッケージを通じてコミュニケーションしたい内容 が伝えられます。コミュニケーションの要素が複数ある場合には、その優先順位も同時に伝えられると思います。この優先順位を設定する際、限られた時間の中で、何を伝えれば手に取って貰えるのかを考えることは非常に重要になります。
手に取って貰えると、パッケージに書かれた商品説明文が読まれる可能性があります。ただ、棚の前での出来事なので、手に取った商品の説明文を、一つひとつ熟読する人は稀だと思います。開発者としては、パッケージに商品説明を書いておけば、読んで理解してもらえるハズだ、と思いたくなりますが、高い期待は持たない方が良いでしょう。秒単位の限られた時間の中で、商品が選ばれるためには、シンプルで分かりやすいコミュニケーションが重要であると考えられます。
購入を決めるのは、生活者です。手に取った商品を、買い物カゴに入れて貰えれば購入になりますし、手に取った商品が棚に戻されてしまうと、購入には至りません。開発者であれば、自社商品の差別点や優位点を一度は考えたことがあると思います。このタイミングで、生活者が買い物カゴに自社商品を入れたくなる商品特徴を、差別点や優位点と言うことも出来ると思います。もちろん、カゴに入れたくなる理由は、商品特徴以外に、価格やプロモーション的な要素なども考えられますが、それらを差別点や優位点とすることは稀だと思います。
この「気づく、手に取る、カゴに入れる」プロセスに大きな影響を及ぼすものには、ブランド力もあると思います。 普段から使っているもの、見聞きしているものは、生活者も見つけやすいでしょうし、見つけようとすることもあると思います。ブランド力があると、そのブランド名を見るだけで、ベネフィットや商品特徴、製品体験などを想起出来ても不思議はないので、商品パッケージに書かれていない情報も使って、生活者は購入の判断をすることが出来ます。これが、第1回で書かせて頂いた、ポジティブなパーセプションの効果ということも出来ると思います。
3.生活者の視点で、コンセプトを深く理解する
何を伝えると手に取って貰えるかを検討する一つの手段として、第5回でご紹介したコンセプト調査があります。パッケージを通じて伝えたいことは、基本的に、コンセプトに書かれているはずです。コンセプトを読んで最も気になった言葉や、購入意向と最も結びつきが強そうな言葉を見つけ出すことが出来れば、それをパッケージ・コミュニケーションの優先事項とすることも出来ます。
ここでは、文節や文章ではなく、言葉(≒単語)のレベルまで表現を絞り込むのがポイントです。パッケージを通じて表現するので、文節や文章では情報量が多すぎて、到底表現しきれないことが予想されます。定量調査では、言葉のレベルまで絞り込むのは簡単ではないかもしれませんが、定性調査では、比較的簡単に出来ると思います。定性調査では、サンプル数が少なすぎて結論が出せないと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、定性調査で一貫した言葉が見つからない場合は、コンセプトに含まれるコミュニケーション要素が多すぎることを示唆している可能性もあります。コンセプト調査の結果は良くても、人によって気になる言葉や購入意向に繋がる言葉がバラバラになる場合は、裏返すと、バラバラの言葉をすべて伝えきらなければ、コンセプト調査で得られたような購入意向が得られないということでもあると考えられます。
現実の開発では、コンセプトを作成し、そのまま定量調査で評価してしまうことも少なくないと思いますが、棚の前で生活者が商品を選ぶプロセスを鑑みると、コンセプトの強みを深く理解することも、重要なことではないかと思います。
4.まとめ
前回に続いて、第1の「真実の瞬間」であるFMOTを、お店の中での生活者行動の視点から、さらに深掘りして考察しました。生活者の「気づく、手に取る、カゴに入れる」プロセスに沿って考えると、パッケージデザインやパッケージを通じたコミュニケーションの優先順位の設定も可能になります。その伝えるべきことを見つけ出すためには、コンセプトを深く理解することも重要になります。また、ブランド力が「手に取る」に与える影響も少なくないことも推察出来ました。生活者視点を持つことで、様々なマーケティング活動がFMOTで一つになることも、ご理解頂きやすくなるのではないかと思います。
※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介したパッケージデザインの考え方や商品コンセプトの深掘りにご興味のある方がいらっしゃいましたら 、弊社HPを通じてご連絡頂くか、営業担当までご連絡ください
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