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シェアモビリティによる自由な移動とビジネスチャンス

3年以上続くコロナ禍の中で、人の移動の変化が注目され、変化した都市の風景が世界中から報じられてきました。この記事では、様々なデータからコロナ禍の日本における移動の変化を振り返りながら、移動の変化がもたらすビジネスチャンスについて考えます。

コロナ渦に変化した新しい生活スタイルの定着

図表1に、2020年1月を100%としたときの東京の主要4駅(新宿、渋谷、東京、池袋)における人流と、アンケートで聴取した新型コロナへの不安意識を示しました。コロナへの不安が小さくなるとともに人流の回復が進み、昼の時間帯には直近4月で9割まで回復しています。ただし、夜の時間帯は昼と比べると回復が遅く、職場での飲み会の減少といった新しい生活スタイルはすでに定着しており、今後も継続する可能性がうかがえます。

図表1

東京の主要4駅(新宿。渋谷、東京、池袋の合計)の平日の人口と新型コロナへの不安

コロナ渦に大きな影響を受けた公共交通

人々が利用する交通手段にも、変化とその定着が見られます。図表2に、国土交通省が発表している2020年から2023年1月にかけての鉄道と自家用車による移動距離のデータを2020年1月を100%として示しました。

図表2

交通手段別の移動距離

パンデミックの影響を大きく受けたのは鉄道とバスです。2020年4-5月には鉄道は45%、バスは30%程度まで落ち込みました。特に鉄道は2022年後半でもコロナ前の8割程度のまま推移しています。リモートワークの普及によって郊外から都心への電車通勤が減少したことが要因だとすれば、コロナ前の8割程度という水準が今度も継続する可能性があります。

鉄道やバスといった公共交通が大きな影響を受けたのに対して、自家用車での移動は2020年4-5月でも8割程度までにしか落ち込んでいません。コロナ禍において、多くの人が一緒に乗り込む公共交通機関の利用が避けられたのに対し、パーソナルな移動である自家用車への影響は比較的小さかったことが分かります。

コロナ禍のパーソナルな移動手段として普及が加速したシェアモビリティ

コロナ禍において重要になった「パーソナルな移動手段」として重宝された自家用車ですが、全ての人が利用できたわけではありません。自動車検査登録情報協会によれば、1世帯当たりの自動車の所有台数は都市部で低く、東京では0.42台、大阪では0.63台です。公共交通機関の利用が難しいコロナ禍において、自家用車を持たない人にもパーソナルな移動を可能にしたのが、乗り物を“所有”ではなく、“共有”することが特徴のシェアモビリティです。

図表3に、2021年2月から約2年間のシェアモビリティの推計利用人数(15-69歳)の推移を示しました。スマートフォンアプリの利用ログから、カーシェアは6つ、シェアサイクルは4つ、シェアキックボードは2つのスマートフォンアプリのうちいずれかを各月に1回以上利用した人の割合を算出し、人口と掛け合わせて利用人数を推計しました。性年代別、地域別といった詳細な粒度で複数のアプリの利用状況を分析できるのは、スマートフォンアプリの利用ログの特徴の1つです。

図表3

シェアモビリティの月間利用者数推移(15‐69歳)

データからは、シェアサイクルとシェアキックボードの利用人数がどちらも約2年間で3倍以上に増加していたことが分かりました。対してカーシェアの利用人数は1.6倍の増加です。公共交通機関の利用が控えられたコロナ渦において、特に自転車やキックボードといった小型のシェアモビリティが、公共交通機関に代わるパーソナルな移動手段として急速に広がったことがうかがえるデータです。

都市の交通文化とシェアモビリティ

シェアモビリティの普及について、さらに詳細にデータを分析します。図表4に、カーシェアとシェアサイクルの性年代別、地域別の利用率を示しました。参考情報として、自動車、自転車の所有台数を並べています。

図表4

シェアモビリティの利用率と自動車、自転車の所有

まずは全国平均に着目し、性年代別の傾向を解釈します。若年層ほど利用率が高いのはカーシェアとシェアサイクルの共通した傾向です。男性のほうが利用率が高いのも共通した傾向ですが、カーシェアでより顕著です。20代でみると、男性のカーシェア利用率は1.5%なのに対して女性は0.4%と、大きな差があります。

次に、3大都市圏の中心である東京、大阪、愛知の地域差に着目します。シェアモビリティの利用率と自動車、自転車の所有台数の関係からは、三者三様のシェアモビリティの普及が見えてきました。

カーシェアの利用率は自動車の所有との関係がはっきりしていることが分かります。自動車の所有台数が全国平均の半分程度である東京と大阪は、カーシェアの利用率が高い傾向です。一方で愛知は、東京、大阪とは大きく異なり、車の所有台数が多くカーシェアはあまり普及していません。シェアモビリティのビジネスの特性上、都市部で利用率が高いことは当然の結果ですが、その都市の生活者がすでに所有する乗り物も、シェアモビリティの普及の重要な要素だということが分かります。

シェアサイクルの利用率を見てみると、東京はカーシェアだけではなく、シェアサイクルの利用率も47都道府県で最も高い地域となっていました。特に20-30代の男性の利用率が高く、20代男性では4%にもなっています。シェアサイクルに乗ったサラリーマンが都心のオフィス街を走る風景は、コロナ以降の新しい風景の1つとして定着してきたのではないでしょうか。

大阪のシェアサイクルの利用率は東京ほどは高くなく、全国平均並みでした。伝統的に自転車の利用が進んだ都市として知られる大阪ですが、すでに多くの人が自分の自転車を所有しているため、むしろシェアへのニーズが東京ほど高くないようです。坂が少なく、電動ではない安価な自転車で移動しやすいことも 所有が選ばれている理由かもしれません。愛知はカーシェアだけではなく、シェアサイクルでも全国平均より低い利用率でした。東京や大阪とは大きく異なる愛知の交通文化の特徴がよく分かるデータです。

車と自転車、どちらのシェアモビリティでも先行する東京。車はシェアが普及するものの、自転車は所有が中心である大阪。自家用車の多さからシェアモビリティの普及が進みづらい愛知。三大都市圏だけに着目しても、シェアモビリティの普及状況は三者三様です。それぞれの都市で生活者が抱えていた移動の不自由さを解決するかたちで普及が進んでいることがうかがえるでしょう。

自由な移動がもたらすビジネスチャンス

最後に、本稿で見てきた移動の変化がもたらすビジネスチャンスについて考えます。生活者の移動手段の変化は、生活者の行動圏の変化につながり、商圏(店舗や観光地等の集客が見込める地理的な範囲)にも変化をもたらすでしょう。例えば、駐車場の確保等の問題から車を持ちづらい都市部の若年層でも、必要なときだけカーシェアを利用することで、鉄道沿線以外の観光地にも行動範囲を広げやすくなります。またシェアサイクルやキックボードのような小回りの利くモビリティを利用することで、駅から遠くて行きづらかったレストランにも行ってみようと思うかもしれません。

自由な移動が難しかったコロナ禍に普及が加速したシェアモビリティですが、所有できる乗り物や鉄道の利便性に縛られず、生活者がもっと自由に移動することを可能にするサービスとも言えるでしょう。今後さらにアフターコロナへの移行が進む中で、移動の自由の拡大はどのようなビジネスチャンスにつながるのでしょうか。街で見かけたカーシェアのステーションやシェアサイクル利用者に少しだけ気を留めてみることは、その理解のヒントになるかもしれません。


【データソース】
人流データ:株式会社ドコモ・インサイトマーケティング「モバイル空間統計®」*¹(ドコモの携帯電話ネットワークのしくみを使用して作成される人口の統計情報)
*¹モバイル空間統計®は株式会社NTTドコモの登録商標です。

スマートフォンアプリ利用データ:株式会社ドコモ・インサイトマーケティングが所有するdi-PiNK®*²のアプリ利用履歴(個別に同意をいただいた方)」
*² di-PiNK®は株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの登録商標です。

《Withコロナデイリー調査:2020年3月~6月》
調査地域:全国 対象者条件:15-79歳の男女 標本サイズ:n=500s(1回あたり)
調査実施時期:2020年3月25日~2020年6月30日
《Withコロナウィークリー調査:2020年7月~2022年4月》
調査地域:全国 対象者条件:15-79歳の男女 標本サイズ:n=約3000s(1回あたり)
調査実施時期:2020年7月~2022年4月

鉄道移動距離(旅客人キロ):鉄道輸送統計調査(国土交通省)
バス移動距離(旅客人キロ):自動車輸送統計調査(国土交通省)
自家用車走行距離:自動車燃料消費量調査(国土交通省)
自動車所有台数:一般社団法人自動車検査登録情報協会 *2023年3月末時点
自転車所有台数:一般社団法人自転車産業振興協会*2021年調査

著者プロフィール

山津 貴之(やまつ たかゆき)プロフィール画像
山津 貴之(やまつ たかゆき)
事業開発本部 次世代消費者パネル事業開発部 アナリスト
2014年に大学卒業後インテージへ入社。
小売店パネルの運用部署にてパネルデータの品質管理を担当。機械学習を用いたデータクリーニングロジックを開発。
2017年からはスマートテレビ視聴ログを用いた商品“Media Gauge”の新規事業開発を担当。データベースや調査設計等の基盤構築から、視聴データ分析による広告主や放送局等での活用支援まで幅広い領域に携わる。
2021年から、インテージグループR&Dセンターおよび所属大学院にて、スマートテレビでの放送とアプリの視聴実態について研究を開始。
趣味は自転車旅と自転車通勤。

事業開発本部 次世代消費者パネル事業開発部 アナリスト
2014年に大学卒業後インテージへ入社。
小売店パネルの運用部署にてパネルデータの品質管理を担当。機械学習を用いたデータクリーニングロジックを開発。
2017年からはスマートテレビ視聴ログを用いた商品“Media Gauge”の新規事業開発を担当。データベースや調査設計等の基盤構築から、視聴データ分析による広告主や放送局等での活用支援まで幅広い領域に携わる。
2021年から、インテージグループR&Dセンターおよび所属大学院にて、スマートテレビでの放送とアプリの視聴実態について研究を開始。
趣味は自転車旅と自転車通勤。

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