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新しいマーケティングのすすめ(28)

「Web広告のA/Bテストで考える、新しいマーケティング」

実験計画法の紹介

私は、企業研究者としてビジネス・パーソンの最初の1ページを開きました。それまでは大学の数学科の学生だった私は、企業の研究所で多くの学びと刺激を受けました。それまで、ペンとノートしか使ったことない私に、実験の仕事を与えて頂いたことは、大きな経験でした。

当然、実験には時間と実験用の材料の費用が発生します。最初のころは、そのことを意識せずに、闇雲に実験を行っていたのですが、ある時先輩から、「効率的に実験すること。そして、実験条件を丁寧に考え、さまざまな条件を、きちんと分解して理解できるように。」と、指導を受けました。

例えば、冷却温度と冷却された物質の硬度を調べる時には、冷却物質の物性(成分)は同一にします。一方、物質の成分と冷却物質の硬度を調べる時には、冷却温度を同じにします。とてもシンプルなことですが、数学者だった私は、このような実験の基本も、最初は明確に意識していませんでした。

このように、実験の条件の因子を独立事象として扱いやすくする方法の基本は、「実験計画法」として知られています。この実験計画法は、意外にもマーケティング世界では無視されているのです。現在のマーケティングは、科学です。マーケティングにも、実験計画法を取り込みましょう。

Web広告で普及したA/Bテストは、科学?

私が最初にこの「実験計画法」の欠如に気づいたマーケティング現場の事例は、バナー広告のクリエイティブ・テストです。バナー広告では、A/Bテストのような手法が使われますが、そのA/Bテストはきちんと実験計画法に基づいて行っているでしょうか?

「実験計画法」では、バナー広告のクリエイティブの関する要素を、因数分解します。例えば、「コピー」「キービジュアル」の2つの要素からバナー広告が構成されているのであれば、実験計画法に基づけば、
・コピーAとキービジュアルA
・コピーBとキービジュアルA
での実験を最初に行い、この時にコピーBが優位と分かれば、次にキービジュアルAとキービジュアルBのテストを行うべきです。しかし、実際には、そのように要素分解がされないまま、バナーAとバナーBのテストを行っているケースは多いのです。

この、何も条件を要素分解しないWeb広告のA/Bテストから、マーケターは何を学ぶことができるのでしょうか。ビジネスの結果としては、反応率の高いバナー広告を掲出することができても、マーケターの知見には何もインプットが得られません。
そして、知見が得られないがゆえに、次のバナー広告でも、非科学的なバナー広告のアイディア出しになってしまうのです。

同じことは、マーケティングの調査でも起きている

このWebのバナー広告の、因数分解しない状態でのマーケティングは、調査の現場でも見かけることがあります。

たとえば、フォーカスグループインタビューのグループの構成。グループインタビューや、ネット調査での質問項目の設計。マーケティングの調査においては、調査で知りたいことと、その知りたいことに影響を与えそうな項目をきちんと要素分解しないと、グループの設計や、調査項目の設計はできないはずなのです。

私は、マーケティングの現場でも、意識して「因数分解」という言葉を使います。得たいマーケティングの成果に影響を与えそうな項目の因数分解を、どれだけ丁寧に行うかが、マーケターにとっては重要です。
そして、数学的に言えば、ビジネスの場面では、因数分解の答えは複数あることが重要です。

この式のように、中学校で習った、因数分解は、

が、正解ですが、別に、

と因数分解しても良いのです。まさに、どのように因数分解するかは、マーケターの知識に基づくもので、この知識の違いから、マーケティングの手法や最適解は無限に生み出せるのです。
具体的には、お客様のグループを「年齢で分けるの」か「商品の認知度」で分けるのかのように、グループの分け方には複数の選択肢があります。この時にどの選択肢で分けるのかは、マーケターが決めないといけないのです。

ただし、どのグループに分けるのかは、闇雲に行うのではなく、「実験計画法」に基づいている必要があることは言うまでもありません。

マーケティングに、科学のスキームを導入すると、「人」の理解が進む

この知るギャラリーの連載で、「新しいマーケティングのすすめ(26)」と「新しいマーケティングのすすめ(27)」で降水確率や台風の進路予測を、そして今回実験計画法を紹介したのは、マーケティングは科学だからです。

マーケティングは「人」に向き合う仕事です。「人」に向き合うために、文系的手法・理系的手法の区別はありません。両方が必要なのです。日本では、マーケティングを文系的に捉えている方が多い気がします。その方たちは、意識的に理系が使う手法や論理構成を知ることで、マーケティングの幅が広がると思います。

ぜひ、意識的に、実験の条件の因子を独立事象として扱いやすくする「実験計画法」をはじめとした、科学の手法をマーケティングに持ち込んでみましょう。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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