arrow-leftarrow-rightarrow-smallarrow-topblankclosedownloadeventfbfilehamberger-lineicon_crownicon_lighticon_noteindex-title-newindex-title-rankingmailmessagepickupreport-bannerreportsearchtimetw

トレードマーケティングの具体的な実践方法~トレードマーケティングの理論と実践 後編

小売店頭で売れる仕組み作りの手段として注目を集めるトレードマーケティング。このシリーズでは、トレードマーケティングの意味や必要性、さらに具体的な実践法について、株式会社キャプロ/株式会社フェズの井本氏に解説いただきます。

後編となるこの記事では、実践のためのステップやKPIの考え方についてお届けします。

実践のための3STEP「①課題発見②根本原因分析③プラン構築」

第一部では、「トレードマーケティング/バイヤーインサイトとは何か」について見てきたが、第二部では、それらをどのように実践に落としていくか詳述する。
 「トレードマーケティング」というマーケティング領域は、本来的には「本社企画機能」として実行することで最大の効果を発揮するものの、同じ枠組みを各小売企業に当てはめれば、担当企業への販売活動を「マーケティング」として実践することが可能である。その結果として、これまで以上に客観的・効率的なプランニング・商談の実現に近づくだろう。

トレードマーケティングの実践においては、まず「戦略・戦術」とは何かの理解が重要である。以下に戦略・戦術、および混同されやすいKGI・KPIを、簡単に定義しているので確認してほしい。

  • 戦略:「目標(ゴール)」達成のためのリソース最適配分のためのシナリオ
  • 戦術:「戦略」を実現・実行するための具体的な手段や、アクションプラン
  • KGI:「目標(ゴール)」を具体的に数値化したものであり、目標の達成度を定量的に測る指標
  • KPI:「戦略」を具体的に数値化したものであり、戦略の達成度を定量的に測る指標

戦略は、簡潔に定義すれば、「目標(ゴール)があり、且つリソース(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)が限られている」状況の中で、「目標達成のためにどのようにリソースを配分すべきか」の方針である。そしてその「目標」は、達成度を測るため売上前年比など数値化して表現されることが一般的であり、その数値化された目標が「KGI(Key Goal Indicator)」である。
また、戦術は「プラン」と表現されることも多いが、それらはあくまで「戦略」を実現するために存在している。またその戦略はたびたび、進捗度を図るために数値化され、それをKPI(Key Performance Indicator)と呼んでいる。つまり、

戦術(プラン)はKPI(戦略を数値化したもの)を達成するために実行され、
そのKPIが達成されると戦略が満たされ、
結果としてKGI(目標を数値化したもの)が達成される

という関係性が成り立つのだ。この理解が非常に重要である。

KPIは、トラッキング可能であり且つ改善可能な指標でなければならないため、トレードマーケティング領域においては、第一部で詳述した「店内タッチポイント(量・質)」を設定することが多い。配荷率やアウト展開頻度といった形である。すなわち、「『アウト展開の量』課題を解決するために、プランを実行する」という戦術とKPIの関係性が成り立つのである。

店内タッチポイントの質と量

ややもすれば「当然だろう」と思えるかもしれないが、実は営業現場ではこれらKPIを無視した営業活動が一般化している。売上計画を立てる際に、無意識に「各種プランを積み上げてしまう」という行動が、まさにその例である。つまり戦術(プラン)の構築・実行は、直接的にKGI(売上目標)達成を目論んで組み立てられており、KPIの課題とは全く紐づいていないのである。「納品先行」型でプランニングしてしまうからこその結果である。

KPIを無視しKGIだけを目論んでプラン構築を実行すると、無意識的に同じ「店内タッチポイント」の課題に複数のプランを重ねてしまうことが多々あり、それが非効率を生じさせてしまう。例えば、「企画品・アウト展開リベート・販売コンテスト」などの戦術は、どれもKPIとして「アウト展開の量」のレバーを動かすことができる戦術であるが、これらプランを同時期に重ねてしまうことで、「どれか一つしか実行できない」もしくは重ねて実行した結果、「単一実施の時よりも効果がカニバり、投資効率が低い」ということが起こりうるのである。

これらを避けるために実践すべきがトレードマーケティングであり、その実践には、「①課題発見②根本原因分析③プラン構築」の3つのステップが存在する

バイヤーが「自社ブランドを選ばない」理由を探求する

最初に実施すべきことが、担当企業における「①課題発見」である。課題とは、KPIである「店内タッチポイント(量・質)」の伸びしろである。ここではシンプルに、客観的に各タッチポイント(量・質)をすべて開き、それぞれに課題の有無をチェックすれば良い。課題の有無は、「バイヤーの意識の中で、同じ土俵にある比較ブランド」をベンチマークブランドとし、そのブランドとの差異で判定するとやりやすい。例えば「ベンチマークブランドは、半年で10週間アウト展開しているのに対し、自社ブランドは5週しかとれていない」などである。すなわちここでの「課題」とは、「バイヤーの意思決定において、同じ土俵上の他ブランドを、より多く選択した点」だと言える。
なお、普段、量的課題には気づけることも多いかもしれないが、MECEに課題を俯瞰することで、意外と質的課題が多く存在していることに気づけるだろう。

最初の作業でおそらく複数の店内タッチポイント(量・質)の課題が抽出できるはずだが、重要なのは優先順位付けである。この優先順位付けのため、続いて各課題に対し「課題が解消した際の、追加期待収益」を想定する。各課題の優劣さえ判別できれば良いため、精緻な収益算出は必要ない。実行難易度もある程度加味し、追加期待収益性の優劣を、例えば5段階などで評価できていればよいだろう。

こうして、ベンチマークブランドとの比較による課題有無チェック、および各課題の期待収益性の判定をすることで、まず「注力すべき店内タッチポイント課題=注力KPI」を発見できるのである。

注力すべき店内タッチポイント課題が見えるとすぐに、「③プラン構築」に進みたくなるが、トレードマーケティングの実践においては、その前の「②根本原因分析」が非常に重要となる。店内タッチポイントのレバーは、バイヤーの意思決定に依存しており、その意思決定の背景が分からないと、レバーを動かしてもらうための、正しい手段を構築できないからである。

「根本原因」を一言で言い表すと「課題たりえている原因」である。店内タッチポイントの課題は「バイヤーの意思決定において、同じ土俵上の他ブランドを、より多く選択した点」だと前述したが、つまり根本原因とは「なぜ自社ブランドではなく、他ブランドを選択したのか」のバイヤーの意思決定の判断軸を指している。

そして前編で、バイヤーの意思決定の判断軸(インサイト)は、「売りたいか/売れるのか」であると述べた。すなわち、根本原因分析とは、「自社ブランドが選択されなかった理由を、『売りたいか/売れるのか』の観点で抽出する」ステップである。バイヤーには、自社を選ばない理由が必ず存在しており、それをバイヤーインサイトで明確化していくことが重要なのである。

「バイヤーインサイト」=無意識の「意識決定軸」~なぜ小売りはあなたのブランドをサポートしたいと思うのか?~

例えば、「なぜベンチマークブランドよりもアウト展開頻度が少ないのか」を深掘ると、
 ・「バイヤーは集客への課題意識が強く、より安価で集客効果が高いベンチマーク商品を、より
  『売りたい』と思っている」
 ・「自社ブランドはデジタル施策を中心とした広告を実施しており、なぜそれらの施策が『売れ
  るのか』を信じてもらえていない」
などのインサイトに紐づく根本原因が見つかるだろう。

すぐには明確な根本原因を得られないかもしれないが、ここは「仮説」でも問題ない。日々のバイヤーとのコミュニケーションを思い起こせば、ある程度確からしい根本原因にたどり着けるはずである。

プラン構築は、常にバイヤーインサイトに紐づく

「戦術(プラン)はKPI(店内タッチポイントの注力課題)を達成するために実行されるものだ」と述べてきたが、根本原因がわかることで、初めて正しいプランを作ることができる。ここまでの作業で、KPIがなぜ動かないのか(なぜ自社ブランドが選ばれないのか)の理由を、バイヤーインサイトに基づいて把握ができているため、あとはその原因を払拭するためのプランを構築すればよいのである。それが「③プラン構築」のステップである。

これまでの例を参照してみると、
 ・「①課題抽出」にて、ベンチマークブランドと比較しアウト展開頻度で大きく負けており、
  これが注力すべき店内タッチポイント課題である
 ・「②根本原因分析」をしてみると、そもそもバイヤーは集客志向が徐々に強くなってきてお
  り、また自社ブランドの施策効果に期待していないことから、集客の確実性が高そうな、安
  価なベンチマークブランドに注力し、アウト展開している
上記のことが見て取れる。

「③プラン構築」においては、根本原因を払拭するための解決策をつくればいいことから、例えば
 ・集客貢献度を高めるために、自社ブランドで「集客に強く寄与するデジタル販促」に大きく
  投資する
 ・自社のデジタル広告の意図(なぜデジタル広告にフォーカスするのか)を再度資料化して説
  明する
などが、実行可能なプランになるだろう。

根本原因分析をおろそかにしたままプラン構築に進むと、おそらく無意識に、過去の「経験則」でうまくアウト展開できた施策を焼き増そうとするに違いない。ただ、上記の状況下で、例えば「企画品発売」が直接的な解決策になるであろうか。否である。小売環境は常に変化しており、それにより、同様にバイヤーインサイトも常に変化している。つまり、バイヤーの「売りたいか/売れるのか」をタイムリーに把握し、それにあったプランや販売方法を常に検討していかない限り、店頭で勝ち続けることはできないのである。

 ・売上最大化には、フィジカル・アベイラビリティの向上が不可欠であり、そのためには「店
  頭可変レバー」である「店内タッチポイント」と「ショッパーコミュニケーション」を常に
  改善する
 ・売上伸長機会は、トレードマーケティングKPIである「店内タッチポイント」の課題の大きさ
  でとらえる
 ・店内タッチポイント課題が課題たりえる根本原因を、バイヤーインサイトで抽出し、それを
  解決するために、プランを構築する(決して直接的にKGI(売上目標)達成のために構築する
  のではない)

これらが具体的な「トレードマーケティングの実践」であり、これをできるところから少しずつ実践していくことで、従来の「経験則」のみに依存する販売活動から脱却し、きっと昨今の販売難易度を克服する方法を見つけることができるようになるに違いない。

著者プロフィール

株式会社キャプロ 代表取締役社長 / 株式会社フェズ 事業企画部長 井本 悠樹プロフィール画像
株式会社キャプロ 代表取締役社長 / 株式会社フェズ 事業企画部長 井本 悠樹
P&G、J&Jにて、トレードマーケターとして多数の新製品開発と流通戦略を手掛け、複数ブランドでNo.1シェア獲得。2019年4月に、コンサルティング会社「株式会社キャプロ」を創業し、大手メーカーやD2Cブランドの流通施策や組織構築を支援。『宣伝会議』『販促会議』などを通じトレードマーケティングに関するノウハウも展開している。同時に、2019年4月より「株式会社フェズ 事業企画部長」として参画し、執行役員として主要事業の商品企画や販売を牽引、現在はリテールメディアを活用した統合ソリューションの責任者に従事。2024年2月に、宣伝会議より初の著書「トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践」を上梓した。

P&G、J&Jにて、トレードマーケターとして多数の新製品開発と流通戦略を手掛け、複数ブランドでNo.1シェア獲得。2019年4月に、コンサルティング会社「株式会社キャプロ」を創業し、大手メーカーやD2Cブランドの流通施策や組織構築を支援。『宣伝会議』『販促会議』などを通じトレードマーケティングに関するノウハウも展開している。同時に、2019年4月より「株式会社フェズ 事業企画部長」として参画し、執行役員として主要事業の商品企画や販売を牽引、現在はリテールメディアを活用した統合ソリューションの責任者に従事。2024年2月に、宣伝会議より初の著書「トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践」を上梓した。

今回ご紹介させていただいたトレードマーケティングを実践するにあたって、欠かせない要素が、データや情報の読解力・活用力です。しかし、現状では「膨大なデータの収集・統合に時間がかかるため、深い分析ができない」、「データ活用が属人化しており、活用レベルに差が生じている」等のお声を頂くことも少なくありません。

そこで、POSデータ・市場データをはじめとするさまざまなデータを自動で収集~統合~可視化まで行えるサービスを2023年11月に新たにリリースしました。サービスの詳細はこちらをご覧ください。

転載・引用について

◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
 下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」

◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)

◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません

◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら