【毎月更新】生活者のお金の使い方

この記事では、生活者のいまを映す最新データをお届けします。物価高や円安など、消費を取り巻く環境が変化する中、生活者のお金の使い方はどのように変化しているのでしょうか。物価動向、日常の買い物行動、消費マインドの最新データから読み解きます。
10月となり、上旬は酷暑が続く一方、下旬にはようやく秋の気配が感じられる月となりました。9月は気候の変化だけでなく、政治や社会、経済面でも大きな動きがあり、生活者の意識やお金の使い方にも変化があったと思われます。今月もそのデータを深掘りしていきましょう。
《物価の動き》
9月の容量単価指数は4 %付近で横ばいに推移している状態が続いています。チャネル別で見ると、コンビニエンスストア(CVS)やドラッグストアは横ばいでしたが、スーパーは+0.28ポイント(3.86 → 4.12 %)の上昇がありました。
物価変動の構造をみると、スーパーやCVSではどの効果も横ばい傾向でしたが、ドラッグストアにおいて代替効果が上昇する動きがあり、トータルの代替効果にも影響しておりました。店頭の既存商品の値上げが続く中、生活者の間では少しでも安価な商品を選ぼうとする動きが見られます。
物価の動きを見るだけでも、店頭の価格と自分の懐具合を見比べながら、商品を慎重に吟味する生活者の日常の姿が浮かび上がる結果となりました。
《買い物金額・買い物回数》
9月の買い物金額は前年比99.9%と前年並みで推移した一方、買い物回数は前年比96.9 %と減少しました。買い物金額の前年比割れは2025年2月以来となります。物価上昇が続く中でこのような動きが見られることから、支出額は維持していても、実質的には節約志向が高まっていることがうかがえます。また、ふるさと納税サイトのポイント付与期限(9月末)に伴う駆け込み需要も影響したとみられます。普段は店舗やネットで購入している商品を、ふるさと納税の返礼品でまかなったことにより、買い物回数が一時的に減少した可能性もありそうです。
また全てのチャネルにおいて買い物回数が前年比割れしました。回数の減少はまとめ買いの傾向が高まったことを示唆する一方で、消費意欲の低下や心理的な抑制を反映している可能性もあります。値上げが続く環境下で、生活者は「本当に必要なものを選んで買う」姿勢を一層強めていると考えられます。
《市場動向・好調カテゴリ》
カテゴリー別の市場動向を見ると、食品の前年比は104.0 %と最も高く、それ以外は100.0 ~ 102.0 %程度にとどまりました。食品の伸び率が+4ポイントというのは、前述の容量単価指数の上昇(約4 %)と同程度の規模感であり、値上げが進む中でも食事の量を減らすことは難しいという、生活の基盤としての「食」の重要性が表れているといえます。
一方、飲料の前年比は100.8 %と、前年をやや上回る結果でした。市場としては拡大傾向にあるものの、国内観測史上最高気温を記録したほどの猛暑の影響を考えると 、伸びは限定的です 。近 年ではマイボトルの普及が若年層を中心に進んでおり、外出先のウォーターサーバーや自宅の水道水・お茶などを活用することで、猛暑と物価上昇をうまく乗り切っている可能性が考えられます。筆者自身もマイボトル派で、会社のウォーターサーバーでよく水を汲んでいます。
好調カテゴリーについては、「その他麺類」が前年比166.9 %と前年を大きく上回りました。主な要因として、マーラータンのヒット商品が登場したことが挙げられます。また、「春雨・くず切り」も前年比 113.5 %と好調であり、マーラータン人気を受けて自宅で再現しようとする生活者が増えた可能性もありそうです 。
大分類「雑貨」×チャネル「コンビニエンスストア」では、「殺虫剤」が前年比 120.8 % と好調でした。猛暑の影響で夏場の虫の発生は少なかったものの、9月下旬の気温低下に伴い虫が突如出現し、対策としてコンビニで急ぎ購入する行動が見られたと考えられます。
《消費意欲、お金をかけたいモノ・コト》
消費意欲をみると、すべての項目において8月ごろに変曲点を迎え、「節約意識」では前月から0.6ポイント上昇、「現在の消費意欲」や「今後の消費意欲」は0.5 ~ 0.8ポイント減少しました。物価上昇や先行きへの不安を背景に、9月は「無駄を減らし、必要なものだけにお金を使う」意識が一段と強まったのかもしれません。
お金をかけたいモノ・コトでは、「食品」において前年同月を上回る回答比率となりました。継続的な値上げが続く中でも、食に対しては“満足感”を重視する人が増えていることがうかがえます。また、猛暑による体調不良や疲労感を背景に、食を通じて健康を維持・回復しようとする意識も高まっていると考えられます。
「ファッション」では、前月を上回る回答比率となった一方で、前年同月を下回る結果となりました。店頭では秋冬物の訴求が始まり、その影響が一定程度表れたと考えられますが、全体としてはファッションにお金をかける意欲がやや低下している様子がうかがえます。気温の変化やトレンドへの関心は見られるものの、節約志向の中で“必要な分だけ買う”傾向が強まっているのかもしれません。
9月も様々なチャートで物価上昇の影響が表れる月となりました。
秋の気配が色濃くなる10月は、気温の変化に加え、行楽や文化イベント、新学期の準備など、消費の“質”が問われる時期でもあります。「必要なものにはしっかり投資し、余分な支出は抑える」というバランス感覚が10月の鍵となりそうです。
物価上昇が続く環境だからこそ、日々の消費行動を少し立ち止まって見直すことで、心も豊かに、そして落ち着いた秋を迎えられるかもしれません。
※次回のデータ・コメントの更新は11月を予定しています。
※チャートが更新されない場合は、ブラウザのプライバシー設定でCookieのブロックを解除してご覧ください。
データについて
【SRI一橋大学消費者物価指数】
一橋大学経済研究所経済社会リスク研究機構、全国スーパーマーケット協会と株式会社インテージとの共同プロジェクト「流通・消費・経済指標開発プロジェクト」の一環として作成している経済指標です。インテージのSRI+のデータを用いて消費財の物価の変動とその構造変化を可視化します。
物価の構造変化を「新旧商品入れ替え効果:新商品による影響」「価格変化効果:既存品の値上げ・値下げによる影響」「代替効果:既存品の中で消費者が購入商品をスイッチしたことによる影響」に分解することで、要因を捉えることができます。
こちらの記事でもご紹介していますので、合わせてご覧ください。昨今の値上げで物価はどう動いている?マクロ視点で構造をひも解く
【SCI®(全国消費者パネル調査)】
全国15歳~79歳の男女70,000人の消費者から継続的に収集している日々の買い物データです。食品、飲料、日用雑貨品、化粧品、医薬品、タバコなど、バーコードが付与された商品について、「誰が・いつ・どこで・何を・いくつ・いくらで、購入したのか」という消費者の購買状況を知ることができます。
※サービスリニューアルに伴い、2025年5月掲載分より新データに切り替えています。
※SCIでは、統計的な処理を行っており、調査モニター個人を特定できる情報は一切公開しておりません
消費者の購買行動を俯瞰して捉えることのできる『SCIパノラマレポート』を販売中です。ご希望の方はこちらの資料ダウンロードのページよりお申し込みください。
【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
国内小売店パネルNo1※1 のサンプル設計数とチェーンカバレッジを誇る、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より継続的に、日々の販売情報を収集している小売店販売データです。
※SRI+では、統計的な処理を行っており、調査モニター店舗を特定できる情報は一切公開しておりません
※1 2021年6月現在
【月次調査】
調査地域:全国
対象者条件:15-79 歳の男女
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
標本サイズ:n=3,000(1回あたり)
調査実施時期: 2022 年7月~ 各月第1週
※消費意欲、節約意識は1年前の同時期と比べた度合いを-5~+5の11段階で聴取
転載・引用について
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら