男性の「キレイ/かっこいい」価値観に潜んだイノベーションのヒントとは?生活者に気づきを与え、新しい暮らしへと導く新発想
未来への兆し(フォーサイト)から、イノベーションのヒントを得る
シーズ・技術起点だけではなく、生活者ニーズ起点での商品開発や、イノベーションを起こすための創発型生活者リサーチへの期待が高まっています。
商品のコモディティ化が進み、改善改良を重ねられてきたカテゴリーや商品に対し、生活者自ら不満や未充足を感じること、またそれを語ることが難しくなっています。
この現状において、仮に不満や未充足の声が得られたとして、これらを解決することがイノベーションなのでしょうか。
イノベーションのヒントを得るためには、生活者に内在する“未来の暮らしへの想い” に目を向ける必要があります。
生活者は、未来に何を期待しているのでしょうか。企業はその期待に対し、もたらす価値(意味)は何かを探究することが重要です。
そのためには、従来の実態把握や評価・検証型の調査ではなく、イノベーションを生み出すことを目的とした、生活者の未来への期待構造を描く、“フォーサイト型の調査” が必要となってきます。
インテージでは、商品開発支援のためのプログラムとして、「デ・サインリサーチ」をサービス提供しており、当たり前を問い直す、生活者の暮らしをテーマにした調査を設計しています。この記事では、生活者のありたい姿を、対話を通じてともに学び、描いていく調査を、事例とあわせて紹介します。
生活者自らに“気づきを与える”調査手法
生活者の価値観、これからのありたい姿を捉えることを目的に、PACインタビューを実施しました。PACインタビューは、臨床心理の分野で活用されるPAC分析(Personal Attitude Construct 「個人別態度構造」分析)を取り入れた、インテージが保有している独自調査手法です。
生活者との対話、生活者自らが気づきを得ることに重きを置き、インタビューを行います。
PAC 分析とは
PAC分析は、内藤哲雄PAC分析学会会長(前信州大学・現福島学院大学:社会心理学・臨床心理学)によって発明・開発された研究法です。臨床心理の現場では、問題の当事者がPAC分析を用いたカウンセリング(対話)により、自らの潜在的な態度構造や意味に気づくための探索を行う研究法として活用されています。
【PACインタビューの進め方】
1)事前準備:インタビュー素材であるマインドディスカバリーマップ(解析マップ)の生成
- 設定されたテーマについて、複数のワードを自由連想で回答してもらう
- 連想されたワードをペアにし、総当たりで「近い〜遠い」を評価してもらう
- 得られたデータを解析し、マインドディスカバリーマップ(解析マップ)を生成する
2)インタビュー実施
- 自作マップの生成:1)で回答されたワードを空白のマップ上に、「意味合いの近いもの は近く、遠いものは遠く」に並べてもらう(自作マップ)
- 自作マップ完成後、ワードが並べられた意図を説明してもらい、設定されたテーマがどのような構造で成り立っているのか対話しながら聴取していく
- 解析マップの呈示:自作マップと1)で生成された解析マップのギャップに着目し、生活者が自ら考え、その理由を推察する
このPACインタビューにより、生活者は自らを問い直し、自身に内在している暗黙知を推察していくことで、「実はこうなのかもしれない」、「こうしたほうがよいのかもしれない」と、気づきを得ていきます。
また、分析者は、生活者による自らの気づきへの態度変容を、未来への兆し(フォーサイト)と捉え、その姿をサポートするためには、どういった商品があったらよいか、を考えることができます。
分析事例:意識高い系男子的『キレイ/かっこいい』価値観
近年男性用のスキンケア・ボディケア市場は拡大の一途をたどり、2015年が225億円であったのに対し、2018年は251億円にまで伸長しています。(SRI調べ)そんな中、男性はどのような『キレイ/かっこいい』自分でありたいと思っているのでしょうか。
今回は、“身だしなみや身ぎれい” という価値観も同時に探るため、「かっこいい」ではなく、あえて、『キレイ/かっこいい』をテーマにし、イマドキ20代男性の価値観を探ってみました。
また、調査対象には、未来への兆しをつかむため、『キレイ/かっこいい』を意識し、行動に移しているインフォーマント(情報提供者)を選出しました。図表1はこの対象者のプロフィールと「キレイ/かっこいい」というテーマで自由連想してもらった回答です。
図表1
まずは、連想したワードを調査対象者自身で配置した自作マップ(図表2)について、その意図をインタビューしました。
図表2
マップの中心は、テーマにおける一つの答えが表出するエリアとなります。ここには〈清潔感〉が置かれ、インタビューでは〈清潔感〉が「最も重要であり、これは外見・内面にも関係する」と語られました。また、周辺にある〈優しさ〉、〈気遣い〉と意味合いが近く、〈清潔感〉は振る舞いであると話していました。
一方、現在実際に取り組んでいる〈綺麗な肌〉、〈ファッション〉、〈髪型〉については、「マストではなく、少しの努力で叶えられるもので、重要度は低いもの」と、話していました。
そして、自作マップの自己分析段階から、「対女性/周囲への振る舞いや行動が重要」と捉えていました。
次に、距離データをもとに解析を行った解析マップ(図表3の右マップ)を呈示し、ワードの位置が異なるものについて、なぜ異なっているのか、自身で考えてもらいました。すると、見えていたようで見えていなかった、自身の『キレイ/かっこいい』価値観が見えてきました。
図表3
たとえば、〈男らしさ〉のワードの位置に着目すると、自作マップでは、〈スポーツ〉や〈肉体〉など、「男らしさは、鍛えられた肉体であること」を意味していました。しかし、解析マップでは、〈気遣い〉や〈優しさ〉など、女性に対する振る舞いのエリアに存在しており、対象者は「男らしさは、女性に対する行動のほうが重要」と気づきを得ていました。
また、先ほど最も重要と語られていた〈清潔感〉は、中心ではなく、〈綺麗な肌〉や〈ファッション〉の外見に寄っており、本人が理想とする内面の要素ではなく、外見から感じられる〈清潔感〉に留まっていることに新たに気づきました。
ここで、『キレイ/かっこいい』価値観のなかで、身の回りのものがどのような意味を持っているか確認するため、新たに刺激ワードとして〈車〉カードを解析マップにプロットしてもらいました(図表4)。
図表4
所有するかっこよさもあるといえる車ですが、プロットは〈気遣い〉や〈優しさ〉、〈エスコート〉などの近くに置かれ、彼にとっての〈車〉は「車で送ってあげられる」など、行動価値につながっていることがわかりました。
最終的に、対象者はこの対話を経て、「普段から、“対相手への行動” が大事だ、と思っていながらも、マップの状態から、マストではないと感じていた“見た目”に、日々の意識が偏っている」ことに気づきを得ました。「日々、見た目を気に掛けるのはもちろんだが、もう少し異性に対する気遣いや優しさを、“行動” に落とすとしたら何ができるかを考えていきたい」と語っていました。
この記事でご紹介した、ひとりの“意識高い系男子インフォーマント” の期待構造を深掘ることで表出された〈車〉の意味や、〈男らしさ〉の意味は、未来への兆しと言えるでしょう。男性の『キレイ/かっこいい』の世界では、車は所有する価値や、自由に移動できる価値ではなく、“気遣い” としての価値があります。
車を「移動するもの」以外に、「気遣いするためのもの」、「優しさの場を提供するもの」として捉え直した時、新しい車の形が見えてくるのではないでしょうか。
イノベーションにつながるアイデアの創発には、生活者の暮らしに視座を置き、商品やサービスを捉えていくことが重要です。「どうなりたいか」、「どんなものが欲しいか」を直接聞くだけでは、フォーサイトは得られません。生活者と対話し、ともに学びを得ていくプロセス。この学びのプロセスに未来への兆しがあり、イノベーションのヒントにつながるものと考えられます。
今回ご紹介した手法により、新しい暮らしへとつながる方法について、インタビューを受ける生活者とともに考え、その結果から、新しい商品やサービスの兆しを発掘することが可能です。
この記事は、
- インテージの「デ・サインリサーチ」というワークショッププログラムで採用しているPACインタビューの結果をもとにしています。
- MarkeZine 45号に掲載された寄稿記事(『男性の「キレイ/かっこいい」価値観に潜んだイノベーションのヒントとは?生活者に気づきを与え、新しい暮らしへと導く新発想』)を再構成したものです。
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