

物価の上昇が続く中で、生活者の「食」事情も変化してきています。
特に、相対的に費用のかかる「外食」を控えるようになり、自宅で調理をするようになった・頻度が増えた、という生活者は多いのではないでしょうか。(以降、本記事では家庭内で食材を調理し食べること全般を「自炊」と呼びます。)
メーカー目線に立つと、実際にこの「自炊」市場が広がっているのであれば、特に食品や調理器具・家電メーカーなどにおいては、それは好機ともとらえられるかと思います。
また、この「自炊」市場の中でも特に、「ここ最近で自炊を開始した生活者」も多いのではないでしょうか。市場で優位に立つためには、そういった生活者に目を向けてみることも必要かもしれません。
本記事では、直近で自炊を開始した生活者について、インテージが実施した最新調査をもとに見ていきます。まず彼らのボリュームや属性を把握したうえで、行動・意識の実態を、継続的に自炊をしている生活者と比較しながら確認をします。また、自炊への「モチベーション」にも着目しながら、彼らをターゲットにした商品開発やコミュニケーションのヒントを探していきます。
本記事では、自炊実施者を自炊の継続期間の長さで3つのセグメントに分解し、短い順に「エントリー層」「継続層」「定着層」と呼ぶことにします。
本記事における「自炊」および各セグメントの具体的な定義は以下の通りです。
・自炊実施者の定義:「平日(仕事がある日)の夕食」について、自分で調理をしたものを食べる頻度が半分以上
・エントリー層:自炊を1年以内に始めた
・継続層:自炊を1年以上~2年以内の間に始めた
・定着層:自炊を2年以上前から始めている
初めに、「エントリー層」のボリュームを確認します。
図表1

今回の調査(2026年1月に実施)では、18~79歳全体のうち、6.5%が「エントリー層」という結果でした。これは、日本の人口に換算すると約610万人、ということになります(令和2年国勢調査をもとに算出)。また、自炊実施者に絞ると、そのうち14.9%が「エントリー層」である、という結果でした。
続いて、「エントリー層」の性年代内訳を、ほかのセグメントと比較しながら確認します。
図表2

性年代ではエントリー層と継続層の傾向が近く、定着層 と比べると男性比率の高さが特徴的です。また、男女とも20代以下の比率が高く、定着層とは性年代構成が大きく異なる結果でした。
さらに、各セグメントの「自炊を開始したきっかけ(複数選択)」の上位5項目についても見ていきます 。
図表3

エントリー層では「食費を管理しやすいから」という理由が25.6% で最も多いですが、継続層、定着層になるにつれ、順位は下がっていきます。
ここまでの結果から、「エントリー層」は構成比はそれほど大きくないものの 、男性比率が高く、また年代で見ると男女20代以下の若年が多いため、将来の自炊市場を支えるポテンシャルを持っている、とも言えそうです。また、自炊の開始理由としては、食費の管理というやや実利的な視点で自炊を開始していそうなこともわかりました。
自炊市場においてエントリー層の心をつかむためには、実利的なきっかけで自炊を始めている彼らに対し、自炊への積極的/前向きなモチベーションを作れるような新商品企画やメッセージ訴求を行っていくことがポイントになるかもしれません。
次章では、彼らの自炊に関する行動や意識の実態を詳しく見たうえで、3章では彼らのモチベーションを左右する要素を分析していきます。
本章ではまず、自炊にまつわる行動のうち、エントリー層とそれ以外の層とで特徴的な違いが見られた、「献立決め」を取り上げます。(そのほかの行動や意識については、記事末尾よりダウンロードいただける無料レポートに掲載しています。)
図表4は、献立決めに関する考え方を、P(レシピ本やレシピサイト、SNSなどで作りたいものを探す)とQ(自分のレパートリーの中で作るものを考える)のどちらに近いか聴取した質問の結果を、セグメント間で比較したものです。
図表4

エントリー層は「Pに近い」「どちらかというとPに近い」と回答した割合が40.2%と、定着層よりも約17ポイント多く、事前になにかしらの手段でレシピを探している割合が多いことがわかります。これには、エントリー層は自炊経験が少なく、自分の中にレパートリーが少ないことが影響していると考えられそうです。
続いて、各セグメントが、実際に使用している調味料のカテゴリについて確認をします。
図表5

醤油、味噌などの基礎調味料を週1回以上使用している割合は定着層の方が多い一方で、スープの素やたれ、メニュー専用調味料やルウ、レトルト食品などはエントリー層の方が多いことがわかります。
ここまでの結果から、エントリー層は調理の経験が浅い故に、献立を決める際に積極的に情報を収集したり、スープの素やレトルト食品など、それ一つで味が決まる簡便性の強いカテゴリを頻繁に使用したりしていそうなことが見えてきました。
エントリー層特有のニーズとして、「失敗したくない」や「簡単に美味しい料理を作りたい」などがありそうなことがうかがえます。
次章では、エントリー層の自炊へのモチベーションの変化に着目しながら、エントリー層の心をつかむための商品開発やコミュニケーションのヒントを探っていきます。
本章ではエントリー層の「モチベーション」に着目しますが、そもそもモチベーションを向上させることが、メーカー側にとってもメリットがあることなのか、をまず確認します。
「調理に対するモチベーションが、自炊を始めたころと比べて上がったかどうか」という質問への回答と「週1回以上使用しているカテゴリ」との関係性を見てみます。
図表6

図表6を見ると、醤油や味噌のような使用率の高いカテゴリではモチベーションの増減でもあまり差が出ていない一方で、使用率の低いカテゴリではモチベーション増加層のスコアが低下層を上回っています。自炊へのモチベーションが高い層は、様々な調味料を使用する傾向がある、つまり、エントリー層の自炊へのモチベーションを上げることは、自社カテゴリの使用頻度を上げることにもつながる可能性がありそうです。
また、上記のようなカテゴリ間の違い(使用率の低いカテゴリでスコアの差が大きい)が生じている背景には、自炊へのモチベーションと挑戦するレシピの幅に関係がある、という仮説や、「簡単に、失敗せずに使える」という要素がモチベーションに関係しているのでは、という仮説が考えられそうです。
ここからは、「エントリー層」のモチベーションを左右する具体的な要因について詳しく確認していきます。
まず、モチベーションの増減 と、献立決めや料理の作り方に関する意識の違いを確認します。
図表7

モチベーションが上がっている層は「レシピ本やレシピサイト・SNSなどで作りたいものを探す」割合や、「レシピに忠実に作る」割合が、モチベーションが下がっている層と比べて高いです。
エントリー層は調理の経験が浅いため、レシピを見ずに自分で料理をするとうまくいかないケースが多くなる一方で、事前にレシピを確認し、レシピに忠実に作るとうまくいくケースが増える、といったような成功体験の獲得とモチベーション上昇との関連が示唆されます 。
この調査では、「自炊へのポジティブなイメージ」についても聴取をしています。ここについても、「モチベーションの増減 」を軸に見ていきます。
図表8

「節約になる」「食べる量を自分で調整できる」など、自炊がもたらす「実利的なベネフィットの想起率は、モチベーション低下層の方が高いようです。そのほかの項目は総じてモチベーション増加層のスコアが高いですが、特に差が大きいのは、「楽しい」「やりがいがある」「達成感・成長実感を味わえる」などです。
自炊のモチベーションを高めるためには、実利的なベネフィットだけでなく、楽しさや成長実感といった、情緒的なベネフィットを感じてもらうことが重要である、と考えられそうです。
本章の結果を踏まえ、自炊エントリー層のモチベーションを高められるようなコミュニケーションや商品開発のヒントについて、整理します。
自炊をする際に、レシピを探したり、レシピに忠実に作ったりしている人はモチベーションも高いことから、エントリー層にアプローチをする際には、商品の使い方やレシピをわかりやすく提示することが重要だと考えられそうです。エントリー層自体、レシピを探す割合はほかの層と比べて高いですが、パッケージ上の情報設計や、視認性の向上により、「レシピを見ない」という層にも使い方が目に入るようになっていると、自炊の裾野を広げていくことにつながりそうです。
また、「楽しさ」や「成長実感」といった情緒的なベネフィットを感じている人はモチベーションも高まっている、ということもわかりました。つまり、レシピ訴求を行う際には、単に「簡単」や「失敗しない」というだけでなく、調理や食べる過程で楽しさを感じられたり、「自分でもこんなに美味しいものが作れた!」という前向きな手ごたえを感じてもらえたりするような仕掛けが重要と言えそうです。具体的には、SNSを活用した感想の共有や、専門店や有名シェフとのコラボレシピなどのアイデアが考えられるかもしれません。
本記事では、最近自炊を始めた「エントリー層」に着目をして、エントリー層ならではの意識や、モチベーションを高めるためのポイントについて見ていきました。
構成比自体はそこまで高くないエントリー層ですが、男性や若年が多く、将来「自炊」市場を支えるポテンシャルを持っている、とも言い換えることができそうです。
エントリー層の自炊開始理由は「食費を管理しやすいから」という実利的視点が多い一方で、自炊をする中で「楽しい」や「やりがいがある」「達成感や成長実感を味わえる」などの感情とモチベーションとの関連も示唆されました。
自炊始めたての頃ならではの悩みや不満などがある中で、商品やコミュニケーションを通じてモチベーションを高めてもらうことができれば、ブランドと生活者との強い絆を築くことや、自炊市場の中で優位なポジションを築くことに繋がるかもしれません。
※今回の調査で明らかになった詳細なデータやチャートは、無料のダウンロードレポートでご覧いただけます。ぜひ、ダウンロードしてください。
【インテージのネットリサーチによる自主調査データ】
調査概要
調査地域:日本全国
対象者条件:18~79歳男女個人
標本抽出方法:マイティモニターより適格者を抽出
標本サイズ:スクリーニング調査n=25,125 本調査n=3,311
ウェイトバック集計:本調査のみ実施(スクリーニング調査における各セグメントの性年代構成比をもとにウェイトバック)
調査実施時期:2026年1月21日~2026年1月23日
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