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新しいマーケティングのすすめ(49)

マーケターが理解すべき、AI登場による消費行動変化(3)

前回に引き続き、AIの登場による消費行動の変化を以下の3つに分類して、整理をしています。
(1)情報収集・商品探索の変化:消費者の「出会い」を再定義
(2)購買プロセス・チャネルの変化:消費行動の多様化
(3)消費者の意識・行動の変化:消費の価値観の変容
今回は、この(2)購買プロセス・チャネルの変化:消費行動の多様化について、実際の事例と、その考察を行います。

AIによるオンラインショッピング体験の進化

オンラインショッピングの世界は、AIの導入によって目覚ましい進化を遂げています。顧客対応から商品発見、購入体験の向上まで、AIは様々な形で消費者のオンラインジャーニーを豊かにしています。

AIチャットボットによる顧客対応事例

ECサイトでは、顧客からの問い合わせ対応にAIチャットボットを活用する事例が増加しています。AIチャットボットは、24時間365日体制で顧客の疑問に即座に対応できるため、顧客満足度の向上や離脱率の低下に貢献しています。

例えば、アダストリアは電話対応業務を休止し、チャットボットを活用しています。H&Mは、顧客が持つアイテムに合う商品をチャットボットがレコメンドする機能を提供しています。ユニクロでは、「UNIQLO IQ」というチャットボットが、注文やキャンセルに関する問い合わせに自動で対応するだけでなく、商品検索やコーディネート提案も行っています。これにより、ユーザーは知りたい情報を迅速に得られ、具体的なファッションをイメージしながら買い物を楽しむことができます。

また、アスクルは、AIチャットボットの導入により、メールや電話対応の件数を約3分の1に抑制することに成功しています。個人向け通販サービス「LOHACO」では、お客様サポートページやLINE上でチャットボットを活用し、問い合わせ全体の3分の1をカバーしています。

ファッション通販サイトのマガシークでは、AIチャットボット「sAI Chat」を導入した結果、年間26%もの問い合わせ数削減に成功しました。これは、顧客がカスタマーセンターに問い合わせるまでもない質問が大幅に減少し、問い合わせ前にチャットボットが顧客の疑問を解決できるようになったためです。

これらの事例から、ECサイトにおけるAIチャットボットの導入は、単なる問い合わせ対応の効率化に留まらず、顧客体験の向上、売上の増加、そして運営コストの削減に大きく貢献していることが分かります。AIを搭載したチャットボットは、過去のデータから学習し、回答精度を向上させることができるため、より複雑な問い合わせにも対応できるようになっています。一方、シナリオ型のチャットボットは、事前に設定されたルールに基づいて対応するため、FAQのような定型的な質問への対応に適しています。

パーソナライズされた商品レコメンデーション事例

AIは、消費者の過去の購買履歴、閲覧履歴、検索履歴などのデータを分析し、個々の消費者の興味やニーズに合致した商品をレコメンドする機能も進化させています。これにより、消費者はより効率的に欲しい商品を見つけることができ、ECサイトの売上向上にも貢献しています。

楽天市場では、ユーザーの行動情報に基づいておすすめ商品を表示するレコメンドエンジンが導入されています。AIを活用した「セマンティック検索」と「セマンティックレコメンデーション」を導入した結果、検索結果ゼロの割合が98.5%削減され、レコメンデーションからの購入率が59%増加しました。これは、AIがユーザーの検索意図をより深く理解し、個々の好みに合った商品を表示できるようになったためです。

Amazon Japanも、Amazon Personalizeというサービスを通じて、高度にパーソナライズされた商品レコメンデーションを大規模に展開しています。このサービスは、過去の購買データや閲覧履歴だけでなく、商品のメタデータやリアルタイムのインタラクションに基づいて、ユーザーが興味を持ちそうな商品を推薦します。また、類似アイテムのレコメンデーションや、トレンドとなっている商品の推薦など、多様な機能を提供することで、ユーザーエンゲージメントの向上を図っています。

これらの事例から、主要なECプラットフォームでは、AIを活用したパーソナライズされた商品レコメンデーションが高度に進化しており、消費者の購買体験を大きく向上させていることが分かります。AIは、単に過去のデータに基づいて商品を推薦するだけでなく、レビューの内容を理解したり、購入のタイミングを最適化したりするなど、よりインテリジェントな提案を行うようになっています。

多様化するサブスクリプションモデルとAI

ECにおけるサブスクリプションモデルは日本でも普及しており、グローバルな動向を踏まえると、AIを活用して個々の消費者の好みに合わせた商品を提案するサービスが今後、増加するでしょう。AIは、消費者の過去の利用履歴や評価、アンケート回答などのデータを分析し、パーソナライズされた商品やサービスを定期的に提供することができます。これにより、消費者は自分に合った商品を効率的に見つけることができ、サービス提供者は顧客ロイヤルティを高め、継続的な収益を確保することが期待できます。

AIがもたらす購買プロセスとチャネルの変化

AI技術の進化は消費者の購買プロセスとチャネルに明確な変化をもたらしていることが分かります。オンラインショッピングにおいては、AIチャットボットによる迅速なサポート、パーソナライズされた商品レコメンデーションによる効率的な商品発見、そしてAR技術による仮想的な試着体験が、消費者の購買決定をよりスムーズで快適なものにしています。

特に注目すべきは、オンラインとオフラインの購買体験の融合(OMO)におけるAIの役割です。例えば、オンラインでの閲覧履歴に基づいて、実店舗でのおすすめ商品が提示されたり、チャットボットを通じてオンラインで見つけた商品の実店舗での在庫状況を確認したりすることが可能になります。また、AR技術を活用することで、オンラインで検討していた商品を実店舗で実際に体験する前に、自宅でそのイメージを確認するといった使い方も考えられます。AIは、オンラインとオフラインの垣根を超えた、よりパーソナライズされた購買体験の実現に貢献しています。消費者は、場所や時間にとらわれず、自身のニーズや状況に合わせて最適なチャネルを選択し、一貫した体験を得られるようになりつつあります。

今後のマーケターが注力すべきポイント

これらの変化を踏まえ、マーケターが今後注力すべきポイントは多岐にわたります。

まず、データドリブンなマーケティング戦略の重要性がますます高まります。AIを活用したパーソナライズされた体験を提供するためには、消費者の購買履歴、閲覧履歴、レビュー、属性データなど、様々なデータを収集・分析し、顧客理解を深めることが不可欠です。

次に、パーソナライズされた顧客体験の設計が重要になります。AIを活用して、個々の消費者のニーズや好みに合わせた情報提供、商品提案、サポートを行うことで、顧客エンゲージメントを高め、ロイヤルティを向上させることができます。

また、AIを活用した新たな顧客接点の創出も重要な課題です。チャットボットによる24時間対応、AIによるレコメンデーション機能の強化、AR技術を活用したインタラクティブな体験の提供など、AI技術を積極的に活用することで、顧客との新たなコミュニケーションチャネルを開拓し、より深い関係性を築くことが可能になります。

さらに、オンラインとオフラインのデータを統合し、OMO戦略を推進することも重要です。AIを活用して、オンラインとオフラインの顧客行動を分析し、それぞれのチャネルの特性を活かした、一貫性のある顧客体験を提供することで、より効果的なマーケティングを実現できます。

マーケティングは、市場の変化に対応する仕事です。購買プロセス・チャネルの変化:消費行動の多様化は、市場の変化の一つです。これ以外にもAIが、消費者に与えている変化に気づきながら、今の時代の新しいマーケティングを考えることが重要なのでしょう。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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