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新しいマーケティングのすすめ(23)

この連載の名前は、「新しいマーケティングのすすめ」です。皆さんには「新しいマーケティング」を考えてもらうように、これまで多くの情報や考えを提供しました。今回は、それをより詳細に皆さんと考え、「新しいマーケティング」を行うために必要なことを、合わせて考えてみたいと思います。

日本の市場規模は縮小している

まずは、日本市場における、B2Cマーケティングを対象に考えてみましょう。皆さんもご存知のように、日本市場の規模は縮小しています。例えば、人口を見ると下記のような推移になっています。

我が国における総人口の長期的推移

少し乱暴に、そしてマーケターの先輩に叱責されることを覚悟してお伝えします。2004年までの人口が増加している時のマーケティングは今より簡単でした。理由は、市場占有率(シェアー)が増えなくても、売り上げは人口の増加により増えていたからです。

今は、昨年と同じ市場占有率だと、単純計算で売り上げは減ります。もし昨年より売り上げを増やそうと考えれば、より多くのお客様を獲得する。つまり市場占有率を高くするか、販売・提供している商品・サービスの単価を上げることになります。

日本市場には多様性が存在している

そこで多くのマーケターが考えるのは、この景気が良くないときに単価を上げることではなく、商品の改良や、マーケティング・コミュニケーションの実行による、市場占有率の増加という作戦ではないでしょうか?そして、多くのマーケターの先輩たちが、「昔は市場占有率を高くできたのだから、あなたもできるでしょう!」という根拠のない激励です。

根拠がないといったのは、市場の規模の縮小以外にも、市場の構成要素である、【消費者の多様性】も存在し始めているからです。

「2021(令和3)年 国民生活基礎調査」

このグラフは、厚生労働省の『2021(令和3)年 国民生活基礎調査』の世帯所得の分布図です。この分布図を観察すると、それぞれ異なる感想が出てくるかもしれません。平均所得は、563万円ですが、その500万円以上600万円未満の世帯は、8.3%しかいないこと。100万円以上400万円未満の所得の世帯が多いことなど、さまざまなことに気づきます。

この世帯所得の分布は世帯の生活の結果であり、多種多様な世帯が存在することを意味します。

昭和の時代には、「平均的な家族」や「平均的な生活」という言葉が通じましたが、今はこの言葉は通じないのです。私は、よくこのようなデータを使い、日本市場に「メジャー」はないと話します。それだけ、多様な人が集まり日本市場を構成しているのです。

今まで、市場占有率を高くしようとした場合には、ボリューミーでメジャーなターゲットを、マーケティング・ターゲットとすることで、実行可能でした。しかし、今はボリューミーでメジャーなターゲットは存在せず、その中で市場占有率を高くしようと考えると、さまざまな異なる属性のセグメントに対してマーケティングを行う必要があり、とても難易度の高い行動になるのでしょう。

今までのマスマーケティングと、顧客重視のマーケティングの違い

ここまでの整理で今までのマーケティング。つまり市場占有率や、ある瞬間の売り上げ・利益を重視するマーケティングの困難さについて共感頂けたでしょうか。このことについては、以前セミナーでもお話しました。「カスタマージャーニーに至るまでのマーケティングの旅」でも、マーケティングが、「マスマーケティング」→「顧客移行期」→「パーソナライズドマーケティング」の変化でも議論されていました。

ここからは大胆に、市場占有率や、ある瞬間の売り上げ・利益を重要視しないマーケティングについて考えてみたいと思います。このことは、過去の知るギャラリーでも少し取り上げたのですが、もう少し丁寧に考えてみようと思います。

マスマーケティングでは、市場占有率や、売上合計が重要だった

今までのマーケティングでは、以下のような市場占有率や売り上げの推移がマーケティングの重要業績指標(KPI)でした。

年度市場占有率
年度別売り上げ

これは、売り上げや市場占有率を増加させたいという意志の元に、観察していていた数値です。このKPIを運用していながら、LTV(Life Time Value)や、CRM(Customer Relationship Management)などという、顧客を重要視する考えが加わり始めました。ここで、マーケターに大きな誤解が生じることが増えました。

売上が増加していたら、お客様は増えているのか?

大きな誤解は、売り上げが増加したら既存のお客様は残り、新しいお客様が増えていると考えるようになったことです。

この図のように、売り上げや市場占有率が増えた時に、既存のお客様4人はそのままに、新しいお客様が1人増えたというような想像をすることがあるのです。実際には、誰が買っているのかを調べることは難しく、実際のところは正確にわかりません。

ひょっとしたら、同じ増加の場合でも、

この図のように、一人のお客様のみ残存し、残りは全く新客に変わっているのかもしれません。このように、私たちのマーケティングは、正月の福袋のように、中に何が入っている(誰がお客様)か、不明な状態でマーケティングを行っていることが多いのです。

しかし、市場が縮小し、多様化が増している中では、いままでの市場占有率・売り上げ(個数)重視型のマーケティングを、そのまま行うのかを考えないといけないのです。むしろ、多くの皆さんが気づいているように、「誰が」お客様か?「何人」お客様いるか?以上に重要なことになっているのではないでしょうか?

新しいマーケティングは、実は実行している。問題は、制御方法では。

このように考えると、市場の変化と、事業目標の変化から、私たちは、新しいマーケティングを実行しているのではないでしょうか。市場占有率よりも、顧客との関係性を重要視しているのは、新しいマーケティングを実行しているからなのでしょう。

その意味では、私たちは新しいマーケティングをすでに実行しています。が、その新しいマーケティングの定義を明確に行っていません。そして、定義が明確ではないために、マーケティングのPDCAで、確認すべき重要指標が不明確です。市場が変わり、マーケティング戦術が変わったのであれば、その制御方法、特に重要指標を定義することが重要なのでしょう。そのことについて、次回整理してみましょう。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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