
医療費の高騰を背景にした「セルフメディケーション」の重要性が語られる中で、医薬品のみならず飲料や食品、アプリなど様々な分野において「健康訴求」が目立つようになってきました。各社が「健康関連サービス」を展開する中で、改めて生活者を主語に、「健康」のためにどのような行動をしているのか、行動の原動力となっているものは何なのか、イマドキの「ケア行動」の実態に迫りたいと思います。
健康に関するステークホルダーが拡大する中で、インテージ 生活者研究センターが中心になって部署およびグループ横断で取り組んでいる「産学連携生活者研究プロジェクト 」では、24年度から「ケア」をテーマに活動してきました。その結果をもとに、計2回にわたってケアの実態を探索していきます。
はじめに、ケアとしてどのような行動が実施されているのか確認していきます。
ケア行動と聞いてみなさんはどんなことをイメージしますか。「定期的な運動・スポーツをする」、「栄養のバランスのとれた食事をとる」などでしょうか。もちろん、これらもケア行動ですが、いずれもカラダに関わることです。今回は可能な限り広くケアを捉えるために、ココロの面でのケア行動にも着目しました。例えば「無理せず休む」、さらに広く捉えると「推し活をする」もココロのケア行動と言えるのではないか、という視点で調査を設計しています。
このように今回は多様なケア実態を把握するため、健康的な体作り、規則正しい生活、食生活、メンタル、絆を深める、その他と項目を立て、それぞれの項目ごとに選択肢を検討、吟味して30個に絞り込みました。通常のリサーチではリサーチ対象の領域や特定のカテゴリーに限定した選択肢を用意することが多いですが、産学連携プロジェクトでは普段とは違う視点、広い視野でチャレンジする場です。可能な限り範囲を広げた30個のケア行動を提示したからこそ見えてきた結果をご紹介します。
図表1は、健康を保つために実施している行動を、実施率の高い順に示したものです。男女問わず実施率の高いケア行動は「睡眠時間を確保する」「好きなものを食べる」「無理せず休む」となっています。
図表1
これらの行動は継続したい行動としても上位でした(図表2)。
図表2
また、年代別にケア行動を比較すると、16-30歳では「趣味を持つ」、31-50歳では「リフレッシュする時間を作る」、46歳-65歳では「健康診断などを定期的に受ける」がそれぞれ特徴として挙がりました(図表3)。この結果から、若年層は「楽しさ」「充実」、ミドル層は「癒し」「発散」、シニア層は「体調管理」がケアに関する特徴的なキーワードとなっていそうです。
図表3
また、今回聴取したケア行動を特性から「自分に制約をかけて頑張る」「自分を甘やかして頑張らない」の2区分に分けて図表1に反映したものが図表4の結果となります。この区分で見ると青色の「自分を甘やかして頑張らない」行動がケア行動実施率ランキングの上位を占めていることが分かります。一般的に「ケア」のための行動としては「運動」や「栄養バランス」など「健康に良い行動」が挙がると想定していましたが、生活者にとって「ケア」は「頑張らない行動」も含めた広い概念として捉えていることが伺える結果となりました。
図表4
ケア行動の実施実態を紐解いてきましたが、続いてケア行動の目的や、始めたきっかけについて、いくつか例にとって見ていきます。
目的について、「睡眠時間を確保する」は、「身体疲労の回復」が最も高く、次いで「体調の管理」「精神疲労の回復」と続いていました(図表5)。睡眠目的の特徴としては、身体・精神の両面での目的で実施されていることが興味深いポイントです。睡眠は、疲労の種類を問わず解決策として認知されていることが、実施率の高さの要因の一つになっているのではないでしょうか。
図表5
また、年代によって実施目的が異なるケア行動もありました(図表6)。「趣味を持つ」は、16-35歳では「心の安定」が最上位の理由となり、36歳-65歳では「リフレッシュ効果」が最上位となっていました。いずれも精神面での理由となりますが、年代によって求めていることが異なっている表れではないか、とも捉えられます。また、10代では「自分らしさの体現」が上位に挙がっており、趣味自体が自身のアイデンティティと結びついている側面もありそうです。
図表6
続いて、ケア行動のきっかけについて見ていきます。興味深い結果としては「家族」の関与が見られる行動が散見された点です。図表7はケア行動をはじめたきっかけとして「家族」の影響が大きかったものを示しています。「家族の中でルールを作る」など、行動自体に家族が含まれるものを除くと「添加物の少ない食品や自然食品を選ぶ」「心理カウンセリングを受ける」「栄養のバランスのとれた食事をとる」が「家族」をきっかけにはじめている割合が高い行動として挙がりました。
図表7
「添加物の少ない食品や自然食品を選ぶ」「栄養のバランスの取れた食事をとる」のような食事に関する行動は家族との結びつきが強い、という結果となっています。食品市場においては、機能性表示食品や特定保健用食品(トクホ)などの健康訴求品が増加しており、高価格帯品も増加しています。その購入を後押ししているものとして、自身の健康管理需要も考えられる一方で、「家族」を念頭に置いた需要もある 、と言えるのではないでしょうか。
現在、健康目的のサービスや商品は、「身体的健康」を念頭に置いた機能性を中心に語られることが多いと感じています。もちろん機能性のニーズも存在していますが、今回の結果から、生活者は「精神面」のケアも含めて、「健康」を広く捉えていて、行動の目的においても必ずしも「身体的健康」の解決を求めていないことが分かりました。
また、ケア行動のきっかけとしては、「家族」の影響も見逃せないポイントになっています。幼少期の習慣や家族を想った行動が、ケア行動の原動力となっているように感じます。特に食事についてはその結びつきが顕著でした。
こうした生活者視点での「健康」「ケア」を見つめなおすことで、健康ニーズを紐解いていくことが、「健康市場」の拡大につながるのではないでしょうか。機能性中心の「健康に良いから」と想起させることにとどまらない「行動変容 を促すアプローチ」を探求し、健康サービスがより広く生活者へ受け入れられるには何が必要か、生活者理解を起点に引き続き考えていきたいと思います。
次回は、ケアをテーマにした親子ワークショップの結果をもとに、ケア行動の実施に至るまでの構造理解と、ケア行動と家族との関係性について深堀していきます。
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【調査概要】
期間:2024年1月31日から2月4日
対象者:16歳から65歳までの5,116名
調査方法:インテージキューモニターに対するアンケート調査
調査手法:オンラインアンケート
調査地域:全国
対象者条件:男女16~65歳 以下の項目にて母集団準拠して配信
未既婚、エリア(※可能な範囲にて)
モニター:インテージネットモニター
実施期間:2025年1月31日(金)~2月4日(火)
回収数:5,116s
設問数:55問
その他:人口構成に合わせてウェイトバック集計を実施
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