浸透進むSDGs 消費者の商品・サービス選択への影響は?
インテージが2020年から継続的に実施しているSDGsに関する自主調査。「SDGs」という言葉が浸透する中、商品やサービスを選ぶ視点にはどの程度影響があらわれているのでしょうか。これまでの自主調査から、最新動向をお届けします。
目次
SDGsは理解を深めるフェーズへ
図表1はSDGsの理解浸透状況を経年で比較したものです。「SDGs」という言葉自体の認知率*は2020年から2022年にかけて毎年大幅に伸びていたものの、2023年1月には83.7%、最新(2023年12月末)には84.6%と、直近では微増で推移しています。一方で、「内容を知っている」「内容をある程度知っている」という人は56.6%と前回(53.8%)より増加しており、SDGsに対する認知の広がりは一定程度上限に達しつつも、現在は理解の深化に向かう局面にあると言えそうです。
*認知率:SDGsについて「内容を知っている」「内容をある程度知っている」「言葉は聞いたことがあるが、内容は知らない」計
図表1
コロナ禍を経て、戦争や紛争といった新しい社会課題に直面。「平和と公正をすべての人に」がトップに
次に、「SDGsで優先的に取り組むべきゴール」がこの3年間でどのように変化したのかを見てみます。図表2は、SDGsの17の目標の中から優先的に取り組むべきだと思う順に3つ選択してもらい、足しあげた結果です。
図表2
最新の結果では、トップに「平和と公正をすべての人に」が挙げられており、以下、「すべての人に健康と福祉を」「気候変動に具体的な対策を」「貧困をなくそう」「人や国の不平等をなくそう」と続いています。上位5つの項目は順位の変動はありつつも2021年から顔ぶれ自体には変化は見られません。
一方で、順位の移り変わりには、社会の持つ空気感や生活者の心理が反映されています。コロナ下においては感染不安を反映して「すべての人に健康と福祉を」が高まりました。また、コロナインパクトによる景気の冷え込みといった経済不安・家計不安に呼応して、以前は上位10位圏外だった「働きがいも 経済成長も」が前回大きくスコアを伸ばして、7位にランクインしました。
そして、ウクライナ情勢や中東におけるイスラエル・ガザの衝突を目の当たりにしたことも影響してか、最新の結果では「平和と公正をすべての人に」がトップとなりました。過去の動きを振り返ると、3位→2位→1位とこの項目は年々順位を上げてきており、戦争や紛争といった社会不安の影が、生活者を色濃く覆いつくしている様子が浮かんできます。
最大の関心事は地球よりお財布。Well-beingにつながる課題感も
図表3は、30の社会課題・テーマの中から“関心のあるもの(いくつでも)”“最も関心のあるもの(ひとつだけ)”を選んでもらった結果です。
図表3
“関心のあるもの”“最も関心のあるもの”ともに1位は「物価上昇、生活費高騰」でした。“最も関心のあるもの”としては2位以下に10.5ポイントという大きな差をつけています。気づけば私たちの身の回りにあるさまざまなモノやサービスが値上がりしています。政府や企業も「賃上げ・所得増」には意欲的に取り組んでおり、春闘では大手企業を中心にベアも多く見られました。その動きは2024年春闘にも継続しそうです。しかしながら、「実質賃金」ということになると目論見通りに「増えた」とはいかないようです。消費者物価指数を上回る、実感の伴う所得増がないかぎり、「物価上昇、生活費高騰」のスコアが落ち着きをみせることはなさそうです。
その他の項目に目を向けると、「心の健康・孤独」といった「Well-being」につながるテーマも大きな課題感となっているようです。また、「超高齢化・介護・世代間格差」「子育て・少子化」といった日本が直面する社会課題への関心も高いようです。SDGsが掲げる大きな社会課題に対して生活者が認識を深め、日々の取り組みとして定着するためには、精神的・経済的な安心・安全が担保されることが重要なのではないでしょうか。
図表4は生活者に45項目の「サステナブルな行動」について実施度合いを調査して分類した「サステナブルセグメント」の構成の推移です。※サステナブルセグメントの詳細は「サステナブルな視点をビジネス課題の解決に活かす 」をご覧ください。
図表4
「サステナブルな行動」レベルが低い「Low」層の構成比が、一度減った後に増加し続いていることがわかります。これも生活防衛意識が高まり、精神的な余裕がなくなってきていることの表れだと考えられます。
商品やサービスを選ぶ視点は、自分のため?社会のため?
ここまで、SDGsに関する認知も広がり、大きな社会課題への関心が高まっている一方で、自身への影響が大きい「物価上昇、生活費高騰」への関心が最も高い、という状況を見てきました。このような中で、商品やサービスを選ぶ際に「よりよい社会や環境の実現」を重視する人はどの程度いるのでしょうか。カテゴリー別に「よりよい社会や環境の実現」と「自分へのメリット」のどちらを重視するかを調べたところ、「よりよい社会や環境の実現」が約1割、「よりよい社会や環境の実現と自分へのメリットの両立」が約3割、「自分へのメリット」が約6割となりました(図表5)。
図表5
特に、「日用品(消耗品)」と「車」では約4割の生活者が、商品選択において「よりよい社会や環境の実現」を意識していることがわかります。「日用品(消耗品)」はマイクロプラスチックゴミ問題、「車」は地球温暖化問題など、近年注目されている社会課題によりイメージがつながりやすいカテゴリーのため、より「生活者自身も負荷の削減に貢献したい」と考えている人が多いのではないかと推察されます。
生活者はSDGsに取り組む企業を応援するのか?
図表6は「SDGs」という言葉を認知している人に対して、SDGsへの関心や、取り組む企業・関連商品への意識を聴取した結果です。
図表6
約5割の人がSDGsに関心があり、「自身も取り組みたい」、「取り組む企業を応援したい」と感じています。 また、4割の人は「SDGs関連の商品やサービスを購入・利用したい」と考えています。
これら全ての項目が2022年と比較してわずかながら増加していました、生活者はSDGsへの取り組みに積極的な企業の活動に共感し、応援しています。その企業が産み出すSDGsに対応した商品を購入することにより、自身も、社会や環境への貢献をしたい、と考えているのではないでしょうか。
この記事でお伝えした通り、ここ数年でSDGsは広く認知されるようになりました。国内においては、猛暑や震災などが、気候変動や自然環境の保全といったことへの関心を高めることにつながっています。また、世界に目を向けると、世界各地で行われている戦争や紛争が、平和を求める声の高まりにつながっています。
今後は、そうした理解や気づきをどのような行動に結びつけられるか、そして、継続して実践していけるか、が重要になっていきそうです。インテージで実施したさまざまなサステナビリティに関する自主調査の結果から、「実践」や「継続」のためには、時間やお金、心のゆとりや、自分へのメリットが感じられることが重要であることが示唆されています。
前述の通り、物価高による生活困窮など自身の足元、暮らしの安心・安全がおぼつかないと、社会に向けての目も閉じがちになってしまいます。そうした側面も含めて、今後の動きを見守っていきたいと思います。
使用したデータ 【インテージのネットリサーチによる自主調査データ】
ウエイトバック:性年代構成比を、2020年度実施国勢調査データをベースに、人口動態などを加味した当該年度の構成比にあわせてウエイトバック
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