訪日外国人の消費を増やすカギ! アメリカ富裕層へのインバウンド対策
年々増えている外国人観光客。来年に控えた東京オリンピックに向け、様々な対応が求められています。世界各国から訪れる旅行者のニーズは、その文化的な背景などによって異なるため、それぞれに理解し、対応していく必要があります。
一方で、インバウンド消費の客単価は減少。これに対する戦略として、富裕層をターゲットとしたサービス展開を打ち出す企業が増えてきています。
この記事では、富裕層の中でも「アメリカの富裕層」※に注目。この層を日本に誘致し、おもてなしをするためのヒントを探ります。
※今回の調査では「アメリカの富裕層」を世帯年収20万ドル以上の世帯と定義しました。
目次
インバウンド消費の現状と「アメリカの富裕層」のポテンシャル
はじめに、インバウンド消費の現状をデータで見てみましょう。図表1は観光目的の外国人の入国者数です。2014年に1,000万人を超えてからも大幅に伸び続けています。
図表1
次に外国人旅行者一人当たりの支出額を見てみましょう(図表2)。2015年のピークを境に、2016年は大きく落ち込み、その後も微減傾向が続いています。
図表2
この背景の一つとして、低所得者層の増加が指摘されています。低所得者層は高所得者層に比べて可処分所得が少ないために財布のひもを緩めることが困難だとすると、外国人観光客に対するビジネスを拡大するには、高所得者層、富裕層へのサービスの充実が求められます。
前述の通り、国・地域によって文化的背景が異なるため、同じ富裕層といっても、一様ではありません。そこで、今回はアメリカの富裕層に注目しました。
アメリカは国民に占める富裕層の構成比が多い国の一つです。富裕層を「世帯年収20万ドル以上」と定義すると、富裕層はアメリカの世帯の7.7%を占めます。さらに、アメリカからの年間の観光目的入国者は2014年からの3ヵ年で2.5倍に増え、2017年には100万人を超えるなど、日本の観光産業にとって重要なお客様となっています。
アメリカの富裕層はどのような旅を好み、旅に関してどのような行動を取るのでしょうか。インテージの自主企画調査の結果から、この層を日本に招致し、おもてなしをするためのヒントを探りましょう。
1回の旅行にかけるお金はいくら?アメリカの富裕層の旅の実態
アメリカの富裕層は、どの国にどのくらいの期間滞在し、どのくらいの費用をかけているのでしょうか。彼らの国外旅行の実態を見てみました。富裕層の特徴を確認するために「世帯年収7万ドル~20万ドル未満」の層を中間層と定義して、比較しながら見ていくことにします。
旅行先
まずは、どの国を旅行先として選んでいるのかを見てみます。図表3は直近3年以内に旅行で訪れた国の上位10ヵ国です。
図表3
富裕層と中間層とでは訪れる国に大きな違いは見られず、日本はいずれも約20%で7位にランクイン。アジアでは唯一トップ10に入っています。
滞在日数
次に、滞在日数を見てみましょう(図表4)。
図表4
富裕層は1週間程度と2週間程度がそれぞれ25%前後で、合わせて半分を占めています。一方、中間層は1週間程度の構成比がもっとも高く、富裕層の方が滞在期間が長めの傾向が見られました。
旅行費用と使い道
旅行費用と使い道が図表5です。
図表5
富裕層の国外旅行費の平均は$6930.9で中間層の約1.7倍です。富裕層は滞在期間が長い傾向があることも、旅行費用が多くなる要因の一つでしょう。使い道別に比べてみると、どの費目も中間層のほぼ1.5倍~1.8倍と、特定の使い道でお金をかけているというより、旅行の全ての要素に多めのお金をかけていることがわかります。
やはり旅行の出費が多い富裕層。彼らの旅行先として日本がより選ばれるためには、どのようなことを訴求していけばよいのでしょうか。続いて彼らが日本への旅行に求めているものを追いました。
自然派よりも街派。2回目の訪日では「コト消費」を志向。
図表6は「日本に旅行するとしたら、日本への旅行に求めること、旅行の目的は何か」との問いに対する回答結果です。
図表6
「街を散策する」「観光名所を訪れる」という回答が多く、18項目中で1位、2位という結果になりました。また、「博物館や美術館に行く」が中間層よりも特徴的に多いことからも、富裕層は自然よりも街を好む傾向があるといえそうです。なお、中間層が最も高いのは「自然景観を楽しむ」で、街を好む富裕層と対照的な結果になっています。
次に、訪日経験がある富裕層に再度日本に来てもらうためのヒントを探ってみましょう。「日本旅行に求めるもの」を、直近3年以内に訪日経験がある人とない人とで比較し、訪日経験がある人の特徴をピックアップしたのが図表7です。
図表7
訪日経験がある人は「自分を解放する」「その地域特有のレクリエーションを体験する」「その地域特有のイベントに参加する」「バーやクラブでナイトライフを楽しむ」といった「コト消費」の項目が高くなっていました。
「また行きたい」と思ってもらうためには、その地域のオリジナリティがあふれる「コト消費」を意識した施策や訴求が有効なようです。
きっかけは富裕層向け旅行雑誌?旅にまつわる情報行動
アメリカの富裕層が望んでいることを訴求するためには、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。それを探るために、アメリカの富裕層は、どのようなきっかけで旅行に行きたいと思いたち、どのように旅を計画し、旅行先での体験をどのように発信しているのかを探ってみましょう。
旅のきっかけ
アメリカの富裕層が旅行に行こうと思ったきっかけとして、様々な情報源の中で最も多くの人があげていたのが「Travel + Leisure」という月刊の旅行雑誌でした(図表8)。
図表8
「Travel + Leisure」誌は、北米を中心に 100 万部近い発行部数を誇る月刊の旅行雑誌です。旅行好きな高所得者層が主な購読者で、世界各地の質の高い観光地、アクティビティ、ホテル、グルメ情報を紹介しています。2018年11月号で日本はこの雑誌の「Destination of the Year」に選出されているので、2019年にアメリカの富裕層が日本を旅行先として選ぶ後押しをしてくれるかもしれません。この他、InstagramやFacebookがきっかけだったという人も一定数存在します。
また、中間層と比較すると、絶対値としては少ないながら「同僚・取引先の人との旅行に関する会話」が高い傾向にあるのも、富裕層の特徴的です。
従来メディア、デジタルメディア、リアルクチコミ、それらのいずれもが、旅行需要を喚起する重要な情報源であることが分かります。
旅の計画
続いて旅行中の行動をどのように計画しているのかを見てみましょう(図表9)。
図表9
富裕層の72%は出発前に行動計画を立てて、それに沿った行動をするようです。旅行の計画を立てている段階に、いかにアプローチできるかが重要だといえるでしょう。その一方で、前日にインターネットで情報を収集して行動を決める人たちも約3割いるので、インターネットでの情報収集で接点を持ち、翌日の行動に誘導するような取り組みにも力を入れておきたいところです。
旅行中の情報発信
インターネットは情報収集の手段でもありますが、同時に自らの言動を発信するコミュニケーション手段でもあります。そこで、旅行中の旅の記録としての情報発信について尋ねたところ、およそ5割がFacebookで、4割以上がInstagramで、旅行中の出来事を発信していました(図表10)。
図表10
先ほど述べたようにInstagramやFacebookはこの層の国外旅行のきっかけの一翼を担っているため、これらSNSで発信してもらうことはとても重要だといえます。なお、富裕層は中間層と比較してInstagramでの情報発信が多いことも特徴的です。
このような彼らの旅行中の情報発信は、新たな日本への旅行需要を喚起する重要な「メディア」と考えることも出来るでしょう。Facebook やInstagramに投稿されるデータを分析し、訪日外国人の評判や動向を深く理解することで、エリアやサービスの認知や利用率の向上のための施策に役立てることが出来そうです。
さらなる「おもてなし」に求められるコト
ここまで、アメリカ富裕層に対して、どのような手段で何を訴求すればよさそうかを見てきました。最後に、さらなるおもてなしのために、自治体はどのようなことに注力していくことを求められているのかを見てみましょう。
図表11はアメリカの富裕層が旅先の自治体に注力してほしいと考えていることです。
図表11
「外国人向けの情報発信の充実(インターネット)」「フリーWi-Fi通信環境の充実」が上位2項目となっており、インターネットのハード面とソフト面の両方の更なる充実が重要視されていることがわかります。
また、富裕層は中間層と比べて「オーバーツーリズムの緩和」への注力を望む傾向があるようです。「オーバーツーリズム」とは、観光地が耐えられる以上の観光客が押し寄せる状態(過剰な混雑)のことで、世界的な問題となりつつあります。図表12はオーバーツーリズムへの対策として望んでいることを聴取した結果です。
図表12
「早朝からの名所、観光地、美術館/博物館等の営業」「ホテル/宿泊施設の総量規制」が上位2項目となり、さらに中間層と比較して「名所、観光地、美術館/博物館等の入場料の値上げ」という回答が多くみられました。富裕層、中間層それぞれのニーズとそれぞれからの観光収入を見越した、バランスのとれた運用が求められています。
今回はアメリカの富裕層に着目しました。彼らに日本旅行を選んでもらうためには、彼らが求めている街でのオリジナルな「コト消費」を中心に、多角的なメディア戦略で訴求していくことが、今後ますます重要になっていきそうです。
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