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新しいマーケティングのすすめ(25)

「コロナで変わった手洗いと変わらなかった手洗い」

私は、ことあるたびに、「コロナ感染症」の経験を話すときに、「コロナ前に戻る」という言葉は使いたくないと語ってきました。代わりに、「コロナで学んで、進化」したという言葉を使いたいと話しています。

例えば外食産業などでは、「コロナ前のお客様の賑わい」という言葉を使います。しかし、お客様の数が戻ってもタイプは変わっているはずです。つまり、コロナで訪問するお客様の数は変わらなかったとしても、お客様の属性や滞在時間には変化が起きています。このように、コロナは少なからず変化は起こしており、これを退化と考えるよりは、新しい時代の姿への「進化」と考えた方が前向きな姿勢なので、私は「進化」という言葉を使っています。

そして、その根底にある重要なことは、その「進化」は神や目に見えない何かが起こしているのではなく、私たち自身が意思を持って起こしているものだと言うことです。そして、私たちが起こした変化は、その時に変化したほうが良いと感じているから起きるわけであり、「元に戻る」ということは希少なのではないでしょうか。

今回は、この「進化」とマーケティングの関係について考えたいと思います。それもとても身近な「手洗い」についてです。

トイレで、他人の手洗いを観察したことがありますか?

私は、トイレタリー・メーカーでの勤務経験があったので、他の業界経験者よりも、「人の洗浄活動」に興味を持っているかもしれません。それは、飲料メーカーの方が人の「飲用シーン」に興味を持っていたり、アパレル・メーカーの方が「服の組み合わせ」に興味を持っていたりするものと近い動機でしょう。

私は男性で、男性トイレ利用者なので、よく他の男性のトイレでの手洗いを拝見します。私の観察の記憶では、コロナ前の男性トイレの手洗いでの行動は、以下のようなものです。

  • 手を洗わず、そのまま出る
  • 石鹸を使わず、手を水道で洗う
  • 石鹸を使って、手を洗う

という行動が頻出行動です。意外と多かったのは、シニアの方が、「手を洗わず、そのまま出るケース」です。男性トイレ未経験者にはギョッとするレポートですが、多くの男性トイレ経験者は合意してくれる分類でしょう。

これが、コロナ禍になり、いくつかの変化が発生しました。

  • 多くのトイレに、アルコール消毒液が置かれるようになった
  • エアータオルの自粛期間中に、ペーパータオルの普及が進んだ
  • トイレに誰もが知っていると思う内容である、「厚生労働省の手洗いポスター」が張られた

ご存じの通りトイレの機能・役割はコロナ前も今も変わっていません。しかし、私たちのトイレの手洗い行動には変化が出てきました。
少し複雑なので、表にしてみます。

TYPE水で手を洗う石鹸を使うアルコールを使う
A×××
B××
C××
D×
E×
F

今やトイレは、洗浄意識の観察の場所として良い場所といえます。多くのトイレには、2020年に、先ほど紹介した以下のようなポスターが張られていたのですが、それでもきちんと、手を洗わない人が居ることが驚きです。このポスターでは、「石けんをつけて、手を洗う」ことが説明されているのですが、今も、石けんをつかわないで洗う人がいるということは、なぜ起きるのでしょうか?

図1

人の行動は、論理的なのか?

ここで、問題になるのは、人は「知っていても、その通り行動できない」ということです。人に染み付いた行動は、なかなか変えられないのです。

これを、ポジティブに使ったものが、多くのスポーツの「練習」という行動です。皆さんは、自分がどのように走っているのかを、他人に説明できますか。そして、皆さんのランニング・スタイルは、きれいなフォームですか?おそらく、小さなころに体に染み込んだ、ランニング・フォームであり、自身の走り方について他人に詳細に説明はできる人は少ないでしょう。

このような行動は、マーケティングの現場、特に消費のシーンではよく見られます。例えばシニアの方が、トイレで手を洗わない理由も、シニアの方の洗浄意識に依存するのではなく、シニアな方が手洗いを体に染み込ませた時に石けんを使う経験が少なかったから、ということが多いのです。

図2

人の行動は、このように論理よりも経験、つまり過去の練習に依存することが多くあります。

マーケターは「人の習慣」と戦おうとする

コロナ感染症は、人にとって大きな事象でした。多くの人が、以前よりも「手洗い」を丁寧に行う、という変化がありました。しかし、先ほど述べたように、変わらない人もいました。マーケターの皆さんは、この話が本当か、ぜひトイレでの他の方たちの手洗いを観察してみてください。

さて、多くのマーケティングの現場では、「習慣化された人の行動」を、マーケティング・コミュニケーションで変えようとする企画が、時々検討されます。マーケティングで、「習慣化された人の行動」は変えられるのでしょうか。私の答えは、「習慣化された人の行動」を変えるのは、とても大変で時には無理なこともある、というものです。

そのように考える理由は、「人は、人が考えるほど、論理的ではない」ことでしょう。そして、「人は、人が考える以上に、過去の経験に依存する」ことも理由の一つです。

今回のコロナでは、人の手洗いの意識は確かに前よりも高くなりました。しかし、コロナでも手洗いが変わらない人もいます。もちろん、変わった人もいます。これは、まさにマーケターが考える、マーケティング・コミュニケーションに対する大きな示唆です。マーケターは、論理的に正しく理解できるメッセージを人に伝えたら、人の行動は変えられ、その結果マーケターが得たい、マーケティングの成果を変えられると思っているかもしれません。

しかし、コロナで理解したことは、コロナという自然災害という、マーケティング・コミュニケーションよりも強い刺激でも、行動が変わらない人がいるという事実です。

この事実を認知できたことが、コロナでマーケターが体験した「進化」の一つなのでしょう。

マーケティングは科学です。しかしその対象の「人」は、科学で簡単に解ける問題対象でないことを、再確認しましょう。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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