総合感冒薬(風邪薬)の売上低迷の要因は~気象予報士が解説!市場ホットトピック⑧
この【気象予報士が解説!市場ホットトピック】は、一般財団法人 日本気象協会の小越久美氏が、気象データとインテージのデータを分析して、気象と消費の関係や、気温予測に基づいた商品需要などについて解説するコラムです。 ※この記事は、日本気象協会の「eco×ロジ」プロジェクトサイトの記事を一部編集して掲載したものです。
寒冬でも売上低迷が続く総合感冒薬
今シーズンの冬は12月下旬から強い寒波が押し寄せ、1月から2月にかけて全国的に平年を下回る厳しい寒さが続きました。冬の後半から気温が上昇した前年の冬と比較すると寒い期間が長く、インテージの全国小売店販売データ(SRI+)によると、使い捨てカイロやリップクリーム、入浴剤など、多くの冬商材で前年よりも売上が伸びています。
一方で、新型コロナウイルスの感染拡大以降、需要の低迷が続いている冬商材が「総合感冒薬」です。インフルエンザの感染者数も2年連続少ないことから、マスクや手洗いなどの感染予防対策が奏功してか、風邪を引く人が少なくなっていることが伺えます。
「風邪が流行しにくくなっている」という社会要因とこの冬の寒波は、総合感冒薬の売上にそれぞれどれぐらい影響しているのでしょうか。今回は、総合感冒薬の売上の変動要因について、統計モデルでシミュレーションすることで、分析を行いました。
総合感冒薬の売上と「風邪」の検索数
図表1は、総合感冒薬の売上推移と、Google トレンドから取得した「風邪」の検索数を示しています。
図表1
新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年以降、総合感冒薬は売上が落ち込んでいて、2019年の5割~7割ぐらいの推移となっています。また、「風邪」の検索数も総合感冒薬と同様の動きをしていて、2020年以降は検索数が大幅に減っていることが分かります。
「風邪の検索数」イコール「風邪を引いた人」とは言うことができませんが、総合感冒薬の売上の動きと近いことから、風邪の流行度合いをある程度示しているということは言えそうです。
次に、週平均気温と総合感冒薬の売上の関係を見てみると(図表2)、総合感冒薬の売上は気温が低くなるほど増える傾向があることがわかります。
図表2
また、新型コロナウイルス感染拡大前の2017年から2019年(青色・橙色・赤い線)と比べて、新型コロナウイルス感染拡大後の2020年(青緑色)と2021年(緑色)は、傾向がゆるやかになっており、コロナ以前に比べて気温1℃低下あたりの影響度合いが弱まっていることがわかります。
ただし、風邪が流行しやすい社会状況でも、風邪が流行しにくい社会状況でも、総合感冒薬の売上が気温の影響を受けていることに変わりはありません。 これらの結果から、総合感冒薬の売上は、気温と風邪の検索数で、ある程度表現することができそうです。
「風邪の検索数」と「週平均気温」で総合感冒薬の売上をシミュレーション
「風邪の検索数」と「週平均気温」を用いて、総合感冒薬の売上をシミュレーションする統計モデルを作成しました。図表3が、そのシミュレーション結果です。平均誤差率7%程度の精度で総合感冒薬の売上を表現することができました。
図表3
これにより、「風邪の検索数(流行状況)」「週平均気温」がそれぞれどれぐらい総合感冒薬の売上に寄与したかが分かります。
風邪の検索数が寄与した量を「風邪の流行効果」、週平均気温が寄与した量を「気温効果」、解析値(理論値)と実績値の乖離(つまり「風邪の流行効果」と「気温効果」だけでは説明できなかった量)を、「その他要因」と呼ぶことにします。総合感冒薬の売上の前年同週比は、各変動要因によって表すことができます。図4は、総合感冒薬の売上前年同週比と要因による内訳です。
2020年5月頃から売上の前年比が60%前後に大きく落ち込み、「風邪の流行効果」が押し下げ要因として連続的に寄与していることがわかります。「気温効果」は週によって押し下げ要因にも押し上げ要因にもなっています。つまり、感染予防行動が風邪の流行を抑えた効果が、売上減に与えた影響が特に大きかったことがわかります。
2021年5月などは、これらで説明できない「その他要因」の割合が増えています。新型コロナウイルス患者の自宅療養者の増加などで特異な動きになっている可能性があります。新型コロナウイルス関連のデータも組み合わせることで、より深い考察も可能になることが期待されます。
図表4
2022年1月の変動要因は?
それでは、厳しい寒さが続いた今年の冬は、「気温効果」と「風邪の流行効果」は総合感冒薬の売上にどのような影響を与えたのでしょうか。2022年1月の総合感冒薬の売上は、新型コロナウイルス流行拡大前の2020年1月には及ばないものの、2021年1月と比較するとやや伸びています。2020年、2021年、2022年のそれぞれ1月の総合感冒薬の売上について、要因分解を行い検証しました。
気象状況は、2020年1月は全国的に記録的な高温となりましたが、2021年は北日本中心の低温、2022年は全国的な低温となりました。
図表5
まずは北日本を中心に低温となった2021年1月の2020年1月に対する売上変動と、その変動要因です。
図表6
4週合計の売上は2020年比で59.4%となっていて、その内訳は気温効果によって2.3ptの押し上げ、風邪の流行効果によって-35.9ptの押し下げになっています。
続いて全国的に低温となった2022年1月の2020年1月に対する売上変動と、その変動要因です。
図表7
4週合計の売上は2020年比で63.1%と低迷が続き、内訳は、気温効果によって3.8pt増加、風邪の流行効果によって-28.9ptの減少という結果になりました。
一方で、2021年1月と比較すると、売上に若干の増加が見られます。図8は2021年1月、2022年1月の、「2020年比での売上変動とその要因」の差分を取ったものです。2022年1月は、風邪の流行効果がさらに6.9ptあがっていることがわかります。2022年1月の売上の伸びは、低温の効果だけではなく、風邪症状の流行の増加が影響しているということが言えるでしょう。
図表8
まとめ
今回は、総合感冒薬の売上寄与について「風邪の検索数」から風邪の流行効果を算出し、気温効果と合わせた検証を行いました。
2022年1月の総合感冒薬の売上の増加は、風邪の流行効果が占める割合が高く、年明けから始まったオミクロン株の流行拡大によるものの可能性もあります。総合感冒薬の今後の売上傾向を推定するためには、引き続き風邪の流行効果の推移を見ていく必要があります。
また、2年間続いているコロナ禍においても、総合感冒薬の売上は気温によって左右されていることもわかりました。冬季は風邪の流行効果が占める割合が高いものの、夏季は気温効果が占める割合が高くなります。つまり、今後夏季にかけては、気温効果の予測もより重要になるでしょう。
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