アンケート調査の方法とコツ⑤ 結果のグラフ表現とアンケート調査の活用事例
いまやマーケティング活動の意思決定に欠かせないアンケート調査の基本の調査プロセスや実施のコツについて、シリーズで解説します。
最終回となるこの記事では、定量のアンケート調査の集計結果を表現するときの、グラフの種類の選び方を解説。さらに、アンケート調査の分析結果がどのように活用できるのかを事例を通して解説します。
過去記事はコチラから
第1回「アンケート調査の主な目的と役割・企画前のチェックポイント」
第3回「対象者条件設定~アンケートの作り方編」
第4回「アンケート結果のまとめ方・集計の基本とコツ」
調査結果を表現するグラフの選び方とコツ
アンケートの集計結果は第4回で解説した単純集計表やクロス表といった数表で出力されます。この結果をグラフで表現することで、より直感的に結果を読み取ることができます。ただし、表現したい内容によって適切なグラフのタイプが異なります。どのような時にどのような表現を使えばよいのかを解説します。
1.全体に占める割合を捉えたいとき
設問ごとの当てはまり度合いや、性別・年代など、提示した選択肢の中から1つだけを選んで回答してもらう、単数回答形式の設問の結果は、構成比を表現するのに適している円グラフか帯グラフを使って表現するとよいでしょう。一般に他の設問と比較することがないような設問は円グラフを使用し、項目間で比較するような項目は帯グラフを使用します。
この表現によって、どのような人が多いのかが可視化されます。
図表1
2.選択肢ごとの回答者割合の違いを捉えたいとき
買うときに重視するポイントや購入の理由など、提示された選択肢の中からあてはまる選択肢をすべて選んで回答してもらう、複数回答形式の設問の結果は、棒グラフを使用すると値の差が視覚的にわかりやすくなります。
図表2
3.分析軸間の差異を捉えたいとき
男女間、ブランドユーザー間といった分析軸それぞれにおける単数回答形式での割合を比較したい、といった場合、上述の1.の通り、帯グラフを使用することで、その違いが可視化されます。
図表3
また、それぞれ複数回答形式での割合を比較したい場合には、上述2.同様、棒グラフを用いることで捉えやすくなります。
図表4
4.時間の変化を捉えたいとき
複数回の調査結果を並べて時系列の変化を表現するときは折れ線グラフが一般的です。一般に左から右へと時間が進み、一番右が最新のデータとなるように表現します。
図表5
アンケート調査の分析事例~ホテルチェーンの顧客満足度調査
第1回から5回にわたって「アンケート調査の方法とコツ」を解説してきました。最後に、これまでの内容を踏まえて、実際にアンケート調査を用いてどのようにマーケティングリサーチを行っていくのかを、「あるホテルチェーンの空室率が高くなってきた。」という事例を通して解説します。
1.マーケティング課題設定~調査の企画
この事例では、マーケティング課題は「あるホテルチェーンの空室率が高くなってきた。」と設定されます。
このチェーンでは、特にリピータ―のお客様が減っている、という実態があったため、「お客様の満足度が、いずれかのサービスへの不満によって下がっているのではないか」という仮説を立て、お客様を対象に満足度を調査する、顧客満足度調査を実施することにしました。
マーケティング課題の設定⇒仮説構築⇒調査対象者の決定と進めたら、調査したい内容を決めていきます。調査の目的は、顧客満足度が低いサービスを把握し、優先して取り組むべき改善点を探ること、となるでしょう。
顧客満足は、重視・期待するサービス価値と提供されたサービスをどのように感じたかという知覚品質価値のギャップによって生まれるので、重視度と満足度を確認することで問題点を抽出することが出来そうです。また、利用したお客様にとってのホテルのイメージは宿泊体験を通して形成されるものなので、ホテルの詳細なイメージを聴取しておくと改善点の抽出に役立ちそうです。
そこで、質問項目は、「ホテルを選ぶときの各サービスの重視度」、「サービスごとの満足度」、「ホテルのイメージ」の3つとして、調査を実施しました。
2.集計・分析~重視度と満足度の分析方法
ここからは、今回の調査結果のチャート表現と分析結果について解説します。
まずは「ホテルを選ぶときの各サービスの重視度」を見てみましょう。(図表6)
図表6
このように当てはまる度合いを5段階評価で聴取する時、最も度合いの高い「重視している」の構成比をTop Box(トップボックスと呼び、度合いの高い上位二つである「重視している」と「やや重視している」を合わせた構成比をTop 2 Box(トップツーボックス)と呼びます。Top BoxもしくはTop 2 Boxの数値を用いることで、シンプルな指標で各項目の重視度を比較することができます。
どちらも有用な見方ですが、Top 2 Boxだと甘めの評価となります。今回はホテルのように単価が高く選ぶ上でこだわりを持たれやすいサービスにおいて、利用に結び付く程の重視度が必要ですので、Top Boxのスコアを用いましょう。
チャートからは、料理と接客を重視する人が多く、施設を重視する人は少ないということがわかります。
続いて、サービスごとの満足度を同様に5段階評価で調査した結果が図表7です。
図表7
調査結果からは「料理」の満足度のトップボックスが20.0%となっており、このホテルでは料理に対する満足度が低いことが分かります。
サービス内容の改善の優先順位をわかりやすくとらえるため、前述の2つの結果を組み合わせて分析してみましょう。「散布図」を使うと、わかりやすく結果を捉えることができます。(図表8)
図表8
縦軸は重視度のTop Boxです。重視する人の割合が多い要素ほど、グラフエリアの上部にプロットされます。
横軸は満足度です。今回のテーマは「改善点を探る」ことなので、この散布図では不満者の割合を用います。不満者の割合が多い要素ほど、グラフエリアの右側にプロットされます。
不満足度のように段階評価のネガティブな側面を評価する時は、「ポジティブではない」ことを厳しく評価できるよう、「どちらともいえない」から「満足していない」までの3つを合わせた構成比をBottom 3(ボトムスリー)と呼んで評価指標とすることが多いです。
このように2つの調査項目を掛け合わせてみると、グラフエリアを重視度、満足度それぞれの平均値で分割して4つのエリアに分けたときに右上にプロットされるのが、重視する人の割合が多く、かつ不満者の割合が多い、優先して取り組むべき要素ということになります。
このチャートからは、優先して取り組むべき改善課題は「料理」だということが明確にわかります。
3.集計・分析~改善アクションへとつなげる課題の深堀
「料理」だけでは具体的にどこを改善すればよいのかわかりません。そこで、「ホテルのイメージ」の調査結果のうち、レストランの食事に関する項目の結果を見てみましょう。
図表9は年代別の結果です。50代は主要な顧客層なのですが、その「料理の量」や「料理の味付け」についての評価が低いとの結果になっています。50代にとってはボリュームの多いメニューや濃い目の味付けが評価を低くしていると推測されます。選べるメニューを用意するなどの改善策の検討に、早急に取り組む必要がありそうです。
図表9
この事例のように、空室率の増加の原因を具体的に仮説として設定し、具体的な要素を調査票に盛り込んでおくことが、調査結果を改善施策に繋げるためには必要です。
これまでの連載でご紹介したアンケート調査のコツを参考に、ぜひ実践してみてください。
今回ご紹介した以外にも、正しい回答を引き出すコツなど、調査には様々なコツがあります。調査を行う際には、ぜひ調査会社の担当者に相談してみてください。
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