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新しいマーケティングのすすめ(1)

株式会社マーケティングサイエンスラボの本間です。
“マーケティング業務とは何か?”を考えた際、皆さんは何を思い浮かべますか? 今、まさしく行っているマーケティング施策を改善・進化させていくことを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。本コラムでは【今の延長線上ではない「未知」の新しいマーケティングを考えることの重要性もあるのでは?】の視点で連載をしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

最近マーケティングに関する書籍を読みましたか?

マーケターは悩み続けています。市場の変化や仕事の複雑さなど、その理由はさまざまだと思います。書店にはマーケティング関連の本がたくさん並んでいます。多くのマーケターは、悩みを解決する手段の1つとして、少しでも役に立ちそうな何かを探すためにマーケティングの本を読むのでしょう。もちろん私もマーケティングの本を読み、勉強をします。

ところで、マーケティングの本を読む目的は何でしょうか?書籍になっている事柄は過去の事象です。未来のことは予測としては書かれておりますが、未来の答えではありません。つまり、今どのようなマーケティングをすべきかの答えは書籍にはないのです。もちろん、答えは何処にもないのかもしれませんが、少なくとも書籍には、今行うべきマーケティングに関する「考え方」や「整理方法」が書かれているのみです。

私たちマーケターは、常に、先輩たちが考えたマーケティングに有効な「考え方」を活用し、今にふさわしいマーケティングを考え、実行し、そして再度考える必要があります。これが成功すれば書籍になるのでしょうが、書籍になった瞬間に過去のマーケティング事例となり、この事例を参考に、また次の新しいマーケティングを考えるのです。

マス・マーケティングの脱却というが、本当に脱却できているだろうか?

つまり、常にマーケターは、今にふさわしいマーケティング戦略を考えないといけません。ところが、その新しいマーケティングを考えるときに障害となる「こと」があります。それは、過去のマーケティングの大きな成功体験です。

少し具体的な話をします。日本では2008年から人口減少のフェーズに入りました。この頃から、多くのマーケティングの現場で“マス・マーケティングからの脱却”を行おうとし始めました。マス・マーケティングからの脱却は正しい戦略の一つでしょう。しかし、この新しいマーケティングを考え、そして実行する際に、マス・マーケティングの時に重要視されていた市場占有率(シェア)だけでマーケティングの成否を測定してはいないでしょうか?

マス・マーケティングからの脱却とは、大量生産・大量販売・大量告知からの脱却です。その脱却のためには、新しいマーケティングの成否を判定するための、新しい指標も定義しないといけません。例えば、PI(パフォーマンス・インディケーター)の例としては、「LTV」や持続可能性に重要な「利益率」などでしょう。つまり市場占有率は、マス・マーケティングには最適な指標ですが、新しいマーケティングの指標とはならないことがあるのです。

このような指標項目の変化は、マーケティングの成否判定の指標以外にも及びます。市場観察の指標も、マス・マーケティングではユーザーからの認知率などが代表的な指標でした。しかし、マス・マーケティングから脱却すれば、商品やサービスの認知者の数は必ずしも重要とは言えません。ターゲティング・ユーザーの「理解率」、商品利用後の「再購入率」などが市場観察の指標の候補になるでしょう。

つまり、マス・マーケティングからの脱却という、新しいマーケティングを実行する際に必要なのは、マーケティング戦略の検討とともに“マーケティングの現場で使う「指標」も再定義しないといけない”ということです。市場観察の指標も私たちのマーケティング活動の成否判定指標も、行うべきマーケティング戦略と共に変わるはずです。しかし、実際には、マス・マーケティングからの脱却のために変えたことは“マス・メディアの広告を使わない”など、メディア戦略の変更だけで、“マーケティングの現場で活用している「指標」は今まで通り”という企業が多いように感じます。

ちなみに私は過去の指標が今にそぐわない・間違っているとお伝えしたいわけではありません。戦略に基づく指標を設定するところまで考えた上でのPIなのか?という課題提起をしたいのです。戦略が変更されているにもかかわらず、マーケティングで使う指標の再設定を検討しないということは、とても大きな問題だと思っています。そして、日本のマーケティングの進化を止めている大きな要因がここにあると思っています。

今は、新しいマーケティングを考える時期

少し大きな問題に直面した時には、どのような領域でも歴史を振り返ることは有効な手段です。そこで皆さんも良く知っている、フィリップ・コトラー先生の本である「コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則」の52ページを参考にしてみます。このページでは、米国のマーケティングの歴史をまとめてくれています。このページは示唆に富んでおり、私は大好きです。アメリカの市場・社会環境の変化とともに、マーケターが様々なマーケティングを実践し、マーケティングという仕事の変革をし続けた努力を感じられるからです。
例えばベトナム戦争の終了後、都市生活者と農業従事者との間に格差が発生し始めた1970年代。米国では「ソーシャル・マーケティング」や「マクロ・マーケティング」が登場します。そして、生活者の多様性がより顕著になった1990年代には「エモーショナル・マーケティング」や「経験価値マーケティング」が登場するのです。

このような市場、生活者の変化は日本でも起きています。しかし私たちは、新しいマーケティングを考えられているでしょうか。「最近はデジタル・マーケティングを実践しています。」と答える人もいるでしょう。しかしながら私の考えではデジタル・マーケティングは新しいマーケティングではありません。なぜなら、デジタル・マーケティングはデジタル・ツールを使ったマーケティングであり、単に武器がアナログからデジタルに変わっただけのものだからです。ここで述べている新しいマーケティングとは言えないでしょう。

考えるべきマーケティングとは、「戦略」と「戦術」という言葉で言えば、今の時代に相応しい「マーケティング戦略」です。デジタル・マーケティングは、その戦略のもとにデジタル・ツールを使うという「マーケティング戦術」なのです。

アド・テクという戦術におぼれる時代があった

私たちマーケターの多くが、「マーケティング戦略」の思考停止になった理由に、アド・テクノロジー(アド・テク)の登場があったかもしれません。それは、デジタル・マーケティングという戦術を実践し、啓蒙した私の反省でもあります。繰り返しになりますが、アド・テクは「戦略」ではなく「戦術」です。もっと言えば、アド・テクは単なる「武器」にしか過ぎないでしょう。マーケティングという名のもとに、マーケターが知っておくべき重要なこととして、“よく刈り取れる広告”や“安くお客様に出会う方法”が書かれた本やセミナーが乱立していた時期がありました。そもそものマーケティング戦略が間違っていたかもしれないのに、です。

武器に踊らされてはいけません。重要なのはどのようなマーケティング「戦略」を行うかです。そしてマーケターは、この戦略を検討し、会社の経営者と議論する権利を持っているはずです。そういう意味では、私たちマーケターはしばらくこの権利行使を放棄していたのだと振り返ります。

マーケティングは創造的な仕事です。そして、過去のための仕事ではなく、今から未来への仕事です。ぜひ、ワクワクする「新しいマーケティング」を考え、そのために新しいマーケティングの「指標」を定義してみましょう。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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