暮らし先読み、後読み予報~生活リズムの予兆を<n=1>から見る(13)~顧客価値の継承と使い切ることの重層化~
モノが持つ生涯価値の継承
前回はあと一ヶ月ほどで出産を迎えることになる、30代後半のプレママさんの例を通して、「生涯顧客価値」のことを考えてみた。このLTVという考え方には二つの面がある。一人の顧客の生涯という長い「生活文脈」に、その企業やブランドがどのように関り続けることができるのかという面。もう一つは、複数の顧客の暮らしに対して、そのブランドやモノが継承的に寄り添い続けられるか、ということになる。
彼女がもうすでにゲットすることになったエアバギーというモノは、彼女が二代目の顧客ということになる。これもLTVということのもう一つの重要な面といえる。
このエアバギーというモノが、さらに三代目の顧客にその価値が伝承されていくことになるのかは未知数だが、その予感は十分にある。最初の顧客接点では9万円という価格対価であったものが35,000円で価値転移している。たとえば3年後に思ったほどの利用がなかったということで、たとえば1万円で譲られていくこともある。メルカリという仕組みは、こんなLTVの継承、価値転移をサポートする道具になっている。
出産から子育てという時間軸の中で、直近焦って準備しなければならない訳ではないエアバギーをゲットしたという所に、生涯価値の転移のモチベーションが現れている。彼女たち自身がそれを予測しながら選択しているからだ。そしてさらに、同時期に彼女はベビーチェアを、狙いすましたようにゲットしている。
メルカリに万能を求めてはいない
生活スタイルがテーブルとイスの組合せが当たり前になった彼女たちにとっては、ベビーチェアはやはり不可欠なのである。ただ一人座りができるようになってから使用されるものなので、まだまだ1年は焦る必要はないといえる。
ベビーチェアとはいえ、補助のテーブルとプロテクターによりベビー(赤ちゃん)の時間の使用から、それをはずしてキッズ(子ども)の時代になっても、高さを変えて使い続けることができる。
彼女たちの世代ではこのアイテムは必須なようで、その中でもストッケが人気である。実際2人の子育て中の姉のところではストッケが大活躍している。
そんな先輩ママのスタイルから学んでいるので、自分の子育てのイメージの中でもこれを使おうと決めていたのだ。姉の家のストッケのチェアは現役で活躍中なので、ちゃっかりと譲り受ける訳にもいかないし、彼女の家のインテリアの感覚からいって、もっとシックなものを探していたのである。
そんな中で彼女が狙いをつけていたのが、サイベックスのレモチェアのスタニングブラックだった。もうこれ一本に絞っていたといってもいい。実際に店舗で陳列品を見て確かめてもいるし当然メルカリでもサーチしていた。ところが、入荷予定なしという状況の中で、メルカリでは39,000円の正価よりはるかに高い値段で出ていたりもしていた。これに狙いは絞ってはいるが焦ってはいないので、この店舗のオンラインの方に入荷未定だったのが入荷したということで、即正価でゲットすることになったのだ。
すでに荷物は到着しているが、梱包のまま出番を待っている。
「イングリッシーナ」はお古を使い切る
将来このベビーチェアならば、自分と同じような感覚と価値観の持ち主がいるはずなので、また次の二代目、三代目の顧客に価値転移できていくはずだと考えているようである。ある意味リセールというLTVを念頭においた選択だといえる。
とはいえ、目先の子育て時間軸でいうと、抱っこ紐はすぐに必要である。早々とゲットしたレモチェアが実際に利用されるより前に、必要で活躍してもらわなければならないものはたくさんある。
たとえばまず首がすわって一人座りができ始めれば、床置きで使うバウンサーもあった方がいいだろうし、ダイニングテーブルに着脱して使うテーブルチェアもいることになる。
抱っこ紐は親友の出産祝いにあげたエルゴベビーに再登場してもらうことになるし、テーブルチェアは姉のところの子供たちが使っていたイングリッシーナのモノがある。
これもまだまだ使えるし、とはいえメルカリに出品してまで処分しようとは思っていなかったので残されている。このテーブルチェア自身の顧客価値に対して与えることのできる生涯価値はまだまだ十分に残存しているのだ。いいモノはいいのだから、リセールではなくリサイクルさせればいい。バウンサーも残っていたけど、もう今回使用すれば寿命は尽きるかしらと思いつつ、最後のご奉公をお願いするつもりなのである。
生涯価値という視点の希薄化
30代後半という、ある意味高齢出産にはなるので、子供はこれで終わりだろうから次の子供でも使えるようにしようといった家族内でのLTVはもう考えようはない。
その意味では別の顧客に共感共有による価値継承ができていけばと最初から「生活文脈」の中では折りこみ済みなのである。経済行為としてみればリセールということになるが、LTVの継承ということでもあるのだ。
顧客である彼女や、彼女の姉や、友達の中でその文脈が成り立っている。少子化という社会がうまく活用されているともいえる。その一つの代表的な仕組みがメルカリなのだ。
このレモチェアのベビーチェアをゲットしてからすぐに、彼女は次に車用のチャイルドシートを手に入れることになった。
このグッズも実際に必須になるのは6か月以上先のことではある。しかし、出産後はそこまで手がまわらなくなる予感もあるので、まだそこそこ動けるうちに準備しておこうということで、早手回しで選択完結したことになる。
ここでも実際の購入行動ではメルカリが最大限活用されている。ジョイ―(joie)の360度回転チャイルドシートで、正価では25,000円するものを12,000円で購入することになったのである。この選択ではさらなる次の顧客への価値継承などということは計算されていない。
価格が狙い目の「生活文脈」
ある意味、自分がこのモノの最後の顧客になるだろうというつもりなのである。機能として満足できるものを、できるだけ安く手に入れる、さらにリセールすることは全く念頭にはなく、使いたおして処分するという文脈で選択決定されているのだ。
自分自身の暮らしのスタイルでは、車での利用シーンが相当多くなるという予測をしている。同じように車利用での子育て経験者のアドバイスなどで360度回転などの機能を優先させた。
逆にこんな文脈が頭にあるから、むしろベビーバギーは実際はそれほど利用しないかもという予感もある。だからこそ、ベビーバギーについては次の顧客への継承の可能性も考えてエアバギーにしているといってもいい。
ちなみにこのジョイ―のチャイルドシートは、現物の販売をしている取り扱い店舗まで足を運んで実際にさわっているし、店頭でのアドバイスもしっかり確認している。だがその店舗では買ってはいないし、その店舗のオンラインでの購入もしていない。
ここではメルカリが最初から購入ポイントとして設定されていたのである。
この点では狙い撃ちで買うことになったレモチェアのテーブルチェアとは物語の帰結の仕方が違っている。
このように、それぞれの「生活文脈」を丁寧に追いかけていかないと、それぞれの選択から購入までの使い分けにある本当のことを見落としてしまうことになる。
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