W杯は地上波で?ABEMAで?メディアログデータで見る W杯2022 視聴者分析
2022年11月20日~12月18日の約28日間、世界を熱狂させたFIFA ワールドカップが開催された。日本代表のグループリーグでの躍進も相まって、日本でも大きな話題を呼び、試合後もTVでは数日にわたってハイライトが放映されていた。
今回のW杯で注目だったのは選手たちの活躍だけではなく、デジタルシフトが進むメディアにも注目が集まっていた。その中心にあったのはサイバーエージェントとテレビ朝日が出資して2015年4月に設立された株式会社AbemaTVが運営する、ABEMA。W杯の試合を全試合無料生放送するという、他社・他局では真似のできないコンテンツの充実ぶりや、桁外れのキャンペーンだけではなく、元日本代表の本田圭佑選手がコートの外でも繰り広げる熱意ある解説も好評だった。
今回はインテージが持つメディアデータログ、i-SSPから、どんな人がW杯を視聴していたのか、TVとモバイルアプリログを用いて紹介していこう。
地上波で最もみられていたのは、期待高まるコスタリカ戦
図表1の通り、テレビでの日本戦番組接触率(番組間平均接触率(東名阪) / リアルタイム放送のみ)は、11/27(日)にテレビ朝日系列にて放映されていた「日本 vs コスタリカ」戦が最も高い接触率だった。
続いて、リーグ初戦のドイツ戦、決勝リーグ初戦のクロアチア戦が高い接触率を取っている。
図表1
コスタリカ戦の接触率の高さは、ドイツ戦で日本が大方の予想を翻し勝利を決めた直後という注目度もありながら、何よりも日曜日の19時~21時というまさにゴールデンタイムに行われていたことが大きい。
比較をするとスペイン戦の接触率は低いようにも見えるが、放映されていた時間が平日早朝の3~6時に関わらず、5%近くの接触率をとっている。これはお正月のゴールデンタイムに放映されていた人気バラエティ「芸能人格付けチェック!2023お正月スペシャル(EX)※」の5.6%と同程度であり、日本代表への期待値の高さが接触率の高さから十分伺える。
※i-SSP TV 1月度データの番組ランキングTOP5に入るほど接触があった番組
40~50代に届く地上波放送
各試合のTV接触率(東名阪)を10代刻みの年代別で表したのが図表2だ。
図表2
若年層のTV離れが伺えるように、高年齢に向かって接触率があがる階段状のチャートとなっており、最も高い接触率をとっているのはコスタリカ戦の60代だった。続いて試合によるが、50代、もしくは40代と、やはり高年齢の接触率が高い。
更にそこへ性別の要素をいれ、メディアターゲット区分別に接触率を見てみると、男性で特に高く、特にM2層~M3層は初戦のドイツ戦から高い値を出していた。(図表3)
図表3
また、試合別に見ると、予選の間、比較的接触率の低かったF1層やM1層で、最後のクロアチア戦の接触率がそれまでの最高となっており、関心と期待が高まっていった様がみえる。
ABEMAアプリ利用率から推定するW杯視聴
続いて、i-SSPのモバイルアプリの利用ログを用いて、W杯日本代表戦が行われている時間にどれほどスマホのABEMAアプリが利用されていたか、という情報から、ABEMAからのW杯視聴を推定していく。
日本代表戦各時間のABEMA利用率を並べると図表4のようになった。
図表4
地上波の時と異なるのは、試合が後ろの日程になるにつれて、利用率が上がっていくことだ。筆者の周囲でも、Twitter経由でABEMAのW杯中継が面白いという話を聞いて、2試合目以降から地上波ではなくABEMAで試合を観ていたという人もおり、冒頭文で触れた本田選手の解説・実況のユニークさがじわじわと口コミ等で広がって、「私もABEMAで観てみよう!」と利用の促進につながったのだろう。
地上波との違いという意味で、もう1つ語れるのは、放送時間などに利用率が大きく左右されていないことだ。地上波の場合は、平日早朝に放映されていたスペイン戦の際にガクッと接触率が落ちていたが、ABEMAの同時間帯利用ではその傾向はみられず、スペイン戦も他試合とほぼ同水準の利用率となって点が特異だった。TVと違い、スマートフォンを使って手元に観られるABEMAは、深夜帯に寝室などで楽な体勢でサクッと視聴できるのも親和性があったのかもしれない。
ちなみにABEMAアプリの利用率の推移を月次で追っていくと、見事にW杯開催期間に利用率があがっていた。(図表5)1月に少し減少傾向にあるものの、W杯前よりは高い利用率をとっており、一定のユーザーの定着があったと言えそうだ。
図表5
ABEMA全体の利用率を年代別月次トレンドで見ると、若年から高年にかけて利用率が高い傾向にあり、特に10代はW杯の開催期間に20%近くの利用率となっている。(図表6)W杯後の定着という観点でみると、10、30~60代が約3%程度減少をしており、20代は1%程度の減少だった。
図表6
W杯後もABEMAではプレミアリーグの生中継といったコンテンツが放映されており、今回の施策を通じてABEMAの便利さを感じたユーザーが続けて利用していそうだ。
最後に、先ほどの地上波と同様に、日本代表戦中のABEMAでのW杯接触(推定)の年代別を出してみた。
図表7
地上波との大きな違いは、一目瞭然で圧倒的な10代の利用率の高さだ。日本代表が試合を重ねるにつれてその伸びは大きくなっていき、特に決勝トーナメント初戦のクロアチア戦では、他の世代の倍近い利用率をたたき出している。ただ、伸び幅という点では60代の利用率もドイツ戦~コスタリカ戦でグッと伸ばしており、幅広い世代への波及が見られる。
デバイス別で見るW杯の視聴傾向の違い
ここまで、地上波とABEMAでのW杯接触(利用)の違いを、i-SSPのメディアデバイスログデータから深掘りしてみた。地上波では試合の放映時間やその時の話題性などに引っ張られて接触率が増減する傾向にあり、一方でABEMAは試合時間には大きく左右されず、地上波の裏でじわじわと話題が広がっていたのが利用率にも表れていた。特に年代差での利用の違いも大きく、ハッキリと高年齢層の地上波・若年のABEMAと分かれていたのも特徴的だ。TV離れの要因が、同一のコンテンツを取り扱うABEMAやTVerなどの新しい動画配信サービスに利用者が流れている可能性も感じられた。
今回のW杯で大きな注目を集めたABEMAでの無料放送。実はABEMAは2/11からドイツのプロサッカーリーグ「ブンデスリーガ」無料中継も実施している。W杯で掴んだ手応えを武器に、着実にユーザーの囲い込みが進んでいるようだ。
まだまだリーチ力という点では、地上波には敵わないものの、デジタルメディアの若年への波及の強さが見られた。3月8日に開幕したWBCはAmazon Prime Videoが日本戦の中継を行う。選手の活躍はもちろんのこと、各メディアたちが見せる激しい覇権争いにも引き続き注目したい。
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