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新しいマーケティングのすすめ(4)

株式会社マーケティングサイエンスラボの本間がお届けする“「未知」の新しいマーケティングを考える”ためのコラム。本日のテーマは引き続き「マーケティングにおけるデータサイエンスとは」です。

マーケティングにおけるデータサイエンス利用の手順

前回のこの記事において「マーケティングの成功」の定義をすること、そして「観分判」の言葉と「探索的データ分析」の説明を行いました。今回は「探索的データ分析」の私なりの実践方法を紹介しながら、マーケティングにおけるデータサイエンスの具体的な進め方を考えます。

マーケティングの現場では、すでに多くのデータが皆さんの身の回りにあるでしょう。市場の占有率のデータや広告の反応のデータ、購入者の追跡調査のデータ、お客様相談センターのお問合せのデータなど、私たちマーケターは数多くのデータを活用できる状況になりました。このデータを見た際、多くのシーンで一喜一憂するかもしれません。しかし私は、新しいマーケティングの戦術・戦略を考える際、これらのデータを必要以上には使いません。必要以上とは「観察」しか行わないということです。

前回も少し述べたことなのですが、マーケティングで取得できているデータは過去の記録です。もっと丁寧に言えば、すべてのデータは過去の記録だということです。天気のデータ、野球ゲームのデータ、株式市場の株価のデータなどは全て過去のデータです。データを眺め続けても将来は考えられません。「観察」から得られた知識と、過去のマーケティングの成否を振り返り、マーケターが新しいマーケティングを創造するのです。これが戦術・戦略を考えるということです。

具体的な手順の話に移ります。「新しいマーケティング」のためのデータ観察には、2つのデータ分析が必要です。1つは、今まで考えていなかった「市場の理解や定義の確認」。もう1つは「新しい市場の理解」に基づいて考えられた「マーケティングの成功確率の確認」です。

最初に「市場の理解や定義」について説明しましょう。この定義の背景には「マス・マーケティングの崩壊」があります。マス・マーケティング崩壊後、現在のマーケティングの多くはSTP、つまりセグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の再整理を行って進めることが多くなりました。製品やサービスが完成した後にコントロールできる部分が、セグメンテーションとターゲティングという理由からです。そして、実はセグメンテーションには無限の選択肢があります。

マス・マーケティング時代のマス・コミュニケーションでは、性別・年齢の重ね合わせのF1、M2などが、このセグメンテーションに使われていました。しかし、このセグメンテーションに意味が無くなってきていることは、皆さんもお気づきの通りです。

これに変わるセグメンテーション方法は無限にあります。精神的な年齢によって分ける、居住地で分ける、働き方で分けるなど、セグメントの作り方は本当に無限です。したがって、マーケターが、まずセグメンテーションの定義のアイディアを作り、そのセグメンテーションが、マーケティングで考えて意味や価値のある分け方なのかを確認する。これが、最初の「市場の理解や定義の確認」です。

もう少し、シンプルにお伝えします。皆さんが食品、とくに自宅で調理に使う食品のマーケターだとします。F1、M2というグループ分けと、世帯環境×家で何度調理をするかによるグループ分け、どちらがマーケティングの戦術を立てやすいですか?

何をお伝えしたいかというと、意外にも今まで私たちマーケターは外部で決めていたセグメンテーションをそのまま利用することが多かったと思いますが、これからはセグメンテーションも自分の仕事に合わせてカスタマイズが必要だということです。これがすなわち私の中では「市場の理解や定義の確認」と定義しています。

次に「マーケティングの成功確率の確認」です。新しいセグメンテーションを発見した後、複数のグループ(セグメント)に対して活性化させたいセグメントや、維持させたいセグメントについてのマーケティング戦術を考えます。そして実行する戦術が、これらのセグメントに影響を与えそうか。そして戦術が成功したとして、私たちマーケターが得たい「成功条件」を達成するのかを確認するのです。

「探索的データ分析」に基づいたマーケティング手法では、「自分の考え」を「データで確認」するという行動を自分達が満足するまで繰り返すのです。「探索的データ分析」とは、ある意味「データを活用した試行錯誤」なのです。

最近、マーケターの中には、「優秀なデータサイエンティストがいれば、マーケティングの成功確率が高くなる」とか「人工知能があればマーケターが不要になる」などと考えている人がいます。私はこの考えとは全く異なります。優秀なデータサイエンティストは、過去の事象の整理には優秀ですが、将来の予測はあまり得意ではありません。人工知能は、確かにデータサイエンティストより、高速にデータ分析を行いますが、未知のマーケティングは考え出せません。

データになっていない事象に気をつけよう

私は「データを活用した試行錯誤」をビジネスの成功に即して体系立てて行うことを「戦略的データ分析」と定義しています。ここで私が特に気をつけているのは、データに触れるタイミングです。私たちはデータがあるとデータを丁寧に見る習慣があります。これ自身は、問題のある行動ではありません。しかし丁寧に観察し続けると、このデータの中に、私たちのマーケティング創造の全てのヒントが存在しているように思うことがあります。このことが、とても危険だからです。

私は、マーケティングの課題の解決に必要なアイディアの検討からスタートします。この段階ではデータを見ていません。アイディアの精度など考えてはいけません。とにかくアイディアを出して、次にそのアイディアがあっているかを確認するために必要なデータを洗い出します。ぜひ試してみてください。面白いほどに先にデータを見る行動とは異なるアイディアが出ます。

皆さんはテレビの接触者数と売り上げのデータがあったら、この間の相関を考えたくなりませんか?しかし単純に、「テレビ広告は売上に影響があるか考える」という問題だけを伝えられたら、皆さんの会議は大きく異なるはずです。まず、この関係に必要データを洗い出す時に「一人の接触回数」「クリエィティブ・インパクト」「広告接触者のコマーシャルの記憶日数」などのデータが欲しくなるのではないでしょうか?そして、単純な相関関係でないことにすぐに気づくでしょう。

データサイエンスが普及していますが、一番重要なのは「扱っているデータが適切か」という視点です。そして、実はこの使っているデータが適切な選択かどうかは、優秀なデータサイエンティストには判定ができません。マーケターが判定すべき項目となります。そして、マーケティングの現場ではいまだに取れていないデータだらけです。例えば、テレビ広告と売り上げの問題の場合、「広告接触者のコマーシャルの記憶日数」は不明でしょう。

データサイエンスは、確かに進化しています。私達が、進化したいデータサイエンスをもっと活用したいなら、マーケティングの現場で取得可能なデータの整備は私たちマーケターの仕事です。そのためには、今まで以上にイノベーティブな調査手法やデータ取得手法が必要となるのです。

デジタルの時代でも、調査の前の「観察」は重要なマーケティング

私は、花王に入社してからマーケティングを学びました。それも完全なOn The Job Trainingです。研究員から本社のマーケティング部門に配属になった時、私の上司の取締役がこんなアドバイスをしてくれました。「教科書は先輩達だ。門前の小僧習わぬ経を読むようになるから」と、現場で学ぶことを強力に進めてくれました。この取締役との出会いは、その後の私のキャリアに大きな影響を与えてくれました。

少し楽になった私は、「数学者」の立場は忘れて「現場観察」に出かけました。当時の私は「広告の制作する部門」と「マーケティング部門」の兼務でした。これを良いことに、店頭の広告物の展開の時には、店頭にその様子を観察しに行きましたし、コマーシャルの事前調査にも立ち会いました。なぜか、新製品の事前グループインタービューにも取締役が誘ってくれたので、数多くのインタビューに参加しました。この活動により、お客様を「観察」する習慣や、お客様の行動の「背景推理」を行う習慣がつきました。そして「定性データ」と「定量データ」の繋がりを意識できるようになりました。

インターネットの普及やデータサイエンスの進化により、最近は「定量データ」の扱いが多くなりました。しかし、定量データは、人間の行動を定量化したものであり、実は「定性情報」の数値化であることが多いのです。特にマーケティングでは、「人の行動」「人の感情」をデータ化することが多く、その数値データの背景理解はとても重要です。データサイエンスが普及した今だからこそ、私たちマーケターは現場の「観察」を行い、数値の背景を考えながらデータサイエンスを行うことが重要だと言えます。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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