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デジタル時代のリテール最前線~情報・世界観を届ける「メディア」化戦略

インテージ リサーチイノベーション部 生活者研究センターは、主催する産学官連携生活者研究プロジェクトの一環として、2025年12月11日に有識者を招き「デジタル時代のリテールの役割 ~体験と共感の循環によるファンからパートナーへ~」をテーマとした講演会を開催しました。今年で5回目を迎える本プロジェクトでは、「若者」と「ケア」の二つの研究テーマを掲げて活動しています。

本コラムでは、この講演で語られた内容をもとに、最新研究とリアル店舗事例から見えてきたリテールの未来像とマーケティング戦略への示唆を解説します。

1. リテールの変遷 令和時代に求められるリテールの役割

リテールマーケティングは、日本の経済成長と技術発展、そして消費者心理の変化に沿って大きく変化し続けています。現在では、インターネットの普及によりネット通販が拡大し、オンラインとオフラインの融合が進みました。また、顧客データ(購入履歴や個人特性など)の収集・活用が可能となり、顧客対応のパーソナライズ化が進み、マーケティングが複雑・高度化しています。
モノからコト(体験)と顧客意識が変化する中でリアル店舗に求められる役割を紐解いていきます。

2.デジタル時代におけるリテールと顧客の関係性構築【鈴木智子先生ご講演】

一橋ビジネススクール教授・MBAプログラムディレクターの鈴木智子先生は、公益財団法人吉田秀雄記念事業財団の支援を受けて取り組んだ研究成果をもとに、デジタル時代におけるブランドコミュニケーションの在り方と、リテールの未来について講演されました。

デジタル時代の消費者:ブランドロイヤルティからの解放

デジタル時代は、24時間365日いつでもどこでも買い物ができる環境と、選択肢が無限に広がったという二つの大きな特徴をもたらしました。この変化の中で、消費者のブランドへの接し方も大きく変わっています。

鈴木先生が強調されたのが、「Brand Promiscuity(ブランドプロミスキュイティ)」(造語)です。これは、消費者が特定のブランドに高いロイヤルティを持つことを望まず、複数のお気に入りブランドを持つことを好む心理を指します。例えば、K-POPの界隈では、複数のアイドルを応援する「Multi-Stans(マルチスタン)」がキーワードになっているように、消費者は好きなブランドやモノを一つに絞るのではなく、複数の好きなブランドやモノがある状態にあると考えられいます。この結果から、企業が目指すべき顧客との関係性(ブランド・リレーションシップ)は、かつて理想とされた「強固で長期的、情緒的な1対1の関係」ではなく、「強弱が混在するポートフォリオとしての関係性の最適化」が重要になってきていると言えます。ブランド側から追いかけすぎず、適度な距離感を保った「気軽な友人」のような緩やかな関係を構築していく姿勢を顧客も好みます。そのため、弱くてポジティブな ブランドリレーションシップを構築していくことが重要です。

円環型の購買行動の拡がり

デジタル時代における消費者の購買行動は大きく変化しており、従来の線形モデル(認知から購買へ一直線に進むモデル)よりも円環型モデルが広がっています。これは、消費が暮らしの中に溶け込み、情報の受発信行動と売買の境界線が曖昧になったことに起因します。現代の消費者は、リアル店舗で確認してオンラインで購入することや、Webで探索してからリアル店舗で購入するなど、購買行動のフローが絶えず行ったり来たりしています。重要なのは、消費者の消費行動のエンドゴールが必ずしも「買う」ことではないという点です。そのため、ブランド側は、情報提供と購買機会を、常に自然な流れの中で消費者のタイミングで利用できるように設計していく必要があります。

リテールの未来は「メディア化」と「共感」へ

デジタル時代において、短期的な売上をKPIとして追いかけるのではなく、LTV(顧客生涯価値)を最大化することが不可欠です。顧客は今、目の前の店舗で買う必要性を感じていないため、ブランドは「顧客と一緒に人生を共に歩む」という姿勢を持ち、「買わなくても楽しい」と思える場の提供が重要です。この戦略を実現するための一つが「メディアコマース」です。情報発信(メディア)と取引(コマース)の境界線が曖昧になる中で、小売業は単なる“売り場”ではなく、情報や世界観を提供するメディアになる必要があります。

その成功例として、ECサイトである「北欧、暮らしの道具店」の事例が紹介されました。
(「北欧、暮らしの道具店」の事例に関しては、2026年1月 21日に青山学院大学(東京都渋谷区)で開催されるセミナーにて詳しく聞くことができます。)
鈴木先生は、従来の「強いロイヤルティ」への固執を見直し、現代の消費者の心理と、それに対応したブランド・リレーションシップ、さらにはビジネスモデルの再設計の重要性を示唆しました。

講演の様子

3. デジタル時代の体験価値~チョコレートとアイスクリーム店の取り組み~ 【眞砂翔平様ご講演】

実務家として、東京・日本橋兜町でチョコレート・アイスクリーム店「teal」とカカオの新たな可能性を探究するラボ「nib」を運営するシェフ、眞砂翔平氏による対話形式の講演をしました。

カジュアルな高級感と、自ら生み出す「体験価値」

「teal」は、東京・日本橋兜町にある築100年ほどの旧渋沢栄一邸の跡地で営業しており、ボンボンショコラのような高級なチョコレートもありつつ、ブラウニーやチョコレートバーなど、よりカジュアルに楽しめるお菓子を販売しています。テレビやSNSの影響もあり、小さな子供から高齢の方まで幅広い客層が訪れます。

隣接する「nib」は、カカオに特化した実験的なデザートレストランとして、「カカオ体験」を提供しています。同フロアに香りをテーマとした別店舗「フレグランスロビー」を併設しており、食分野ではタブーとされることもある「食」と「香」を融合した新たな空間を展開しています。nibでは、お客様が目の前のポータブルグリルでカカオをローストし、自ら盛り付けてデザートに仕上げることができ、食育にも近いユニークな体験ができます。さらに、カカオの殻を壁の素材に練り込むなど、カカオの可能性を追究し、結果的にサステナビリティにもつながる取り組みを行っています。

「完璧すぎない空間」が会話を生む仕掛け

tealとnibは、商品だけでなく、空間全体をメディアとして活用しています。店舗は、誰が撮っても美しく映えるようデザインされており、写真に商品だけでなく奥の景色が映り込むことで世界観も伝わるように意識されています。公式SNSはInstagramのみとし、ブランドの世界観を統一。商品と店舗のデザインを統合的にプロデュースしているため、誰が撮ってもブランドの世界観を投影した写真になるようお菓子と店舗のデザインは意識されています。どこで撮っても美しく映えるため、お客様が自発的にSNSに投稿してくれます。

さらに、眞砂氏は、あえて「抜け」を作るという空間へのこだわりを語りました。例えば、築100年の建物の風合いをあえて残し、地名 が書かれた木箱をあえて地方名が見えるように店舗に置くことで、お客様が「これ何ですか?」と質問できる状況を作り出し、コミュニケーションのきっかけを意図的に生み出しています。これは、百貨店のような完璧な空間とは異なり、お客様が楽しみを見つけられ、対話の生まれる「お菓子屋さん」であるための工夫です。

緩やかな繋がりと「感動」を届けるリアル店舗

客との関係性について、とても緩いつながりのお客様から熱狂的なファンまで幅広く存在する中で、店舗に来る目的が「体験」にあるお客様がほとんどであるため、イベントは「楽しくて面白い体験」を提供し、より深い関係を構築していくための「ファンサービス」としての側面も持っています。

例えば、tealの築100年ほどの店舗空間を活かし、大正・明治時代の和家具を洋家具にリペアする職人がいる家具ブランドと一緒にイベントを行いました。このイベントに合わせて1900年代前半の時代性と和の要素を取り入れたサントノーレのようなケーキを特別に作り、家具屋の商品の皿に乗せて提供することで、食と空間が融合した独自の体験を提供しました。この試みは、家具の価値やストーリーを視覚的に伝え、お客様が実際の利用場面をイメージしやすくすることにつながりました。このような店舗でのイベントでは、単に利益追求を目的とするのではなく、お客様やスタッフが楽しめる「ファンサービス」なので、参加者が快適に過ごし、感動し、その体験を他者に伝えたくなるような空間と機会の創出を大切にしています。

イベント写真 (tealよりご提供)

デジタル時代だからこそ、リアル店舗の価値が際立つ

眞砂氏は、リアル店舗の最大の強みは、配送では不可能な「出来立ての感動」を提供できることだと強調しました。この感動こそが、お客様が誰かに教えたくなる動機となり、誰かへのプレゼントを購入し、さらなるつながりを生む源泉となっているのです。
日本橋兜町において、眞砂氏をはじめとしたスタッフは食を通じて「文化」を創造し、金融の街だった兜町を若い人々があふれる街へと変化させています。これは、単に物を売るだけでなく、体験や価値観を共有する場としてのリテールの未来を示していると言えるでしょう。

講演の様子

4. 結び

デジタル時代において、若い方を中心として「体験」の価値が高まっています。SNSを見ると単なる商品写真に留まらず、店舗に入る様子から撮影した動画や使い方を紹介した動画で溢れています。リアル店舗やウェブサイトは単なる販売の場ではなく、「文化」や「世界観」を発信するメディアそのものであることで、顧客の「体験」ニーズを満たすことができるのではないでしょうか。そのような取り組みは、弱くてポジティブ な関係の始まりであって、顧客自らが「また体験したい」「あの感動を伝えたい」という自発的な行動のモチベーションに繋がっていることがわかりました。
鈴木先生、眞砂様、示唆に富むお話をありがとうございました。

本コラムでご紹介をした鈴木智子先生のお話に関心を持たれた方は、ぜひ、下記のセミナー(無料)に足をお運びください。「北欧、暮らしの道具店」の事例をはじめとして、デジタル時代のブランドの在り方についての学びが得られると思います。


デジタル時代のブランドコミュニケーション
~いま注目の「つながりすぎない」ブランド戦略とは~
日程:2026年1月21日(水)
講演:16:00~17:30
交流会:17:30~18:30
場所:青山学院大学 青山キャンパス
参加費:無料
お申し込みはこちらhttps://forms.gle/y1azTReLkYFT85V37

■登壇者プロフィール
一橋ビジネススクール教授・MBAプログラムディレクター
鈴木 智子 先生
日本ロレアル(株)、ボストン・コンサルティング・グループに勤務した後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士(MBA)、同博士後期課程(DBA)修了し、博士(経営学)を取得。京都大学大学院経営管理研究部特定准教授を経て、現職。
専攻分野は、消費者行動論、マーケティング

シェフパティシエ/ショコラティエ
眞砂 翔平 氏
トップオブパティシエインアジアにてアジアベストショコラティエ受賞をはじめ国内外のコンクールで多数受賞。2020年までフランスのショコラティエ「パスカル・ル・ガック」の海外初店舗である「パスカル・ル・ガック東京」を立ち上げ、シェフパティシエを務める。2021年に東京・日本橋兜町の渋沢栄一邸宅跡地「日証館」にチョコレートとアイスクリームのお店「teal」を開業し、新たなチョコレートとアイスクリームの価値を創造している。2024年12月、日証館1階にカカオの可能性を探究するラボ「nib」を開業。

著者プロフィール

小林 春佳(コバヤシ ハルカ)プロフィール画像
小林 春佳(コバヤシ ハルカ)
株式会社インテージ リサーチイノベーション部 生活者研究センター 主任研究員
トビー・テクノロジー株式会社、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所を経て、2019年にインテージ入社。研究開発部門で行動科学の知見を活用した研究案件を担当し、2023年生活者研究センターへ異動。現在は、主任研究員として、生活者理解の下、様々な研究調査をリードし、アカデミアとの共同研究の立案や様々なステークホルダーが集まる共創の場の企画運営を行っている。

株式会社インテージ リサーチイノベーション部 生活者研究センター 主任研究員
トビー・テクノロジー株式会社、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所を経て、2019年にインテージ入社。研究開発部門で行動科学の知見を活用した研究案件を担当し、2023年生活者研究センターへ異動。現在は、主任研究員として、生活者理解の下、様々な研究調査をリードし、アカデミアとの共同研究の立案や様々なステークホルダーが集まる共創の場の企画運営を行っている。

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