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WBC関連の行動ログにみる、ワークスタイルとメディア利用

2023年3月8日~3月21日にかけて、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック/World Baseball Classic)が開催された。第5回大会が新型コロナウイルスの感染拡大により延期され、満を持しての開催となったこと、またロサンゼルス・エンゼルス(MLB)の大谷翔平選手など海外で活躍する選手も侍ジャパン(日本代表)に加わったこともあり、開催前から大きな話題と注目を集めていた。
侍ジャパンは各試合でさまざまなドラマを生み出しながら勝ち進み、3大会、14年ぶりの優勝を果たしたが、開催期間中は連日ニュースで試合結果を取り上げられ、急遽再放送も実施されるなど、普段野球を見ない人も関心をもって観戦するほどの話題となった。

2022年11月のサッカーW杯はABEMAでの盛り上がりが話題になったが、今回のWBCの侍ジャパンの全試合は、地上波とAmazonプライムビデオで配信が行われた。有料サービスであるAmazonプライムビデオの利用はどこまで伸びたのか、今回はインテージが持つメディアログ、i-SSPから、テレビとモバイルアプリログを用いて分析していこう。

時系列で見たテレビ・関連アプリの盛り上がり

テレビ接触率(東名阪)の推移を見てみると、図表1の通り、1次ラウンドの4試合から準々決勝まで徐々に上昇しており、人々の関心が高まっていったことがわかる。特に準々決勝までは19時からの放送ということもあり、平日でもリアルタイム視聴がしやすかったという背景もありそうだ。

図表1

WBCテレビ番組平均接触率(東名阪)

一方で準決勝と決勝は、開催地アメリカとの時差の関係で、朝8時から放送されたということもあり、リアルタイムでの接触率は低下したが、それでも約15%となっている。サッカーW杯で最も接触率が高かった日曜19時の日本対コスタリカ戦でも約11%であったことを考えると、関心の高さがわかる。また、いずれも同日19時から再放送されたが、その接触率は再放送にも関わらず10%前後と、リアルタイム視聴と合わせるとそれまでの試合の接触率以上となり、人々の関心がかなり高かったことがうかがえる。

図表2は、スマートフォンにおける「Amazonプライムビデオ」アプリの日別利用率だ。1次ラウンド期間中(3/9-12)や準々決勝の日(3/16)の利用率は、WBC配信がなかった他の日と比べてわずかに高い傾向にあることがわかる。

図表2

WBC前後のAmazonプライムビデオスマホアプリ 利用率

ただし、やはり目立つのは準決勝(3/21)と決勝(3/22)が行われた2日間の利用率が突出して高い点だ。この2日間は朝8時からの放送ということもあり、テレビの前に行って視聴するのではなく、身支度を整えながら、あるいは布団の中で眠い目をこすりながらスマートフォンで視聴していたといった人も多かったのかもしれない。また決勝があった22日の利用率が特に高かったのは、前日の準決勝が祝日であったのに対し、22日は平日だったため、学校や仕事などでテレビ視聴ができない層が多く利用していた可能性が考えられる。

上記に挙げたような動画での観戦以外に、速報情報などから試合の状況を知ることも可能だ。図表3は、スポーツ全般の情報を扱う「スポーツナビ」アプリと、野球の情報に特化した「スポナビ 野球速報」アプリの日別利用率変化だ。いずれも野球速報が見られるアプリだが、特に「スポナビ 野球速報」については、決勝戦をピークにWBC期間中(3/9-12、3/16、3/21-22)の利用率が全体的に高い傾向となっている。

図表3

WBC前後の野球関連スマホアプリ 利用率

決勝戦以外の試合でも一定の利用率がある点、本格的にプロ野球が開幕した3/31の利用率がWBC決勝戦とほぼ変わらない点から、アプリを入れて野球の情報を見ようとする「野球ファン」が主なユーザーであると考えられる。なかでも平日である22日は学校や会社で動画視聴が難しかった層が速報アプリで静かに試合状況を追っていたのではないだろうか。

50-60代に強い地上波と、10-30代に強い「Amazonプライムビデオ」アプリ

決勝戦ライブ中継のテレビ接触率(東名阪)と当日の関連アプリ利用率を性年代別に見てみた(図表4)。

図表4

WBC決勝当日のメディア利用(性年代別)

地上波生放送は男女50-60代と男性10代の接触率が高くなっている。比較的自宅でゆっくりと視聴ができる層であるがゆえの接触率の高さなのかもしれない。
「Amazonプライムビデオ」アプリは特に男性10-30代で利用率が高く、次いで男性40代や女性20代と、若年世代におけるスマホでの動画アプリ視聴が進んでいることがうかがえる。
また、「スポナビ 野球速報」アプリの利用率を見ると、圧倒的に男性の利用率が高いことがわかる。男性のほうが、速報アプリを使ってでも試合状況を追いたいという関心の高さを物語っている。

職業から見たWBC視聴行動の違い

次に職業によって視聴の仕方に違いがあるのかをみていく。図表5はテレビの接触率を職業別に見たものだが、「専業主婦・専業主夫」や「無職」、「派遣社員・契約社員」の接触率は全試合で高めとなった。とくに「専業主婦・専業主夫」や「無職」は行動の自由度が高いこともあり、21日や22日に朝8時から自宅でリアルタイム視聴することも容易だったのかもしれない。

図表5

WBCテレビ番組平均接触率(東名阪):職業別

また「正社員・公務員」のみ、22日のリアルタイムの接触率が低い分、再放送の接触率が高くなっている。通勤・勤務中のためリアルタイムで試合を視聴できなかった層が帰宅後に試合を見直していたと思われ、ここからも決勝戦への関心の高さがうかがえる。
そして「学生」は接触率が顕著に少なく、テレビ離れの傾向が垣間見える。

同じく職業別に「Amazonプライムビデオ」アプリの利用傾向をみていくと、地上波の傾向と真逆に、圧倒的に「学生」の利用率が高いことがわかる(図表6)。テレビ接触率のほうが依然として高い状況ではあるものの、この結果からも若年におけるコンテンツ視聴においてアプリの利用が浸透していることがうかがえる。

図表6

WBC試合日のAmazonプライムビデオスマホアプリ 利用率:職業別

「学生」に次いで高い利用率となっているのは「正社員・公務員」や「自営業・個人事業主」であった。これらの層は、通勤や出社によりテレビ視聴ができない分、アプリを利用して試合をリアルタイムで視聴していたと考えられる。
最も利用率が高かった22日の決勝については、試合が朝からお昼にかけての時間ということで、ひとりでの視聴だけでなく、「学生」は春休み期間中に友人と一緒に楽しんだり、「正社員・公務員」も会社で同僚と視聴したり、といったシーンも多かったのではないだろうか。

「スポナビ 野球速報」アプリでは、「正社員・公務員」や「無職」、「派遣社員・契約社員」の利用率が高いことがわかる(図表7)。特に「正社員・公務員」については22日の利用が伸びており、会社にて「Amazonプライムビデオ」でのスマホ動画視聴さえ難しかった野球ファンが速報アプリを使って試合状況をこっそり確認していた可能性も考えられる。

図表7

WBC試合日のスポナビ野球速報スマホアプリ 利用率:職業別

ワークスタイルから見たWBC視聴行動の違い

最後にワークスタイル別にそれぞれの利用を見ていく。「営業などの外回り中心」や「運転手など屋外での特殊作業中心」、「工場や屋外での現場作業中心」といった、物理的にテレビ視聴ができない環境にある層で、22日のテレビ放送のリアルタイム接触率が大きく下がっていることがわかる(図表8)。

図表8

WBCテレビ番組平均接触率(東名阪):ワークスタイル別

同様に「Amazonプライムビデオ」アプリの利用をワークスタイル別に見たのが図表9だ。上述のテレビでは22日の接触率が落ちていた「営業などの外回り中心」や「運転手など屋外での特殊作業中心」、「工場や屋外での現場作業中心」の層の利用が「Amazonプライムビデオ」では急増していることがわかる。

図表9

WBC試合日のAmazonプライムビデオスマホアプリ 利用率:ワークスタイル別

これらの層は、物理的にテレビ視聴はできない環境にはあるものの、屋外勤務ということで休憩や食事などの時間取得の自由度は比較的高いためか、アプリを利用しての動画視聴は柔軟に行われていたことがうかがえる。

「スポナビ 野球速報」アプリについても、やはり「営業などの外回り中心」の22日の利用が特に伸びている(図表10)。またプライムビデオの利用率が最も低かった「屋内でのデスクワーク中心」層の利用率が22日に上がり、「外回り中心」に次ぐ2番目の高さとなっていることから、勤務中のながら利用のハードルが低いことがうかがえる。

図表10

WBC試合日のスポナビ野球速報スマホアプリ 利用率:ワークスタイル別

ライフスタイルにあわせて多様化したメディア利用

今回はWBCに関連したメディア利用状況を、性年代別、職業別、職場環境別などさまざまな属性から分析した。
その結果、準決勝以降の試合開始時間が朝であったり、決勝戦が平日であったりと、リアルタイムで楽しむことが難しい環境であったにもかかわらず、それぞれの生活者が、それぞれの環境に合わせて利用するメディアを選択し、WBCを楽しんでいたことがうかがえた。そのような楽しみ方の選択肢の多様化が、約2週間にわたって開催されたWBCの盛り上がりを支えた理由でもありそうだ。

実際、私も1次ラウンドや準々決勝など19時試合開始の日は、平日は在宅勤務の傍ら、また休日は家族と夕食を食べながら、テレビで試合を観戦していた。そして朝8時試合開始であった準決勝は、祝日のため最初はベッドの中で野球速報アプリにて試合状況を確認し、その後リビングでのテレビ視聴へと移行した。また決勝戦の日も、電車での通勤中は速報アプリを確認しつつ、会社ではランチタイムにAmazonプライムビデオにて優勝の瞬間をリアルタイムで視聴した。
周囲にも、普段は野球に興味がないが今回は見ていたという人も多く、それぞれが自身の関心度合いに合わせて柔軟なメディア利用をしていたのだろう。

テレビ離れといった声もそこかしこで耳にするが、近年は同一のコンテンツであっても生活者が自分の生活スタイルや視聴できるタイミング、さらには環境(シーン)にあわせてメディア選択を行い、最適な形で楽しむようになってきている。そうした動きを考慮すると、従来のような「ターゲット×タイム×プレイスメント」といったアプローチだけでなく、同一のターゲット、同一のコンテンツであってもコンテクスト(文脈)や視聴時に選択されるメディア(デバイス)に合わせたオーディエンス起点のコミュニケーション・プランニングがより一層重要になっていくと考えられる。


この分析はi-SSP(インテージシングルソースパネル)のデータを用いて行いました。

【i-SSP®(インテージシングルソースパネル®)】
インテージSCI(全国個人消費者パネル調査)を基盤に、同一対象者から新たにパソコン・スマートフォン・タブレット端末からのウェブサイト閲覧やテレビ視聴情報に関して収集したデータです。当データにより、テレビ・パソコン・スマートフォン・タブレット端末それぞれの利用傾向や接触率はもちろん、同一対象者から収集している購買データとあわせて分析することで、消費行動と情報接触の関係性や、広告の効果を明らかにすることが可能となります。また、調査対象者に別途アンケート調査を実施することにより、意識・価値観や耐久財・サービス財の購買状況を聴取し、あわせて分析することも可能です。

※ シングルソースパネル®は株式会社インテージの登録商標です。

著者プロフィール

落合 優理彩(おちあい ゆりあ)プロフィール画像
落合 優理彩(おちあい ゆりあ)
2020年に大学院卒業後、インテージに新卒で入社。
現在に至るまで、パネル調査「i-SSP(インテージシングルソースパネル)」のスマートフォンとパソコン領域の運用担当として、データ品質維持や運用効率化、新規サービス開発に携わる。
また社内外へのi-SSPデータを使用した情報発信など、パネルデータの利活用を促す業務を担当。

2020年に大学院卒業後、インテージに新卒で入社。
現在に至るまで、パネル調査「i-SSP(インテージシングルソースパネル)」のスマートフォンとパソコン領域の運用担当として、データ品質維持や運用効率化、新規サービス開発に携わる。
また社内外へのi-SSPデータを使用した情報発信など、パネルデータの利活用を促す業務を担当。

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