遅れた秋の到来と新型コロナウィルス感染症第5波の商品需要への影響~気象予報士が解説!市場ホットトピック⑦
この【気象予報士が解説!市場ホットトピック】は、一般財団法人 日本気象協会 小越 久美氏が、気象データとインテージのデータを分析して、気象と消費の関係や、気温予測に基づいた商品需要などについて解説するコラムです。 ※この記事は、日本気象協会の「eco×ロジ」プロジェクトサイトの記事を一部編集して掲載したものです。
目次
9月中旬からの高温と新型コロナウィルス感染症第5波の影響を読み解く
「暑さ寒さも彼岸まで」ということわざとは裏腹に、今年は9月後半から全国的に気温が上昇し、10月前半にかけて季節外れの暑さが続きました。
一方、全国の新型コロナウィルスの感染者数は8月をピークに過去最大となり、9月30日にかけて19都道府県で緊急事態宣言が継続されました。こうした気象の変動と社会状況は、市場にどのように影響したのでしょうか。
今後の生産計画や発注計画を立てるために、市場の推移を正確に把握することは重要です。ただ、過去のデータを眺めただけでは、季節外れの暑さが影響したのか、新型コロナウィルス感染症第5波などの社会的な要因が影響したのか分かりません。日本気象協会では、気象データを使って売上を統計モデルでシミュレーションし、気象による変動要因の大きさを推定することで、真の社会的要因の大きさを推定する取り組みを行っています。この記事では、2021年秋のシミュレーション結果を元に、季節外れの暑さと第5波の影響を読み解きます。
2021年9月後半から10月前半の気象状況
今年は8月以降、オホーツク海高気圧や秋雨前線の影響で不順な天候が続き、残暑が厳しかった前年と比較して気温が低く推移しました。ところが、9月後半からは一転して高気圧に覆われて晴れる日が多くなり、西日本を中心に各地で真夏日(最高気温30℃以上)を記録するなど残暑がぶり返しました。「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるように、例年お彼岸を過ぎると朝晩を中心に涼しくなってくるものですが、今年は10月前半まで9月中頃のような気温で推移しました。前年と比較すると、9月下旬から10月上旬の全国の平均気温は2℃から4℃も高く、これは、季節の進みが前年より半月以上遅かったことを意味します。
気象データを使って過去の売上をシミュレーション
2021年9月13日週から10月11日週において、この期間の全国の平均気温は22.1℃と、前年同時期の平均気温20.1より2.0℃高くなりました。この気温の影響は商材にどのぐらい影響し、社会要因による影響はどれぐらいだったのか、見て行きましょう。
●前年よりも売上が減少した商材
まずは、売上が前年よりも減った商材を見てみます。
売上前年比をみると、総合感冒薬やココア、コーヒーに使うインスタントクリーム、シチューなど、冬に需要が高まる商材の落ち込みが目立ち、立ち上がりが遅れたことが分かります。ここで、気象要因とは、この期間の平均気温が前年より2.0℃高かったことによる需要の変動です。社会要因とは、気温では説明できない何らかの売上変化要因を指し、C(社会要因)=A(売上前年比)-B(気温要因)で推定しています。
例えば、総合感冒薬の売上は前年比81%と-19ptの落ち込みとなりましたが、そのうち気象要因による落ち込みは-5ptで、社会要因は-14ptと推定されます。総合感冒薬は新型コロナウィルス感染拡大が始まった2020年から、売上が低い水準で推移していますが、過去最大となった第5波により、さらに感染症対策が徹底されたことが売上の押し下げ要因となったのではないでしょうか。
ココアやコーヒーに入れるインスタントクリームなどの嗜好品も、気温要因による落ち込み以上に社会要因による落ち込みが大きくなっています。除毛クリームなどが含まれるエチケット品も、気温要因は押し上げ要因になっているものの、社会要因が大きく押し下げています。これらは、リモートワークの強化により、オフィスに通勤する人が少なかった結果かもしれません。
シチューやつゆ・煮物料理の素、はんぺんなどの家庭食材の社会要因は比較的小さく、とくにシチューはほぼ気象要因での落ち込みとなりました。外食控えによる家庭内需要が定着していることが伺えます。
●前年よりも売上が増加した商材
次に、前年よりも売上が増加した商材をみてみます。
もっとも売上の増加が大きかったのは、麦芽飲料で、健康ブームによるヒット商品が牽引しているとみられ、社会要因が+34ptとほぼとなっています。以降は、日焼け・日焼け止め、殺虫剤、ミネラルウォーター類、コーラ、スポーツドリンク、アイスクリーム、炭酸飲料と続いており、気温が高いほど売上が伸びる夏商材が占めています。ただし、すべてが気象要因で売上が伸びているわけではなく、アイスクリームやスポーツドリンクを除いては社会要因による押し上げも大きい結果となりました。リモートワークや外食控えによる家庭内需要は定着している一方で、レジャーのための屋外需要は回復しているのかもしれません。
向こう一ヶ月の気温要因による売上予測
この先、気象要因による需要はどのように推移するのでしょうか。 前年の11月は中旬から下旬にかけて全国的に記録的な高温となり、冬の到来が遅れました。今年は西日本ほど寒気の影響を受けやすく、前年と比較して寒さの到来は早いと予想されます。使い捨てカイロやリップクリーム、ハンド・スキンケアなどの冬商材にとっては気温が押し上げ要因となるでしょう。一方、日焼け・日焼け止め、スポーツドリンク、アイスクリームなどの夏商材は、気温が押し下げ要因になる見込みです。ぜひ参考にしてください。(実際は、社会要因による増減が加わる点にご注意ください。)
日本気象協会では、株式会社インテージの保有する全国小売店販売データ(SRI)を用いた製造業向け簡易版商品需要予測サービス「お天気マーケット予報」を提供しています。気象と社会的要因による需要の変化をリアルタイムに監視しながら、気象予測に基づき約 260 カテゴリにおけ る 15 週先までの需要予測を行っています。
お天気マーケット予報サービス紹介
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