2030年 生活者のライフスタイルは?~インテージ未来レポート シナリオ1
様々な社会課題がある中で、その解決手段として期待される各種データや先端技術の活用。
2030年の未来を考える~インテージ 未来レポート 序章でお伝えした通り、インテージグループでは、現状分析や先端技術動向を踏まえた未来予測と社会変化から、バックキャストで今後必要となる技術を検討する「インテージグループ未来レポート」を作成しました。
ここからは、このプロジェクトで描いた4つの未来シナリオのうち「生活者のライフスタイル」に関するシナリオと共に、その背景にある変化と技術動向について解説します。2030年、私たちのライフスタイルはどのようになっているのでしょうか?想像してみたいと思います。
2030年の未来シナリオ~春の息吹
2026年、日本政府は、企業が化石燃料を使用したモノの製造と廃棄処分、化石燃料由来のエネルギーの使用、また化石燃料を用いての廃棄物の焼却処分に課税する法案を可決した。さらに、こうした行為を故意に大量に行ったり、長期間続けたりした企業にはペナルティーが科されることになった。
交錯する期待と不安
2030年までの温室効果ガス排出量の削減目標達成が危ぶまれる中、2025年に行われた主要7カ国(G7)首脳会議で、自国内で一段と削減を促進する政策導入に合意した。これを受けて、日本政府は産業界と急ピッチで議論を重ね、翌年に冒頭に記した法案を可決した。法案可決の翌日の日経平均株価は、前場は生産活動の大幅縮小やコスト高を懸念して製造業を中心に幅広い銘柄が売り込まれて暴落したが、後場に入って持続可能性を支持する機関投資家などから買いが入り暴騰に転じた。期待と不安が交錯する中、日本経済は歩みを進めた。2030年、日本の経済構造は大きく変貌し、新たな息吹が芽生えつつある。
今年22歳になる私は新社会人として4月から働き始めている。故郷の大学を卒業後、初めて上京した。多くの会社がテレワークを行う中、就職した会社はいまどき珍しく、入社後1年間は東京本社オフィスに通勤することになっていたためだ。
遡ること3月、東京配属を母に伝えると心配そうに「上京するなら生活に必要なモノを揃えないといけないわね。私が大学生のときはテレビ、冷蔵庫、ベッド、PCなどを購入したものよ。ネットで買うわけにいかないし、今週末に父の車で買い物に行かない?」と言った。「ありがたい申し出だけど、そうしたモノを買う気はないよ。最近、多くのモノの価格が高いし、廃棄費用も多く徴収される。一生使うならまだしも数年の利用ならこの方がお得だよ」と言って、母に1枚のチラシを渡した。
チラシには「【スマートウォッチが1台あれば、新生活はばっちり!】新社会人生活オールインクルーシブプラン」と銘打たれていた。「2年前にサービスを開始以来、利用者が急増中なんだ。生活に必要なモノを自ら選ぶものの、実際に買う必要はなく、あくまで利用する権利を購入するだけでいいんだ。利用終了の際は、購入した企業や他の消費者に利用権を売却することもできる。製品の利用権の購入および売却後の収支と、実際に製品を購入して廃棄する費用を比べると、前者の方が約半額で済むんだ。化石燃料由来の製品を購入すると課税されるのでなおさら高くなる。」
さらに説明を続けた。「このサービスが画期的なのは、利用者の信用やモノの利用状況によって利用権の価格が変動し、うまく使えば、購入時より高く売却することも可能なんだ」。
それを聞いた母は咄嗟に「本当?詐欺じゃない?」と聞いてきた。
「最初は僕もそう思ったよ。でも、違う。省エネ、環境負荷や食品ロスの低減に貢献するなど、世の中の社会課題を解決するような使い方をすればするほどポイントが溜まり、それが利用権の価格に反映される仕組みだ。さらに貯めたポイントは個人信用スコアにも反映される。良い使い方をすればするほど、個人の信用が“資産”のように高まっていくんだ。」
母は「私たちの時代はモノを所有すればするほど資産になったけど、今はその逆ということね。モノを大切に使って効果的に循環させることが大事なのね。その考えはもっともだし、地球や人類の存続に必要なことも分かっているわ」と納得したようだった。
個人信用スコア
4月、新生活が始まった。オールインクルーシブプランで始めた生活は快適だ。利用状況に応じてポイントがつくと、それがリアルタイムで売却価格の上昇や個人信用スコアに反映されるので、もっと良く使おうというモチベーションにつながる。また貯めたポイントは一定のレートで日本銀行が発行するデジタル通貨「yen」への交換も可能だ。新鮮なのが、個人信用の考え方だ。これまでは人間のステータスを資産などで決めていた側面が強かったが、今後は自らの振る舞いや行動が評価される。親は理解できないかもしれないが、資産やモノへの執着がない私には好ましく、新たな時代の息吹を感じる。
8月のお盆休み、私は地元に帰省した。2つのリアルイベントに参加するためだ。1つは女性3人組テクノポップユニット の「Perfume LIVE 2030」を母親と一緒に参加すること、もう1つが高校時代の友人と行うスマートテニスへの参加だ。
2030年、ネットワークやCPUの高速化、メタバースやXR技術の進化でリアルとバーチャルが融合した高度なコンテンツを体験できるようになったこともあり、仕事の多くをサイバー空間で行い、リアルですることは減っていた。一方で急速なサイバー化の反動のせいか、音楽やスポーツなどの臨場感あるイベントは、家族や友達などと「ライブ(生)&フィジカル(肉体)」で体験したいという欲望が高まっていた。
ライブ前日、母は興奮した様子を隠し切れない。「明日のライブはコロナ禍にあなたと行った2021年polygon wave以来。今も現役とは思わなかった。すごい楽しみだわ」。私も「昔からPerfumeはVRやMR技術を駆使し、彼女たちのパフォーマンスと映像が調和し、未来的で好きだった。今の技術だとどんなスゴイことになっているんだろう」。翌日、私と母はライブを堪能した。思いもよらない新技術の活用と大胆なアイデアでまさに脱帽したが、ネタバレになるので書くのを控えたい。
思い出の地
Perfumeライブの翌日、高校時代のテニス部の友人が集まって「スマートテニス」に興じた。eスポーツを拡張したもので、リアル空間に仮想のテニスコート、テニスプレイヤー、ボールなどをCGで再現し、人間はボールに向けて走り、手に持ったラケットでスイングして本物さながらのテニスができる。その日、私は勝つ秘策を用意していた。ボーナスとPC利用権を売却した資金でプロテニスプレイヤーのアルカラスのストロークを記憶して再現できる「バイオニックグローブ・アルカラス2029」を購入したからだ。アルカラスは2029年のグランドスラムタイトルをすべて獲得し、その記念に限定発売された。
私の思惑通り、圧倒的なストロークで勝利した。友人は「卑怯だぞ」と苦笑いしたが、「ありがとう。また“この地”でやろうぜ」と笑った。この地とは、私たちがかつて通った学校があり、テニスコートがあった場所だ。人口減少で卒業後に廃校となり、空き地として放置されていたが、芝生が敷かれ、CG投影可能な白壁を設置して以来、スマートスポーツのメッカとなった。盛況ぶりに自治体は再興の目玉として検討。生産縮小や人口減少を乗り越えた地方都市に新たな息吹が芽生えつつある。
生活者のライフスタイルを取り巻く動き
前章でお届けした2030年のライフスタイル。まとめるなら「消費の制約により、生活に必要なモノは“所有”から“利用権利の売買”に移行。データ活用とIT技術で、モノや場所に縛られず自由でハッピーな暮らしへ。」といったところでしょうか。
このシナリオに至った背景には、カーボンニュートラルの課題があります。2050年にカーボンニュートラルを達成し、地球の気温上昇を1.5℃に抑えることは人類社会の持続可能性を高める最重要課題となっています。そのためには2030年までに温室効果ガスの排出量を2010年度比45%削減する必要がありますが、2020年末時点の各国の削減目標の合計はわずか1%未満と危機的状況にあり、達成のためには企業と生活者はお互いが協力してビジネスや消費のあり方を抜本的に改める必要があります。
そこで必要だと考えられるのが、生活者にインセンティブのある、新たなシェアリングエコノミーモデルの構築です。企業が需要以上にモノを作り、生活者も所有欲を満たすべく商品を買い漁る。そうした悪循環を断ち切るべく、2030年前後には、世界各国の政府はカーボン排出量の多いモノの購入や廃棄、エネルギー消費に対して大きな制約やペナルティーを課すと思われます。
インテージグループは、成熟した日本の国民が豊かに暮らす方法として、家や自動車、家電など生活に必要なモノを“所有”するのではなく、“利用する権利”を持つライフスタイルへの移行を提案します。モノの利用状況が良ければ、“利用権”を高値で売却できるインセンティブを付与するなどして定着を図る。その結果、企業の生産活動低下によるカーボン削減とデジタルサービス消費拡大を中心としてGDP(国内総生産)の維持の両立を目指せるでしょう。
このライフスタイル移行のカギを握るのが生活者データの活用です。自動車保険のように、生活者の利用状況履歴などが蓄積され、その評価に基づいて、所有権の売却や他のモノの所有権の購入の値付けが変わります。一物一価ではなく、生活者ごとに一価がつくイメージです。
エネルギー消費の制約も厳しくなる中、出張や旅行などの移動の制約も課されるでしょう。しかし、ネットワークやCPUの高速化、メタバースやxR(VR、AR、MR)技術などの進化でリアルとバーチャルが融合した高度なコンテンツを体験できるようになり、リアルの壁を乗り越える。その結果、仕事や家族の生活などで住む場所が制約されることは薄れ、より場所に縛られない自由な暮らしを志向するようになることで、人口減少に悩む地方都市や過疎地域の再興が期待できます。
これらの考えられる変化を描いたのが先ほどのシナリオです。これから起こりうる近い未来として想像できたでしょうか?
このように、モノの“所有”から“利用する権利の売買”に移行することで起きうる生活の変化、そして求められるサービスについてまとめた のが下の図です。
“利用”へのシフトにより、人の暮らしはより自由になり、その“自由”を支えるプライシング機能や提供サービスが求められるでしょう。
また、これらを実現するためには、データによって生活者の行動と利用について “記憶”と“記録”をし、そのデータがサービス利用時の“信用”や最適な利用を見出すための材料として活用されることが求められます。
このため、下図のようなサービスが進むことが想定されます。
おわりに
カーボンニュートラルの実現に向けて、様々な施策が求められる中、生活者のライフスタイル変化も待ったなしとなっています。その変化を生活者にとってポジティブなものとし、推進していくうえで求められる「高度なデータ活用」。
インテージグループでは、今回のレポートをベースに、果たすべき役割の検討を始めています。「高度なデータ活用」による未来づくりに貢献すべく、これからも研究・開発を進めていきますので、ご興味があれば是非お声がけください。
次回は企業のマーケティングをテーマとした未来シナリオをお届けします。
【インテージグループ未来レポートとは】
2030年の未来に向けた社会変化から取り組むべき課題を検討することを目的に、インテージグループR&Dセンターで描いた未来予測レポート。生活者、企業、街、医療の4領域を予測し、SFプロトタイピングの手法により、バックキャスティングで必要となる技術を描き、研究開発テーマとして検討を進めています。
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