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実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム ~第8回 生活者の製品使用量が市場規模を変える

本連載は、一般的なマーケティングフレームを、生活者の意識や行動と結びつけて捉えなおそうという試みです。STPや4Pなど、マーケティングフレームは比較的シンプルで、理解が難しいものは多くないと思いますが、実務での活用を難しく感じられる方は少なくないかもしれません。生活者の意識や行動を理解することは、マーケティング・リサーチの役割です。生活者を中心に、マーケティングフレームとマーケティング・リサーチを紐づけて考えることで、読者のみなさまのマーケティング活動が、より効果的に、より高い価値を生活者にお届けできるようになれば、という想いでお届けしています。

第6回第7回では、第1の「真実の瞬間」であるFMOTに関して、「見つける」と「比べる/選ぶ」について書かせていただきました。
第8回では、第2の「真実の瞬間」、SMOTについて、定性的な生活者理解の視点から、考察していきたいと思います。

1.生活者が製品を使用するから、市場が形成される

図1は、生活者がチューブ入りの調味料を使っている写真です。生活者が製品を購入する理由は様々ですが、日用消費財の場合、製品は使用するために購入されると考えられます。調味料の場合、使用している製品が無くなったり、無くなりそうになったりすれば、次の購入を検討するのではないでしょうか。ここで、生活者が調味料を50g購入すれば、容量ベースの市場は50g増えますし、購入を止めてしまえば市場は増えません。

このように考えると、容量ベースの市場は、生活者の製品の消費量によって決まるとも言えます。例えば、ある時点で1回当たり1g使っていた調味料を、生活者全員が1回当たり1.1g使うようになれば、容量ベースの市場規模は現時点比110%に増加します。

図1

生活者は、購入した製品を使用する

2.市場全体が伸長すれば、売上も伸ばせる

日本市場は縮小していくので、事業者が生き残っていくためには、競合からシェアを奪わなければならないと考えるかたがいらっしゃいます。その考え方が正しいのか、正しくないのかは誰にも分かりませんが、その前提に「今後その製品を使う生活者の数は増えず、1人の生活者が1回に使う製品の量は変わらず、その製品を使う頻度も変わらない」ということがあるように思います。一方で、生活者全員がほぼ毎日使うような製品はそれほど多くないことを考えると、使用する生活者数や、使用頻度・使用量を増やすことでビジネスを伸長させる可能性のある製品は、たくさんあるとも言えそうです。

図2は、ある生活者の、ある食事のシーンを切り取ったものです。大根と鶏肉の煮物や、お味噌汁、お漬物など、おいしそうなメニューが並んでいます。このシーンを使って、醤油ビジネスについて考えてみたいと思います。

図2

生活者中心に考える美ビジネスの成長機会

この日のメニューで、調理後に醤油を使うのは「ほんの数滴、ほうれん草のおひたしに垂らす」くらいかもしれません。ここから醤油の使用量を増やすためには、大きく2つの方向性があります。1つは、ほうれん草のおひたしに垂らす量を増やすこと、もう1つは、醤油を垂らさないお料理にも垂らしてもらうことです。

生活者に対して、ただ「醤油をたくさん使ってください」と伝えても、普段の食事の行動を変える生活者はほとんどいないと思います。それどころか、 醤油をたくさん垂らしたら料理のおいしさを台無しにしてしまう、塩分を摂り過ぎてしまって体に良くない、といったネガティブな想起をさせてさえしまうかもしれません 。醤油をたくさん使って欲しいのは事業者の都合で、生活者にとって醤油をたくさん使うメリットが感じられないのが、その理由の1つと考えられます。例えば、おひたしに普通の醤油ではなく、「出汁醤油」をおすすめしてみるとどうでしょう?出汁の味を楽しむために、普段以上に、醤油を垂らしてもらえるかもしれません。出汁醤油であれば、お漬物にも垂らしてもらえるかもしれません。ここでの発想のポイントは、「生活者と事業者の間で、Win-Winの関係を作る」ことにあります。 生活者により良い製品体験を提供した結果として、製品の使用量も増えるという考え方です。

このようなお話をすると、他社ブランドとの差別化を気にされる方がいらっしゃいます。出汁醤油は、自社も他社も大きく変わらないので、結局シェアを奪うことはできないのではないか、といった感じです。しかしながら、生活者中心に考えると、そうとも言い切れないかもしれません。生活者は、出汁醤油を味わうためではなく、食事を楽しんだり、料理をより引き立てるために使っている場合が多いと思います。そうすると、同じ出汁醤油でも、製品特徴について訴求するブランドと、生活者の便益に合わせた訴求をするブランドでは、違ったものとして捉えられる可能性も十分にあると考えられます。

3.生活者インサイトと製品特徴を結びつける

生活者と事業者の間でWin-Winの関係を作るためには、生活者を1人の人として理解することが重要であると考えます。生活者理解の糸口として「なぜ、おひたしに醤油を垂らすのか?」から考えます。インタビューなど 定性調査で、その問いを生活者に投げかけて、明確な答えが返ってくればラッキーかもしれません。生活習慣になってしまっているような無意識的な行動については、生活者自身もその理由を答えられない場合もあります。

そのような場合、定性調査では「醤油がこの世の中から無くなったらどうする?」という問いかけをすることがあります。この問いかけの意図は「醤油の役割」を言語化してもらうことです。「醤油の役割は何ですか?」と問いかけても良いのですが、普段、そのようなことを意識していない生活者にとっては、答えづらいと感じてしまう可能性が低くありません。普段の生活を想起しながら答えてもらうのが、この問いかけのポイントになります。

その問いに対して、代替品を答えてもらうこともよくあります。醤油で叶えることができ、かつ、代替品でも叶えられることが、醤油を垂らす主な役割であると解釈することができます。醤油で叶えることはできるが、代替品では叶えられない役割は、醤油ならではの役割と考えられます。例えば、塩で代替した場合、塩味を加えることはできるかもしれませんが、おひたしの出汁の香りを引き立てるのは醤油でなければできないかもしれません。そうすると、「出汁の香り」をより引き出すための提案ができれば、醤油の使用量が増え、市場が拡大する可能性が見えてくると考えられます。

図3

代替品との共通点を探してみる

3.まとめ

第2の「真実の瞬間」であるSMOTを、生活者中心に捉えてみました。生活者が製品を使うという行動の結果が市場形成であると考えると、生活者がよりたくさんの製品を使用することで、市場は拡大すると考えられます。生活者の行動がほんの少し変わることで、市場は大きく変化する可能性があります。生活者の行動を変えるためには、生活者にとっての便益を伝えることが重要で、それは、生活者との対話を通じて、製品の持つユニークな役割を理解することから始めることができます。

※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介したSMOTの考え方や生活者視点での製品の役割理解にご興味のある方がいらっしゃいましたら 、弊社HPを通じてご連絡いただくか、営業担当までご連絡ください。

著者プロフィール

平井 公一 株式会社インテージ マーケティング企画推進部 プリンシパル・コンサルタントプロフィール画像
平井 公一 株式会社インテージ マーケティング企画推進部 プリンシパル・コンサルタント
大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

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