話題の「睡眠の質」市場に見る売場づくりのヒント
いま、機能性表示食品の睡眠関連市場が好調です。主に「睡眠の質」を改善する機能を訴求する食品で、現在では乳酸菌飲料や健康食品など40ほどのブランドが参入しています。
睡眠以外にも、健康領域においては、悩みに対して対処できるモノを商材問わず探したい、というニーズが多くあります。そこでこの記事では、睡眠市場を例に、健康ニーズにこたえる「テーマ型売場」の作り方について考えていきたいと思います。
睡眠市場の推移
はじめに、睡眠関連の機能性表示食品の市場規模を確認しましょう。
図表1の通り、年々販売規模を伸ばしており、直近年でも前年比190%とほぼ倍増で735億円に到達しました。同規模のカテゴリーとしては、美容・健康ドリンク(733億円)、インスタントコーヒー(750億円)などが挙げられます。機能性表示食品のうち睡眠関連のみの売上で1カテゴリーと同規模と、その大きさが感じられます。
図表1
さらに、購買データを見ると、21年から22年では購入率が大きく伸びて新規層が拡大しているのに対し、22年から23年は購入率とともに購入者あたりの購入金額も伸びていました(図表2)。新規層のさらなる増加と合わせてリピート、定着も進んでいると思われます。
図表2
そして、この22年から23年の購入率について年代別で見てみたところ、全ての年代において昨年の値を上回っています(図表3)。
図表3
昨今、様々な商品やサービスの値上がりが続いており、「生活防衛」という言葉があちこちで聞こえ、生活者の財布の紐が固くなっていることを踏まえれば、この「睡眠」を訴求した機能性表示食品の好調さはさらに際立ちます。現代人が老若男女を問わず、睡眠の質を上げたがっているという、ニーズの強さが感じられる結果と言えます。
「睡眠の質」に関する生活者の悩み
幅広い層による購入が見られた「睡眠」関連ですが、「睡眠の質」に関する意識はみんな同じなのでしょうか。ここで「睡眠の質」について深掘りをしてみましょう。
はじめにインテージヘルスケアで実施している生活健康基礎調査にて、症状の有無を問わず、関心があったり、気になったりしていることを挙げてもらった結果を見てみます(図表4)。「睡眠の質」を挙げた人は全体で3位、男性では4人に1人、女性では約3人に1人という結果になりました。
図表4
「睡眠の質」以外の上位症状は男女で差があるのに対して、「睡眠の質」は比較的性別の差がない男女共通の関心事と言えそうです。なるほど、このように関心度の高い、気になっている人が男女ともに多く、さらに年代別にもさきほど購買データで見たように幅広い年代で買われているから、機能性表示食品の睡眠関連の販売は好調なんですね。
では、睡眠の質を下げてしまう要因はどこにあるのでしょうか。先ほどと同じ生活健康基礎調査の結果から「睡眠の質を下げる要因」を順に見てみましょう(図表5)。
図表5
10、20代の若年層では「寝る前にスマホやゲームをすること」が4割から6割と最も高くなっています。10、20代と言えばデジタルネイティブの世代ですが、睡眠の質を下げるほどにスマホやゲームが手放せないのでしょうか。SNSにしてもゲームにしても入眠前に脳を疲れさせてしまいそうです。次点は「夜遅くまで仕事や勉強をすること」で3割前後でした。
男性30、40代も10、20代同様に「夜遅くまで仕事や勉強をすること」がほぼ3割。働き方改革の効果も気になるところですが、まだ高い数字のようです。同じ30、40代でも女性は「ストレスや悩みがあること」が高く、3割を超えています。もう一つ、30、40代の女性の特徴として「育児をしていること」が挙げられます。今や共働き世帯数は専業主婦世帯数の2倍以上あると言われています。育児をしながら仕事もこなしているのだとしたら仕事と育児のダブルで負担になっているのではないでしょうか。ちなみに、同じ年代の男性における「育児をしていること」を挙げた割合は、1割にも満たない結果でした。
最後に50代以上について見てみます。50代以上は「加齢」を要因に挙げています。一般的に加齢とともに睡眠時間が短くなったり、途中で目が覚めることが増えます。60、70代の「トイレが近いこと」も同様に加齢に伴って増える悩みです。
このように、睡眠の質を下げる要因は、性別や年代によって様々です。当然、対処も変わってきます。「ストレスや悩みがあること」が要因であれば、寝る前にリラックスした状態を作れるように、入浴剤やハーブティといったリラックス効果のあるものを取り入れるといった対処が考えられますし、「トイレが近いこと」が要因であれば漢方薬や医薬品で対処することもできます。
そこで次の章では、これらの要因を踏まえ、店頭でどのように対処を提案するといいのか、売場づくりについて考えてみます。
睡眠の質改善に向けた売場づくり
「ルイボスティー」をご存知でしょうか。店頭では、抽出して飲むタイプのお茶コーナーなどで販売されています。カフェインがなく、気持ちを落ち着かせ、リラックス効果をもたらせてくれるというルイボスティーは、睡眠の質を下げる要因として「ストレス」を挙げている人には有効な対処法のひとつと考えられます 。
ただ、その人はお茶コーナーに立ち寄るとは限りません。仮に立ち寄っても他のお茶に目がいってルイボスティーは視界に入らないかもしれません。図表6のデータで確認すると「ルイボスティー」はチェーンスーパーやチェーンドラッグの店舗にはほぼ配荷されています。しかし睡眠の質を下げる要因として「ストレス」が最も高かった女性30、40代における購入率はここ数年でほぼ変わっていません。
図表6
こんな時、悩みを持った人により広く届けるには、「睡眠の質」をテーマとした、対処法となる商品群で売場づくりをすると有効なのではないでしょうか。過去にも、健康テーマでTV等に取り上げられて販売が伸びたカテゴリーは多数ありますが、数年のうちに売上を落としてしまうケースがありました。販売チャネル側がいわゆるブームとして捉えて、特定のカテゴリーや商品を推すような売場を作っても、すぐに他の勢いのあるカテゴリーや商品に関心が移ってしまいかねません。
しかし、睡眠の質は普遍的な悩みです。睡眠の質を下げる要因が解消されない限り、対処したいニーズ自体はなくならないはずです。だとしたら、対処法が特定の商品やカテゴリーに限定されている 、あるいは対処法の選択肢は複数あるが売場が点在しているという点を見直してみるのがよさそうです。対処法の選択肢で売場をつくることは視認性を高め、伸びしろのあるカテゴリーに光を当てることでもあります。睡眠の質においてはルイボスティーもその一つかもしれません。
ただし、実現が困難なケースもあります。たとえば売場のスペースが限られているとか、オペレーションが大変などといったことが想定されます。このようなときには昨今スーパーやドラッグストアで導入が進んでいる会員アプリによる情報提供が考えられます。アプリ上なら物理的な制約を気にすることなく、その人に合った睡眠の質を向上させる方法、選択肢を紹介することが出来そうです。入店後は、導線が明確であれば従来型の部門、カテゴリー単位の陳列でも迷わずお茶コーナーからルイボスティーを手にすることができるでしょう。
さいごに
健康の悩みは「睡眠の質」以外にも様々にあります。このようなお悩み別の売場を「テーマ型売場」として展開するのはいかがでしょうか。テーマ設定の際のポイントは、世の中のトレンドもありますが、ボリュームが取れるか、そしてターゲットとしている層とチェーン企業の相性が良いか、を見極めることが重要と思います。その点、睡眠の質はこれまで見た通り、関心が高く、性別、年代を横断して対処されていることから、テーマ型展開にふさわしいと思いますし、他にもテーマ型売場の展開に適した「症状、気になること」はまだまだあります。
コロナ禍を経て多くの生活者が健康に関心を向けていると言われる今、このような従来とは違う売り方や取り組みをすることが、健康領域における市場創造につながっていくのではないでしょうか。
【SCI®(全国消費者パネル調査)】
全国15歳~79歳の男女53,600人の消費者から継続的に収集している日々の買い物データです。食品、飲料、日用雑貨品、化粧品、医薬品、タバコなど、バーコードが付与された商品について、「誰が・いつ・どこで・何を・いくつ・いくらで、購入したのか」という消費者の購買状況を知ることができます。
SCI Shopper Indexデータは、このSCIで収集している消費財購入時のレシート情報を基に、日常の買い物金額や買い物頻度などを集計したものです。
※SCIでは、統計的な処理を行っており、調査モニター個人を特定できる情報は一切公開しておりません
【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
国内小売店パネルNo1※1 のサンプル設計数とチェーンカバレッジを誇る、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より継続的に、日々の販売情報を収集している小売店販売データです。
※SRI+では、統計的な処理を行っており、調査モニター店舗を特定できる情報は一切公開しておりません
※1 2024年4月現在
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