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2030年 企業のマーケティングはどうなる?~インテージ未来レポート シナリオ2

様々な社会課題がある中で、その解決手段として期待される各種データや先端技術の活用。2030年の未来を考える~インテージ 未来レポート 序章でお伝えした通り、インテージグループでは、現状分析や先端技術動向を踏まえた未来予測と社会変化から、バックキャストで今後必要となる技術を検討する「インテージグループ未来レポート」を作成しました。

この記事では、このプロジェクトで描いた4つの未来シナリオのうち「企業のマーケティング」に関するシナリオと共に、その背景にある変化と技術動向について解説します。
2030年、企業のマーケティングはどのようになっているのでしょうか?想像してみたいと思います。

2030年の未来シナリオ~ソサエティ5.0

※「2030年の未来シナリオ」は、インテージグループR&Dセンターが想定したフィクションです。

温室効果ガスの大幅削減と人口減少に対応するためビジネスモデルの転換を余儀なくされている日本企業。モノの生産を最低限に抑え、在庫も極力抱えないシェアリングモデルに移行しつつ、収益を拡大し、SDGsなど社会課題解決への貢献も求められる。これらを実現するカギとなるコンセプトが「ソサエティ5.0」だ。

デジタルツイン革命

ソサエティ5.0は、政府が策定した第5期科学技術基本計画(2016年度~2020年度)の中で、未来社会のあるべき姿として掲げたコンセプトである。具体的には「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」(内閣府)を指す。

ただ、最近までソサエティ5.0の実現には懐疑的な見方をする企業が多かった。理由は、仮想空間と現実空間を高度に融合させることが技術的に難しかったのと、ビジネスにおいて推進する具体的なシナリオを見出しにくかったからだ。しかし、その突破口となった技術がある。現実空間のデータ集合をデジタル空間に写像し、サイバー空間の中に現実空間をあたかも「双子」のように再現し、シミュレーションやそれに基づいて予測などを行うデジタルツインである。

デジタルツインは、2020年代前半までは製造プロセスや金融取引など、ロジックやルールが比較的シンプルな分野でしか実用化されていなかったが、2020年代後半になって高度な量子計算技術や量子AIが実用化され、気候変動や自然災害の予測、都市交通網の監視や制御といった複雑なシミュレーションを行うことが可能になった。ビジネス分野においても生活者のニーズや心理、天候や気温、広告など様々な要因が複雑に絡む企業のマーケティング活動などに適用できるようになったのだ。

需要予測がビジネスの要

「当社の株式時価総額がついにニホン自動車を抜いて1位になりましたね」とデータサイエンティストとして働く私は興奮のあまり思わず声を荒げた。上司も「私もこのビジネスを始めた時は全く想像していなかったけど、今になったらよくわかるわ。だって需要予測こそがビジネスの生命線だもの」と笑顔で言った。

私が勤める会社はデジタルツインを活用したマーケティングプラットフォームを提供している。現実世界の様々なデータをサイバー空間に写像して構築し、そこでクライアントが販売を計画する商品やサービスの需要予測シミュレーションを行う。この結果に基づいて販売やシェアリング、プライシング、在庫管理などのプランを提示するのだ。クライアントは提示されたプランを現実世界で実践し、実践して得られたデータや知見をサイバー空間に学習させて、需要予測の精度をより高める。

上司「やはり国内シェアナンバーワンのクライアントでも、クライアントのデータを投入するだけでは需要予測の精度はイマイチ上がらないようね。過去のマーケットに合わせようと過剰に最適化されたカーブフィッティングが原因かしら?」

「はい、主因の1つだと考えます。未来は過去の延長線上にないにもかかわらず、予測モデルを過去データで最適化すると予測精度は低下します。もう1つは投入データの種類が少ないことですね。弊社が蓄積している関連商品の生活者パネル調査データを学習させて、さらにSNSコメントをテキストマイニングした分析結果を需要予測モデルに反映しました。これらの施策によって、今よりもっと高感度でビビットな需要予測ができると思います。」

上司「さすが当社で一番優秀と噂されるデータサイエンティストね(笑)。クライアントは喜ぶと思うよ。」

「需要予測で最も難しいのが、生活者心理シミュレーションとそれを予測モデルに組み込むことです。人間は感情の生き物で、生活者の心理や欲求は移ろいやすいもの。需要予測の精度を高めるためにやるべきことはまだまだあります!」

その晩、私は上司と馴染みの焼き鳥屋の暖簾をくぐり、ささやかな祝杯を挙げた。「さすがに私たちが今晩焼き鳥屋に行くニーズを予測することは、当社のプラットフォームでも難しいですね。」と2人は苦笑いした。

翌日「Cybermic」のトップニュースで、当社の株式時価総額が1位になったことが取り上げられた。そこで「GOTO」の愛称で慕われているトップアバターアナリストによる解説があった。「この会社が株式時価総額トップになった理由はデジタルツイン事業以外にもあります。それは、サイバー空間に様々なデータを投入した結果、サイバー空間自体の付加価値が高まったことです。投資家は、今後はデジタルツイン事業の収益に加えて、サイバー空間で行う新事業が伸長したり、サイバー空間を社会課題解決のプラットフォームとして活用することで社会的価値も上がったりすることを期待しているのでしょう。」

「仮想」が「現実」を変える

「サイバー空間で構築したSDGs解決プラットフォームにアクセスが殺到しています。昨日から始めた『ARIGATO  CHIKYU』キャンペーンに参加するアバターが押し寄せているからだと思います!」
ARIGATO  CHIKYUキャンペーンは、政府や地方自治体、企業や学校などの“超党派”が推進する個人のSDGs活動を支援するプログラムだ。3年前からリアルを中心に行われていたが成果が出ず、今年は当社のサイバー空間で実施することになった。

上司「なぜ、そんなにアクセスが殺到しているの?」

「昨日GOTO氏が当社を紹介したことによるアナウンス効果に加えて、環境問題に熱心な自治体や住民が使うアプリ『CO2家計簿』や、フレイル予防のために高齢者やその家族が使う『ふれいゆ』などで大々的に告知したこともあるでしょう。

上司「それにしても、ここまでサイバー空間にアバターが集結するなんて」

「サイバー空間ならではの試みとしてSDGs活動をしたくてもできない、例えばフレイル高齢者に対してSDGs活動の実施権を、現実世界で実際に活動できる人に供与できる仕組みを導入しました。活動後に得られるポイント(報酬)は実施者に加えて、実施権を供与した人にも付与されます。また実施した活動データをサイバー空間に写像することで、実施権を供与した人もサイバー空間上で活動後の状況を見られるので貢献実感が持てる。無数のハッピーな気持ちがサイバー空間を駆け巡り、多くの人に伝播したのだと思います。」

サイバー空間で広がった輪が現実を変える。ソサエティ5.0が掲げた社会の到来は間近だ。

企業のマーケティングを取り巻く動き

シナリオ1でもお伝えした通り、2050年のカーボンニュートラル達成に向けては、2030年までに温室効果ガスの排出量を2010年度比45%削減する必要がありますが、現状の経済モデルでは極めて厳しい見通しとなっています。この対策として、インテージグループでは、生活者がモノの所有を減らし、利用権を売買するシェアリングエコノミーへの移行を提唱しています。
政府も「カーボン削減や人口減少期に対応するため、従来のモノづくり中心の経済から、シェアードエコノミーを活用したサービス重視の経済(サーキュラーエコノミー)への転換(デジタル庁)」を訴えています。この実現のために、企業のマーケティングの未来像はどうあるべきなのでしょうか。

企業がカーボン削減のためにモノの生産や輸送エネルギーを減らしつつ、利用権を売買するビジネスモデルに移行する上で欠かせないのが、生活者ニーズの高度な予測です。生活者が何を、いつ、どこで、どのように消費したいかなどの需要をリアルタイムに予測・分析する必要があります。需要予測を基に供給を最適化したり、需給バランスに応じて適切なプライシングに変動したりすることで、高い稼働率と顧客満足の両立が実現できます。モノの生産や販売が減ることで、企業の売上は一時的に減少するかもしれないですが、需要超過分の廃棄や輸送の無駄が減り、高稼働と顧客満足の両立によって収益はむしろ拡大が見込めます。その収益を再投資したり従業員に還元したりすることを通じて、企業の成長性は高まるでしょう。

需要予測とそれに基づく供給、プライシングを行うために必要な技術として、現実世界の環境を仮想空間に再現する「デジタルツイン」を活用したシミュレーション運用があります。現実を反映した仮想空間で行ったシミュレーション結果やその分析に基づいたプランを現実で実践し、そこで得た結果を仮想空間にフィードバックすることを繰り返して、高稼働と顧客満足の両立や、収益拡大を目指せます。

企業が運用する需要予測や供給・価格等のデータは、自社のバリューチェーンにある企業はもちろん、その一部を競合企業とも連携することで、生産や在庫管理の全体最適が行われるでしょう。また政府が、企業が保有する民間データの連携や共有を積極的に進めることで、国を挙げてのカーボン削減目標の達成や人口減少期の経済発展の計画策定に役立て、持続的な経済発展が推進されることが期待されます。
これらの考えられる変化を描いたのが、先ほどのシナリオです。

改めて、2030年の企業のマーケティングにおける着目点を整理してみましょう。需要予測と価格設計が重要となる中、デジタルツイン技術を活用し、現実の商空間を仮想空間上に再現して需要シミュレーションが行われるでしょう。さらに、個人の許諾を得たうえでの情報提供とデータ活用が進み、個人の信用(将来的な利用パターン・リスク)評価モデルの構築が、個人による情報信託に配慮して実現されることが求められます。

2030年企業マーケティングでの着目点

おわりに

カーボンニュートラル実現や人口減少期での経済活動のためには、新しい技術を用いた「高度なデータ活用」によるシミュレーションと施策検討が必要になります。インテージグループでは、今回のレポートをベースに、果たすべき役割の検討を始めています。「高度なデータ活用」による未来づくりに貢献すべく、これからも研究・開発を進めていきますので、ご興味があれば是非お声がけください。

次回は街づくりと生活者のウェルビーイングをテーマとした未来シナリオをお届けします。


【インテージグループ未来レポートとは】
2030年の未来に向けた社会変化から取り組むべき課題を検討することを目的に、インテージグループR&Dセンターで描いた未来予測レポート。生活者、企業、街、医療の4領域を予測し、SFプロトタイピングの手法により、バックキャスティングで必要となる技術を描き、研究開発テーマとして検討を進めています。

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