データからビジネスストーリーを紡ぎマーケティング計画立案を高度化する
~ 「成長機会探索プロジェクト」の事例からヒントを学ぶ ~ 後編
この記事では2022年1月25日にインテージが開催したセミナー内容の一部をお届けします。
社会の成熟と人口減少によって、多くの市場が飽和・逓減ステージを迎えようとする中、これまでと同様のマーケティングでは目標達成が困難になっています。事業の成功確率を上げるには、「市場」と「生活者」を俯瞰して捉え、重要なセグメントに対して効果的な施策を考えていくことが求められています。インテージでは、この課題に対し、お客様と「成長機会探索プログラム」という取り組みを行っています。
セミナーでは、このプログラムの事例紹介と、取り組みを受けたパネルディスカッションを行いました。この記事では、第2部で行われたパネルディスカッションについてレポートします。
前編(第1部)の「事例紹介」はこちらから
◆第2部:パネルディスカッション
登壇者:ハウス食品グループ本社 お客様生活研究部 西岡徹夫さま
マーケティングサイエンスラボ 取締役社長 本間充さま
インテージ 事業デザイン部 マネージャー 中澤数人
(司会)インテージ 生活者研究センター 田中宏昌
パネルディスカッションには、「成長機会探索プログラム」にご参加いただいた西岡さまとインテージ側のプロジェクトメンバーである中澤、そして、長らく大手トイレタリーメーカーでマーケティングやDX事業に従事し、現在はマーケティングを中心としてさまざまな業界のコンサルティング業務に活躍をしておられるマーケティングサイエンスラボの本間さまが登壇し、今、マーケターが直面している課題や、課題に対応していくうえで必要な視点についての意見が交わされました。また、今回の「成長機会探索プロジェクト」を通して得られたもの、見えてきた可能性についてのディスカッションが行われ、以下のようなポイントが提示されました。
《ポイント》
- 「生活者理解ニーズ」の高まりからN1分析(ミクロ的・虫の眼)への注目が集まる中、成長市場を発見するためにも、広く生活者の「体験そのもの」を俯瞰して理解するニーズも高まってきた(マクロ的・鳥の眼)
- 「成長機会探索プログラム」という言葉の通り、レビューとしてのデータ活用から、よりプロアクティブでフォアキャスト的な活用可能性や効果を実感した
- 複眼かつ多層的でありながら、データオリエンテッドな、ロジカルでストーリー性をもった戦略シナリオが導出できた
- 経営層を含め社内浸透力のある情報を手に入れる、魅力的なデータ活用方法。商品開発など次のステージへの発展も期待できる
ここからは、当日のディスカッションをリアルな形でお届けします。
テーマ1:なぜ、今、「成長機会」を見出すために生活者起点が重要なのか?
司会:「成長機会を見いだす」という課題に対して、「生活者理解」、「生活者起点」を大きな課題として捉えているのはなぜでしょうか?
西岡さま:データ分析、データドリブンという視点で見れば「鳥の目」の重要性が増しています。定性的なN1分析を重視する流れの中で、コンセプトを取り巻くカテゴリー環境(競合、売り場など)の理解を置き去りにして、コンセプトだけを見つめるマーケターの思い込みや普段の自分たちの視野の範囲でのお客様理解にとどまってしまうことで、戦略も独りよがりになる恐れがあります。
また、生活者起点という点では、以前から言われているように、競争環境が変わり、5フォースのように、全く異なるカテゴリーで同じ提供価値をもっていたり、同じカテゴリーだけど違う提供価値を新たに持つことで、違うシーンにエントリーできたり、という、そんな広い視点を踏まえたアプローチが重要になっていると考えたからです。
司会:本間さんは昨年のインテージフォーラムでも生活者起点や生活者理解の重要性やその理由を話してくださいましたがいかがでしょう。
本間さま: 日本は中流(マス)の人たちをターゲットにしてきました。一方でこの20年、中流層の所得は大きく落ち込み、富の二極化が進んでいます。メーカーは中流層をターゲットに商品・サービスを提供してきましたが、所得も支出も増えない消費者やコモディティ化により市場競争は激化しています。そのため平均的な市場分析・ユーザー分析ではなく、マクロ的な鳥の眼とミクロ的な虫の眼、ズームアウト、ズームインで市場や生活者を捉えることが重要になったと考えています。
中澤:成長機会を見出すアプローチには、これまでアナリストの力量に頼るところが大きく、ブラックボックスあるいは方法論が未確立な部分も多かったのではないか。また、マーケターのアイデアが先行し、ユーザーである「生活者理解」に基づかない発想や戦略立案があったのではないか。
そういった課題感を持つマーケターやリサーチ部門の方が増えていると感じます。その意味でデータを元に市場や生活者の理解に迫る「成長機会獲得プログラム」のようなアプローチが受け入れられている理由なのでは、と考えています。
司会:「顧客体験のデザイン」という言葉をよく耳にします。体験は生活者に「モノ・コト・トキ」を届けることにほかなりません。その意味で自社の商品・サービスを内包する生活者の体験そのものを理解する必要が高まったのでは、と解釈をしています。
テーマ2:「成長機会仮説獲得プログラム」を実施してどうだったのか?
司会:今回、「成長機会仮説獲得プログラム」を活用してのメリットや効果といった点はいかがでしょうか?
西岡さま:事業的な意味合いではパネルデータをはじめとしたデータ活用はレビュー的な活用に終始していましたが、フォアキャスト的な活用が実現できました。また、市場把握やターゲット理解、STPの進化と深化など、パネルデータに基づく論理的な戦略ストーリーを描くこともできました。
経営会議においても事業部門からの報告だけでなく調査部門のインプットの機会もあり、インパクト(影響)を与えることもできたと考えています。社内では「ほかのカテゴリーでも」という動きも芽生えており手ごたえも感じています。
中澤:今回はハウス様が保有するデータも含め、あらゆるデータを駆使して分析を行ったわけですが、私たちが徹底して意識したのは「ロジカルにストーリー性を持つデータ活用~connecting dots~ 」でした。ストーリー性を持つことで、レビューだけでなく未来に向けた成長市場の発見や事業計画立案支援というフォアキャスト的なデータ活用が可能になるからです。
西岡さま:派生的なメリットとして、データ活用によりビジネスストーリーを描けることが社内で提示でき、また、データ活用の高度化というメンバーの教育的な部分も満たすこともでき、スキルの底上げになったのではないでしょうか。
裏テーマとして、調査関係の部署を元気に、そのために社内プレゼンスをどう高めるか、というものも秘めていたので、今回の事案を通じて、調査の事業貢献(ビジネスインパクト)が少しでも上がったのではないかと考えています。
中澤:データを活用したロジカルな戦略ストーリーに貢献できたことは最大の喜びですが、後日談として裏テーマへの貢献など収穫も多かったと聞き、私たち自身も本プログラムの新しい価値に気づかされました。
テーマ3:今後に向けて
司会:今後に向けての課題や展望はいかがでしょうか?
西岡さま:今回の取り組みでレビューからフォアキャストとしてのデータ活用へのシフト、戦略ストーリーの論理的構築については課題を残しつつも非常に良い形で実現できました。今後は、今回組み上げたビジネスストーリーをより効果的に開発に結び付けられるような、開発プロセスの見直しが重要になってくると考えています。
具体的には、社内における他カテゴリーでも、コンセプトがひとりよがりの提案ではなく、データに基づくリアリティがありスジの良いストーリーが持てるようになりたい。また
インテージさんと取り組むだけでなく(笑)、自分たちの社内の検討フレームとして胎内化したい。例えば、社内の発売可否を決める会議体で、こうしたプログラムが使われるようになってくるなど、さまざまな可能性を感じています。
本間さま:以前の調査部は商品投入のゲートウェイ的な調査が多かったが、今は生活者理解をベースに市場で何が起こっているのかを知りたい、理解の上でマーケティング戦略が実行可能かを見極めたい、と考えています。つまり、調査やデータが必要とされる場面が経営に近いところに変化してきています。これからは社内受託型の調査・データ活用ではなく、提案型の調査・データ活用にシフトしていくでしょう。西岡さんが「データストーリー」という表現を使っていましたが「data story telling」という言葉はアメリカではバズワードになっているくらいです。
データはやりたい戦略の補助資料であって、やりたいことを教えてくれるものではありません。
まとめるなら
・調査部に求められている仕事や役割が変わってきた
・鳥の眼、虫の眼でデータをみていかないと成長機会は発見できない
・マスマーケティンは崩壊しているためセグメントして考える必要がある
西岡さま:今回は「成長機会獲得プログラム」を担当するプロジェクトチームでの取り組みでしたが、日常からカテゴリー理解、課題認識を普段のフロント(弊社担当者)と共有して、シームレス=オールインテージでご支援いただけるようになると、より高質なプログラム=プロジェクトになると思います。そのためには我々も事業計画や自社の捉え方など、さまざまな情報を課題とともに共有する関係を構築できるよう努力を重ねたいと考えています。
中澤:「成長機会獲得プログラム」は、これまでアナリスト個人の腕に頼り、可視化されていなかった「成長機会を導出する方法論」を体系化したものです。一定の経験を持つフロントのアナリストがサービスをご提供できるよう育成と体制の整備を進めていきます。本日の言葉も含めて、データや私たちの提供価値を高め、より貢献できるよう頑張りたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
西岡さま:ぜひ、一緒に。
振り返り・今後に向けて
参加者アンケートでは、ハウス様の事例とともに課題やその取り組みが共有され議論されるこうした機会(場)についての感謝や今後への期待が多く寄せられました。特に調査部やマーケティングセクションへの社内における期待役割の変化や価値向上などの課題感については、参加者の方々の賛同の表情も多くうかがえました。国内市場が飽和・逓減のステージにあることや社内の組織的課題に通底するものがあるものの、もがき苦しみながらも突破したいと思う気運を会場の空気からもあらためて感じることができました。
今後もインテージは情報を通じてお客様のビジネス支援を行うとともに、お客様をつなぐ「HUB」として、今回のセミナーのような「対話」を核とする発想の場(機会)の創造を目指したいと考えています。
「成長機会獲得プログラム」とは・・・
事業・ブランドが2-3年後の目標達成に十分な「生活者起点の成長機会の仮説」を得るために、誰に(Who?)、どんな価値(What?)を提供すべきかを見出すプログラム。 インテージが保有する様々なデータや外部データを活用して俯瞰的に見ることで、これまでよりも広い視野で市場・生活者の変化を捉え、ストーリーを描き、事業・マーケティングの成功確率を高めます。
※1 生活者360°Viewer
「生活者360°Viewer」は生活者理解に基づいたマーケティング戦略の立案・実行を支援する分析サービスです。
※2 Consumer Life Panorama
世界中の消費者の住居の様子を360度画像で閲覧できるウェブサイト型サービスであり、遠隔地の消費者の家を疑似的に訪問できます。海外及び国内向けに新商品の企画や開発をする際、ターゲットとする消費者のリアルな生活実態を見ることで、様々な気付きを得られます。
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