

「コスパ」や「タイパ」にはじまり、「スペパ(スペース)」、「カロパ(カロリー)」、「マイパ(マインド)」など、世間では「○○パ」が溢れています。生活者が暮らしのさまざまな場面において、より高い「パフォーマンス」を求める動きが止まることはないようです。今回は生活者が「パフォーマンス」を追い求める背景について、政府統計や自社データを交えつつ、現在とこれからを見通す上で重要と思われる9つのキーワードとともに考えを巡らせてみました。
パフォーマンスを求める先にあるものは?をぜひ一緒に考えていきましょう。
ここ数年、インテージは春頃に自社あるいは政府統計など、さまざまなデータを用いて社会や生活者を俯瞰しつつ理解するためのデータブック「暮らし Wide Viewer※1」を発刊してきました。最新号では「コスパ」や「健康志向」など、現在を生きる生活者を理解するための9つのキーワードを提示しています(図1)。
「コスパ」や「タイパ」といった見慣れたキーワードに加えて、「自分らしさの解放」や「異常気象前提での暮らし」など、プロジェクトメンバーが「これはぜひ」という視点も組み込まれています。「これはぜひ」の導出にあたっては、性別や年代もバラエティに富んだ社内のマーケティング・リサーチャーが集まり、ワークショップを重ねながら編み出していきました。
図1

これらの9つのキーワードを眺めていると、個々に屹立しているわけでなく、つながりのようなものが思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。例えば、「タイパ」、「コスパ」、「加速する健康志向」に関しては、文字通り、暮らしのあらゆる局面における「パフォーマンスの向上」と換言することもできると思います。「健康志向」も心身をより良い状態に維持することで、元気で活力ある生活を送れると考えられるでしょう。また、「自分らしさの解放」や「美意識とルッキズム」、さらには「ボーダレス化する日本」については、自分らしさを大切に自由に表現しながら生きることや、その一方で多様な人々の存在を尊重する意識が横たわっているようにも映ります(図2)。
図2

1992年、共働き世帯は専業主婦世帯よりも多くなり、1997年からは増加の一途を辿っています。総務省が2024年に発表したデータによると、共働き世帯は1,300万世帯となっており、全世帯の72%を占めています。有職主婦の広がりとともに、それまで妻(主婦)が多くの役割を担っていた家事や育児をできるだけ時間をかけず効率的に行いたい、というニーズも高まってきました。また、最近では男性の育児休暇の取得率の増加に象徴されるように、男性の家事・育児への関りも高まっていることから、家事・育児の省力化や時短化への機運は大きなトレンドとなっています。
ここで、家事にかける時間の変化を総務省統計局が5年に1度行っている「社会生活基本調査」のデータで見ていくことにしましょう。1日における家事にかける時間を1986年と比較すると、妻は84%程度減少して、1日当たり210分になっています。一方、夫は340%増の27分となっています(2021年データ)。「夫は340%増」と書きましたが、時間自体は妻の1割ちょっと、とごく控え目になっています。次に「料理や食器洗い」に関する時間を2021年と比較すると、妻は75%程度減少していて109分、夫は6分増加して13分となっています。こちらも先ほどと同様に1割程度・・・(図3)。
図3

次にインテージの毎年実施している定点調査(SCI profiler)から調理に関する意識の変化を見てみましょう。
「時間がかからないことを意識して献立を考える」や「夕飯に調理済み総菜や冷凍食品を使う」といった調理におけるタイパ系の項目が2013年から大きく増加しています。一方で「料理を作るのが楽しい・好きだ」や「手間がかかっても素材から手作り」といった意識も急激に減少しており、料理への関心そのものも低下しているようです。そうした料理への関心の希薄化が「できるだけ品数を多く作るように」という意識も低下させ、その結果、「ワンプレート型のメニューが多い」という事象の増加につながっている、と読みつなぐこともできそうです(図4)。
図4

ひと月あたりの調理日数についてみてみると朝食・昼食・夕食ともに調理機会は減少傾向にあります。特に昼食は2025年が14.3日と2013年比で8割程度、月の半数程度の日数(14.3日)となっており、特に減少が目立ちます。次いで朝食が20.6日と、13年比で9割程度、月の3分の2程度となっていました。夕飯に関しては最も減少の割合が少なくなっており、「せめて夕飯は・・・」といった考えがなんとか夕飯を作り続けるモチベーションを保っているのかもしれません。
図5

手早く作れるメニューなどが好まれる中、売れているものについても見ていきましょう。(図6)は2019年と2025年のデータを用いて平均単価(横軸)と売上個数(縦軸)の変化率(%)を算出すると、「冷凍水産」を筆頭に「冷凍農産」や「冷凍調理」などが伸長しています。冷凍食品は短時間で調理が可能な点やストックが利くことで買物時間の節約にもつながります。また、25年の夏は温暖化による野菜の品不足・価格高騰への対抗策として、冷凍野菜の売れ行きが伸びたことも背景にありそうです。この点は「コスパ志向」につながっています。
図6

ここまでいくつかのデータを用いてタイパやコスパといった「パフォーマンスの向上」に関する意識の高まりをみてきましたが、私たちは何を目的として効率を求めているのでしょうか?
共働きの広がりにより家事や育児はますますの省力化が期待されていることなどを理由に、このトレンドは弱まることはなく、私たちの暮らしを形作る上で欠くことなき視点として機能していくのだと思われます。その背景に共働きの広がりだけでなく、「家庭内の役割の変化」もあるでしょう。男性の家事や育児への参加気運の高まりだけでなく、女性においてもフルタイムの仕事を続けることが生活設計の基本になっている場合も少なくありません。住居取得におけるペアローン(夫婦でローンを組むこと)利用者の増加もその表れと言えます。また、家事をすべて自分で行わなくてはいけないひとり暮らし世帯の増加といった要因が横たわっています。
単純に時間がないから、忙しいからが理由ではなく、家庭内での役割が変化したことにより、仕事、家庭、個人の営みを破綻することなくバランスよく回すことが重要になり、効率的に時間やお金を使い、質の高い生活を送ることがより強く求められてきたと考えられます。そして、それらは冒頭で提示した9つのキーワードにおける「令和の家族像」にもつながっているはずです。
今回は「暮らしWide Viewer」における9つのキーワードからコスパやタイパといったマインドを、「パフォーマンスの向上」という視点から眺めてきました。物価高、自然災害や社会情勢への不安、将来・老後不安といった不安要素に目を向けると、自分、あるいは家族の健康を少しでも高く保つとともに、できるかぎり無駄を省いて暮らしの質を高めていく流れは、今後も潮流として続きそうです。
「パフォーマンスの向上」という潮流を前提として世の中を見回したときに、その波を上手に捉えていると思われる事象が浮かんできました。ここに3つの単語を残したいと思います。
①いろいろ:・特定の用途(目的)に縛られることなく、多目的に使えるもの
・購入や利用時の選択負荷を軽減してくれるもの(選ぶとき面倒ではない)
《例》 万能調味料、住居用クリーナー(オールインワン)
②だれでも:・使う人を選ばず、だれでも使えるもの。だれでも合格点がとれて
満足できるもの(再現性の担保)
・「失敗」のリスクを徹底排除
《例》 冷凍弁当(主菜副菜全部盛り)
③ながく:・価格は高いものの、‘心地良さ’や‘健康的な営み’がずっと続き、
心身の健康を保てるもの
・時間あたり価値(Time ROI)が高いもの
《例》 リカバリーウェア(機能性パジャマ)、高機能シャワーヘッド、栄養補助食品・サプリメント
図7

ここに挙げた3つの単語を注意深く眺めてみると、簡便・時短・省力化といった「楽(らく)」へとつながる生活者心理が浮かんできます。また、安心や健安(健康で平穏な状態)といった「安(あん)」へとつながる心理も横たわっているように映ります。
「パフォーマンス志向の消費者ニーズに応える」を考えるとき、生活者が効果・効率だけを求めているのではなく、「楽になりたい・安心したいという気持ちがある」、つまりは「効率化への希求は、暮らしの中に自己の、あるいは家族の余白を取り戻すための試みである」と読み替えてみると、自社の商品・サービスの中に新しい価値を見出すことができるかもしれません。生活意識や価値観の潮流を捉えつつ、自社の商品・サービスが提供する価値を再定義してみることで、新しい魅力を届けることもできるのではないでしょうか。
インテージは2026年4月に、「なぜ日本人は、それを選ぶのか?データで読み解く 時間とお金の使い方」という本を朝日新書から上梓いたします。インテージが収集しているデータや政府統計なども縦横無尽に駆使しつつ、日本人が時間とお金という限りあるものをどのように消費しているのか?その選択の根底にある価値観は?といった疑問について、幅広い視点から考察しています。今回テーマとして取り上げた「パフォーマンスへの希求」についても、「賢堅消費」や「個人最適化」といったキーワードとともに語られています。
これからのマーケティングを考える上で、皆様のよき羅針盤となれるよう、各領域においてさまざまな専門性を持つメンバーが力を合わせて書き上げたものです。ぜひ、手に取っていただけたら、と思います。
タイトル:なぜ日本人は、それを選ぶのか?データで読み解く 時間とお金の使い方
著者:株式会社 インテージ
出版社:朝日新書
出版予定時期:2026年4月中旬ごろ
※1 インテージ「暮らし wide viewer」
SRI+やSCIといったインテージのインデックスデータや、政府統計、白書などのオープンデータを用いて、衣食住、お金や仕事、メディアの利用状況など、生活者の暮らしを俯瞰して捉えることを目的として作成しています。
(年一回発行)
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