コロナ禍におけるテレビ視聴行動 おうち時間の増加でテレビの見かたはどう変わった?
長引くコロナ禍は人々の生活習慣に大きな変化をもたらしました。その変化の影響を大きく受けたものの一つがテレビ視聴習慣です。
「スマートテレビはどれだけ普及した? 普及に伴う“テレビの見かた”の変化」でご紹介した通り、2021年現在、インターネットに接続したテレビ(以下スマートテレビ)が普及し、日本人の約3人に1人は自宅に1台以上スマートテレビがあるという状況にあります。
テレビ機器を通して「テレビ番組を見る」だけでなく、「テレビ内アプリで動画を見る」という選択肢が広がりつつある中で迎えたコロナ禍。テレビの視聴行動はどのように変化しているのでしょうか。
この記事ではインテージのスマートテレビ視聴ログ、MediaGauge®TV※1のデータを用いてその変化の様子を観察し、これからのテレビを通じたマーケティングに求められる視点とは何か考えていきたいと思います。
コロナ禍における「テレビ機器の利用時間」の変化
まずはテレビ機器の利用状況が新型コロナウイルスの感染状況に合わせてどう変化していったかを確認していきましょう。図表1を見ると、2020年の3月後半〜5月頭、外出自粛要請や緊急事態宣言が初めて出された所謂「第一波」の時期に、テレビ機器の利用時間が大きく増えたことがわかります。
図表1
その後は感染状況に合わせるように減少傾向に転じ、7〜8月の「第二波」の時期に多少の利用時間の増加が見られましたが、一般的にテレビ視聴の増える年末年始の時期を除いて、第一波ほど増えることはありませんでした。
第一波の時期は、初めての自粛生活でおうち時間の過ごし方が定まらなかったこともあって、テレビ視聴に費やす時間が長くなりましたが、長引くコロナ禍で生活者がそれぞれの「ステイホーム術」を身に付けたことで、テレビ視聴以外の方法でおうち時間を過ごす人が増えていった、ということでしょうか。また、コロナ慣れによっておうち時間が第一波の時より減ったということもありそうです。
ではテレビ機器で視聴するコンテンツに変化はあったのでしょうか。テレビの視聴時間の変化を地上波やBS / CSの「テレビ番組」視聴と、NetflixやYouTubeといった動画配信サービスを中心とした「テレビ内アプリ」の視聴に分けて追った結果が図表2です。テレビという機器の使われ方が変化していったことがうかがえます。
図表2
テレビ番組視聴は第一波の初期や年末年始にこそ上昇が見られるものの、それ以外ではほぼ横ばいであり、コロナ禍が「テレビ番組を見る」という行動自体に与えた影響は一時的なものだったことがわかります。一方、アプリ利用の動向を見てみると、第一波の時期に大きく利用時間が伸びた以降、続く第二波や第三波・第四波の時期にも利用時間が伸びていることが確認できます。これはおうち時間の過ごし方の一つとして、「テレビ内アプリで動画を見る」というスタイルが定着した生活者が少なからずいたことを示しています。
コロナ禍を経てのテレビ視聴時間帯の変化
同じテレビ機器での視聴でも、テレビ番組の見かたとアプリでの見かたは違うのでしょうか。平日と休日それぞれについて、時間帯別の視聴実態を比較してみました。
はじめに、テレビ番組の視聴時間帯がコロナ禍前後でどう変化したかを見てみましょう。
図表3,4は時間帯別のテレビ番組接触率(テレビ番組が視聴されていたテレビの割合)推移を2020年2月、2021年2月で比較したものです。
図表3
図表4
特に変化が表れているのが平日です。朝・昼・夕〜夜に三つの山が見られることは変わりませんが、平日の朝の山がやや低めになり、昼間の時間帯の接触率が高めになっていることから、在宅勤務の普及で朝の起床時間がばらけたことや、お昼休憩でつけたテレビをそのままBGM代わりにつけ続ける姿が浮かび上がります。また、コロナ前に比べてゴールデンタイムの山の盛り上がりが2時間程度早まっていることも特徴的で、仕事が終わり次第そのままテレビをつける流れが想像されます。
次に、アプリ利用にも目を向けてみましょう。こちらは平日と休日で山の形が大きく異なります。(図表5,6)
図表5
図表6
平日は17時〜18時頃に盛り上がりを見せた後、テレビ番組の視聴が増える19時頃に一度視聴が減り、その後21時頃を頂点に再度視聴が増加します。休日は全体として16時頃を頂点とした一つのなだらかな山になりますが、テレビ番組の視聴が減る10時〜11時頃や、20時〜21時頃にも小さく盛り上がりを見せていることが特徴的です。これらの結果からは、休日をテレビの大画面で動画を見ながら過ごしつつ、ご飯を食べる時間にはテレビ番組にスイッチして団らんの時を過ごす家族のワンシーンであったり、一人暮らしでもご飯の時間はテレビのニュースや情報番組で情報をキャッチする様子がイメージされます。
コロナ前後でアプリ視聴時間帯の山の形自体には変化がありませんが、アプリの接触率は全体的に伸びています。2021年のデータでは、最もテレビ視聴とアプリ視聴の差が縮まる休日の15時頃にはテレビ番組が視聴されていた割合が18.3%、アプリ視聴が視聴されていた割合が10%と、視聴されていたテレビ機器の1/3以上が動画アプリで視聴されていました。テレビ機器の主要な楽しみ方として動画アプリ視聴が定着しつつあるようです。
AVODへの広告出稿の検討も必要に
以上、コロナ禍が生活者のテレビ利用にどのような影響を与えてきたかをスマートテレビの視聴データを起点に見てきました。テレビ機器の利用時間は、第一波で一時的に増えた以外は大きく動くことはありませんでしたが、テレビ機器での動画アプリの視聴が増えていました。テレビという高画質・大画面のデバイスが、動画配信を視聴するための機器として一定数の人々の生活に定着したのも、この新型コロナの影響だと言えるでしょう。これはまさに、コロナ禍で生まれた新しい生活様式の一例と言えそうです。
テレビというデバイスの、「生活者に届ける力」は健在ですが、コロナ禍を経てテレビの見かたが変わり、その届き方は変化しています。従来のテレビマーケティングを新しい生活リズムに合わせて見直していくだけでなく、YouTubeやTVer といったAVOD(Advertising Video OnDemand)への広告出稿も「テレビで見られる可能性」をこれまで以上に考慮する必要が出てきたと言えるでしょう。
コロナ禍を通じて生活者にとっての「テレビ」と「デジタル」の距離は縮まり、ターゲットが「いつ」「どこで」「どのデバイスで」「どのメディアで」「何に」触れているのかを把握することがより一層重要になったとも言えます。まだまだ終わりの見えないコロナ禍での生活ですが、今後テレビというデバイスが人々の生活にいかにして寄り添っていくのか、引き続きデータから観測していきたいと思います。
※この記事はMarkeZine67号に掲載された寄稿記事(『コロナ禍におけるテレビ機器利用の変化』)を再構成したものです。
※1【Media Gauge® TV】複数のテレビメーカーから収集した、ネットに結線されたスマートテレビと録画機の視聴計測サービスです。都道府県別はもちろん、一部エリアでは市区町村別でもテレビデータを分析することが可能で、各放送局別(地上波・BS・CS)、各地域別(都道府県など)に、15秒単位でテレビ番組やテレビCMの視聴行動を把握することができます。
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