「ウェルビーイング」はどこにある? ~コロナ禍を経て想う。仕事やお金以上に大切な自分の居場所
1. はじめに ~コロナインパクトを経て
「SDGs」をテーマとしたカンファレンスに「Sustainable Brand」というものがあります。日本では2017年から開催されており、昨年(2023年)は東京丸の内を拠点に複数会場とオンラインによるハイブリッド開催でしたが、2日間の開催期間中は全国から4,000名を越える人が丸の内に集まりました。 インテージでは、SDGsへの取り組みの一環として2018年からセッションへの登壇やブース出展などを通じて私たちの取り組みを紹介してきました。私(田中宏昌)も2020年からセッションにおいて、他の参加企業様とパネルディスカッションを重ねてきましたが、2023年のカンファレンスはこれまでとは少し異なった印象を受けました。その印象はカンファレンスのテーマはもとより、各企業の展示ブース、さらにはセッションで語られるテーマやその場で用いられている言葉が創り上げていたのです。
異なった印象とはこれまでの「サステナビリティ(持続可能性)」という主題以上に「ウェルビーイング(Well-being)※1」というメッセージ性を強く感じた、というものでした。コロナインパクトという「命の危機」に直面し、なによりも自身の健康、家族の健康を守ることがなによりも優先されるようになりました。また、感染不安や仕事・収入といった家計不安、さらにはウクライナ侵攻といった世界情勢の不安も重なり、「ウェルビーイング」であることはだれにとっても切実な願いだったからかもしれません。
※1 ウェルビーイング(Well-being)
身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」と訳されることも多い言葉です。
2. いま、あなたはしあわせですか?
「いま、あなたはしあわせですか?10点満点でお答えください。」と尋ねられた時、あなたはどう答えますか。8回目のコロナ波が日本を覆っていた頃、2022年12月の調査結果とともに見ていきましょう。
図表1
Q. 現在、あなたはどの程度幸せですか?
「とても幸せ」を 10 点、「とても不幸」を0点とすると、何点くらいになると思いますか?
という質問を投げかけ、その結果(回答してもらった点数)を
「幸福度-H(8~10点)」
「幸福度-M(6~7点)」
「幸福度-L(4~5点)」
「幸福度-LL(0~3点)」
の4層に区分してみました。
その結果、「幸福度-H(8~10点)」に該当する女性は32.8%であったのに対し、男性は26.7%となっており、6%ほど女性の方が多くなっていました。「幸福度-M(6~7点)」については男女ともに大きな差はみとめられませんが、「幸福度-L(4~5点)」さらには「幸福度-LL(0~3点)」においては男性が女性を上回り、男性の方が女性よりも幸福度は低いという結果になりました。
次に性別だけでなく年代別にも見てみましょう。
図表2
女性と比較して幸福度が低かった男性から見てみましょう。
男性では年齢が上がるにつれ幸福度が減少していき、50代の「幸福度-H(8~10点)」層は約23%と最低の位置にあります。また、「幸福度-LL(0~3点)」も50代は18%と高く、「幸福感どころか不幸を強く感じている人の割合が高い世代」に映ります。50代といえば、会社員であれば仕事においては「定年」が頭をかすめる年代であり、自身の「これから先」がある程度見えている年代でもあります。また、日本では多くの企業において「役職定年」という壁も待ち構えています。自分自身が現在50代(男性)ということもあり、静かにこの結果を受け取りました。そして、男性20代もまた同じような割合(18%)が「幸福度-LL(0~3点)」と回答していることにも注目しておきたいと思います。彼らもまた、「就職」や人によっては「結婚」といった新しいライフステージに向かっていく年代でもあり、その心は不安とともに大きく揺れているようです。
一方で60代になると「幸福度-H(8~10点)」層は30%まで大きく回復し、幸福度が急速に高まっています。60代と言えば多くの人にとっては「定年」となり、退職、再雇用、再就職など、大きな節目を迎える年代です。これまでの仕事や暮らしに一区切りを迎え、「次へ」という気持ちを抱き、幸福度は回復期にあるようです。
女性では男性と異なる動きをみせ、20代~30代~40代における「幸福度-H(8~10点)」層は32%台で推移しています。50代になると幸福度は28%とわずかに減少しますが、男性と比較しても幸福感は安定的といえるでしょう。50代の落ち込みに考えを巡らせてみると、「更年期障害」といった健康上の曲がり角であることが浮かびます。程度の差こそあれ、ホルモンバランス等、体質的な変化を迎える頃でもあり、そうした心身の健康上の不安や不安定さがこうしたマインドを形成しているのかもしれません。「更年期障害」については女性特有のものではなく、男性もまた悩んでいる人も多いようです。男性50代の不安や苦悩の背景には先ほど触れた「仕事」だけでなく、そうした健康上の苦悩も横たわっているように感じます。
そして、女性もまた60代になると幸福度は一気に増加し43%を超えています。 「更年期障害」をはじめとした心身の健康上の不安や苦悩を乗り越えてか、あるいは子どもの成長や独立といったことなども影響を与えていそうです。
こうして性別、さらには年代別に眺めてみると、60代は男女ともに「還暦」というだけあって、「幸福」というココロのメカニズムに対してなにかの大きな作用をもたらすタイミングなのかもしれません。私自身は今年7月に55歳を迎え、60歳(還暦)がグッと身近に迫り、当初はやや重たい気分になりましたが、こうしたデータに触れると少し足どりが軽くなってくるようにも感じました。
みなさんの現在の幸福度は何点でしょうか?現在、そして、これまでと振り返りながら幸福度に想いを馳せてみてはいかがでしょうか?
3. 満たされているものと幸せの関係
では次に、幸福度と現在の「ココロの状態」について少しだけ深掘りをしていきましょう。
幸福度の異なる4層別に、さまざまな角度から「心の安定」や「心の充足」につながるような現在の「ココロの状態」を質問してみたところ、最も幸福度の高い「幸福度-H(8~10点)」層は多くの項目で「あてはまる、ややあてはまる」と回答していることがわかりました。特に「平凡だが安定した日々を過ごしている(91%)」「自分には居場所がある(90%)」「自分には居心地のいい居場所がある(87%)」は他の層と比較しても著しく高くなっていました。幸福度の実感の背景に「平凡ではあるが安心できる居場所を持ち、不安のない日々を過ごす」ことの重要性があるように感じます。
また、「毎日を快適に過ごしている(83%)」「私は精神的に健康な状態である(81%)」「私は日々の生活において笑うことが多い(75%)」といった項目も突出して高くなっており、「身体だけなく精神的にも健康であり、毎日を快適に笑いとともに生きている」ことの大切さも浮き彫りになっています。
一方で仕事系のものを探してみると、それらのものから大きく後退したところに「気持ちよく仕事をしている(57%)」「仕事にやりがいを持っている(56%)」が挙げられており、幸福感における「仕事」の役割や存在というものを深く考えさせられる結果となっていました。人生において「仕事」は収入などともつながる重要な要素ではありますが、それ以上に「不安のない日々」や「精神的な健全性」などの方がなによりも重要であるという価値観は、コロナインパクトやウクライナ情勢など、さまざまな社会不安が矢継ぎ早に私たちを覆いつくしたこの数年において、より強固さを増したのかもしれません。
また、「幸福度-L」層や「幸福度-LL」層に目を向けると、幸福度の高さに連動(逆相関)して、各項目の回答「あてはまる(計)」が少なくなっていることがわかります。「ウェルビーイング」な状態であるために、ここに挙げた項目のようなココロの状態を整えていくこと重要である、と考えられるのではないでしょうか。なお、本結果を男女別にも分析してみましたが男性ではごくわずかに「仕事」関係に上位に位置するといったものはありましたが、大きな差異はありませんでした。「仕事」あるいは「職場」より、「心の平穏」「心地よい居場所」が「ウェルビーイング」を形成する重要な構成要素である。そう考えられるのではないでしょうか。
図表3
VUCAの時代、パンデミック(感染拡大)、ウクライナ情勢をはじめとした世界平和の不安、また、上がり続ける物価による家計費圧迫など、暮らしにおける不安のタネは尽きません。また、学校においては友人関係や成績を、職場においては人間関係や業績、昇進などなど、所属するコミュニティにおいて、さまざまなプレッシャーやストレスを感じている方も多いかもしれません。
そうした中、コロナインパクトを経て、「家」や「家族」の存在や価値が再認識されたという話をよく聞きます。「家」や「家族」は「自分の居場所」としての力を帯びています。実際に顔を合わせることが難しくても、ちょっとしたSNSのやり取りや、電話あるいはビデオ通話を駆使して、心休まる人の言葉や声、表情に触れるだけで心が休まることもあるでしょう。
「ウェルビーイング」は意外に近くにあるのかもしれません。
そして、あなたもだれかの「ウェルビーイング」につながっているかもしれません。
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