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暮らし先読み、後読み予報~生活リズムの予兆を<n=1>からみる(16)~データから人の暮らしをみる ワンプレート、みそ汁~

ワンプレートスタイルの食卓

今回は2つの食卓シーンの紹介から始めよう。

この2枚の写真は、私たちがフォトハンティングという形で日常的にチェックしているものから選択してある。なお、どちらも同じ家族の夕食の食卓シーンである。

1枚目は、小学生と保育園児とママの三人が囲んでいる晩ごはんである。典型的なワンプレート型の食卓シーンだ。この食シーンは、現在の食と暮らしのあり方の特徴を現わしているものといっていい。カフェめしスタイルという言い方もできる。

様々なメニュー、あるいは食アイテムが、一皿の上に混在しているスタイルであり、主食もおかずも、さらにそのおかずの中も複数のアイテムが混合されているものだ。味覚的にいっても和洋中、その他がごちゃごちゃに並んでいる。

主食に一汁三菜、主菜や副菜などといった古典的なフレームが完全に崩れ去っているスタイルだ。つまりワンプレートですべてが完結しているのだ。結果、洗い物、後片付けが簡略にすませられるという楽チンさにもつながっている。おかげで子育てママや、シニア女性の朝食シーンでは高頻度で登場することになる。

簡便で時短ではあるけれど、心理的にみればワンプレート、カフェめしスタイルということで、むしろポジティブな選択価値につながっていることから習慣化していったのだろう。

蒸し野菜というキーワード

次に2枚目だ。

このワンプレートは“ごちそうスタイル”である。ファミリーワンプレートではなく、一人ずつのワンプレートになっている。選択されているお皿のセンスもグレードも違っている。これはある意味ママの気合が入った夕食だったのである。同じワンプレートとはいいながらも、その心理的背景は全く異なったものになっている。

食材も残り物ではなく、このシーンのためにひき肉から手作りしたハンバーグが核になっていた。 つけあわせの野菜も豊富であり、ハンバーグと比べ、どちらが主人公なのかが分からない。つけあわせという概念、気持ちスイッチの押され方も、古典的なとらえ方とは違うのであろう。

これまで、「生活文脈」を構成する因子として、TPOということを言ってきた。Time 、Place、Occasionということになるが、それに加えて Psychology(サイコロジー)という因子が登場することになる。ワンプレートというスタイルを選択した心理的背景として、どんな気分が後押しをしているのか、というポイントである。

たとえば、時短型ワンプレートではごはんにあたるアイテムについて、①は残り物の炊きこみごはんぽいものであるのに対して、②のごちそうタイプのワンプレートでは、バターライス風のものを丹念に盛っている。こんなところに心理的な気持ちスイッチが、アイテム選択を後押ししているのだ。

定量データとの重層化

この食の実態をまったく別の角度からアプローチしてみよう。ここまでの気づきは、フォトハンティングなどを中心にした暮らしの中での可視化された事象から抽出したものであるが、ここからは定量データに現れているトピックからのアプロ―チである。株式会社インテージには「キッチンダイアリー」という食の実態を定量的に把握したデータがある。蓄積データの詳細は、以下からご確認いただくことができる。

【キッチンダイアリーレポート】コロナ禍における食シーンの変化

【キッチンダイアリー®】
1,260世帯の食卓・調理の状況を食場面(朝食・昼食・夕食)ごとに継続的に捉えたデータです。商品開発のヒントとして、また、流通向けの販促提案情報としてご活用いただけます。

その中に食卓に出現する平均メニュー数(皿数)というデータがある。

コロナ禍の影響を受けた時期を含めて、2017年と2021年の5年間で、食卓に出現する平均メニュー数はゆるやかに減少していることがわかる。

このことは、食卓のワンプレート化が加速していることを現わしているともいえる。 しかし、ワンプレート化は皿数(メニュー数)の減少ではあるが、その中を構成しているアイテム数でみれば増大しているという傾向をみてとることもできる。

その証拠に②のごちそうワンプレートタイプの方の、つけあわせ(もはやつけあわせとは呼べない)野菜をみていると、じゃがいも、いんげんに加えて、キャベツ、アボカドなど極めて多種類になっていることがわかる。

それを一つ一つ数えていけば、アイテム数は増加していることになる。このようにアイテムの複数化が可能になっている背景が、蒸し野菜ということになる。

【蒸す】という一つの調理プロセスで、多様な野菜を加工ができワンプレートの中身の豪華さと楽しさを生みだしているのだ。このワンプレート上の野菜たちは、卓上調味なのである。白トリュフの塩を自分の好みで使うことで、リッチかつ楽しさを増大させることになっている。

この蒸し野菜というメニューが、コロナ禍以降で昼食、夕食シーンで増加、成長していることが、キッチンダイアリーのデータでわかる。

この蒸し野菜という加工方法、メニューは、野菜摂取を増やしたいという健康志向に加えて、蒸し料理の固有の健康性やその簡便さが心理的背景として気持ちスイッチを押しているといえそうだ。この点についてはまた別の機会でとらえたいと考えている。

みそ汁の価値についての気づき

ちなみに1枚目の写真で出てくる“みそ汁”である。①の残り物集合タイプのワンプレートスタイルの食卓の方ではその存在価値を現わしている。別の言い方をすると、この日の食卓のほとんどはアッセンブル(寄せ集め)だったのだが、このみそ汁だけはママの手作りだった。あるいは、このみそ汁というメニューがマグネットとなって、残り物の蓄積が、食卓シーンへと変貌を遂げたということができそうである。

これも同様にキッチンダイアリーのデータでみると、2つのポイントがわかる。

ポイントは、みそ汁というメニューは、そもそも食卓への登場頻度が圧倒的に大きいもだということだ。ただし、この5年間でみるとゆるやかではあるが減少傾向になっている。みそ汁離れが顕著だということができる。とりわけ朝食と昼食シーンで減少している。しかし、夕食シーンではほぼ横バイであることである。ここでのポイントは、先ほどの残り物ワンプレートの【マグネット】としてのみそ汁のあり方と価値である。

それでは、これまで紹介してきた同じ家族の、みそ汁の登場するシーンを3つほど挙げてみよう。

これらの食卓に共通する特徴は、基本的にメニュー数が少ないということである。残り物の利用という側面もあるが、それがワンプレートにならなかったとしても、メニュー数、皿数の減少とそれをマグネットとして支えているように思えるみそ汁の存在価値である。

これをさらに顕著にした傾向がキッチンダイアリーのデータに表れている。

減少している昼食シーンのみそ汁の登場だが、その中で手作りを逆転してインスタントが利用されている。昼食シーンでは持ち帰り弁当の利用などが増えることで、メニュー数、皿数がダウンしている。

その傾向を支える形で、みそ汁が選択されており、しかしながら手作りではなくインスタントが選択されているのだ。メニュー数、皿数減少とみそ汁の果たそうとしているジョブについて、さらに気づきを深めていく必要がありそうだ。

定量的なデータが示していることを、さらに人の暮らしの姿にしてみること。 そしてデータをみることではなく、人の暮らしをみることこそが重要なのである。

著者プロフィール

マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)プロフィール画像
マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)
青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

Marke-TipsちゃんねるURL:https://www.youtube.com/channel/UCmAKND92heGN-InhC0sp7Kw


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